バカつよ有知性武器くんの一生   作:カンピロバクター卍

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#2 聖騎士フィサリス①

『筋力強化、視覚増強、反射神経極大化』

 

 俺の呟きとともに、粗末な服を纏った少女が立ち上がった。

 先ほどまで震えていたのが嘘のように、華奢な足でしっかりと大地を踏みしめている。

 そして俺を握るその手には、少女らしからぬ怪力が宿っていた。まるで万力で締め上げられるような圧力と、それに混じる心地よい痛みが俺を襲う。

 

『幼き者よ、其方には我が力の一端を貸し与えた。走れば逃げ切れるだろう。戦えば勝てるだろう』

 

 ――だが選ぶのは、其方だ。

 

 俺のキメ台詞に少女は言った。

 

「私、戦うッ!あいつらを殺して、勝つッ!」

 

『その言葉が聞きたかった!』

 

 んほ~!バーサク系美少女とかたまりませんわ~!!!!

 マジで俺がぶっ壊れるぐらいに戦って戦って戦い抜いてくれよな!!!!

 

 剣だから表情に出ることはなかったが、俺は非常に興奮していた。ちんこがあったら勃起していたかもしれない。というか、もう心の中で射精していた。

 

 そんな俺の内心などつゆ知らず、少女は俺を構えると、自分を囲む山賊の一団を睨みつける。

 

 可愛くて白いおててから染みだした汗が俺の柄に滲む。おいおいご褒美か?それってお誘いなワケ?もっと力あげちゃうよぼかあッ!

 少女の汗に興奮した俺は、お礼とばかりに彼女の体に更なる力を注ぎ込む。

 俺の全力の加護――《フルブースト・バフ》を受けた少女の体はもはや最強。今ならドラゴンブレスを喰らっても傷一つ付かないだろうし、惑星破壊規模のカタストロフが訪れても余裕で生き残れるであろう。試したことはないが、多分そうだ。

 

 だから少女よ、そんなに緊張することはない。

 

 君がそんなだと、俺の射精が止まらないよ?

 

「おいおいおい、ガキが冒険者気取りか?カッコいいねぇ!」

「テメェは奴隷にしてやろうかと思ったけどよお、やっぱヤメだ!」

「勇気に免じてパパとママに会わせてやるぜ喜べやカスがッ!」

 

 山賊たちの下卑た声。

 自らの有利を信じて疑わない、そんな声。

 だから余裕ぶって、俺を持った少女をすぐには襲わずに軽口なんて叩けるんだ。

 

 馬鹿どもが。

 少女が俺を拾う前に、油断なんてせずちゃんと殺しておけば、死ぬことなんてなかったのにね。

 

『臆するでない、幼きものよ。彼奴等は其方の敵ではない』

 

「――はい」

 

 次の瞬間、少女は眼前の山賊を全て切り殺していた。

 

 おお、肉を断つ甘美なる感触!

 

 胴、足、首、あらゆる部位に分割された山賊たちは、最早どれが誰の体だったか分からないくらいにバラバラになって森の大地に血だまりを作る。

 

「ゴポッオエエエエッエエッ」

 

 少女は自らの作り出した惨状に恐怖し、嘔吐した。

 家族と食べた最後の晩餐が、森の養分として還っていく。

 

 だがしかし、その目は死んではいなかった。

 むしろその逆。生きてやるという強い意志。強い闘志が瞳の中で燃え盛っていたのが、俺には分かった。

 

 少女は嘔吐きながらも、意を決したように俺にこう言った。

 

「私、強くなりたい。誰にも負けないくらい、もっと!」

 

 これだよこれ!求めていたのは!

 

 何だよ何だよ何なんだよガロウしかりフィサリスしかり!可愛げというものがありゃしないじゃないか!それに比べて俺のエリッサちゃんを見てよ!

 儚げで臆病で、だけども心に芯があって強いの!あと美少女!可愛い!しかも俺と一緒に冒険してくれるの!

 

 ――はい。

 

 そうだね、夢だよね。知ってるよ。

 

 あーあ。

 

 

 目を覚ますと、白亜の天井がお出迎え。

 横を見ると、俺を大事そうに抱えたまま眠りこける男――聖騎士隊長フィサリスの姿があった。

 

 畜生、いい夢だったのに。

 

 寝起きに見る光景が中年のオッサンの寝顔とかなんの拷問だよ。勘弁してくれ。

 

 この男、俺の美しい装飾に惚れ込んで以来、専用の鞘まで作って俺を肌身離さず持ち歩くようになり、ついには寝るときまで抱きしめるようになってしまったのである。

 

 ――これが美少女だったら最高だったのになぁ。オッサンじゃ心が踊らねぇよ。

 

 名前だけなら美少女ポイント高いのに、もったいない。

 

 そういえば、ミルレム王国にその名を轟かせた大山賊《ガロウ》が討伐されて、俺の持ち主があの怪物からこの聖騎士に代わって、もう三ヶ月が経つ。

 

 ガロウの野郎が暴れまわっていたらしいこのミルレム王国は、メガロエナ(大いなる一)大陸の極東に位置する小国家なのだそうな。フィサリスがボソボソとしていた独り言の内容からの推測だが、まあ間違ってはいないだろう。

 

