ハリー・ポッターと友情、努力、勝利の本   作:じゃあな・アズナブル

18 / 19
大変遅くなりました……クィレルが灰になるくらい遅れました(ごめんなさい)


第十八話 年度末パーティー

戦いの夜が明けた翌朝、ネビルも無事に目を覚まし四人は顔をそろえた。そのまま四人は連れ立ってハグリッドの小屋を訪れていた。扉が開いた瞬間、分厚い腕がぐいと四人を抱き寄せる。

 

「すまんかった……! 全部、おれが……おれが馬鹿だったせいだ……!」

 

そのままハグリッドはがくりと膝をつき、ぽろぽろと涙をこぼした。何もかもを悔やんでいるのが、言葉よりも、震える背中に滲んでいた。

ハリーたちは一瞬、驚いて動けなかったが――やがて、穏やかな笑みを浮かべた。

 

「いいんだよ、ハグリッド。みんな、無事だったし――」

「……ヴォルデモートも、倒せたしね」

「それで……」

 

ハーマイオニーが慎重に言葉を選びながら、静かに続ける。

 

「私たちも、最後の試練の前に二人と別れたから、その後どうなったのか分からないの。だから……聞かせて」

 

ロンも神妙な面持ちでうなずいた。

 

「ハリーたちは、“最後の部屋”で何があったんだ? ……クィレルがいたんだろ?」

 

ハリーは、すぐには答えなかった。どこから話せばいいのか。どう言えば、伝わるのか。思い出すたび、胸の奥がざわめく。その沈黙を、ネビルの声がそっと埋めた。

 

「最後の部屋に着いたら、クィレルがいたんだ」

 

ネビルの声は震えてはいなかった。けれど、あのときの空気をなぞるように、言葉をひとつずつ慎重に紡いでいた。

 

「クィレルは石を探してて、鏡を調べても見つからなくて……そうしたら、声が聞こえてきたんだ――」

 

そこでネビルは口をつぐんだ。代わりに、ハリーが続ける。

 

「……ヴォルデモートがいた。クィレルの後頭部に、顔があったんだ。目が赤くて……ひどく、冷たい声だった」

 

ロンが息を呑んだ。ハーマイオニーは、無言で口元に手を当てた。そして――ハグリッドの顔が、みるみるうちに青ざめていく。

 

「……やっぱり例のあの人が、生きとったのか」

「生きてるっていうより……ギリギリ存在してるって感じかな。ダンブルドア先生が言ってたんだけど、今のヴォルデモートは“生きている”とも“死んでいる”とも言えない状態なんだって。だからクィレルに寄生して、石の力で完全に復活しようとしてたんだ」

「……ってことは、クィレルが“犯人”だったってことよね……?」

 

ハーマイオニーが慎重に言葉を選びながら尋ねる。目は真剣だった。疑いではない。ただ、真実を確かめたかった。

 

「やっぱり、スネイプ先生は……関係なかったの?」

「ああ。逆だった。スネイプは、僕を――守ろうとしてたんだよ」

「……は?」

 

ロンが眉を跳ね上げ、信じられないものを見るような目でハリーを見た。

 

「嘘だろ!? スネイプが、ハリーを? あのスネイプが!? 信じられないって!」

 

その反応は想定内だった。ハリーは軽く肩をすくめる。

 

「信じられないはわかる。でも、事実だよ。あの試合のとき、僕の箒が暴れたでしょ? あれを止めようと呪文をかけてたのが、スネイプだったんだ。クィレルの呪いを、打ち消してたんだよ」

 

ロンの口がぱくぱくと動く。言葉が出ない。信じたくない。だけど、否定できない――そんな顔だった。ハグリッドが重々しくうなずいた。

 

「だから言ったろ……スネイプ先生はな、ああ見えてダンブルドア先生に信頼されとるやつなんだ。お前の親父さんとは昔いろいろあったらしいが、それでも……ダンブルドアには忠誠を誓っとる。そういう男だ」

 

ハリーは思う。スネイプがどんな感情で自分を守っていたのかは、正直わからない。義務だったのかもしれないし、過去へのけじめかもしれない。それでも――守ろうとしてくれていた。それだけは、たしかなことだった。

ハーマイオニーが、まだ半信半疑といった表情で首を傾げた。

 

「でも……ヴォルデモート相手に、よく二人とも無事だったわね」

「正直、危なかったよ」

 

ハリーはそう言って、少し息を吐いた。

 

「ヴォルデモートは、ネビルを狙って……服従の呪文をかけたんだ。僕が動いたら、ネビルがどうなるかわからないって――脅された」

 

