どうやら1年A組の副担任はTSっ娘らしいよ 作:高身長女性大好きマン
「最高のヒーローは誰か?」という質問があったとして、その答えはほとんど決まっているような物だろう。
『No.1ヒーロー』、『平和の象徴』、『
オールマイト━━━彗星のように現れて日本から
━━━━━果たして俺は、どうだろうか。
なぜだか前世の意識があって、それでもその中身は靄がかかったように思い出せなくて。そんな曖昧で不気味な自分が嫌で、何かはっきりした物になりたくて、そんな中でヒーローに憧れた。
果たしてヒーローにはなれた。
なれたが、それだけだ。
それまでに取りこぼした物も、捨ててきた物も山ほどある。
だから、そうして諦める事にすっかり慣れてしまった俺には━━━━━
***
「……さて。絶対に帰ってこい、なんて言った手前……私だって、その言葉を守らなきゃいけなくなったワケだけど」
生徒たちがあの黒いモヤに飲み込まれたその後、思いっきり吹っ飛ばされた俺は勢いよく立ち上がると独りごちた。
「骨は……大丈夫、まだ立てる」
ガードが間に合ったのか、それとも衝撃を上手いこと逸らせたのか。地面に打ち付けられた衝撃で全身が痛むが、それでも脚の骨に折れた感覚はしない。というか、脳内麻薬がドバドバ出ているのだろう、痛み自体を思ったよりも感じていない。
「これ、終わった後が怖いな……」
とにかくまだ立てるし、まだ戦える。頑丈に産んでくれた両親に感謝しなきゃな、と無理やり明るい方へと思考を持っていき、そして少し離れた位置にいる真っ黒いデカブツへと目線を投げた。
やはり相手に疲労の色は見えない。だがあの一撃で終わらせるつもりだったのだろうか、心持ち予想外のような目を━━━━━━━
「……いーや、してないな。相変わらず何も読めないつぶらなお目々しやがって」
呟き、再び両腕を構える。今纏っている鱗は五━━いや、さっきので一枚割れたから四枚か。
「ほいじゃあ、追加で六枚ね」
パキパキと軽い音が響き、両腕に纏う鱗がより分厚くなる。残っていた四枚に追加の六枚で、都合十枚ずつ。ヒーローネームの由来でもある、まさに
重さと速さの兼ね合いで、両腕につけるのであればこの辺りから重量がキツくなってくる頃合いだ。重量節約のため前腕のみに鱗を展開しているが、それでも両方合わせて15、6kgほどはあるだろうか。
しかし。重さ、もとい質量は威力に直結する。
脳無とかいうあのデカブツには、今まで通りの五重鱗ではこれっぽっちもダメージを与えられなかった。
それならば今まで以上のパワーを出すだけ。脳筋と言わば言え、俺はそれしかできないんだ。
「おい……脳無、とか言ったか?」
声を投げかけるが、返事は帰ってこない。イカれた見た目の通り中身までぶっ飛んでるのか、かわりに返ってきたのはこちらへの
振るわれた右腕は左腕で防ぐ。瞬間吹き飛ばされそうになったが、両腕の重りと踏ん張り、そして身の捻りで何とか回避する。
そして今の一撃で確信できた。コイツはパワーもスピードも半端ないが、何よりもまず防いで凌ぐ事だけを念頭に置けば俺でも十分戦える。
何も俺が直接倒さなければいけない訳では無い。引き気味にでも耐えていればその内増援が━━━
だから俺は、その時まで持ち堪えればいい。
「なに?意外そうな顔してるね、この脳ミソ野郎」
ならば俺が今取るべき対処は、
効果があるのか無いのかは分からないが、俺にだけ注意を向けるよう言葉で煽りながら、デカブツの腕を受け止めた左腕の上に更に鱗を纏っていく。
「そうだよねえ。見るからにパワータイプですって面してるもんね、お前。そんなのが簡単にパンチを受け止められるなんて、プライドが傷付きでもした?」
「…………」
