ハリー・ポッターと友情、努力、勝利の本 作:じゃあな・アズナブル
ホグワーツ魔法学校に入学するには、いろいろと準備が必要らしい。制服、教科書、魔法の杖――それから、ペットまで。よく考えれば、当たり前だ。
これから未知の環境に飛び込むのなら、装備を整えるのは基本でもある。
「ほら、学校のリストだ。まず杖、それからローブ、あーとその前にグリンゴッツに行って金を下ろさにゃならん」
隣を歩くハグリッドが言う。手にはパーチメントのリストが握られていた。ハリーが気になっていたのは、リストに載っている“物”そのものよりも――
それらが、修行に使えるかどうかだった。この世界に「魔力」があるのなら、それを鍛える方法が存在するはず。もしかすると「気」だって、ハグリッドがしらないだけで魔法界で使われているかもしれない。
魔法でできた修行メニュー、魔力増強のための鍛錬装置、あるいは魔法的な重力室……。想像が止まらず、足取りはどんどん軽くなっていった。
(魔力と体力の連動を高めるには、まずローブの重さから調整するのがいいかもな……。ピッコロさんみたいで、かっこいいし)
頭の中では、すでにいくつかの修行プランが組まれ始めていた。そんなことを考えているうちに、ふたりは一軒の古びたパブの前にたどり着いた。「漏れ鍋」と書かれた看板が揺れている。
「ここが魔法界への入り口だ。ついてこい、ハリー」
ハグリッドがニヤリと笑った。ハリーは息を呑み、扉を見つめた。中は外観の印象とは異なり、賑やかで温かな空間だった。
ハグリッドに続いて中に入った瞬間、ざわりと視線が集まる。だが、空気が変わったのはそのあとだった。ハグリッドが「ホグワーツに入学するハリー・ポッターを連れてきた」と言った、その瞬間。
「ポッター君に会えるとは……」
「生き残った子が、こんなに立派に……!」
一斉に知らない魔法使いたちが近づいてきて、握手を求めてくる。ありがたさ半分、落ち着かなさ半分。ハリーはぎこちなく手を差し出していった。
そんな中、一人だけ、雰囲気の異なる人物がいた。ターバンを巻いた、小柄でおどおどした男。
「ハ、ハリー・ポッター君、ですね……! お会いできて、光栄です……」
そう言いながら手を差し出しかけ、しかし――そのまま引っ込めた。一瞬のためらい。迷った末にやめたような、曖昧な動き。
ハリーの胸に、奇妙なざわつきが残った。握手をためらわれたのは初めてだったし、体の奥が、微かに反応したような気がした。
(……今の、なんだったんだ?)
明確な「気」ではない。けれど、何かが触れた気がした。いや――自分の中の何かが、わずかに反応したような。
(もしかして……魔法を知ったことで、修行の成果が出てきてるのか?)
考えすぎかもしれない。けれど、初めて感じる違和感だった。
「行くぞ、ハリー」
ハグリッドの声で思考が中断される。……気のことは、あとで考えよう。ハリーはそう思いながら、再び歩き出した。
***
煉瓦の壁が開き、その向こうに現れたのは、にぎやかで奇妙な通りだった。薬草、呪文書、魔法具、フクロウ――すべてが不思議で、夢の中を歩いているようだった。
まずふたりが向かったのは、グリンゴッツ銀行。鋭い目をしたゴブリンたちに見張られながら、急勾配のトロッコで金庫の奥へ滑り降りていく。
ハリーの金庫には、信じられないほどの金貨が山のように積まれていた。全部、両親が残してくれた遺産だという。
(こんなに……)
しばらく言葉も出ず、ただ見つめるしかなかった。そのあとハグリッドは、別の金庫から小さな包みを取り出した。
「ちょっとした用事だ」とだけ言って、それ以上は語らなかった。次に向かったのは、オリバンダーの杖店。
ホグワーツの生徒は、みなここで自分の杖を手に入れるという。ハリーは、少し引っかかっていた。
(本当に、杖がなければ魔法は使えないのかな?)