その言葉に、ハグリッドの目が見開かれる。

 

「……なに!? 服従の呪文って、それは……“許されざる呪文”だぞ!?」

「うん、それ。僕……杖を捨てろって言われて、何もできなかった」

 

少し間を置いてから、ハリーはネビルの方へ視線を向ける。

 

「でも――ネビルは……呪文を打ち破ったんだ。あの呪文にかけられたのに、動いて……僕を、守ってくれた」

 

言いながら、自分でも信じられないような気持ちがこみ上げてくる。あの光景は、忘れられない――そのくらい強烈だった。ネビルは、視線を少しだけ落とし、ぽつりと口を開いた。

 

「……僕、ハーマイオニーに『ハリーをお願い』って言われたのに、ずっと足を引っ張ってばかりで……何にも役に立てなくて……でも、あの時だけは……なんとかしなきゃって、必死だったんだ」

 

声は小さかったが、弱さはなかった。その言葉は、まっすぐ胸に届いてきた。ハーマイオニーは、ゆっくりとうなずいた。

 

「ありがとう、ネビル」

 

それだけ。けれどその声には、飾り気のない、まっすぐな気持ちが込められていた。ロンも、笑いながら言葉を添えた。

 

「ほんと、すごいよ。ネビル」

 

ネビルは小さく笑った。でも、その目元だけが、少し赤くなっていた。そして、少しの沈黙のあと――ふっと顔を伏せる。

 

「……あのね、僕……話したいことがあるんだ」

 

ぽつりと落ちたその声に、誰も口を挟まなかった。空気が静かに、ぴたりと張りつめる。ネビルは、膝の上で指をぎゅっと組みしめたまま、ゆっくりと言葉を紡いでいった。

 

「僕の両親……昔は、闇祓いだったんだって」

 

ハリーたちは、ただ黙って耳を傾けていた。

 

「でも……ヴォルデモートの手下に襲われて。ひどい呪文をかけられて……今でも、ずっと……」

 

ネビルの声が震えた。喉の奥に何かがつかえたようで、言葉が、途中で途切れる。

 

「ずっと、精神を病んだままなんだ。僕のことも……もう、自分の子供だってわからない。会いに行っても……僕の名前も、呼んでくれないんだ」

 

その目に、涙がにじんでいた。

 

「……だから、僕は……絶対に負けたくなかったんだ。あいつにだけは。……絶対、負けたくなかった」

 

絞り出すように吐き出されたその声には、重みがあった。

 

「……こんな話、人にするの……はじめてだよ」

 

顔を上げたネビルの目は、涙で潤んでいた。けれどその瞳は、どこかまっすぐだった。

そのとき――

ぐすっ……と、鼻をすする音が聞こえた。肩を大きく震わせながら、ハグリッドが泣いていた。

 

「ネビル……お前さん……!」

 

ついに、声を上げて泣き出した。まるで堤防が決壊したように、豪快で、それでいて優しい涙だった。

 

「お前さんの両親は、立派な魔法使いだった……!おれは知っとる。誰よりも勇敢で、誰よりも仲間思いで……今のお前さんの言葉を聞いたら、きっと誇りに思うはずだ!」

 

ネビルは、涙をこぼしながらも、必死に笑おうとしていた。

うまく笑えてはいなかったけれど――その顔には、確かに、ほんの少しだけ誇らしさが浮かんでいた。

隣に座るハーマイオニーは、口元に手を当てたまま、ぽろりと涙をこぼしていた。

 

「……ネビル。あなた、本当に……すごいわ」

 

その声は震えていたが、まっすぐだった。ハリーとロンは、何も言わなかった。ただ、そっとネビルの両肩に、それぞれ手を置いた。言葉では言い表せない思いが――その手のひらから、静かに伝わっていく。

 

「……ありがとう、みんな」

 

ネビルは、小さくそう呟いた。その声には、もう迷いも、怯えもなかった。ネビルは、涙を拭う間もなく、急に声の調子を上げた。

 

「で、結局、動けるようになったハリーが――クィレルを倒しちゃったんだ! すごかったよ、太陽みたいな光でバーンって! クィレルも、もうボコボコにされちゃって――!」

 

興奮のあまり、身振り手振りで再現しようとするネビルに、ハリーがくすっと笑いながら口を挟んだ。

 

「……でも、結局ヴォルデモートは、どこかに逃げていったよ。姿は霧みたいになって……ダンブルドア先生が言ってた。“あいつは今も、次に憑りつく相手を探している”ってさ」

 

