いかにしてその転生者は世界を変えるのか   作:抹茶螺旋

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初回につき、連続投稿です


嘘でもなんでも信じるほかなし

「自己紹介が遅れてしまい、大変申し訳ありません」

 

 二人は人気のない路地裏の廃墟を見つけ、そこにて足を休めることにした。

 二人は床に座りこみ、会話を始めた。

 

「僕の名前は……レイル、とでも呼んでください」

 

「それ本名?」

 

「……特異な名前ではないと思いますが?」

 

「いや、こういう時に名乗った名前って大体は偽名ってのがお決まりだからね」

 

 フレンはそう答えるが、別にそれ以外で少年──レイルの名前が疑問と疑う根拠は無かった。

 ようは当てずっぽうである。

 

「……申し訳ありません。貴方を疑う訳ではないのです。ただ、僕の本名は長く、かつ独特ですので」

 

 どうやらフレンの勘は当たったようである。

 申し訳なさげに謝るレイルを見て、半分ノリでカマかけたことにフレンは罪悪感を少し感じた。

 

「いいよいいよそんな申し訳なさそうにしないで。アタシゃそんな気にしないから」

 

「随分と、割り切りが良いのですね……」

 

「経験論だよ。無駄にゴネても何も生まない」

 

 さっくりと述べるフレンを見て、

 随分と大人びた人だな、とレイルは内心で感嘆する。

 魔女帽子を脱いだ彼女の顔は、レイル程ではないが幼い。

 少なくとも十代後半の瑞々しさを持ち、二十代以降まで年を重ねたようには見えなかった。

 

「僕は、この国の皇帝に仕えている使用人です」

 

「ほほう、皇帝の使用人とな」

 

「はい。真偽が怪しいと貴女が思うのもわかります。確かに僕は先程までこの街の憲兵に追われていましたし」

 

「あれやっぱり憲兵だったのな……」

 

「怖くなりましたか?」

 

「いや全然。旅人はこういう時喧嘩を売っても逃げられるのが利点」

 

 フレンは笑って言葉を返した。

 

「僕が追われる身になったのには、皇帝にまつわるとある出来事が原因です」

 

「それって?」

 

 フレンは何となく繋がる言葉を察していたが、それを敢えて聞いた。

 レイルは意味深に数秒黙り、その後答えた。

 

「クーデターです。帝国の玉座を狙う者達によって、皇帝は暗殺されました」

 

 クーデター、皇帝の暗殺。

 事ここに至り、今の自分は物凄い事に巻き込まれたのだと、フレンは改めて認識した。

 

「僕がその場に駆けつけた時点で、皇帝陛下に生存の見込みはなく、絶望する私に陛下は最期の頼みとしてこれを託しました」

 

 レイルは懐からとあるものを取り出した。

 それは、一本の特異な短剣であった。

 特異、と頭につけたが、豪華な装飾が施されている以外に、形状に特異な点はない。

 変わっているのはその剣身である。

 通常の刃物のような白く煌めく刃ではなく、炎をそのまま宿したかのような橙赤色の刀身をしていたのだ。

 見るからに特殊なナイフであったが、それ以上にフレンの目には、ナイフが秘める本質が見えていた。

 

「これは、魔剣か……?」

 

「見てわかるのですか?」

 

「魔術師ってのは魔力を使う職業だかんね、対魔術師戦とかで魔力の動きを見る為にも目が鍛えられるのよ」

 

 魔術は基本体内のマナを練ることで生成される。

 故に魔術師同士の戦いにおいてはどのようにして相手のマナの動きから魔術の起こりを見抜き、先手を取るのかが重要になっている。

 

「そんで、この魔剣には一体どういう秘密が隠されてるんだい? 帝国の秘密兵器の鍵とかだったり?」

 

「確かに鍵だとは思いますが、秘密兵器のではありませんね」

 

 フレンのふざけた質問にレイルは真面目に答える。

 

「この鍵はとある人物の手掛かりです」

 

「人? 軍のお偉いさんとか大貴族とか?」

 

「いいえ、その人は厳密に言ってしまえばこの国の人ではないのですが。陛下が客人としてもてなし、その事への感謝としてこの短剣が贈られました」

 

「全然話が見えてこないのだけど、結局どういう立場のお方なの?」

 

()()()です」

 

 レイルは短く、それでいてはっきりと言い切る。

 そしてその予想だにしなかった言葉に、ここまでへらへらと笑っていたフレンの顔が、石化した。

 

 ◇

 

