どうやら1年A組の副担任はTSっ娘らしいよ 作:高身長女性大好きマン
春━━を、一週間ほど過ぎた後。
「わーたーしーがー!停職から復活して帰って来た!」
「ガントレッド先生!停職明けたんですね!」
「お勤めご苦労様です!」
「オラ若い奴ら!頭下げろ!」
「いや別に収監されてたワケじゃないからね?あとそのヤクザ者みたいなノリやめてね?」
一週間の停職が明け、久々の学校。
せっかくだからとオールマイトのモノマネをしてみたが、それよりも反応の方が気になってしまった。なんでヤクザ者みたいな扱いをされてんだよ。ひでぇ。
「いやだって……あの後緑谷から色々ガントレッド先生の事聞いて、それでちょっと気になって……」
「先生が
「いやあ、あんなステゴロでヴィランを蹴散らしてく人だとは思わなかったっすよ!」
瀬呂、上鳴、切島と言葉が続く。
いやまあ確かに俺はステゴロメインのヒーローだけど、それだけじゃあ無いんだぜ……?
「……まあ、それはそっか……どうせ私はガタイがデカいですからね……ガラ悪く見えますよね……どうせ婚期逃し女ですよ……」
「うわー!男子がレッド先生泣かせたー!」
「いけないんだー!先生に言っちゃ……これ誰に言うんだ……?」
おいおいとわざとらしく泣くマネをすると、今度は芦戸と葉隠のかしましコンビがノって来てくれた。やべえ、このクラス超あったけぇ……。
「とまあ、茶番はこれくらいにして。それじゃあ授業始めるぞー」
「すげえ、切り替え速えぇ……!これがプロか……!」
「多分違うと思うわ」
まあ、いつまでもふざけてたら授業にならんし。学生の本業は勉強だよ君たちィ。大人しく私による最強の古典を享受しなさい。
「ああ、それと……爆豪くん」
「あァ?」
そして、できるだけ何気なくを装って。爆豪に声をかける。
「あの時は乱暴にしちゃってごめんね。教師として、ヒーローとして━━いや。人としてあるまじき行為だったと思う。本当に、ごめんなさい」
頭を下げて謝る━━その姿に、我ながら本当に嫌になる。
だって、こんな事はこの一週間、どこででも言えた。停職はあくまで授業に関われないだけであって、校舎に来ればいつでも爆豪と会って話す事はできたのに。
それを避けていたくせに、謝るのが怖かったくせに、こうして衆人環視の中でないと謝罪ひとつできない。
俺は、卑怯だ。
「……あー……あれだ。俺も、あの時は短絡的だった。だからまあ、おあいこって事にしてやるよ」
「……!うん!ありがとう、爆豪くん!」
受け入れてくれたという嬉しさに、チクリと棘が混ざってしまう。
それは俺が弱いから。卑怯だから、そう思ってしまうのか。負い目を感じているから、どうしても━━
「あの爆豪が……自分の非を認めた、だと……!?」
「あのクソ下水煮込みが!?明日は槍が振るぞー!気をつけろー!!」
「てめェら……!」
一方爆豪の側では、いつもの彼らしからぬ言動に少なからずの動揺が走っているようだった。
入学以来のたった数日でこんな扱いを受けているあたり、彼の人格というか人徳が伺い知れる。
「━━はいはい!じゃあ気を取り直して、授業やるよー!教科書開いてー!」
だから。
いつかと同じように、殊更に明るく声を張り上げたのだった。
***
そんなこんなで、その日の午後。
その日の1-Aは災害救助訓練の予定で、本来ならばオールマイトともう一人、災害救助専門の教師という二人体制で教わるはずだったのだが。
「先輩。今回の訓練に私達も参加するのって……」
「ああ。この前の
「やっぱそうでしたか。いやー……ほんっと、
USJ ━━
この前の件とは、例の個性把握テストの2日後に起こった事件の事である。
何者かによって雄英バリア━━雄英高校の誇る世界有数のセキュリティが突破され、オールマイト関連のスクープを欲しがっていた
結果としてはセキュリティの壁が粉々に破壊されていた以外に大きな損害も無く、生徒たちへの被害もアラートによるパニックで転んだ際の擦り傷や打撲程度で済んだというのだから、規模としてはそこまで大きな事態ではない。
