ハリー・ポッターと友情、努力、勝利の本   作:じゃあな・アズナブル

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賢者の石編はほとんど書き終えてから投稿を始めて、「毎日投稿するぞ」と意気込んでいたのに
いざ投稿しながら直していくと、後半をほとんど書き直す羽目になり、結局毎日投稿は叶いませんでした……。


第十五話 賢者の石への試練

四人は、息をひそめながら廊下を進んでいた。暗闇の中に重々しくそびえる扉。その前で、ハリーが立ち止まる。

 

「……ここだ」

 

ごくりと唾を飲み込み、そっと扉に手をかける。ぎい、と軋むような音を立てて扉が開くと、その奥には――巨大な三つ首の犬、フラッフィーがいた。

だが、動かない。三つの頭はすべて床に伏せ、静かに寝息を立てていた。その巨体はまるで岩のように不動で、部屋全体が不自然なほどの静けさに包まれている。

 

「……寝てる」

 

ロンが、ほっとしたような、それでいて不安げな小声を漏らす。

ハーマイオニーは顔をこわばらせながら、そっと言った。

 

「音楽を聴かされて、眠らされてる……ってことね」

 

ハリーは一歩踏み出し、視線を抜け穴の方へ向ける。

 

「やっぱりもう先に進んでる……」

 

ネビルの喉が、ごくんと鳴る。部屋の中央、床にはぽっかりと大きな抜け穴が口を開けていた。

 

「……間に合うかな」

 

ハリーが小さく呟き、三人の方を振り返る。

 

「ここから先進んだらもう戻れない。いい?」

 

誰も言葉を返さなかったが――全員が、静かにうなずいた。そして四人は、一人ずつ、覚悟を決めた顔で抜け穴の闇の中へと身を投じていった。

 

***

 

「うわあああっ!」

 

ふかふかとした感触と同時に、全身が何かに絡みついた。ぬめり気を帯びた植物のようなものが、腕や脚に巻きつき、じわじわと締めつけてくる。動けば動くほど、その束縛は強まり、体が深く沈み込んでいった。

 

「な、なんだこれ……!」

「ハーマイオニー、これ……!」

 

ロンの叫びが響く中、ハーマイオニーは目を見開いたまま、必死に記憶をたどるように呟いた。

 

「待って……わかった、これ、“悪魔の罠”よ!」

 

彼女の声が、焦りの中にも確信を帯びていた。

 

「たしか……暗い場所を好んで、光に弱いはず……!」

 

そう言うやいなや、ハーマイオニーは杖を握り直し、深く息を吸い込んだ。

 

「――ルーモス・マキシマ!」

 

瞬間、彼女の杖からまばゆい光があふれ出す。眩い閃光が部屋を満たし、しゅるしゅると音を立てながら、悪魔の罠の蔓がたちまちしぼんでいった。絡みついていた植物は煙のように解け、四人の体からするするとほどけていく。

 

「なにその呪文……すごいな……」

 

ハリーは思わず呟いた。その光の強さに、彼の脳裏には「太陽拳」がよぎっていた。ハーマイオニーは少しだけ胸を張り、鼻を鳴らす。

 

「本で読んだのよ。ちゃんと覚えておいて、正解だったでしょ?」

 

ロンは床にへたり込み、肩で息をしながら言った。

 

「……ほんと、いてくれて助かったよ……」

 

一行は息を整えつつ、次の扉へと向かう。重い扉を開けると、そこは高い天井と広い空間をもつまったく別の部屋だった。中には無数の鍵が羽根をつけて飛び回っており、壁際には古びた木の扉が一つ。鍵穴はひとつだけ――

 

「……まだ続くのかよ……」

 

ロンが顔をしかめた。ハーマイオニーが部屋をぐるりと見渡しながら、慎重に言った。

 

「たぶん……あの扉に合う鍵を見つけて、開けなきゃいけないのね」

 

ネビルは、頭上を飛び回る無数の鍵を見上げて、目を丸くする。

 

「こ、こんなにある中から? 無理じゃない……?」

「……いや、大丈夫。飛べばなんとかなる」

 

ハリーが、ほとんど独り言のようにそう呟いた。部屋の隅、壁に立てかけられていた箒に手を伸ばし、手慣れた動きで肩を回す。そのまま、ふわりと宙に浮かび上がった。

――重力なんて、最初から存在しなかったかのように。

 

「……はやっ!」

 

ロンが思わず声を上げる。ハリーは静かに旋回しながら、空中の鍵たちの群れを見渡した。羽ばたく金属の光の中――一つだけ、羽が擦り切れた銀色の鍵が目に止まる。

(あれだ。何度も誰かに狙われた痕跡……)

鍵の周囲の風の流れを読む。一気に加速――空気を切る音が、唸りのように部屋を駆け抜けた。

 

「……よし、捕まえた!」

 

ハリーの指に、銀の鍵が絡みつくように収まった。そのまま、軽やかに床へと着地する。ハーマイオニーが駆け寄って鍵を受け取り、扉の鍵穴に差し込む。乾いた音とともに、錠が外れる。

 

「……ああいうの、普通の人は真似できないから。参考にならないわ」

 

呆れと感心が入り混じった声。その隣で、ロンがぼそりと呟いた。

 

「……なんかもう、あんなの見せられたら、文句のつけようがないよな」

 

口調は軽いが、その瞳には、はっきりとした尊敬の色がにじんでいた。ハリーは笑みを浮かべながら、扉の奥をじっと見据える。

次の部屋に広がっていたのは――石造りの巨大なチェス盤。白と黒の駒は、すべて人の背丈ほどの大きさで、鎧をまとった騎士や兵士の姿をしていた。

そして、どれもただの飾りではなかった――ハリーたちが一歩踏み込んだ瞬間、盤上の駒たちの目がギラリと光った。

 

