ハリー・ポッターと友情、努力、勝利の本   作:じゃあな・アズナブル

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第八話 ハロウィンのトロール戦

ハロウィンの夜。大広間は色とりどりの装飾とごちそうで賑わっていた。かぼちゃのランタンが天井をふわふわと漂い、香ばしい焼き菓子と香辛料の香りが立ち込める。だが、その喧騒のなかに――ハーマイオニーの姿はなかった。

気になったハリーは、彼女と同室の女子に声をかけてみた。その子は一度、冷ややかな視線でロンの方をちらりと見てから、口を開いた。

 

「……トイレで泣いてるって。ずっと出てこないの。あなたたちのせいじゃない?」

 

ロンがうつむいた。言い返す言葉もないようだった。ハリーは静かに言った。

 

「……行ったほうがいいんじゃないか。僕も付き合うよ」

 

ロンは戸惑いながらも、小さくうなずく。

 

「……うん」

 

そのときだった。大広間の扉が勢いよく開き、クィレルが駆け込んできた。

 

「ト、トロールです! 地下牢に……トロールが!」

 

瞬間、大広間に悲鳴が響き渡る。空気が一気に凍りついた。生徒たちがざわめき、教師たちが声を張り上げて誘導を始めるなか――ハリーはロンの方を向いた。

 

「トイレって、地下牢のそばじゃないよな?」

「……一階の奥のほうだった気がする!」

「なら、まずい!」

 

二人は同時に駆け出した。教師の制止もかいくぐり、混乱の中を一直線に。ハリーの足が止まったのは、女子トイレへと続く廊下。鼻を突く異臭。奥から響く、ぬめるような足音と鈍い重圧。

 

「うわ、くっさ……」

「……いた!」

 

そこには――三メートルを超える巨体。皮膚はぶよぶよで、鼻水をずるずる垂らし、棍棒を引きずるように持っている。

トロールが、女子トイレの扉を押し開けて、中に足を踏み入れた。

 

「ロン、ハーマイオニーを連れて逃げて! あいつは僕がやる!」

「え、ちょ、ハリー!? 待てって!」

 

だが、ハリーはすでに飛び出していた。

(魔法を使ってる暇はない。だったら――)

視界の奥で、棍棒が振り上げられる。中からハーマイオニーの悲鳴。その瞬間。

 

「しゃあっ!!」

 

ハリーの体が宙を舞った。助走もなく、驚異的な跳躍。振り抜かれた脚が、正確にトロールの顔面を捉える。

 

バシィッ!

 

鈍い音とともに、巨体がよろめき――

 

ドシンッ!!

 

床が震える勢いで倒れ込んだ。だが。

 

「まだ……動いてる……!」

 

倒れたトロールが、もがくように棍棒を探る。指先が、転がった柄に触れかけた――その時。

 

「ウィンガーディアム・レビオーサ!!」

 

ロンの叫びが廊下に響いた。棍棒がふわりと宙に浮き、トロールの手から遠ざかる。

 

「ナイス、ロン!!」

 

ハリーが再び地を蹴った。トロールの胸元に飛び乗り、拳を振り上げる。

(――今だ!)

そのまま、渾身のストレートを眉間に叩き込んだ。

 

ガッ!!

 

鈍い衝撃が手首を伝い、巨体がぐらりと揺れる。間髪入れず、回し気味の右拳をこめかみに打ち込む。

 

ゴンッ!!

 

トロールの目がカクンと揺れ――そして、

 

ドサッ。

 

重い音を立てて、完全に動かなくなった。一瞬、静寂。そして、ハリーが息を吐きながら言った。

 

「……やった……!」

 

ハリーは息を切らせながら、拳を軽く握り直す。皮膚が擦りむけ、そこから血がじんわりと滲んでいた。

 

「ハリーきみ……素手で倒したのかよ……」

 

ロンがぽかんと呟く。

 

「いや、ロンの援護がなきゃ危なかった。たすかったよ、ロン」

「……あ、ああ。うん、僕も……ちょっとは役に立てたかも……」

 