けれども。
『雄英バリアが破られた』というその事実こそが、何よりも問題なのだ。
「ただのマスコミにあんな事ができるワケ無いだろう。間違いなく、誰か
「じゃあ次は、それが誰かって話っすよね」
「それが分かれば苦労はないさ。だからまあ、警戒するに越した事はないってこった」
そう。
相手の目的も手段も、何者かも分からないこの状況でしかし、ただ一つ分かる事。
それは『何者かが雄英に悪意を向けている』という事である。
「……まあ、十中八九オールマイト狙いの誰かっすよね。あの人はホンット、良くも悪くも目立ちすぎっすよ」
「『平和の象徴』なんだから、それは当たり前だ。そこを言ったって何も始まらん」
「そりゃそうっすけど……ああ、そうそう。13号ちゃんからさっき連絡が来たんすけど。そのオールマイトなんすけど、授業出れるか怪しいらしいっすよ」
「……なんでだよ?」
「何でも通勤途中に
「不合理の極みだなオイ」
呆れたように相澤先輩が言う。俺もそう思う。
人助けは大切だしそれを優先しちゃうオールマイトの気持ちもよーく分かるんだけど、だからといって授業を疎かにしていい理由にはならんでしょうよ……まあ、それで助かった命があるって言うんだからアレだけれども。
ハア、と一つため息を吐くと相澤先輩は背もたれに身を預けて目を閉じた。どうやらUSJ到着まで眠るつもりらしい。
手持ち無沙汰になった俺は空でも見てるかと思ったのだが、後部座席から聞こえてきた会話を耳がビシィ!とキャッチした。
「……動画でも思ったけどよ。ガントレッド先生のコスチュームって、アレだよな……」
「……おう。アレだ……」
チラリと目線だけ投げれば、声の主はチャラい金髪小僧とツンツン頭の熱い奴━━上鳴と切島だ。ヒソヒソ小声で話しているようだが、俺は耳がいい方なんだ。
そんでなんだって?俺のコスチューム?まさかコイツら、いっちょ前に興奮してんのかー?悪いが、たとえ男子高校生の下世話でフレッシュな話であっても聞かせてもらうぞ!
「「めちゃくちゃゴツい……!」」
「思ってたのと違う!」
思わず口に出して突っ込んでしまった。上鳴と切島の二人は「マジか聞こえてた!?」と驚いているようだが、俺としてはそれよりもそっちの反応に突っ込みたい。
「ゴツいって……言うに事欠いてゴツいって……!」
いや、私の予想としてはさぁ。思春期真っ盛りの男子高校生どもが女性プロヒーローの露出度高いコスチュームにドギマギしたりさぁ、そういう反応を求めてたワケよ。
なのに何だよそのキラキラした目は。切島に至っては「すげー!」みたいな顔してるし。
俺のコスチュームは一言で言えばノースリーブのプレートアーマー、とでも言うべきだろうか。殴り合いがメイン戦術だから腕を除いて下半身も上半身も装甲で覆っていて、まあ、確かにそう考えたらドキマギはせんか……せんよな……。
更に唯一露出した腕も常に''個性''を展開して一回りほど大きくしているのだから、一見すると腕すら飾りのついた腕甲にしか見えなかったりする。
加えて頭もフルフェイスのヘルメットを被っているため、上背も相まって見た目だけでは女と思われない。
見た目で青年騎士を連想して、声を聞いた相手がビックリするまでが初対面ではお決まりの流れだ。
「そう、ガントレッドはその身一つで果敢に
「緑谷ちゃん、怖いわ」
そしてその横では緑谷がブツブツと分析(?)を始めて
「お前ら、もう着くぞ。いい加減にしとけよ……」
何て、そんなこんなでワイワイ話していると相澤先輩からのお叱りが飛んだ。
いやあすんませんね……へへ……。
***
「……以上!ご清聴ありがとうございました!」
「ステキー!」
「ブラボー!ブラーボー!」
そして、
「そうだろうそうだろう。13号ちゃんはスゴくカッコいいヒーローなんだよ……!」
「お前は何様だよ」
その様子を腕組みして眺めていたら相澤先輩に突っ込まれた。いいだろ別に。仲良しの子が活躍してるとこなんてなんぼあってもいいですからね……!