 いやね、喋れるんだから直接聞いたらええやんとの声、あると思います。いやはや御尤もな意見だと俺も思うよ実際。

 

 ――でもね、フィサリスは聖騎士なんだよ。

 

 つまり、神に仕える戦士なわけだ。

 この世界の宗教がどんなものなのかはあんまり分かっていないが、一神教であることはフィサリスの独り言で確定。そして前世での一神教の代表格であるキリスト教を思い出してみてくれよ。

 

「ん?喋る武器?もしかしてお前悪魔か?」

 

 となって「悪魔は祓うンゴねェ~」されたら一巻の終わりだよ。

 

「ファッ!?喋る武器とか神が遣わせてくれた天使に違いないニャ!!」

 

 というパターンも考えられるが、その際は神殿の奥深くで神具として祀られそうなのでそれも勘弁願いたい。絶対身動き取れなくなるパターンじゃんね、それ。

 

 堅物野郎なフィサリスのことだ。絶対どちらかになるという自信があるね。ちょっと俺に対する愛情が重いだけで、コイツ自身は敬虔な神の信徒だからな。

 だから俺はコイツに率先して話しかける気もないし、バレたら黙ってシラを切ろうと思っている。

 

 そんなフィサリスの朝は、まず祈りをささげるところから始まる。

 

「慈悲深き主よ、我らが夜を無事に迎えんことを願い、慎ましき糧を与えたまえ」

 

 目を覚まし、着替えて俺を腰に差すと、奴は朝日に向かってそう言った。主とやらは太陽神なのだろうか。

 

 祈りを済ませたフィサリスは、食堂に向かう。

 奴は聖職者のクセして立派に家族をこさえていたようで、食堂には奴の妻に、娘が3人の計4人が既に着席していた。

 

「パパ遅い。聖職者は一番早く来るべき」

「悪い子なパパの目玉焼きは私が食べちゃいます!」

「パパ可哀そう……ピーマンあげるね。苦手なわけじゃないよ」

 

 フィサリスの娘は奴に似ず美人揃いで、俺の持ち主候補にしてやってもいい面をしていやがる。堅物のフィサリスも美人三姉妹が可愛くて仕方ないらしく、尻に敷かれていることを俺は知っている。

 

 たまに寝言で、「い、いや、パパは……お菓子はひとつまでって言っただけで……」「うわあ泣かないでくれ、リリア、お願いだから泣くのやめてくれ!ママ起きる、ママ起きちゃうから!!」みたいなことを呟くのだ。寝言なのにめちゃくちゃ必死でリアルなのが余計に泣ける。

 

 娘の名前は確か、「リリア」「ユリア」「ソフィア」とかそんな感じだったはず。

 

 それで、三人とも揃いも揃って父親に似ず魔法適性バリ高の才女らしい。そして日々、剣なんぞ振り回す父を「時代遅れ」呼ばわりしている。

 

 俺が喋れることバレたら、多分真っ先にリリアちゃんに研究材料として剥がされる。絶対分解される自信がある。

 いや、ひ弱な娘っ子に解体されるほど俺はやわじゃないけどね。

 

 そう考えると、今この聖騎士の腕の中で静かに転がっているほうがまだ安全……いや、安全……なのか?本当に?

 

 そろそろ誰か、美少女とか優しいお姉さんとかが俺を拾ってくれませんかね? マジで切実なんですけど。

 

 そんなわけで、俺はフィサリスに話しかけることもなく今日も「ただの剣」のふりをして、静かにこの世界の変化を待っているのだった。

 


 巨大陸歴(アノ・メガロエナ)2450年、冬。

 東部大平原の覇者である《バラドタット魔王国》が極東小国家であるミルレム王国に対して宣戦を布告。王国軍は精強なる魔王軍の魔物軍団を前に敗走を繰り返し、ついには戦線が崩壊。

 進退窮まった王国は、大教会との約定に背き、国内の聖騎士団を戦場に派遣するに至る。


 

 ――しかし世界は残酷だ。

 “静かに”変化を待たせてなんてくれやしなかった。

 

 血に染まった草原の上、フィサリスは倒れていた。

 

 最初から勝てるわけがなかったんだ。

 魔王国は東の覇者だぞ?そんな奴らにさんざん「軍門に下れ」と脅されていたのに、それに従わなかったのは王国の奴らだろ。挙句の果てに戦争になって、降伏もせずに聖騎士団を戦場に引っ張り出してきやがった。

 約定を盾に、そんな要求突っぱねりゃあ良かったんだ。

 

 馬鹿だなあ。

 

 本当に、馬鹿だ。

 

 鎧は砕け、肉が裂け、脈も今にも消え入りそうなほどに弱々しい。魔王軍の駆る魔物、《グレートベア》に肩を撫でられたのだ。

 剣を握るその手にはまだ戦う意思が残っていたが、もはや指一本動かすことも叶わない。呼吸は浅く、呻き声も聞こえない。

 

 ……こりゃあ死んだな。

 

 まあ、嫌いじゃなかったぜ、お前のこと。




tips:エリッサ

意思持つ魔剣、バルムンクの思う理想の美少女にして、理想の担い手。
彼女は彼の妄想の中にのみ存在し、彼の理想通りのムーブをしてくれる。儚げで臆病だが心に芯のある美少女らしいが、現実にそんな奴はいない。
現実は非情である。
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