ハリー・ポッターと友情、努力、勝利の本   作:じゃあな・アズナブル

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第十二話 二度目のクィディッチ戦とドラゴン誕生

冷たい風が吹く中、クィディッチ競技場はすでに熱気に包まれていた。 空には赤と黄の旗が交互に揺れ、観客席はグリフィンドールとハッフルパフの応援で大きく二分されている。

その一角、グリフィンドール側の応援席には、ロン、ハーマイオニー、ネビル――そして、その近くになぜかマルフォイとその取り巻きも座っていた。普段なら絶対に寄りつかない場所のはずだった。

 

「……別に、応援に来たわけじゃないからな」

 

マルフォイはそう言って視線を逸らす。だが、落ち着かないようにローブの袖をいじっていた。

 

「でも、わざわざ来たんだろ?」

 

ロンが眉をひそめて問うと、マルフォイはふんと鼻を鳴らす。

 

「誰がポッターを応援するかっての。ただ、ちょっと“興味”があるだけだ。あいつ、また何かやらかすんじゃないかと思ってな」

 

ハーマイオニーはそっけなく返事をしながらも、しっかりと双眼鏡のピントを合わせていた。

 

「私はむしろスネイプ先生の方を注視するつもりよ。彼がまた何か仕掛けてくるなら、今回は見逃さないわ」

 

ネビルは座ったまま、緊張気味にグラウンドを見下ろしていた。

 

「……でもさ、もしまた箒が勝手に動いたりしたら、ハリー危ないよね。大丈夫かな……」

 

「大丈夫じゃないよ、きっと。でも――」

 

ロンは視線をグラウンドに向け、現れたグリフィンドールの選手たちの中にハリーの姿を探した。

 

「――それでも、ハリーは絶対に逃げないって決めてる顔してた」

 

グラウンドでは、選手たちが次々に箒に乗り、宙へと浮かび上がっていく。スネイプの姿も中央に確認できた。漆黒のローブが風になびき、彼の顔は無表情に見えたが、その目はどこか冷ややかに光っていた。

 

「スネイプ先生がどんな動きを見せるか、注意して見ておくべきね」

 

ハーマイオニーがつぶやく。その横で、マルフォイは頬杖をついたまま、視線をそらしてぽつりと漏らした。

 

「……ま、せいぜい無事に終わるといいな」

 

その言葉の裏に、どんな気持ちが込められているのか。 本人すら、よくわかっていないようだった。

試合開始のホイッスルが鳴る。 選手たちが一斉に宙へと舞い上がり、グラウンドには歓声が渦巻くが――ハリーの意識は、不思議なほどに澄んでいた。

(……あった)

視界の端で金色にきらめいた、それを。 ハリーは即座に箒を傾け、風を切って飛び出した。

(今は……体が軽い)

夜な夜な繰り返した重力修行の成果が身体に染み込んでいた。 いつもよりも、跳び、曲がり、沈む感覚が鋭い。

スニッチは風を切って逃げていく。 ハリーは一度も見失わず、その動きの先を読み――軌道を絞る。 急旋回。空気を裂くように箒が滑る。

(次は右下……回る!)

スニッチが方向を変えた瞬間、ハリーはすでにそこへ飛び込んでいた。 読み勝った。

手が伸びる――

パシッ。 金色の球が、手の中にすっぽり収まった。一瞬の静寂。 そして、観客席から轟く歓声!

 

「やったぁぁぁああああああ!!」

 

ロンが誰よりも早く立ち上がり、両手を高く突き上げた。

 

「おい見たか今の!? あれ反則的な速さだったろ!?」

 

ハーマイオニーは双眼鏡を外しながらも、目を見開いたままだった。

 

「……すごい。動きに無駄がひとつもなかった……!」

「今、スニッチが逃げた方向を先読みして、そこに……」

 

ネビルも興奮気味に前のめりになっていたが、言葉の途中で目を丸くする。

 

「……あれ? マルフォイ、立ってる?」

 

一同の視線が、横で無言のまま突っ立っているマルフォイに向く。 マルフォイは視線に気づいて、咄嗟にふてくされたように言った。

 

「立っちゃ悪いかよ」

 

腕を組んだまま、ずっとグラウンドの一点を睨みつけていた。ロンがニヤリとしながら振り返る。

 

「なになに? あんまり熱心に見てたから応援してるのかと思ったよ」

「勘違いするなよ。あれはただ、見ておく価値があっただけだ」

 

マルフォイは表情を変えず、静かに言った。

 

「……あんな動き、普通じゃできない」

 

その目は、どこか悔しさと――焦りにも似た何かを宿していた。

 

「……“鍛えてる”ってのは、ああいうことか。……くそったれ」

 

そう吐き捨てて、マルフォイはローブの襟を引き直しながら席に座り直した。その手のひらには、爪が軽く食い込むほど力が入っていたことに、本人も気づいていなかった。

 

***

 

勝利の余韻も冷めやらぬまま、グラウンドを後にしようとしていたハリーは、ふと異変に気づいた。

(……スネイプ、あれ……どこ行くんだ?)