と、そこへ――

 

「ありがとう……!」

 

震える声とともに、ハーマイオニーが駆け寄ってきた。頬には涙がにじんでいる。

 

「ほんとに……ありがとう。……私、ずっと……ひとりだと思ってたから……」

 

ハリーは小さく頷いた。

 

ロンも、気まずそうにそっぽを向きながら、ぽつりとつぶやいた。

 

「……悪夢みたいとか言って、ごめん」

「……ううん、私の言い方も悪かった」

 

三人の間に、静かな沈黙が流れる。ハーマイオニーは涙をぬぐいながら微笑み、ロンは照れ隠しのように頭をかく。誰も言葉にはしなかったが、確かに“何か”が変わっていた。

そんな中で――

ハリーは自分の拳を見つめていた。血のにじむ右手が、まだ微かに震えている。

(……ちゃんと実戦で戦ったのは、初めてだったんだよな)

思えば、これまでの修行はすべてひとりきりだった。走り込み、腕立て、気配の読み取り、イメージトレーニング、魔法の練習――強くなるための、孤独な時間。

そして今、その“強さ”が求められた場面に、ついに出会った。

(怖さより……ワクワクの方が、勝ってた)

自分でも、その感情がよくわからなかった。でも確かに――あの瞬間、血が騒いだ。拳を見つめる目の奥には、淡く、燃えるような光が宿っていた。

そんな彼らの前に――重たい足音が廊下に響いた。

マクゴナガル先生が先頭で駆け込んでくる。その後ろにはスネイプ先生、さらにクィレル先生が青ざめた顔で追ってきた。

 

「ポッター! ウィーズリー! グレンジャー!」

 

マクゴナガルの怒声が廊下に響く。普段は冷静な彼女の声が、今は明らかに揺れていた。

 

「いったい、ここで何をしているのですか!!」

 

ハリーは一歩前に出て、落ち着いた声で答えた。

 

「ハーマイオニーがトイレにいるって聞いたんです。だから、ハーマイオニーが危ないと思って……二人で助けに来ました」

 

ロンも慌てて加わる。

 

「そ、そうです! ハリーが……いや、僕たちが、なんとかやっつけました!」

 

ハーマイオニーが小さく、震える声でつぶやいた。

 

「全部……私のせいなんです……」

 

マクゴナガルは、三人の顔を順に見た。そして床に倒れたトロールへ視線を落とす。その表情は、信じがたいものを見るかのようだった。

 

「……あなたたちが?」

「はい」

ハリーは真っ直ぐに答えた。右手にはまだ血が滲んでいたが、その表情には迷いがなかった。スネイプが音もなく近づき、トロールを見下ろす。

だが――

なぜか、その足取りはぎこちなかった。ハリーはちらりとその様子を見た。

(……足、引きずってる?)

何かが引っかかった。だが、いまはそれを深く考える余裕はなかった。マクゴナガル先生は深いため息をつき、厳しい顔で言った。

 

「正直言って、命の危険があった行動です。普通なら重い罰則ものです。ですが……」

 

一瞬、視線を落とす。

 

「あなたたちは……今回は運がよかっただけですそれは忘れないように」

 

ハリーとロンは顔を見合わせる。

 

「三人に五点づつ……合計十五点、グリフィンドールに」

「えっ!」

 

ロンが思わず声を上げた。だが、次の瞬間、マクゴナガル先生の表情がピシッと引き締まった。

 

「ですが――次に同じような真似をしたら、その時は減点しますからね!」

 

ピシャリと釘を刺され、三人は反射的に背筋を伸ばした。

 

「は、はい!」

「わかりました!」

「……気をつけます!」

 

そう声を揃えたものの――ロンとハーマイオニーは、ちらりとハリーを見て、内心で苦笑いしていた。

(……ハリーは、次また同じようなことが起きたら、きっと喜んで戦いにいくんだろうな)

頼もしいけれど、同時にちょっと心配にもなる。そんなふうに思いながら、二人はそっとため息をついたのだった。

 