ちなみに13号ちゃんと私は一個違いで、歳の近さから職場でも特に仲のいい相手の一人である。中身もね、すっごい可愛いしいい子なんだこの子は。
「あ、ありがとうございます、腕山先輩。そう真っ正面から褒められると……その、ちょっと照れますね……」
「〜〜〜!ああもう可愛いなあ君は!?ほらこっち来て、撫でたる!撫で回したる!」
「ガントレッド先生ってこんなキャラだっけ……?」
「ムツゴロウさんみたいになっとる!」
よーしよしよし、こんなに素直で穏やかで出来た人間はなかなかいないよ。よーしよしよし……。
「……そいつはほっとけ。すぐに戻ってくる」
諦めたような表情で相澤先輩が説明を始めようとする。
「そんじゃあ、まずは……」
だが、しかし。
その言葉の続きは、唐突に現れた
「━━━━!?」
中央の広場。その空中に、黒い染みのような
そして広がった窓のようなそのモヤの内側から、何者かの手が出てきて━━
━━━━覗いた顔は、どうしようもない悪意に満ちていた。
「
相澤先輩が振り向き、叫ぶ。
背後の黒いモヤはいつの間にか何倍にも大きくなっており、そこからは続々と沢山の人影が現れていた。
顔に手がいくつも張り付いた男、脳ミソが丸出しの真っ黒い男━━どいつもこいつも、見るからにカタギの者では無さそうな凶暴な気配を纏っている。
「え?何が━━」
「13号は生徒を守れ!ガントレッドは俺と来い!」
いつになく緊迫した様子の相澤先輩を見て、そこでようやく俺もスイッチが入った。
━━━━現れたあいつらは、悪意を持ってここにいる。
「何だアリャ?また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「皆動かないで!」
切島が疑問を口にして、相手を良く見ようと思ったのか前に歩き出そうとしたのを叫んで静止する。
「あれは━━
相澤先輩が叫び、生徒全員がその言葉に身を竦ませる。
何で校内にいる、どうやって入った、何が目的で━━
「13号にガントレッド……イレイザーヘッドですか。先日
「……この前のはお前らクソ共の仕業か」
いつの間にか人の形を取っていた黒いモヤの呟きに相澤先輩が耳聡く反応する。
あくまで狙いはオールマイト、そしてわざわざ校舎から離れたここに
「……話が違うぞ……平和の象徴、オールマイトがいるって聞いたから来たのに……」
そして。
真っ先に出てきた手の男が忌々しげに呟いた言葉を、俺はこの先きっと忘れられないだろう。
それだけの悪意に満ちた、しかし無邪気でどこか子供っぽい殺意。
何かの思想があるようにも見えない、その目。
「……子どもを殺せば来るのかな?」
底の無い邪悪が、手を伸ばしていた。
***
「13号避難開始、学校に
流石と言うべきか、相澤先輩の初動は速かった。
戦闘に不慣れな13号は生徒避難のサポートに当て、まず増援を呼ぶ事を優先させる。
そして俺と相澤先輩は出てきた
両腕により分厚く━━あの人数なら七重くらいでいいか━━鱗を纏い、臨戦態勢へと入る。
「先生!?いくらなんでも二人だけじゃあ無茶じゃ……!?」
緑谷が何かを言いかけたが、その口には俺が人差し指を立てて押しとどめた。
「……大丈夫。あんな人数集めて、しかもそれを見せつけるみたいに広がってるんだ。『私たち個人じゃ勝ち目ないので、数で強く見せてます』って言ってるようなもんだよ」
半分本気で、もう半分は生徒を安心させる為の強がりだ。もちろん大した事ないチンピラがほとんどだろうが、中には見るからにヤバそうな奴もちらほらいる。
しかもそれが一人や二人なんかでは無く、軽く十人はいそうなのだから嫌になる。この場に誰もいなければ、もっと神妙な顔でいるのだけれども━━それでも、ヒーローは笑ってこう言わなければいけないのだ。
「大丈夫。君たち生徒は、私たちが絶対に守るから」
ぽん、と緑谷の頭に手を乗せて。
「ガントレッド、行くぞ!」
「はい!」
階段を駆け下り、ヴィラン共に躍りかかる。
「射撃隊!行くぞォ!」
宙に飛んだ俺たち目掛けて、おそらくは遠距離攻撃手段持ちの奴らがそれぞれの得物を向けてくるが━━
「使わせるわけねェだろ」
「!?ウソだろ、出ね……」
発動しない。当たり前だ。
先手を打って''個性''を抹消させたイレイザーヘッドがソイツらを捕縛布で纏めてノしたところで、誰かが叫んだ。
「馬鹿野郎!アイツは見ただけで個性を消すとかいうヒーローだ!聞いた事くらいあんだろ!」
「はいはい。情報共有お疲れ様でーす、そんじゃあ寝てろ」
「ッんだコイツいつの間に……ぐぁっ!?」
広場に降り立ってすぐ、イレイザーヘッドの事を知っていたソイツを不意打ちで殴り飛ばした。いくらアングラ系ヒーローとはいえ、やっぱ知ってる奴は知ってるもんだよな。
そしてその言葉に萎縮して二の足を踏むヴィラン共の中で、今度は別の奴が名乗りを上げてきた。
四本腕の大男━━━━いわゆる''異形型''の個性持ち。
「消すぅ〜!?へっへっへ、そんじゃあ俺らみたいな個性も消してくれんのかぁ!?」
「いや、無理だな。発動系か変形系に限る」
言いながら、イレイザーヘッドがその顔面に拳をぶち込んだ。そしてたまらずよろめいた大男の脚を俺が掴み、思いっきりぶん回す。
「イレイザー!屈んで!」
叫び、四つ腕男をイレイザーヘッドの方へとぶん投げた。
身を低くした彼の背後には他のヴィランが二人迫っていて、投げられた四つ腕男はそこへクリーンヒット。盛大な衝突音と共に三人まとめて無力化された。
「だが、お前らみたいな奴らの強みは基本的に近距離で発揮される。それなら、そこは当然対策しておくだろう」
「なーに冷静に言ってんすか。『
「……無駄口を叩くな。まだまだいるぞ」
「言い始めたのそっちじゃないすか!?」
そんな気の抜けるやり取りを挟み、再び走り出す。
「いやぁ……こうして二人で共闘って久々っすね!
