ハリー・ポッターと友情、努力、勝利の本   作:じゃあな・アズナブル

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第十一話 ニコラスフラメルと賢者の石

翌朝。談話室の窓から差し込む日差しはまぶしく、外の雪景色が白く輝いていた。クリスマスの朝のにぎわいも一段落し、ホグワーツには静けさが戻っていた。ハリーはソファに座り、昨夜のことを思い返していた。

(あの鏡……“強くなった自分”が映ってた。あれだけになるには、どれだけ修行を積み重ねないといけないんだろう……)

そこへ、ロンがマフラーを巻いたまま隣にどすんと腰を下ろす。

 

「おはよ。……って、ハリーきみ、なんか顔が真剣だな」

 

ハリーは少し迷ったあと、小声で言った。

 

「……昨日の夜さ、学校の中を歩いてて、変な部屋を見つけたんだ。そこに“みぞの鏡”っていう大きな鏡があって……そこに映った自分の姿が、ちょっとすごかった」

 

ロンが身を乗り出す。

 

「なにそれ!? 鏡に何が映るんだよ?」

「ダンブルドアが言ってた。“みぞの鏡”には、その人が――心の底で最も望んでるものが映るんだって」

「……望んでるもの?」

「うん。本当の願い。家族が恋しい人には家族が映るし、名声を欲してる人にはそれが映る。……僕には、強くなった自分が映ってた。魔法も体も、全部鍛え上げた……そんな姿」

 

ロンはしばらく黙っていたが、ぽつりとつぶやく。

 

「……じゃあ、僕が見たら、どう映るんだろな。クィディッチで優勝カップを掲げてるとか……監督生になってたりして」

「かもね」

 

ハリーは軽く笑ったあと、少し真剣な表情で続けた。

 

「でも……ダンブルドアが言ってたよ。あの鏡に、ずっと取り憑かれてる人もいるんだって。見てるだけで満足しちゃって、“現実”を生きられなくなるって」

「うわ、それ怖……」

「うん。だからもう、鏡は別の場所に移したってさ」

 

ロンは肩をすくめながら、少し羨ましそうに呟いた。

 

「一回くらい、見てみたかったけどな」

 

そのとき、元気な足音が二人のもとに近づいてきた。

 

「ただいま!」

 

声の主はハーマイオニーだった。分厚いコートを脱ぎながら、いつもの調子でまっすぐこちらへ向かってくる。

 

「で? どう、ニコラス・フラメルについて何かわかった?」

 

いきなり本題。さすがハーマイオニーだ。ハリーとロンは顔を見合わせ、そろって小さく肩をすくめた。

 

「いや……全然。調べてはいるんだけどさ」

「そう。いいわ、あとでまた図書館行きましょう。私も一緒に見直す。それと、頼れそうな資料もチェックしておくわ」

 

言うが早いか、彼女はまたバッグから分厚い本を引っ張り出す。

 

***

 

図書館の奥。三人はいつもの机に分厚い本を山積みにしていた。

 

「『魔法界の発明家』……ダメ、載ってないわ」

 

ハーマイオニーが本を閉じると、乾いた音が鳴った。

 

「『禁じられた歴史』もダメだった」

 

ロンがページをめくりながら、ため息交じりに呟く。

 

「……『すごい魔法使いランキング』とかにもいなかった」

「だから、そういうタイトルじゃダメだって言ったでしょ……」

 

ハーマイオニーがちらりと睨む。ロンは肩をすくめるだけだった。ハリーは黙って索引をめくっていたが、やがて静かに本を閉じて立ち上がった。

 

「ごめん、僕今日はクィディッチの練習があるから行ってくる。またあとで合流するよ」

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

「勝ったらニコラス・フラメルも出てくるんじゃねーかなー」

「……そんな適当な」

 

ハリーは笑いながら手を振り、図書館を後にした。グラウンドには冷たい風が吹きつけていたが、ハリーは箒を握る手に、自然と力が入っていた。ウッドたちはすでに練習メニューの打ち合わせ中だ。

 

「よし、次のハッフルパフ戦は気合い入れていくぞ。……今回の試合、審判はスネイプだそうだ」

「……えっ?」

 