***

 

三人の生徒たちはすでに安全な場所へ戻され、そこに残っているのは教師たちだけだった。マクゴナガルはため息をつき、倒れたトロールを見つめる。

 

「……しかし、一年生がトロールを倒すなんて……前代未聞ですよ」

「しかしこれは……」

 

スネイプがトロールの顔面に残る傷を指でなぞりながら、渋い顔をする。

 

「杖による魔法の痕跡はない……肉体による衝撃だな。これは……殴った跡だ」

 

クィレルは、震える声で付け加えた。

 

「そ、そんな……人間が、それも一年生の子供が……トロールを素手で……?」

 

マクゴナガルも、信じがたいという顔でトロールを見下ろしている。そのとき、背後から静かな声が響いた。

 

「――非常に、興味深いのう」

 

教師たちが一斉に振り返る。そこに立っていたのは、ホグワーツ校長――アルバス・ダンブルドアだった。

ダンブルドアは、床に倒れたトロールと、すでに遠ざかった生徒たちの足音が消えた廊下を、悠然と見渡していた。

 

「たしかに、常識では考えられぬこと。しかし……」

 

長い指で髭を撫でながら、目を細める。

 

「ハリー・ポッターという子は――時に、常識を超える力を見せてきた。それは、わしらはよく知っておるじゃろう」

 

誰にともなくそう呟いたその声音には、期待とも、不安とも、あるいは別の何かとも取れる、複雑な響きがあった。

スネイプは鋭い視線をダンブルドアに向けたが、何も言わなかった。クィレルは、額に汗をにじませたまま、そっと顔を伏せた。夜のホグワーツに、ひときわ深い静寂が広がっていく。

 

***

 

トロール騒ぎの収束後――

グリフィンドールの談話室では、興奮冷めやらぬ生徒たちが、まだざわめき続けていた。しかし、その中心にいるはずのハリー・ポッターの姿は、そこにはなかった。

ハリーは中庭にいた、月明かりが差し込む静かな空間で、彼はゆっくりと構えを取った。

(……トロール戦。あの感覚……)

目を閉じる。イメージの中で、巨大なトロールが再び現れる。

跳びかかり、顔面へのハイキック、膝裏への蹴り、素手での渾身の一撃――

(……楽しかった……!!)

胸の奥が、熱くなる。恐怖は、なかった。ただ――全力をぶつけたときの高揚感。体が思いどおりに動いた瞬間の歓喜。

それだけが、今も全身を駆け巡っていた。興奮は、まだ冷めない。拳を握る。自然と膝が弾み、体が戦闘態勢を取り戻していく。

(もっと強くなれる。まだまだだ)

その確信が、静かに、だが確かに、ハリーの中で燃え上がっていた。

(今夜は……授業で教わった呪文を試そう)

浮遊の魔法、《ウィンガーディアム・レビオーサ》。そしてその逆――《ディセンド》。

理屈ではできるはずだ。重くして、自分自身に負荷をかける。杖を構え、まずは試す。

 

「ウィンガーディアム・レビオーサ!」

 

杖を振ると、足元の空気がわずかに動いた。ふわりと軽くなる感覚。

――だが、これでは重力修行にはならない。

(違う。軽くなったんじゃ、意味がないんだ)

今度は逆だ。重みを意識して。

 

「ディセンド!」

 

しかし、膝に感じたのは――リュックを背負った程度の負荷。重力十倍どころか二倍にすら程遠い。

(……なにがダメなんだ……)

額に汗がにじむ。けれどハリーの目は、まっすぐだった。浮かせる、落とす。

ただ呪文を使うだけでは、足りない。方向性、力のコントロール、魔力の流し方――

(魔法は、単純な力押しだけじゃないってことか……)

まだ答えは出ない。だが、ハリーは構え直した。何度でも挑戦するために。さらに高い領域に到達するために。

――そして、次の“戦い”で、もっと強くなるために。

 




今回の話は何回か書き直しましたが 
なかなかうまく書けませんでした
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