できれば、杖なしでも使えるようになりたい。だって、ジャンプの主人公たちを思い浮かべる。剣やカタナは使っていても、杖を使ってる主人公なかなかおもいあたらないじゃないか。
「剣として使える杖はないんですか?」
そう尋ねてみたが、オリバンダーはやさしく笑うばかりだった。杖は“選ぶ”のではなく、“選ばれる”ものだという。
何本も試すうちに、ようやく――ひと振りで店中に光と風が吹き抜けた。その瞬間、ハリーは感じた。
この杖は、自分の手に馴染んでいる。心地よく、しっくりと収まっている。だが、この杖にはいわくがあった。
「その杖は……“名前を言ってはいけないあの人”の杖と、同じ不死鳥の羽根から作られておる。兄弟杖じゃ」
嫌な予感がした。店を出てから、ハリーはハグリッドに尋ねた。
「“名前を言ってはいけないあの人”って……誰?」
ハグリッドは一瞬ぎょっとし、低い声で答えた。
「……お前の両親を殺した、悪い魔法使いさ。名前は……ヴォルデモートだ」
「ヴォルデモート……?」
「しっ! その名前は口に出しちゃいけねえ!」
思いのほか鋭い声に、ハリーは身を引いた。自分の両親を殺し、この額に傷をつけた魔法使い――それがヴォルデモート。
そして、ハリーにその傷を残したあと、彼は突如姿を消したという。それこそが、人々がハリーを「生き残った男の子」と呼ぶ理由だった。ハグリッドは、重々しく言った。
「ヴォルデモートは死んじゃいねえ。どこかで、生きてる」
……だったら、なおさらだ。ハリーの胸に、もうひとつ火が灯った。その魔法使いよりも強くなる。修行して、必ず。
***
ホグワーツで使う教科書、錬金術用の大鍋、羽根ペンに羊皮紙――必要なものを一通り買いそろえる。ハグリッドは、真っ白な羽に包まれたフクロウをプレゼントしてくれた。
琥珀色の瞳が印象的な、美しい鳥だった。「ホグワーツじゃ、フクロウで手紙を送るのが普通なんだ」と、ハグリッドは言う。
(でも……手紙を送りたい相手なんて、今のところ……)
いや、一人だけいた。昔、漫画を教えてくれたあの人。魔法があるなら、フクロウだって、どこまでも飛んでいけるかもしれない。けれど――あの人は魔法界の存在なんて知らない。
きっと、窓にフクロウが来たら驚くだけだろう。ハリーはそっと、フクロウの頭を撫でた。まるで、遠い記憶を優しくなぞるように。
***
そういえば、もうひとつ出会いがあった。マダム・マルキンの洋装店でローブを新調していたときのこと。隣にいた金髪の少年が、ホグワーツの寮のことなどを話しかけてきたが――
ハリーの記憶には、ほとんど残っていない。今思えば、ちょっと悪いことをしたかもしれない。ホグワーツで再会できたら、ちゃんと謝ろう。
あのときは、ローブの重さをどうやって増やせるか、真剣に悩んでいたのだ。
「これ、もっと重くできませんか?」
マダム・マルキンが驚いたように目を丸くした。
「そんなこと言う子、初めてだよ」
呆れながらも笑っていたが、ハリーは大真面目だった。重いものを身につけて生活するのは、修行の基本。悟空もピッコロさんも、そうしていた。日常こそが、修行の場なのだ。
「簡単な重りじゃ、もう物足りないんだ……」
肩を落とすハリーに、マダム・マルキンは「不思議な子だね」と微笑んだ。
***
その夜。ハリーはいつものように修行に励んでいた。
(結局、修行に使えそうな道具はなかったな……)
片手で腕立て伏せをこなしながら、もう一方の手で分厚い教科書をめくる。
(……おっ。この魔法……修行に応用できるかも)
目を細めて見入ったのは、物を浮かせる呪文だった。
「ウィンガーディアム・レヴィオーサ」
対象を空中に浮かせる魔法。
(……自分を浮かせてコントロールできたら……これ、舞空術だ!)
雲の上で戦う戦士たちの姿が脳裏によみがえる。ハリーは杖を手に取った。
(まずは杖ありで……最終的には、なしで飛べるようになりたい)
軽く息を整えて構える。
「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」
杖の先から、ふわりと何かが伝わってきた。次の瞬間――身体が、わずかに浮いた。ほんの一瞬の浮遊。だが、すぐにバランスを崩し、重力が戻る。それでもハリーは空中で身をひねり、軽やかに着地した。
「すごい……! 少しだけど、今、飛べた!」
瞳がきらきらと輝いていた。魔法と修行の融合――その可能性に、ハリーの胸は高鳴っていた。そのあとも何度も呪文を唱え、跳び、転び、また立ち上がった。
何十回目かの挑戦を終えたころ、全身が汗でびっしょりになっていた。最後の一回を終えると、ハリーは仰向けに倒れ込み、大きく息を吐いた。
(まだ全然だけど……絶対できる)
そう思いながら、ハリーはそのまま眠りに落ちた。杖を握ったまま、静かに――。
あ!杖を使う主人公太公望さんがいたわ!