一瞬だけ、部屋に重たい沈黙が落ちる。けれどハリーは、視線を逸らさなかった。真っすぐ前を見据えたまま、はっきりと言った。

 

「だから、僕はもっと強くなるよ。――次こそ、完全にあいつを倒せるくらいに」

 

その真っ直ぐすぎる言葉に、ロンとハーマイオニーは思わず顔を見合わせた。そして、ふっと苦笑を漏らす。

 

「……これ以上、強くなる気なのかよ」

 

ロンは半ば呆れたように笑い、肩をすくめた。

 

「ほんと、ハリーらしいわ」

 

ハーマイオニーも、あきれ半分、微笑ましさ半分といった顔でつぶやく。だが、ネビルだけは笑わなかった。真剣な表情で、そっと口を開いた。

 

「……僕も、強くなりたい」

 

少し迷いながら、それでも真っ直ぐに言葉をつなぐ。

 

「ハリー、もしよかったら……僕も一緒に修行してもいい?」

 

ハリーが驚いたようにネビルを見ると、彼ははにかんだように笑っていた。けれど、その瞳にははっきりとした意志が宿っていた。

 

「もちろん。一緒にやろう」

 

ハリーがそう返すと、ネビルは目を輝かせてうなずいた。だが、そのやりとりを見ていたハグリッドは、顔をくしゃくしゃにして頭を抱える。

 

「……頼むから、もうそんな危険なことはせんでくれ。お前さんたちはまだ一年生なんじゃぞ……心臓がもたん……!」

 

ぼやきながらも、その声にはどこか安堵と誇らしさが混じっていた。彼の大きな手は、四人それぞれの肩に、ぽんぽんと温かく触れた。

そして、小屋の中には――また穏やかな笑い声が戻っていた。

 

***

 

大広間は、赤と金――グリフィンドールの色に輝いていた。天井には無数のキャンドルが揺れ、魔法で映し出された夜空には、星々が静かにまたたいている。

学年度の終わりを祝うパーティーはすでに始まっていたが、会場全体がどこか落ち着かない空気に包まれていた。

ハリーは、ロン、ハーマイオニー、ネビルと並んで、グリフィンドールの長テーブルに座っていた。

スリザリンの席では、マルフォイが不満げに腕を組んでいる。目の前のローストビーフには見向きもせず、仏頂面のまま、何度もグリフィンドールのテーブルを盗み見ていた。

だが――その視線がハリーに届くたびに、ほんのわずかに、目をそらす。壇上に立つダンブルドアが両手を広げ、ゆっくりと口を開いた。

 

「さて――また一年が経った!」

 

その穏やかな口調に、大広間のざわめきがぴたりと止まる。

 

「皆がごちそうに飛びつく前に、少しだけ、この老いぼれの話を聞いてくれんかの」

 

笑いがちらほらと漏れる。だがその中で、ダンブルドアの表情がふっと引き締まった。

 

「最後に――まだ発表できておらん、“駆け込みの点数”が発生しての。これは、どうしても伝えねばならんと思ってな」

 

会場がざわついた。言葉にならない期待と緊張が、子どもたちの間にさっと広がっていく。

 

「まずは、ロン・ウィーズリー。――最高のチェスゲームを見せてくれたことに、五十点!」

「やったぞ、ロン!」

 

グリフィンドール席が歓声に包まれる。ロンは満面の笑みでガッツポーズを取った。周囲の生徒たちも、次々に彼の背中を叩く。

 

「次に、ハーマイオニー・グレンジャー」

 

名を呼ばれた瞬間、ハーマイオニーの肩がぴくりと震えた。

 

「冷静な判断力――そして、その答えを導き出した頭脳に、五十点!」

 

またも大きな拍手が沸き起こる。ハーマイオニーは少し頬を赤らめながら、照れくさそうに俯いた。

 

「そして、ネビル・ロングボトム」

 

場の空気が、わずかに変わる。ネビルが、はっとしたように顔を上げた。

 

「恐怖に打ち勝ち、闇の魔法を退けた、その精神力に――五十点!」

 

今度は、ひときわ大きな拍手が巻き起こる。ロンもハーマイオニーも、隣にいるネビルの背中を何度も力強く叩いた。ネビルは真っ赤になりながらも、小さく、けれど確かに笑っていた。

ダンブルドアはゆっくりと視線を巡らせ、再び大広間を見渡す。そして、その目が――静かに、まっすぐに、ハリーへと向けられた。

 

「そして――ハリー・ポッター」

 