「言うほどお前いなかっただろ……っと!」
イレイザーヘッドが消し、俺が殴る。
俺が防ぎ、イレイザーヘッドが掴んで投げる。
確かにあの時はお互い独立してたからあんまり共闘はしなかったかもな……?
ともかく、と。
気を取り直して、振り返って叫んだ。
「皆!今のうちに逃げ━━」
「させませんよ」
振り向いた先、出入り口の方向。
13号を先頭とした生徒たちの一団の前に、例の黒いモヤが立ち塞がっていた。
「っしまった、瞬きの間に━━ガントレッド、間に合うか!?」
「この距離は厳しいっすよ!13号は!?」
イレイザーももう一度アイツを視て消そうとしているが、他のヴィラン達が背後から絶え間なく襲いかかってモヤを視界に入れさせないように動いている。
そして、私がサポートに回ろうにも━━
「っこのクソデカ野郎がよ!何度殴っても効きやしねえ!」
今目の前にいる、コイツ。
脳ミソ丸出しの頭にパックリと大きく裂けた嘴のような口、そして傷だらけの真っ黒な体。
何度殴っても効かないどころか、むしろ俺の方が追い詰められる始末。今は何とか防戦に徹する事で耐えられてはいるが、それでもこれじゃあ二人出た意味が無い。俺がコイツに釘付けにされている限り、イレイザーも自由に動けない。
「おお……脳無と殴りあえるなんて、やるじゃないかヒーロー……」
「うっせえな気色悪ぃ手だらけ野郎!傍観者気取ってんじゃねえよ!」
黒い怪人━━脳無とか言ったか━━の体を思いっきり殴りつけ、反動で後ろへ飛び退りながら罵声を吐く。おかしな事に手だらけ男はここまでの戦いで何もせず、ニヤニヤと俺たちを眺めているだけに留まっていた。
これ幸いと脱兎の如く駆け出し、出入り口の高台へと走るが━━
「━━っクソ、間に合わねぇ……!」
飯田のようなエンジンがある訳でもないのだから、追いつける道理もない。それどころか後ろから脳無が迫って来て━━
「ッぐぉっ!?」
振るわれた腕は身を捻りながら鱗の両腕でガードする。できる限り衝撃を受け流しつつ防いだつもりだが、それでも元のパワーが桁外れなのか。軽く数メートルは吹っ飛ばされ、ゴロゴロと転がる。
「っガント」
「よそ見していていいのか?」
こちらに走り出そうとしたイレイザーだが、今度はあの手だらけ男がイレイザーヘッドに迫る。どうやら''抹消''のインターバルがバレてしまっているようで、イレイザーは攻め手に欠いているようだ。
あちらでもこちらでも。
少しずつではあるが押され気味で━━━その時、ぶわ、と。黒いモヤが始めの襲来時のように広がり、13号と生徒たちを包み込む。
恐らくは転移、そしてこのタイミングで生徒たちを転移させると来れば、奴らの狙いは一つだろう。
個別に散らして、確実に殺す。
今から走ろうにも間に合わない。13号は大きなダメージを受けていて、届くのは声だけ。
だから。
「一年A組!よく聞いて!」
消える前に、せめてもの激励として思いっきり叫んだ。
「絶対!無事に帰ってきて!」
━━━━━━未知との遭遇が、始まった。