ハリー・ポッターと友情、努力、勝利の本 作:じゃあな・アズナブル
ピープスの出番が全カットなの昔は気付かなかった。
そして子供のころはピープスはなぜかミシュランマンとかゴーストバスターズのゴーストみたいな姿を想像してたのでレガシーでがっつり人型でショックを受けました。
地下の石畳を、ハリーは静かに踏みしめていた。目指すのは、今日の授業――魔法薬学の教室。
突き当たりにある、重たそうな木の扉。その前でロンが小声でつぶやいた。
「この授業、あんまりいい噂ないんだよな。スネイプ先生ってスリザリン出身でさ、グリフィンドールにものすごく厳しいって有名なんだ」
「……そうなんだ」
ハリーは淡々と答える。評判には特に興味はなかった。
(でも、“薬”ってことは……修行に使える可能性がある)
たとえば――体力回復、集中力強化、毒への耐性、魔力の流れを整える補助薬。
そういったものを魔法で作れるなら、修行の幅は一気に広がる。脳裏に浮かんだのは、あのアイテムだった。
(……仙豆だ)
たった一粒で満腹&全回復。どんな傷でも即座に治る。あれがあったからこそ、悟空たちは超過酷な修行に耐えられた。
(魔法薬で“それっぽい”ものが作れたら……!)
(ちょっとむちゃなトレーニングしても続行できるじゃん……!)
思わずニヤけそうになったが、扉の前で慌てて表情を引き締めた。
(……落ち着け。ここで笑ってたら目立つ)
軽く息を整え、教室に足を踏み入れた――その瞬間。空気が変わった。教室は重く、湿ったような静けさに包まれていた。
長机の上には薬品の瓶、干からびた材料、黒鉄の大鍋。棚には得体の知れない液体が詰まった瓶がぎっしり並んでいる。
生臭いような、無機質なような匂いが、鼻をかすめた。
(集中力が研ぎ澄まされる感じ……悪くない)
そのとき。
「……静かに」
声が空気を裂いた。低く、冷たく、湿ったような声だった。
音もなく現れた男――セブルス・スネイプ。黒髪はぴたりと額に張りつき、ローブは風一つ立てずに揺れている。
そのまなざしは鋭く、すでに教室全体を射抜いていた。
「このクラスでは、魔法薬調剤の繊細な技術と、厳密な芸術を学ぶ」
スネイプの声は穏やかな抑揚の中に、凍るような圧力をはらんでいた。誰もが息を詰め、ただ耳を傾けるしかなかった。
ハリーも目をそらさずに、その姿を見つめていた。
(この人……ただ者じゃない)
一瞬、スネイプと視線が交わる。数秒の静寂。だが、スネイプはふいと目をそらした。
(……何か、引っかかる?)
スネイプの口から語られるのは、薬の危険性だった。
「爆発する」「毒になる」「過剰反応を起こす」――
その一言一言が、逆にハリーには魅力的に響いていた。そのとき、スネイプの視線が再びハリーに突き刺さった。
「ハリー・ポッター。我らが新しいスターだね」
声には皮肉が混じっていた。だがその奥には、鋭い関心のようなものが確かにあった。
「君に質問だ。アスフォデルの球根の粉末に、ニガヨモギの煎じ液を加えると何になる?」
ハリーは答えられなかった。
「知らんか。ならば、ベゾアール石を見つけてこいと言われたら、どこを探すかね?」
またしても、沈黙。
「ふむ……“有名”なだけではどうにもならんらしい」
冷たい笑み。だが、ハリーは反応を返さなかった。ただ、静かに構え続けていた。
前の席で、ハーマイオニーが勢いよく手を上げていた。だがスネイプは、まったく見向きもしなかった。
その緊張の中、スネイプはゆっくりと歩きながら続けた。
「アスフォデルの根とニガヨモギを混ぜると、強力な眠り薬、“生ける屍の水薬”になる。
ベゾアール石は山羊の胃から取り出す解毒石」
足音が止まる。
「さて……我輩の今言ったことを、なぜノートに書き込まない」
一斉にペンが走り出す。ハリーも黙って、きっちりとメモを取った。
(まるで初日の教官の洗礼だな)
***
その後の実習では、生徒たちは2人1組で“おでき治しの薬”を調合することになった。
材料の載ったトレイが机ごとに配られ、教室には薬品の匂いと泡の弾ける音が広がっていく。
隣の机では、ネビル・ロングボトムが額に汗を浮かべ、震える手で針をつまんでいた。
「……これ、今だったかな……?」
不安げにハーマイオニーを見たが、彼女はすでに自分の作業に没頭していた。
ネビルは、意を決して針を投入した――その瞬間。
ボンッ!!