名を呼ばれた瞬間、全身にわずかな緊張が走った。ハリーはまっすぐ壇上を見つめる。

 

「並外れた勇気。そして、それを支えた恐るべき研鑽。それらを十二分に生かし――またしても、偉業を成し遂げた。その力と心に……五十点を授けよう!」

 

大歓声が、グリフィンドール席から一斉に沸き起こる。ロンが勢いよくハリーの背を叩き、ハーマイオニーは満面の笑顔でうなずいた。ネビルは感極まったように、何度も、何度もうなずいていた。

そして――

 

「最後に……ドラコ・マルフォイ」

 

スリザリン席の空気が、ぴしりと凍りついた。名を呼ばれた本人が、ぽかんと目を見開く。

 

「己の誇りと葛藤の末――それでも他者のために動いた、その決断に。……十点を授けよう」

 

ざわめきが広がる。スリザリンの長テーブルのあちこちから、「え?」「なに?」という声が漏れた。

だが、ドラコは――ゆっくりと顔を上げ、壇上のダンブルドアをまっすぐに見つめていた。

そのときだった。彼の耳にだけ、柔らかな声が、そっと届いた。

 

『……君がもし、もう一歩を踏み出せたなら――次は、共に歩ける日が来るじゃろう。わしは、それを信じておるよ』

 

魔法によって直接語りかけられる、ダンブルドアの優しい声音。誰にも聞こえないその言葉が、静かに、確かに――ドラコに届いた。

ドラコは、ゆっくりと視線を落とした。うつむいたその横顔からは、何を思っているのか――誰にも読み取ることはできなかった。

ハリーは、その様子を横目に見ながら、何も言わなかった。ただ、どこか遠くを見つめるようなまなざしで、静かに微笑む。ダンブルドアは壇上をゆっくりと見渡し、にやりと、おちゃめに笑った。

 

「さて――では、飾りつけを変える必要はないようじゃのう。優勝は……グリフィンドール!!」

 

大広間が、爆発したように湧き上がる。空中を走る赤と金の帯が天井いっぱいに広がり、グリフィンドールの紋章が大広間を埋め尽くす。机には次々とごちそうが現れ、子どもたちの歓声が渦を巻いた。

フレッドとジョージは肩を組んで踊り出し、ネビルは戸惑いながらも笑っていた。ハーマイオニーは目を潤ませながら拍手を送り、ロンは口いっぱいにパイを頬張っていた。

グリフィンドール席の端では、マクゴナガル先生がほんのわずかに両拳を握り、喜びを隠しきれずにいた。普段は厳格な彼女が見せたその珍しい笑みに、生徒たちはさらに盛り上がる。

一方、スリザリン席では――スネイプが口をへの字に曲げ、腕を組んだまま天井を見上げていた。

顔色はさらに悪く、不機嫌を隠そうともしない。その様子を見ながら、ダンブルドアは満足そうに目を細めていた。

――そして、ホグワーツでの一年目が、静かに幕を閉じていく。だが、少年たちの戦いは――まだ、始まったばかりだった。

 

***

 

その夜、グリフィンドールの談話室では、遅くまで祝宴の余韻が続いていた。けれど、ハリーの姿はそこにはなかった。

彼はひとり、中庭に立っていた。月明かりが静かにハリーを照らし、吐く息が白く浮かぶ。

いつものように、体の軸を整え、深く呼吸する。肉体と魔力、精神と集中力――鍛えてきたすべてを、静かに確認するように。

(……この一年、強くなれたか?)

体を動かしながら、自分に問いかける。ホグワーツに来たばかりの頃を思えば、あの頃の自分はもう、別人だ。

でも――

まだ遠い。魔法は未熟で、戦い方も荒削り。目指す先には、届いていない。

 

「よし……アレを試してみるか」

 

ハリーは、腕をすっと構える。両手を胸の前で重ね、ゆっくりと気を練る。イメージするのは、あの日、鏡の中で見た――未来の自分。

(気を練って、集めて、解き放つ。かめはめ波……っぽい何か、でいい)

 

「はあああああっ……!」

 

掌に魔力が集まり、小さな光球が膨らんでいく。けれど、まだ不安定で――すぐに、ぷつんと消えてしまった。

 

「……くそ、だめか。でも……」

 

手のひらに残る、じんわりとした余熱。それでも、確かに手応えはあった。もう、夢ではない。

ハリーは夜空を見上げる。星々が、静かに――まるで応えるように、またたいていた。

 




あと一話で賢者の石編は完結の予定です。
……いろんな人が言ってると思うけど、飾りつけは最初から変えておいてー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。