ハリー・ポッターと友情、努力、勝利の本   作:じゃあな・アズナブル

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第七話 クィディッチ練習と呪文学の授業

朝のホグワーツは、いつも通りの賑わいを見せていた。グリフィンドールの長テーブルには、焼きたてのパンにカリカリのベーコン、湯気の立つスープが次々と現れ、生徒たちの食欲をそそっている。

ハリーは目の前のスクランブルエッグをつつきながらも、どこか上の空だった。昨夜の三頭犬との遭遇が、まだ脳裏に鮮明に焼き付いていた。

(あいつに勝つには……スピードとパワー。それに、今の僕じゃ魔法も使えないと無理そうかも……)

そんなふうに考えていたとき、天井の上から羽音が聞こえた。ホグワーツ恒例のフクロウ便が、宙を舞いながら次々と各テーブルに手紙や荷物を届けていく。一羽のフクロウが、すいっとハリーの前に降り立った。

 

「え、僕に?」

 

ハリーが半信半疑で包みを取ると、フクロウはすぐに飛び去っていった。包みは細長くて軽い。丁寧に封がされており、添えられた手紙の筆跡には見覚えがあった。

 

中身は新品のニンバス2000です。

あなたが箒を持ったことがわかると、みんなが欲しがるので、

気づかれないようにしなければなりません。

今夜七時、クィディッチ競技場でオリバー・ウッドが待っています。

最初の練習です。

――マクゴナガル

 

「な、なんかすごいの来てない!?」

 

ロンが興味津々でのぞき込んだ。

 

「えっと……」

 

ハリーは少し迷ったが、包みの中身をそっと見せた。

 

「うわ、ニンバス2000じゃん! 新品!? 本物!? やっば……最新モデルだよ、これ!」

 

ロンは小声ながら早口になっていた。

 

「内緒って書いてあるんだ。みんなに知られないようにって」

 

ハリーは封筒を見せながら、口に人差し指を当てる。

 

「了解。バラしたりしないって。でも……すげーなハリー。君、本当にクィディッチの選手になったんだな」

 

ハリーは少し戸惑いながらも、静かにうなずいた。

 

「まあ、やるだけやってみるよ。やったことないことをやると、別の視点からいろいろ思いつくこともあるだろうし」

「一年生でクィディッチの選手なんて、本当にすごいことなんだけどな……」

 

ロンが笑いながら肩をすくめる。

 

「まあ、そういうところがハリーらしいけどさ」

 

ハリーは笑って、箱をそっと閉じた。その表情には、明らかに期待と好奇心が浮かんでいた。

(夜七時、か……クィディッチ、ちょっとだけ楽しみにしてみよう)

 

***

 

午後七時。夜風にざわめく芝の上、ハリーはひとり、ニンバス2000を手にグラウンドへと現れた。

ウッドはすでに待っていた。数名の上級生たちも、練習の準備を整えている。

 

「よく来たな、ハリー。まずはクィディッチの基本を教えようか」

 

ウッドから簡潔な説明を受け、ハリーはうなずいた。チーム構成、ボールの役割、勝敗条件――要点だけを頭に入れると、すぐに空へと意識を向ける。

 

「じゃあ、乗ってみろ」

 

ウッドの合図とともに、ハリーはニンバス2000にまたがった。柄を握る手に、心地よい緊張が走る。

(呼吸……集中……)

風が止まる。いや、周囲の雑音が消えただけだ。無意識のうちに、感覚を研ぎ澄ませていた。次の瞬間、跳躍。足が地を離れ、身体が空に溶ける。視界が一気に広がり、冷たい空気が肌をかすめる。

(……これは、使える)

身体と箒が一体になる感覚。訓練の成果か、それともニンバスの性能か。おそらく、その両方だ。

 

「すごい……!」

 

誰かの声が聞こえたが、ハリーは反応しない。ただ空を舞う。旋回、急降下、そして急上昇――重力との駆け引きを楽しむように、飛び続ける。

スニッチの代わりに、夜空のどこかにいる見えない敵を思い描く。

(この高度なら、落ちても死にはしない……いや、ギリか?)