 転生者。

 それは名の如く、二度目の生を受けた者達に与えられる俗称であり、人の形をした怪物達をラベリングする為に生まれた通称でもある。

 十数年前より、世界各地にて突如、特殊な能力を有する者達が産まれ始めた。

 彼らが持つ能力は世界のいかなる法則でも説明することが出来ず、それでいて国すら容易く滅ぼせるような強大な力であった。

 転生者が産まれる条件、なぜこのような能力を持つのか等、数々の事が謎に包まれている。

 唯一判明していることは、彼らは皆、共通して前世の記憶を有しているという事のみである。

 

 ◇

 

「その転生者を探しに、ここまで来たと」

 

「はい。どうにかここに来る事までは出来たのですが、あの時、追手に見つかってしまい半ばで終わる寸前でした。改めて感謝を、このご恩はいつ返せるかはわかりませんが、必ず」

 

 恭しく跪き礼をするレイルの姿は、一部の隙もないほど洗練されており、確かな教育と気品を感じられる。

 

「そこらへんは別にいいけど。二つほど質問があるがよろしいか?」

 

「答えられる限りは」

 

 レイルは跪いた姿勢を解き、床に比較的楽な姿勢で座る。

 そこに至る挙動さえ、上品であった。

 

「まずクーデターって言ってたけど、誰にやられたのかわかる?」

 

「……実の所、首謀者が誰であるのか、わからないのです」

 

「え、普通そんなんある? じゃあ疑わしい人とか……」

 

「いません。これは私が人の善良さを信じているからではなく。単純に、()()()()()()()()()()()()()()

 

「……それって、疑わしきは全員殺したとかそういう?」

 

「そう出来たのなら良かったのですが……あの日、暗殺されたのは陛下だけではなく、帝国の要職に就いた者達、その全てが殺されていました」

 

 こんな場末で、国家存亡級の大情報が飛び出てきた。

 これには片手で額に手を置き、もう片方の手をレイルに突き出し「待て」のジェスチャーをとる。

 

「いやいやいや、それは流石に変だぞレイル少年。国の要職が全員死んだのならそりゃ国の一大事だ。国自体が立ちいかなくなるし、何なら他の国が攻めてくる逆チャンスタイムだ」

 

 つらつらと自分の考えを述べながらも、彼女の顔には困惑が張り付いている。

 言っていて納得が出来ていないという表情だ。

 

「そんな事態だってのに、()()()()()()()?」

 

 フレンはここ数ヶ月の間、この国を旅しておりその大半の時間は人気の多い場所で過ごしている。

 故に巷の話題に詳しいという自負が、彼女にはあった。

 それでも皇帝ならびに大臣全員の暗殺事件など、酒場のあらぬ噂の中でさえも聞いた事がなかった。

 現にこの都市でもそのような沈んだ話はなく、都市の住人は普段通りに暮らしていた。

 

「信じられない話だというのはわかっています。信用出来ないという事も理解しているつもりです。その上でどうか、力を貸していただけませんか」

 

 少年は深々と頭を下げ、今できる最大限の誠意を見せる。

 

「いや、話を聞く限りだとアタシ一人増えたところでどうこうできる問題ではないと思うけど……」

 

「私は、この都市に来るまでの間に仲間を全員失いました」

 

 深刻な表情のまま、少年はその事を口にする。

 

「私に荒事の才能はありません。もしもまた憲兵達に追い回される事になれば助からないでしょう。ですからどうか、私が転生者を仲間に引き入れる迄の間だけでも私を守っていただけないでしょうか」

 

 礼儀こそ正しく頼み込んではいるがその実、お尋人の護衛という、間違いなく言い訳無用で捕縛される依頼だ。

 報酬の話もせず、というか話を聞く限り報酬が支払われるかどうかも怪しい。

 普通に考えて、断るのが安牌だ。

 

「…………アンタの話は信じられない」

 

 常人ならばそう考える。

 当然の帰結、頼んだレイルでさえも納得の結果だろう。

 

「が、アンタを見捨てる事もしない」

 

 だが、フレン・エトラルトは一味違う。

 

「は、はい?」

 

「国だとか王様暗殺とか全部知らん。聞かなかったことにする。それはそれとして、乗り掛かった船だ。助けてやるよ」

 

「あ、ありがとう、ございます……」

 

 中々に奇天烈な事を言われて、困惑しながらもレイルは感謝の意を述べた。

 

 ──この人、よくわからないな。

 

 会合して数回、言葉を交わしただけであるが、レイルの中で、フレンへの印象が確かに固まろうとしていた。

 

「さて契約成立なわけだけど、これからどうするん? 転生者が何処にいるか聞いてまわるん?」

 

「それに関してはアタリを付けています」

 

 レイルは立ち上がりながら、言葉を続けた。

 

「スラムに向かいます」

 




・『魔術師』
・この世界において魔術師とは地球における医者のようなものであり、高い教養と素質を持つ者が成る職業とされている。
・魔術師の実力はピンキリだが、一般人からすれば羨望の対称な事に違いは無い。
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