試合終了後も表情ひとつ変えず、誰とも言葉を交わさなかったスネイプが、選手通用口とは別の裏通路へと姿を消していた。

ハリーは誰にも言わず、そっとその後を追った。足音を殺し、壁の陰に身を潜めながら進む。やがて、人気のない廊下の先で――誰かが話す声が聞こえた。

 

「……ど、どうしたんだ、セブルス……?」

 

どもりがちに話すその声は、クィレルだった。

 

「どうした、じゃない」

 

スネイプの声が低く、冷たく響く。

 

「……どうやったら三頭犬を出し抜けるか――それはもう、わかったのかね」

 

沈黙。クィレルが小さく身をすくめたように見えた。

 

「い、いや……わ、私はそんなこと……そんなことは考えていません……!」

 

スネイプの足音が、石畳に一歩分近づいた。

 

「君が何を考えているかなんて、どうでもいい。……ただ、どっちの味方につくかは、はっきりと決めた方がいい」

 

それだけを残し、スネイプはローブをひるがえし、廊下の奥へと姿を消した。クィレルはその場に立ち尽くし、ローブをぎゅっと握りしめたまま微動だにしなかった。

――そして、物陰に潜んでいたハリーは、全身をこわばらせながら、拳を強く握っていた。

(……やっぱり、スネイプは……でも、クィレルの反応も……)

心の中で警鐘が鳴り続ける。

(どっちなんだ? 本当に“石”を狙ってるのは……)

迷いは、深まるばかりだった。

 

***

 

談話室の奥。夜も深まり、炎の揺らぐ暖炉の前に四人が集まっていた。ハリーが、スネイプとクィレルの密談をこっそり聞いたことを話し終えると、最初に声を上げたのはロンだった。

 

「……やっぱりスネイプだ! 間違いないって、怪しすぎる!」

「“三頭犬をどうやって出し抜くか”なんて、あからさまじゃない!」

 

ハーマイオニーとネビルも顔をしかめて強くうなずいた。三人の視線が自然と、ハリーに向けられる。だが、ハリーは少し考えてから、首を横に振った。

 

「……でもさ、スネイプ、あれ“問い詰めてた”ようにも見えたよ。“追及してる側”っていうか……“探ってた”って感じだった」

 

ロンがすかさず口を挟む。

 

「え? でもスネイプが“石”を狙ってるって、前から疑ってたじゃん?」

「たしかにそうなんだけど……」

 

ハリーは視線を落とし、暖炉の炎をじっと見つめながら続けた。

 

「それだけじゃない気がするんだ。クィレルの様子も、どこか変だった。僕は……まだ“どっちが敵か”は決めつけたくない」

 

少しだけ、言葉を選びながら、ハリーは口を閉じた。沈黙が落ちる。炎のぱちぱちという音だけが、部屋に響いていた。

 

「……ま、ハリーがそう言うなら」

 

ロンが頭をかきながら、納得しきれない顔でぼそっと呟く。

 

「でも私は、スネイプが何か企んでるって思うわ」

 

ハーマイオニーは手元に置いた双眼鏡を見つめながら、はっきりと言った。

 

「ぼ、僕も……そう思う」

 

ネビルが、少し控えめに、しかし確かな声でつけ加えた。ハリーはその意見に反論はせず、静かに聞いていた。どちらが敵か、あるいは両方なのか――その答えは、まだ霧の中だった。

 

***

 

夜の中庭。月明かりが、辺りを静かに照らしていた。マントを脱いだハリーは、壁際にそれを置き、深く息を吸った。胸の奥には、冷めきらない混乱が渦巻いている。

(スネイプが、クィレルを問い詰めていた――)

(でも、本当にスネイプが“敵”なら、あんな堂々と問い詰めたりするか?)

