二時間前、隠れ家にて。
「陽動作戦ってのには賛成だけど、もし、これで相手の主戦力が出てこなかったらどうするん? アタシら後衛職と非戦闘員だが?」
「そこに関してもしっかりと考えてあるよ。はいこれ」
「なんぞこれ? 魔剣? なんの魔剣?」
「これは『姿くらましの魔剣』だよ。使うと数秒間だけど相手に姿を認識させなくさせることができるよ」
「……聞いたことのない名前の魔剣ですね?」
「今考えて造ったからね。名前が気に食わないなら名前をつけてもらっても構わないよ」
「……どうやってムジカさんが貴方に勝ったのか気になってきました」
「そこは言いたくないかな。とにかく、これがあれば窮地を凌げると思う。一応切れ味も良くしておいたから万一戦うってなっても大丈夫だと思うよ」
「何から何まで、おんぶにだっこすぎて申し訳なくなってくるなー」
「逆だよ、僕はここまで期待された活躍を何一つこなせなかった。このぐらいこなさないと面目が立たない」
アラン・セノアックは自嘲気味に、薄く笑った。
◇
「ナイス判断だったよクレス・パラトス。『パラパラ』か『トストス』ならどっちがいい?」
「クレス・パラトスでお願いします」
「正直な君にはパラトスと呼んであげましょう」
それでいいです、とややうんざり気味に言葉を投げる。
クレスの手からは解放され、少年はフレンを見た。
「フレン、さん……」
「よ、少年」
相も変わらずといった態度で接する彼女に、ランクルクは目を背けてしまう。
「ん? ……ああ。少年の事情については、横のパラトスから聞いてあるよ」
「それなら、どうしてここに。私は貴女を騙していたんですよ」
悲痛な表情のランクルクを見て、フレンは微笑む。
「まさか、アタシは騙されてなんかいないよ」
「え?」
「アタシは最初から帝国とか王子とか全部どうでもよかったんだ。関係ないしね」
「じゃあ、いったい何故?」
何故、自分に協力したのか、本当に疑問だという表情で、ランクルクは尋ねる。
「面白くなりそうだから、だよ」
フレンは考えるまでも無いといった顔で、本当に迷いなくそう答えた。
彼女は軽薄な人間だ。
基本的におちゃらけて喋り、場の空気を読んだりもしない。
そんなおふざけの過ぎる彼女だが、今、この瞬間発したその言葉に限って言えば。
曇り1つのない、本心そのものから出た言葉だった。
一体どういう意味なのか、少年が三つ目の質問を問うことは許されなかった。
ガタガタ、と瓦礫の山が揺れる。
フレンとクレスは瓦礫の方を警戒し、ランクルクを背後に庇う。
それは不自然に数秒間の間続き、その後瓦礫の山は吹き飛んだ。
瓦礫があった場所には一体の魔物が立っていた。
「吾輩を生き埋め如きで殺せると思うなどとは、思い上がりも甚だしいですねぇ……!」
怒気の籠った声でラムースは呟く。
彼が着ていた服は著しく傷つき所々が破けちり、背中からは無数の触手が展開されている。
「……どうやら、まだ終わってないみたいですね」
クレスが剣を強く握り、剣身が光り始める。
「させるか!」
姿を眩ませようとしたクレスに幾つもの触手が襲いかかる。
それは今までよりもより速く、フレンが反応するよりも先にクレスの身体を掴んだ。
「があっ!」
「クレスさん!」「パラトス!」
「貴様は……」
触手がクレスの身体を持ち上げ、そして、
「邪魔だぁ!」
上方向にぶん投げた。
「ぬぁぁぁぁ!!」
上階へと投げられ、クレスはこの場から退場する。
「……さて、残りは二人」
一人減って残り二人。
ラムースはランクルクへと歩き始める。
「下がってろ少年!」
ランクルクは後ろへと下がらせ、
フレンは両手を開いて前に向ける。
「五門展開!」
フレンの周囲に五つの魔法陣が構成される。
魔術師の持つ技術の一つ。
魔法陣は魔術を使用する際に書く下書きのようなもの。
先んじて魔法陣を展開しておく事で魔力を流すだけで発動可能となる。
「
五つの魔法陣とフレンの手元から火球が生成される。
この時に作られた火球は五つ全て、酒場にてスライム騎士達を吹き飛ばしたのと同規模のものであった。
「バスターフレイム!」
五つの大火球が地面や壁を焼き削りながら進んでいく。
「……」
無言で迫る火球を眺めながら、ラムースは炎に包まれる。
衝突した炎は火柱を立てて燃え盛る。
「愚か者が」
炎が、掻き消える。
先程まで確かに燃えていた炎たちは、何かに吸い込まれるように消えてしまった。
否、本当に吸い込まれたのだ。
「魔集、石」
ラムースの背にある無数の触手達は魔集石を五つも握っていた。
「まさか、魔集石が一つだけしかないと思っていたのか?」
触手はある種無造作にも見える挙動で魔集石を投げた。
魔集石は魔力を収集し、限界に達した時、爆発を起こす。
それが五つも、発生する破壊力の高さは想像に難くない
フレンの反射神経はそこまで高くない。
アランやムジカのように、即座に行動したり何なりという事は出来ない。
故に、これは彼女に出来た精一杯だとも言える
「少年!」
防御が間に合わないと判断したフレンはランクルクを突き飛ばし、自分と距離を離した。
「フレンさ……」
彼女の名を叫んだ時にはもう遅く、
起爆寸前の魔集石が、フレンの眼前に迫っていた。
直後、爆風と爆音に押されて、ランクルクの身体は遠くへと転がっていった。
・『同時展開』
・簡易魔術の利点はその術式の安易さと、拡張性にある。
・同時展開はその最たる例であり、一度の詠唱で重ねて発動することが出来る。
・この技術は現代魔術師にとって上位のテクニックだが、威力が分散するリスクを内蔵し、攻撃魔術よりは補助魔術のような数を要する魔術に使われる技術でもある。