ハリーは思わず聞き返した。

 

「スネイプが審判!?」

 

ウッドが肩をすくめながら答える。

 

「ああ、そうなんだよ。まあ、スネイプが公正にジャッジすると思ってるやつなんかいないけどな」

「……なんかしてくるかもな」

 

チームメイトがざわつく。ハリーの目が鋭くなる。だが、その奥には確かな闘志が宿っていた。

 

***

 

「スネイプが審判!?」

 

ロンが顔をしかめた。

 

「なあハリー、やめとこうよ。絶対ろくなことにならないって」

 

ハーマイオニーも真剣な声で口を挟む。

 

「本当に危険なことが起きたらどうするの? クィディッチは途中でやめられない競技よ?」

 

ハリーは二人の心配に対して、少し苦笑して答えた。

 

「うん、ありがとう。まあ、用心はするよ。試合中に“何か”される可能性はゼロじゃないし」

 

そんな会話をしながら廊下を歩いていると、前方からネビルと――そしてマルフォイが並んでやって来るのが見えた。一瞬、空気がぴりっと張り詰める。だがすれ違いざま、マルフォイがポケットから何かを取り出し、ふいにハリーへと放り投げてよこした。

 

「そういえば――ニコラス・フラメルってのを探してたんだよな? これ、やるよ」

 

ひゅ、と放物線を描いて飛んできたのは、チョコレート・カエルの包み紙とカードだった。ハリーがそれを手に取ると、すぐにロンとハーマイオニーが駆け寄ってくる。

 

「なんだって?」

「カエルチョコ……?」

 

ハリーがカードを広げると、そこには―― 魔法界で最も有名な人物の名が書かれていた。

「アルバス・ダンブルドア」 そして、その説明文の一節にこうあった。

“ダンブルドアは、錬金術師ニコラス・フラメルと協力し……”

 

「……いた!! ニコラス・フラメル、ここに書いてある!」

 

ハーマイオニーが目を輝かせて声をあげる。 その横で、ネビルがぽつりと一言。

 

「……あのね、マルフォイが今、 『これ、ハリーたちに教えてやれ』って、言ってたんだよ」

 

ロンとハーマイオニーが

 

「え?」

 

と振り返ると、マルフォイはもう背を向けて歩き出していた。

 

ハリーはチョコの包みを手に持ったまま、ほんの少し、口元をほころばせた。マルフォイはすでに背を向け、足早に歩き出していた。 だが、その背中に向かって――ハリーは声を上げた。

 

「マルフォイ! ありがとう!」

 

廊下に響くその声は、からかいでも皮肉でもなく、ただまっすぐだった。マルフォイの足が、ほんの一瞬止まる。

……振り返ろうとして、やめた。

そして何もなかったかのように歩き出し、背中だけが遠ざかっていった。

(……ったく、調子狂う)

マルフォイは寮へ向かう階段を降りながら、手をポケットに突っ込む。心のどこかが、ちょっとだけ軽い。

(……まあ、悪くないけどな)

口には出さないけど、胸の奥にほんの少し――温かいものが残っていた。

 

***

 

一方そのころ、ハリーたちは手元のカードを見つめながら話し合っていた。

 

「つまり……フラメルって、錬金術師だったんだ!」

 

ハリーがカードの文面を指差して言う。するとハーマイオニーが、「ちょっと待ってて!」とだけ言い残して、急いで自分の部屋へ駆けていった。そして数分後――息を切らせながら戻ってきた彼女は、手にした分厚い本を机にドンと置く。

 

「これよ!」

 

ページをばさばさとめくりながら、目的の箇所に指を止めた。

 

「ニコラス・フラメル。著名な錬金術師であり――賢者の石を製作した唯一の人物!」

「やっぱり……!」

 

ハリーが思わず声を上げる。

 

「で、その“賢者の石”って、なんなんだよ?」

 

ロンが身を乗り出して尋ねる。ハーマイオニーはページをめくりながら、淡々と説明を続けた。

 

「賢者の石は、“命の水”を生成することができる特別な石なの。それを飲むと、病気は治るし、年も取らなくなる……つまり、不老不死」

 