考えれば考えるほど、答えは遠ざかっていく。思考が堂々巡りを始める前に、ハリーは静かに結論を下した。

(わからないだったら――いざという時、誰にでも勝てるように鍛えるしかない)

呪文を唱えることなく、自然な動作で構えを取る。音もなく、空気を裂くように腕を動かす。軽く跳躍する。着地の感覚が、骨と筋肉に心地よく響く。

(……やっぱり、体が軽い。重力修行、少しずつ効いてきてる)

自分に向かって「ディセンド」を放つ。足元に“重さ”が加わる。動くたびに抵抗が生まれ、全身に負荷が走る。

そのままステップを踏み、拳を突き出す。反応速度、踏み込み、そして体のブレ――確かに、どれも以前より鋭くなっている。

(クィレルでも、スネイプでも、誰でも……来るなら来い)

その決意を胸に、深く沈み込む。そして、一閃。拳が空を切る音が、夜の静寂に一度だけ、鋭く響いた。

 

***

 

試験が近づき、ホグワーツの空気が少しずつピリついてきた。いつもはにぎやかな談話室も、最近は本のページをめくる音と、羽ペンの走る音ばかりが響いている。ハリーたちも例外ではなく、図書館の一角に集まり、教科書やノートを広げていた。

ハーマイオニーが主導し、ロンは半ばうんざりした様子で、それでもちゃんとノートを開いている。ネビルも必死に、呪文を小声で繰り返していた。

そんな中――ふと背後から、聞き覚えのある大きな足音が近づいてくるのがわかった。重くて、でもなぜか妙に“こそこそ”しているような足取り。ハリーは顔を上げて、振り返った。

 

「……ん?」

 

そこにいたのは、まさにその足音の主。ハグリッドだった。巨大な体にはまるで似合わない挙動で、手に一冊の本を抱えている。

 

「……ハグリッド?」

 

ハリーが呼びかけると、ハグリッドはビクリと肩を跳ねさせた。

 

「お、おお、ハリー……えーっと、ロンにハーマイオニー、それにネビルもか……よ、よく勉強しとるな!」

 

その言葉のわりに、彼の挙動はあからさまにおかしかった。ロンがちらりとハグリッドの手元に目を向ける。

 

「……ねえ、それ、なんの本?」

 

ハグリッドは咄嗟にそれを背中に隠し、ぎこちなく笑った。

 

「な、なんでもないぞ、ほんのちょっとした……ええと、裁縫の本だ!」

「“ドラゴンの飼い方”って書いてあったわよ?」

 

ハーマイオニーが鋭く指摘する。

 

「ち、違う!違う違う、“ドラゴン柄の毛布の編み方”じゃ!」

 

ハグリッドはどんどん墓穴を掘っていた。一行が半ば呆れ、半ば笑いを堪えるような顔をしている中――ハグリッドはその本を本棚に押し戻すと、そそくさと立ち上がった。

 

「こ、こんなとこで話すのもなんだ。あとで、おれの小屋に来てくれ。ええ、秘密だ、内緒話だ。誰にも言うなよ?」

 

ハグリッドが足早に立ち去りなんとも言えない空気が残る中、ハリーはぽつりと呟いた。

 

「そういえば――前に“ドラゴンを飼うのが夢”って言ってたよ、ハグリッド」

 

ちょっと呆れたような、でもどこか笑ってしまうような声だった。そして四人は、図書館をあとにし、ハグリッドの小屋へ向かう準備を始めた。

 

***

 

その日の放課後、ハリーたちはハグリッドの小屋を訪れた。扉をノックすると、すぐに中からハグリッドの声が返ってくる。

 

「おお、来たか! 今ちょうどいいところなんだ!」

 

ドアを開けたハグリッドは、顔をほころばせながら手招きした。

 

「こっちこっち! 静かにな、誰にも言っちゃダメだぞ……今から孵るんだ!」

 

薪がパチパチと燃える暖炉の前――そのすぐそばに、分厚くて黒光りする卵が、布に包まれて鎮座していた。

 

「すごい……これがドラゴンの卵?」

 

ハーマイオニーが目を見開いて言う。ロンは唖然としていた。

 

「マジで飼う気なのかよ……!」

「夢だったんだ、小さい頃からずっと! ドラゴンを飼うのが!」

 

ハグリッドは胸を張って誇らしげに言ったが、すぐに卵に視線を戻した。

 

「……ほら、見てみ、殻が……ひび割れとる!」

 

一同が息を呑んだ。ピシッ――という小さな音が室内に響く。卵の殻がじわじわと割れ、やがて湿った黒色の頭が、ぬっと殻の間から現れた。

 

「……わっ」

「わあ……!」

 

ネビルが目を輝かせ、ハーマイオニーは思わず身を乗り出す。孵ったばかりのドラゴン――全身真っ黒で、背中には小さくても立派な翼。その姿はまだ幼いのに、どこか威圧感をまとっていた。

 

「ノーバートだ! この子はノーバートって名前にするんだ! 可愛いだろ!?」

「……か、可愛い……かな……?」

 

ロンが引きつった笑顔を浮かべる。ハグリッドはドラゴンを両腕で大事そうに抱きかかえながら、目を潤ませて語った。

 

「なんて美しい生き物……瞳、牙! すばらしい! 火を吐くところなんか……もう、最高だ!」

 

その様子を見ていたハリーがつぶやいた。

 

「ドラゴンって、いいよね……。ドラゴンのパワーが僕にも使えたらな……」

「……え?」

 