鍋が爆ぜ、煙が立ちこめ、ネビルは椅子ごと後ろに倒れた。教室に悲鳴が走る。
「ばか者!」
スネイプの怒声が轟いた。ローブを翻して駆け寄り、鍋の中を覗き込む。
「……大鍋を火から降ろす前に、山嵐の針を入れたのだな?」
ネビルは保健室送りとなり、教室の空気はさらに重くなる。スネイプの視線が、ハリーへと移った。
「ポッター。なぜ止めなかった?」
ハリーは一瞬、息を呑んだ。
「彼が失敗すれば、自分の方がよく見えると考えたか。……グリフィンドールはもう一点減点」
その言葉にも、ハリーは何も返さなかった。
***
授業の終わりを告げる鐘が鳴る頃、生徒たちはぐったりとした顔で薬の瓶を提出し、重い足取りで教室を出ていった。
ハリーはスネイプの前に歩み寄り、声をかけた。
「先生、質問いいですか」
スネイプは振り返らない。だが、わずかに動いた肩に許可の気配を感じた。
「……たとえば、“回復薬”。体力が戻ったり、怪我が一瞬で治るような薬って、魔法で作れるんですか?」
周囲の生徒が、一瞬だけ手を止めた。スネイプの答えは冷たかった。
「君のようなものには、作れはしない」
それだけを言い残し、彼は背を向けた。ハリーは、黙ってそれを受け止めた。
(……やっぱり、今の僕にはまだ無理ってことか)
驚きも怒りもなかった。ただ――“当然”というような静けさがあった。だがその目は、確かに燃えていた。
(作れないとは言った。けど、存在しないとは言わなかった)
グリフィンドールの仲間たちが声をかけてくる。
「おい、気にすんなよハリー。あいつ、ほんとに噂通りだったな」
「おできの薬で爆発するネビルもすごいけどな!」
ハリーは、少しだけ笑ってうなずいた。
「……ありがとう」
教室を出るとき、スネイプの背中を、もう一度だけ見つめた。
(いつか、絶対に)
その胸の奥に、ひたひたと燃えるような執念が宿っていた。
***
その日の午後、ハリーたちは城の裏手にある広々とした芝生へと集められていた。
地面には古びた箒がきちんと一列に並べられ、その周囲にはグリフィンドールとスリザリンの一年生たちが、やや緊張した面持ちで立っていた。
空は高く澄みわたり、陽射しもやわらかい。まさに飛行訓練にはうってつけの日和だった。
「今日は、飛行訓練の初日です」
鋭い声が静寂を破った。教官のマダム・フーチが、鋭い目つきで生徒たちをひとりずつ見渡している。
「ルールを守って行動してください。勝手に飛んだら――即、退場です」
その声には一切の冗談が混じっていなかった。ハリーは、足元に横たわる箒を見下ろした。
使い古されてはいるが、手入れは行き届いているように見える。
(これが……魔法の箒か)
手に取る前から、心臓がひときわ高鳴るのを感じていた。空を飛べるのかどうか、そんな不安すら、わくわくの中に溶けていく。
舞空術の修行は、まだ上手くいっていない。だが、もし箒で空を飛ぶ感覚をつかめれば――
その感覚をもとに、魔法の力で“自在に”飛ぶ方法が見えてくるかもしれない。
「では、全員箒の横に立って。“上がれ”と命じてごらんなさい。右手を箒の上に突き出して」
一斉に、生徒たちの声が芝生に響いた。
「上がれ!」
バサッ。
音を立てて、箒が手に飛び込んできたのは――ほんの数人だけだった。その中のひとりに、ハリーも含まれていた。
(……おお)
箒の感触が、意外なほど自然に、手のひらに馴染んでくる。
――その時だった。
「わっ、うわああああっ!!」
悲鳴が空に吸い込まれた。ネビルが、バランスを崩したような姿勢で、宙にふわりと浮き上がっていた。
そして、そのまま箒が暴れ馬のように跳ね上がる。
「ネビル、暴れないで! 落ち着いて!」
マダム・フーチの声が飛ぶが、すでに届いていなかった。箒は完全に制御を失い、ネビルの体を空高く引きずり上げていく。
次の瞬間――
ズシャッ。
鈍い音と共に、ネビルの体が無造作に落ちてきた。
(まずい――!)
思考よりも、先に体が動いた。地面を蹴った瞬間、風が巻いた。
まるで足元から力が噴き上がるような、不思議な感覚――次の瞬間には、風を切って走り出していた。
石畳のような芝の上を、まるで“魔力”に押されるように。
宙から落ちてくるネビルの影が、大きく迫る。地面すれすれを落ちてくるネビルの体へ向かって、一直線に――
ドンッ。
重みとともに衝撃が全身に伝わる。だが、ハリーは踏ん張った。ぐらつきながらも、そのままネビルを抱き留める。
ネビルは意識を失っていたが、目立った外傷はなさそうだった。
(間に合った……!)
