バカつよ有知性武器くんの一生   作:カンピロバクター卍

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#1 山賊ガロウ

 有知性武器――インテリジェンス・ウェポン。

 

 それはその名の通り、知性ある武器のことを指す。

 現代日本においてインテリジェンス・ウェポンと言えば、物語において主人公の近くにあるキーアイテム兼相棒のポジションを得ていたと思う。

 例えば時に主人公を導き、時に主人公に力を与え、時に主人公を守って砕け散る。

 典型的なインテリジェンス・ウェポンの活躍としてはそんなところがメジャーだろう。

 

 だから俺もそうありたいものだと常々思う。

 

 ――そう、俺は現代日本からテンプレファンタジー世界に転生したのである。それも、インテリジェンス・ウェポンとして。

 

 死んだときのことはよく覚えていない。

 目覚めた時には漠然と「死んだ」という感覚があって、次の瞬間には自分がカッチョイイ剣になっていることに気が付いた。

 

 どうやって自分の姿を視認しているのだろうとか、剣に目玉なんてあるのかとか色々な疑問が脳裏を駆け巡ったが、ともかく俺はカッコよかった。

 

 具体的にはお土産屋のドラゴンソードをリアル調にした感じのカッコよさが、俺にはあった。

 

 全体的に龍をモチーフにした荒々しいデザインだし、お約束の様に鍔部分に赤い宝玉が埋まっているし、刀身はアンティークっぽい鈍い金属光沢を放つしで、俺はだいぶドラゴンソードであった。

 

『か、カッケェ……』

 

 思わず声が出た。

 剣なのに。

 

 俺がいい歳こいて中二病だったから今世の俺も中二病的ソードになってしまったのか、或いは俺を転生させた何某かの趣味であるのかは判然としなかったが、俺が今世の自分の姿を甚く気に入ったことだけは確かである。

 

 そして事態を飲み込めた俺は、ここがファンタジー的異世界であると勝手に確信し、オタク的妄想を開始。

 

『――平和な村で暮らしていた少女の生活はある日、山賊の襲撃に遭いすべてを失った。焼き払われる家々。嬲り殺される家族に友達。

 山賊に追われながらも命からがら森へ逃げ出した少女だったが、幼い彼女にとっては森の中を走るのは厳しい。木の根に足を取られて転倒した少女に迫る山賊。

 

 ――死にたくない!――少女は強く願った!

 

 気が付くと少女の手の中には禍々しくも神々しい気配を持った一振りの龍剣が。

 

 ――我を使え、幼きものよ――

 

 どこからともなく聞こえた声が、不思議と少女には自らが握る龍剣から聞こえた気がした。

 

 ――我を構え、我を振るい、其方の敵を切り伏せるが良いッ!――

 

 言葉のままに、少女は走り出した。

 

 その日、世界は新たなる物語の産声を聞くことになる――』

 

 そんな妄想を、延々と脳内上映していたわけだ。

 要するに、美少女に拾われて一緒に冒険したり戦ったり振るわれたり砕かれたりしたい!

 

 ……そう、思ってたんだ。

 

 しかし現実とはままならないものだ。

 確かに俺の想像通りこの世界はファンタジーで、魔法もエルフも獣人もなんでもござれな異世界であったが――持ち主が必ずしも美少女になるとは限らない。

 

 俺の最初の持ち主はガチムチのオッサンだった。

 

 しかも山賊。

 

 山賊の名はガロウといった。

 逆立った髪がライオンのように荒々しく、眼光は冷徹で、まさに怪物そのものといった様相の益荒男であった。

 

 森の奥深くに突き刺さって呑気にオタク妄想を繰り広げていた俺を見つけたガロウは「良いものを見つけた」と大喜び。

 

 俺を片手に野山を駆け、気の向くままに村を襲っては女は犯し、子供は売り飛ばし、男はぶっ殺す。血に濡れた俺をご機嫌で手入れしながら屁をこいて、ガハハと笑って奪ってきた干し肉をかっ食らう。「息子の命だけは」と懇願する若いねーちゃんの前で息子の首を撥ねたりもしたな。

 

 当然その時奴の手に握られていたのは俺だったわけだが。

 