ハーマイオニーがきょとんとした顔で振り向く。だがハリーは、もうドラゴンから目を離していなかった。

 

「空を飛んで、火を吐いて、鱗の防御力もあるし……」

 

語る声には、憧れがにじんでいた。それだけではない。ハリーの妄想はさらに加速していく。

 

「もし稲妻を呼び寄せたり、体が竜みたいに変化したりできたら……『まさに竜の騎士』って感じでさ。魔法と組み合わせれば、飛行中に雷撃呪文をぶっぱなしながら相手に殴り込む!とか、できそうなこと山ほどあるよね……!」

 

その目は、完全に別世界を見ていた。ロンが頭を抱える。

 

「……また始まったよ。現実を生きてくれ、頼むから……」

 

ハーマイオニーも苦笑しながら言った。

 

「それ、多分完全に魔法の話じゃなくなってるわよ……」

 

ハリーは少し照れたように頬をかき、肩をすくめた。

 

「ま、いつかできるかもしれないし。竜の騎士って、強くてかっこいいよねって」

 

しばらく、ノーバートが鼻を鳴らす音だけが小屋に響いた。その後、ハリーがふと思い出したように尋ねた。

 

「それにしても……ドラゴンの卵なんて、どうやって手に入れたの? そもそも禁止されてるんじゃなかったっけ?」

 

その言葉に、ハーマイオニーが即座に反応した。

 

「もちろん禁止よ! ドラゴンの飼育は“魔法生物に関する法律”で厳しく規制されてるの! ホグワーツの先生がそんなものどこで――」

「いや、先生じゃない。おれは森番だ」

 

ハグリッドは気まずそうに咳払いし、言葉を続けた。

 

「……こないだ、ホグズミードの酒場でな。ちょっとした……賭けをして、な。卵が報酬だったんじゃ」

「賭けって……」

 

ロンが絶句した。

 

「え、誰と賭けたの?」

「そ、それは……ちょっと……フード被ってて顔は見えんかったが、ええ人そうじゃったぞ? ドラゴン好きだって言ったら、えらく話が弾んでな! それで“これ賭けるよ”って!」

 

ロンとハーマイオニーが顔を見合わせる。ハリーは、内心でひっかかりを覚えていた。

(そんな都合よく……?)

ノーバートはその間もヒュウヒュウと鼻から小さく火花を吹き、ハグリッドの指にじゃれついていた。

 

「でもさ、ハグリッド」

 

ハリーが声をひそめて言う。

 

「ドラゴンって……そのうち小屋より大きくなるんじゃない?」

「なるね」

「空も飛ぶし、火も吐くし……そうなったら、どうやって世話するつもりなの?」

「おれがちゃんとやる!」

 

ハグリッドは胸を張った。

 

「夜は眠らせて、朝は訓練して、火のしつけもちゃんと……!」

「無理だよ!!」

 

ロンが即座にツッコミを入れる。が、その顔がふっと上がる。

 

「……そうだ! チャーリーだ!」

「チャーリー?」

 

ハリーが首をかしげる。

 

「僕の兄貴さ。ルーマニアでドラゴンの研究してるんだ! もしかしたら……ノーバートを引き取ってくれるかも!」

「おお……それは……」

 

ハグリッドの目が一瞬だけ輝いたが、すぐに眉をひそめた。

 

「でもなあ……この子は、俺が世話すると決めたんだ。ようやく夢が叶ったんだぞ? ちゃんと責任もって育てるつもりだったのに……」

 

ハーマイオニーが、やや強めの口調で言った。

 

「だからこそよ、ハグリッド。このままじゃ、ノーバートにも危険が及ぶかもしれないのよ? 火を吐くし、成長も早いし、学校内じゃ限界があるわ」

「それにさ、チャーリーはドラゴンが好きなんだ。ノーバートの悪いようにはしないよ」

 

ロンが言葉を添える。

 

「安心して任せられる人に預けるのも、立派な“責任”だと思う」

 

ネビルも静かに言った。ハリーも、ほんの少し寂しそうに言葉を継いだ。

 

「……ハグリッドが大事にしてるのは、ちゃんと伝わったよ。だからこそ、ノーバートには――広い空で、自由に飛ばせてあげたい」

 

しばしの沈黙。そして。

 

「……うぅっ、わかった。おれが悪かった」

 

ハグリッドはポケットから大きなハンカチを取り出し、思いきり鼻をかんだ。

 

「おれは……この子に会えて、ほんとうに嬉しかったんだ。別れるのはつらいが……ロンが言うなら、託せる気がする」

「じゃあ、僕すぐに手紙を書くよ!」

 

ロンが勢いよく立ち上がる。その声に、ノーバートが小さくヒュイと鳴いた。

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