自分で自分に笑いながら、さらに速度を上げた。地上では、ウッドが他のメンバーに言った。

 

「……ありゃすげえ。まるで、箒が体の一部みたいだ」

 

ハリーは、まったくの初心者だったはずだ。だが、その動きには無駄がなく、荒削りながらも鋭さがあった。

まるで、既に何度も空中で鍛錬を積んだかのように。空を切るように飛び回っていたハリーが地上に戻ると、ウッドが手招きした。

 

「ハリー、OKだ! 次いくぞ!」

 

彼はポケットから金色の球体――スニッチを取り出す。その小さな羽がピクピクと動き、まるで逃げる気満々だった。

 

「これがスニッチだ。捕まえてみろ!」

 

ウッドがそれを放り投げると、スニッチは一瞬で夜空に消えた。が、そのとき。

 

「いいけどさ、もし僕が捕まえたら……上級生が習う呪文、教えてよ」

 

ハリーはにやりと笑った。ウッドは一瞬ぽかんとしたが、すぐに苦笑した。

 

「取れるもんならな!」

 

ハリーはもう飛び出していた。ニンバス2000が風を裂く。

(小さくて速い。でも、気配はある)

目だけで追うな。耳を澄ませ、風の流れを読む。スニッチが羽ばたいた方向を予測し、軌道を読む。

(――そこだ!)

ハリーは急降下と急上昇を繰り返し、蛇のように滑らかな弧を描いてスニッチの前へ回り込んだ。

そして――

 

「取った!」

 

空中で手を伸ばし、金の球をガシッと掴む。わずか三十秒。ハリーは無言で地上に降り立ち、手の中のスニッチを開いて見せた。

静まり返ったグラウンドに、グリフィンドールの誰かが最初に口を開いた。

 

「……おい、マジかよ」

「今年の優勝はもらったなこれ!」

「ひゅ〜〜〜〜! ポッター最高!」

 

歓声が爆発する。チームメンバーが笑顔で肩を叩き合い、ウッドは驚きを通り越して呆れ顔で笑った。

 

「まったく……ありえねぇ」

 

だが、ハリーは興奮する様子もなく、ひとことだけぼそっと言った。

 

「……で、呪文、教えてくれる?」

「……ああ、俺が教えられるやつなら、なんでも教えてやるよ」

 

呆れつつも、ウッドは笑いながらスニッチを回収した。

 

***

 

今日は呪文学の授業がある日だった。教室に向かう途中、周囲の生徒たちの会話が聞こえてくる。

 

「なあ、聞いた? フリットウィック先生って、昔は決闘チャンピオンだったんだってさ」

「ウソだろ?あの背丈で?」

 

そんな噂話が飛び交うなか、ハリーはちょっと目を輝かせていた。

(決闘チャンピオンか……やっぱ教師ってのは実力がなきゃ務まらないよな)

教室の中央では、小さな先生が椅子の上に立って生徒を見渡していた。

 

「さあさあ皆さん、今日はとっても面白い呪文をやりますよ!」

 

フリットウィック先生はそう言うと、杖をくるりと振った。

 

「今日は浮遊の呪文、《ウィンガーディアム・レビオーサ》です!コツは――」

 

小さな手に杖を握り、はっきりとした口調で言った。

 

「ビューン、ヒョイ、ですよ。いいですか?ビューン、ヒョイ!」

 

教室内にふわっと笑いが起きるが、先生は至って真面目だった。

 

「杖の動きも重要です。ゆっくりと、しなやかに――焦ってはいけませんよ!」

 

ハリーは興味津々で、手元の羽根を見つめた。彼はゆっくりと杖を振り、「ウィンガーディアム・レビオーサ」と唱えた。ふわりと、羽根が浮かび上がる。

 

「おお、ハリー、すごい!」

 

周囲の歓声に、ハリーはどこか冷静な表情で頷く。浮かせることはできる。問題は、これを自分に応用できるかだ。

一方その頃、隣の席では――

 

「ウィンガーディアム・レビオサー!」

「違う!“レビオーサ”、よ!“サー”じゃなくて“オーサ!”!」

 