安堵の息を吐いたとき、マダム・フーチが駆け寄ってきた。ネビルを手早く浮かせると、保健室へと連れていく。
その場に残された生徒たちが、しばらく呆然としていると――
「へえ、これって“思い出し玉”っていうんだっけ?」
マルフォイが、地面に転がっていた玉を拾い上げていた。玉を指先で転がしながら、にやにやと笑う。
「ネビルの脳ミソじゃ、何を忘れたかも思い出せないんじゃない?」
その言葉に、ロンが怒気を含んだ声で叫ぶ。
「それ、返せよ!」
マルフォイは、面白がるように片眉を上げた。
「返してやるさ。――ほら、取ってみろよ」
次の瞬間、腕を振り抜いて思い出し玉を遠くへ放り投げた。白い弧を描きながら、玉が空を飛んでいく。
その瞬間――ハリーの中で、なにかが跳ねた。思考よりも、体が先に動いた。
反射的に飛び上がり、すぐそばの箒に手が伸びる。ヒュッ、と風を裂く音。
足の裏に“力”が集まり、一蹴りで空へ――
風を切って上昇する箒は、まるで意志を持っているかのようにしなやかだった。落下していく思い出し玉の軌道を読み、手を伸ばす。
空中で、ピタリと玉をキャッチ。完璧な動きだった。
訓練を積んだクィディッチ選手でも、これほど滑らかな飛行はそうそうできないだろう。その場にいた全員が、言葉を失っていた。
やがて地上から、どよめきが上がる。それが歓声に変わるまでに、そう時間はかからなかった。
けれど――
(……今、一瞬だけ)
ハリーは、空の上で感じていた。箒に触れるよりも先に、体が“浮いた”気がした。
あのとき、自分の体が先に反応した。重力を振り払うように、意識が上へと向かった。
(“レヴィオーサ”を使った時の……あの感覚に近い)
魔法を唱えたわけでも、杖を使ったわけでもない。それでも、たしかに“浮いた”のだ。
その感覚は曖昧で、つかみどころがない。けれど――忘れがたい手応えがあった。
「ハリー・ポッター! 今すぐ、こちらへ来なさい」
目の前に、マクゴナガルが現れた。その声は低く、はっきりしていて、いつもの落ち着いた口調とは違い、どこか緊迫していた。
「ち、ちがうんです!」
ハーマイオニーが思わず前に出た。
「今のはネビルの“思い出し玉”をマルフォイが――それをハリーが――!」
「事情はあとで聞きます。いいから、来なさい」
マクゴナガルはハリーをじっと見据えたまま、踵を返す。ハリーは何も言わず、その背中についていった。
背後では、生徒たちのざわめきがどんどん大きくなっていく。
「でも今の飛び方、ヤバかったよな……あれ、ほんとに初めて?」
「クィディッチ選手より上手かったんじゃないか?」
あちこちから驚きの声が上がるなか、ひときわ大きな嘲笑が混じった。
マルフォイはじっと腕を組み黙ってハリーが立ち去った方を見つめていた。
ハリーは足を止めない。背を向けたまま、無言で歩き続けた。マクゴナガルのローブが翻り、二人はそのまま校舎の奥へと姿を消す。
***
マクゴナガルに連れられて進む先は、見覚えのない廊下だった。先生は一言も説明をせず、足取りだけがやけに速い。
やがて一つの扉の前で立ち止まり、中から聞こえる上級生らしき声に軽くノックをした。短いやりとりの後、ハリーは中へ招き入れられる。
中には、がっしりとした体格の少年が立っていた。ハリーの顔を見るなり、その目がぱっと輝く。
マクゴナガルはその少年と短く話し始める。
会話の端々から、彼の名前が“ウッド”であり、グリフィンドールのクィディッチ・チームのキャプテンであることがわかった。
(……え、ちょっと待って。なんか今、話が飛躍してない?)
ハリーが話の流れに追いつけずにいると、ウッドの視線がようやく自分に向いた。
どうやら――“箒に乗るスポーツ”、クィディッチの選手として誘われているらしい。
「すみません、でも僕、ちょっと忙しくて。修行があるので、クィディッチってやつやってる暇ないんです」
ハリーが真顔でそう答えると、マクゴナガルの足がぴたりと止まった。そして、静かに――だが鋭く言い放った。
「では――ポッター。あなたは退学です」
あまりに唐突な言葉に、ウッドが吹き出しかけて咳き込む。ハリーも完全に思考が止まった。
(え……えっ?)
「ルールを守らず、指導にも従わず、協調性もない。そういう生徒は――ホグワーツには不要です」
あくまで冷静な口調で、さらっと続けられる。ハリーは、心の中で叫んでいた。
(この先生……マトモそうに見えて、わりと容赦ない!?)
「じゃ、じゃあ……その、修行に支障が出ない範囲で……やってみます」
渋々そう答えると、マクゴナガルは満足そうにうなずき、ウッドに向き直る。
ウッドは思わずガッツポーズを決めていた。
(完全に流されてる……)
それでも――空を飛ぶ技術が身につくなら、悪い話ではないかもしれない。ハリーは自分にそう言い聞かせながら、静かにその部屋を後にした。
あ、あとこの小説もピープスの出番は全カットです
ピープスファンの皆様ごめんなさい