 今思い出しても胸糞悪いが、不思議と罪悪感は湧かなかった。剣になった俺にはいつの間にか「人を斬るのは当然」という価値観と、それはそれとして「悪事に使われるのはムカつく」という思考が芽生えていたのである。

 

 うーん、人の心。

 

 我ながらどうかと思うが、奴に使われていて一番キツかったのは無辜の人々を切り飛ばしたことではなくて、奴の不潔さだった。

 

 まずガロウの体臭は臭かった。

 風呂にも入らねぇし返り血はそのままにするし服も着替えねぇしで本当にクセェ。

 あと鼻くそほじくった手で俺を握るのがマジで不愉快だったし、気まぐれに女の肛門に俺の柄をねじ込んだときは本気で殺してやろうかとも思った。うんこの匂いがする剣とか最悪だろマジで。

 

 俺はインテリジェンス・ウェポンだったから。

 その気になれば刀身に紅蓮の炎を纏ったり周囲一帯を氷漬けに出来たから。

 

 殺そうと思えばガロウ如き猿山の大将をぶち殺すのはいつでも出来た。

 

 しかし俺はそうしなかった。

 

 ガロウのことは心底大嫌いだったし俺のこと握るんじゃねぇ死ねバカカスアホと思ったことは一度や二度ではなかったが、結局殺しはしなかったのである。

 

 というのもそれは俺が自力で移動できない剣だからであり、移動するには運に任せるか人間に運ばせるかの二択しかなかったからである。

 ぶっちゃけこのままガロウに捨てられて村人の全滅した廃村とか人っ子一人居ない山奥に置き去りにされるのは困るし、借りに捨てられてしまえば寂しく錆びるのを待つだけになってしまう。

 

 ――おらそんな剣生は嫌や!

 

 ――美少女と冒険するまでアタイ死なれへん!

 

 色々と考えた俺は、ガロウに俺を()()()()()()()の元まで運ばせることにしたのである。

 

 そのために俺の有り余る不思議パワーをちょいと分けてやったし、凡ミスで死にかけたガロウに身体強化をかけて救ってやったりもした。まあ、話しかけたりはしなかったが……。

 悪事の片棒を担ぐのは正直気が進まなかったが、これも俺の夢の為。

 致し方のない犠牲という奴であった。

 

 そんな俺の地道な誘導作戦が功を奏したのか、いつの間にかガロウは賞金首として討伐対象になっていた。

 来る日も来る日も襲い来る賞金稼ぎを返り討ちにし、最後は小さな村を占拠して立てこもり、王国から聖騎士隊を差し向けられて無事死亡。

 

 享年24歳。

 

 ざまぁみろボケがと無い中指を突き立てた俺は物言わぬ死体となったガロウの手の中から救出されると、今度は聖騎士隊の戦利品となった。

 どうやら俺の所有権は聖騎士隊の隊長さんが獲得したらしく、今まで抜き身だった俺に特製の鞘を作ってもらえることになった。

 

 残念ながら隊長さんは美少女ではなくゴツイ中年のオッサンであったが、ガロウと比べればウン百倍もマシだった。国に仕える聖騎士というだけあって正義に背くことで俺を使わないであろうし、何より身なりが清潔であったことが大きい。

 

 しかも俺に《バルムンク》とかいうカッチョイイ名前も付けてくれた。

 

 龍モチーフの剣にバルムンクとか、センスあるじゃんと素直に思った。

 俺に埋め込まれてるのは青い宝玉じゃなくて赤い宝玉だけどなとか、なんで異世界に“ニーベルンゲンの歌”が伝わってるんだよとかツッコミどころは多々あったが、ともあれ俺は聖騎士隊の隊長さんのことが気に入った。

 俺の中二センサーがこいつは同類だって囁くのよね。

 

 でも、俺はまだ美少女との楽しい冒険ライフを諦めたわけじゃないからな!

 

 こんなところで妥協はしないからな!

 

 俺の異世界ライフはまだ始まったばかりなんだからな!




tips:バルムンク

意思持つ魔剣。
炎出したり氷出したり担い手に身体強化を施したり出来る。
美少女限定で前述以上のものすごい力を与えてくれる。どのくらいって、そりゃものすごいんだよ。
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