ネビルが思わず椅子をきしませて後ずさる。

 

「そ、そんなの……誰だって欲しがるよ……!」

 

ロンが顔をしかめながら、ハリーに向き直る。

 

「でもさ……あれだけ図書館の本を調べても出てこなかったのは、なんでなんだ?」

 

ハーマイオニーはにやりと笑いながら、ページの一行を指差した。

 

「フラメルは650歳。……そりゃ最近の人物をまとめた本に載ってるわけないわよね」

「……古すぎたってことか」

 

ハリーが苦笑する。

 

「まさか、“生きてる人”としては年取りすぎてたとはな……」

 

ネビルはまだ驚いたような顔のまま、ぽつりと呟いた。

 

「……六百五十本もろうそく立てるケーキって、作れるのかな……」

 

ロンが吹き出す。

 

「ネビルの感想、そこ!?」

 

四人の笑い声が談話室に響く中、ハリーは再び本の記述に視線を落とした。

(不老不死の石……それを、誰かが狙ってる)

ロンがソファに深く腰を沈め、ぼそりと呟いた。

 

「……不老不死になれる石だなんて、スネイプが狙ってたって全然おかしくないよな」

「……」

 

ハリーは黙っていた。スネイプが怪しい――そう感じた瞬間は、これまで何度もあった。三頭犬の部屋に行こうとしていたこと。足を怪我していたのも、フラッフィーに噛まれたせいかもしれない。

(でも……本当に、スネイプが“賢者の石”を狙ってるのか?)

ふと、漏れ鍋での出来事が頭に浮かぶ。ホグワーツへ向かう途中、初めてクィレルと会ったときのことだ。

(あのとき、握手をしそうになって……でも、途中でやめたんだ。でも――なんか、変な感じがした)

それだけじゃない。

(トロールが入ってきた日。知らせてきたのはクィレルだった……)

(スネイプは、その直後にクィレルに詰め寄ってた……あれは、責めてるように見えた)

(それに……クィレルのあのオドオドした感じ、どこか、違和感がある)

目を閉じて、点と点を結びつけようとする。

けれど――

(……まだ、わからない)

決定的な証拠は、どこにもない。誰が“石”を狙っているのか。誰が敵で、誰が味方なのか――。だが、ハリーにはただ一つ、確かなことがあった。

(……僕が、もっと強くならなきゃいけない)

皆の会話がひと段落したころ、ハリーは静かに口を開いた。

 

「……僕、やっぱりクィディッチの試合に出るよ」

「えっ!?」

 

ロンとハーマイオニーが同時に声を上げ、ネビルも目を丸くする。ロンが慌てた様子で立ち上がった。

 

「ちょ、ちょっと待てよ! スネイプが審判だぞ!? 絶対なんかされるって!」

「うん。……だからこそ、出るんだ」

「もしスネイプが“賢者の石”を狙ってるなら――試合で、僕に何か仕掛けてくるはずだ」

 

ハリーの声は低く、静かだった。ハーマイオニーが眉をひそめ、即座に反論した。

 

「……でも危険すぎるわ。前の試合だって箒が勝手に動いたじゃない。今度も何かあったら――」

「それも、ちゃんと見ておきたいんだ」

 

ハリーはまっすぐ前を向いたまま言った。

 

「スネイプが本当に怪しいのかどうか、自分の目で確かめる。もしまた“何か”が起きたら――それが証拠になる」

 

ロンは言い返そうとしたが、ふと口を閉じた。その表情には、呆れたような苦笑いと、どこか諦めにも似た理解が混ざっていた。

 

「……まったく、きみってやつは」

 

ハーマイオニーもため息をついて、しかし小さく頷いた。

 

「……じゃあ、私たちもちゃんと見ておく。試合の日は、スネイプの動きに目を光らせるわ」

「うん、任せろよ!」

 

ロンが拳を握る。ネビルも緊張した顔で、小さくうなずいた。

 

「……僕も何か手伝えることがあれば、言ってね」

「ありがとう。みんな」

 

ハリーは深く頭を下げ、ゆっくりと立ち上がった。




いつの間にかネビルが仲間になった
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