ハーマイオニーの鋭い指摘に、ロンがむくれている。

 

「そんなに言わなくてもいいだろ……!」

「発音が違うんだから、できるわけないじゃない!」

 

ロンとハーマイオニーは言い争っている。教室のあちこちで羽根が浮かび上がり、歓声や失敗の呻き声が入り混じる中、ハリーは静かに手を挙げた。

 

「先生、質問いいですか」

 

フリットウィック先生は嬉しそうに頷いた。

 

「もちろんですとも、ミスター・ポッター。なんでも聞いてください」

 

ハリーは少し考えてから、こう言った。

 

「浮かせる呪文があるなら……逆に、“重くする”とか、“落とす”呪文もあるんですか?」

 

フリットウィック先生は感心したように目を細めた。

 

「ほほう……実に面白い発想ですね。ええ、ありますとも。例えば《ディセンド》という呪文は、物を下に落とす魔法です」

「へぇ……」

「他にも、《デプリモ》という呪文もあります。これは、物に強い重圧をかけて、押しつぶすような力を発生させることができます。ですが――」

 

先生はにっこりと笑った。

 

「これらは、まだ上級生になってから学ぶ内容ですよ。いま皆さんがやるべきは、まず《レビオーサ》をしっかり習得することです!」

「なるほど……」

 

ハリーは納得したように頷きながらも、心の中ではすでに妄想が膨らんでいた。

(……それを使えば、『あれ』ができるかも……)

物を落とす魔法、沈める魔法……それを制御して使えば――

(重力修行……!)

悟空が劇的に強くなったのは、宇宙船の中で重力を操ったトレーニングのおかげ。それは今でも、彼の中で「最も燃える修行シーン」のひとつだった。

(つまり、ディセンドやデプリモで、魔法的に重力を増幅させれば……!)

ハリーの目がキラキラと輝く。魔法界での生活には少しずつ慣れてきたが、「魔法的修行」が進んでいないことには、彼なりに不満を感じていた。

(ディセンドかけ続ければ……動くたびに重くなる……魔力の消費と相談しながら段階的に負荷を上げる感じか……!)

ワクワクが、もう抑えきれなかった。ハリーはぽつりと呟いた。

 

「フリットウィック先生……やっぱすごいな、さすが決闘チャンピオンだ……」

 

その小さな声に、隣のハーマイオニーがちらりとこちらを振り返る。

 

「ハリー?どうかしたの?」

「いや、なんでもないよ!」

 

そう答えながらも、ハリーの頭の中はすでに“訓練メニュー作成モード”に突入していた。

 

***

 

授業が終わり、生徒たちは教室を後にして、ぞろぞろと廊下へ散っていった。ロンは憮然とした表情で羽根をカバンに詰めながら、ぶつぶつと文句をこぼしている。

 

「あいつさ……ほんと悪夢みたいなやつだよ。言い方ってもんがあるだろ、いくらなんでもさ……」

 

その声は、意図的なのか無意識なのか、ハーマイオニーにもはっきり聞こえるほどの音量だった。ハリーはため息をつき、肩をすくめる。

 

「まあ、そう言うなよ。ハーマイオニーも悪気があって言ってるわけじゃない。正しくあろうとしてるだけなんだ」

 

その言葉が届いたのか、廊下の先を歩いていたハーマイオニーがぴたりと立ち止まる。ほんの一瞬、背中が強ばったように見えた。

そして彼女は、顔を手で覆うようにして、駆け足で廊下の奥へと消えていった。ロンは、目を見開いたまま呆然とその背中を見送る。

 

「ロン、謝ったほうがいいよ」

 

ハリーの言葉に、ロンは口をへの字に曲げたまま、うつむいた。

 

「うん……でもさ。アイツ、ちょっと言いすぎるだろ? それに、僕だって……バカにされっぱなしで……」

「……それでも、言いすぎたと思うなら、早く謝るほうがいい。機を逃すと、もっと謝りにくくなるよ」

 

ロンは地面を見つめたまま、何も言い返さなかった。

 

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