「動いてる……本物の魔法のチェスだ」

 

ネビルが、ごくりと喉を鳴らす。ハーマイオニーはすぐに周囲を見渡し、冷静に状況を読み取った。

 

「どうやら、私たちが“白の駒”としてゲームに参加しなきゃいけないみたい」

「……やっと僕が役に立てる試練だよ」

 

ロンが前に出て、ぐっと胸を張った。

 

「ここは僕に任せて。チェスなら自信があるんだ」

 

ハリー、ハーマイオニー、ネビルの三人は一瞬顔を見合わせ、黙ってうなずいた。

 

「よし、配置につこう」

 

ロンの声が引き締まる。盤面を素早く見渡しながら、三人にそれぞれの駒の位置を指示していく。自分はナイトの位置に立ち、戦況を掌握しながら駒を動かす。駒同士がぶつかるたびに石の砕ける音が響き、破片が床に転がった。

そして、ついに――

 

「……やっぱり、これしかないか……」

 

ロンが低く呟いた。

 

「このままじゃ勝てない。でも……僕がここに突っ込めば、ハリーが動ける。次のターンで、キングを落とせる。チェックメイトだ」

「何言ってんだよ、それなら――!」

 

ハリーは一歩踏み出し、拳を握った。

 

「僕が行くよ。僕なら突破できるかもしれない!」

「ダメだよ、ハリー。このチェスは“試練”なんだ。ルールを無視したら、先に進めなくなるかもしれない」

 

ハリーは言葉を失った。ロンの目を見返すと、そこには迷いのない意志があった。

 

「これは、僕が“駒”として動くことでしか開かない道なんだ」

「でも……!」

「大丈夫。僕、チェスだけは得意だから」

 

そう言って、ロンは笑った。どこか誇らしげに、少しだけ胸を張って。

 

「ここが僕の番だって、わかってるんだ」

 

ハリーは――それ以上、何も言えなかった。拳を握ったまま、ただ黙ってその背中を見送るしかなかった。ロンがナイトの駒と共に黒のクイーンの前へと、突撃する――。その瞬間、黒のクイーンが動き、無慈悲に武器を振り下ろした。

 

「ロン!!」

 

鈍い音が鳴り、ロンの体が石の床に崩れ落ちる。そして、黒のキングが剣を地に突き立てる――

――ゲーム終了。

 

「……チェックメイト」

 

ハリーが低く呟いた。扉の奥が、ゆっくりと、音もなく開いていく。ネビルとハーマイオニーが駆け寄り、倒れたロンのそばに膝をつく。意識はないが、呼吸は確認できた。

 

「……気絶してる。たぶん大丈夫。でも……」

 

ハーマイオニーの声が震える。ハリーは静かにロンのそばに立ち、そっと肩に手を置く。

 

「……ありがとう、ロン」

 

言葉はそれだけだった。けれどその声には、感謝と決意がすべて込められていた。

ロンを残し、三人は――重く静かな扉の先へと進んだ。

次の部屋に足を踏み入れると、低く唸るような風の音が耳を打った。壁際には淡く揺れる炎。そして広間の中央には、黒い炎が天井まで立ちのぼる細長い通路。その手前には、いくつもの瓶がきっちりと並べられていた。

 

「……これは、論理の罠ね」

 

ハーマイオニーが一目見ただけで言った。落ち着いた声だったが、目は真剣そのものだった。瓶に貼られたメモに素早く目を通しながら、彼女は続ける。

 

「いくつかの瓶は“前に進むため”、いくつかは“戻るため”。残りは――毒。ちゃんと見極めないと、進むことも戻ることもできない仕組み」

 

ハリーとネビルは黙って彼女を見守った。ハーマイオニーはその場にしゃがみ込み、指先で文字をなぞりながら眉を寄せる。思考の沈黙が、炎の揺らぎの中で長く続いた。

やがて――小さく息を吐いて立ち上がる。

 

「……わかった。これね」

 

彼女は一本、小さな瓶を取り上げた。そしてもう一本、少しだけ大きめの瓶を選ぶ。

 

「この小さい方は“前に進む”、もう一方は“戻る”ためのものよ」

「じゃあ、三人で――」

 

そう言いかけたハリーの言葉を、ハーマイオニーは小さく首を振って遮った。

 

「ダメ。三人分の量はないの。進めるのは、せいぜい二人まで」

 

その言葉に、しばし沈黙が落ちた。

 

「じゃあ、僕が残るよ」

 

ネビルがすぐに言った。まるで当然のように。けれど――

 

「いいえ、ネビル。あなたが一緒に行ってあげて」

 

ハーマイオニーは静かに微笑んだ。目は真っ直ぐ、そしてどこか優しさを湛えている。

 

「ハリーをお願い。誰よりも無茶をするから、誰かがそばにいないと、止められないのよ」

 

ネビルは目を丸くし、思わずハリーを見る。ハリーは何も言わなかったが、その目の奥に宿っている決意を、ネビルは確かに見た気がした。

 

「……僕でいいのかな」

「あなたしかいないわ」

 

その言葉に、一切の迷いはなかった。

 

「私は戻って、ロンのそばにいる。……きっと目を覚ますと思うから」

 

ハーマイオニーは二人に“進むため”の瓶を託しながら、微笑んでみせた。そして――ふたりは、黒い炎の中へと消えていった。

ハーマイオニーは、闇の向こうへ歩いていくふたりの背をじっと見つめながら、そっとローブの裾を握りしめた。

(絶対に、無事で――)

その祈りだけが、燃える炎にかき消されず、部屋の中に静かに残った。

 

 




当初のプロットだと、この場面にネビルはいなかったんですが、いつのまにか出てきてくれました。
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