簡単に、というのはハッタリだ。すぐ隣で爆発でも起こったのかと疑いたくなるような衝撃で避ける事はもちろん、受け切って即座に反撃できるイメージすら湧かない。
だがしかし、それでも一発は受け止められた。
その時点でコイツはもう、俺から逃げられなくなった。
「私の両腕が思ったより固くて、殴ったら痛かった?もしそうならごめんね、手当てしてあげようか?」
言いながら鱗を成長させてさらに腕を大きくし━━━━デカブツの右腕を完全に飲み込んで、俺の左腕から離れられないようにしてやった。
「安心してよ。これでもう、そっちの腕じゃあ殴れないからさ。だから━━っと!」
言いかけた言葉はしかし、デカブツが右腕を振るった事により途中で遮られた。
右腕を振り上げて俺ごと地面からすっぽ抜き、そして地面に思いっきり叩きつけ━━
「られるわけねぇだろ、ばァか」
腕ごと体が持ち上がったタイミングで背中へ回り込み、左腕の
爆発のような凄まじい轟音と共に地面が割れるが、当たっていないのだからもちろん
「それじゃ、次はここと繋げてみようかなっと」
言いながら、今度はフリーになった左腕でデカブツの太い首を後ろから掴む。そして先程と同じように鱗を展開して首を飲み込み、左腕と接続。
そしてそのまま、右目を目掛けて腕を振るう。目潰しをして死角を作ろうと思ったのだが━━━━━━━
「~~~ッ!」
「っと、危ない危ない」
デカブツが仰向けに倒れ込んで自分と地面で俺をプレスしようとしてきたので、再び纏鱗を解除して離脱。そのままバックステップで数歩距離を取り、両手を構えて相手を見据える。
そして、土煙の中で立ち上がるデカブツに対して言った。
「これは自論だけどさ。喧嘩ってのは、『いかに相手の得意を使わせないか』に尽きると思うんだよ」
とにかく動き回って妨害に徹して、相手に全力を出させない。
そう何度もマトモに受け止められるパワーでは無いのならば、そもそもそのパワーを使わせなければいい。
「つまり、そのパワーは活かさせないって事。そっちの気色悪い手だらけ野郎も残念だったね、せっかくの自慢のオモチャがろくに使えなくてがっかりしたでしょ?」
「ヒーロー……本っ当にウザ」
「よそ見してていいのか?」
手だらけ男に向かって煽るように言えば、そいつはデカブツの加勢に走り出そうとしたところをイレイザーヘッドに強襲されていた。
捕縛布が飛び、掴んで受け止めたそれを逆に引っ張られてバランスを崩す。そのまま肘鉄、そして足払いと続き、腕を極められたうつ伏せの状態でイレイザーヘッドに拘束されていた。
一瞬のよそ見から始まった、瞬く間の連撃だった。
「っぐ……」
「動くな。少しでも不審な動きを取った場合は腕を折る」
イレイザーヘッドはあくまでも淡々と、しかしだからこそ一分の付け入る隙もなく言い放った。相変わらず容赦の無い男だな、こいつ。
「さて。それじゃあ、君たちの親玉さんは捕まっちゃったワケだけど。どう?投降する気はない?」
あえてにこやかに言うと、周りのヴィラン達は一瞬のざわめきの後一歩引いた。俺とデカブツの戦いに割り込むことすらできなかった奴らなのだから、まあ、その程度でしかない。
━━━━━━━━もう大勢は決まっただろう。そう思っていたのが悪かった。
「……おい、脳無」
「何を……」
イレイザーヘッドの足元で、手だらけ男が低く呟いた。
異変を感じたイレイザーヘッドがそれを押しとどめようとするが、一歩遅れて━━━━━
「
瞬間、視界が大きくブレた。
「ッぐぁっ!?」
目で追う事すら追いつかないスピード。殴られたのだと気付いた時には、既に両腕の鱗が砕けていた。更にガードの上からもう一度殴られ、血を吐き地に伏せる。
そして、追い討ちとばかりに足が振り下ろされようとするが、
「っガントレッド!」
しゅる、と横あいから捕縛布が伸ばされ、足を巻き取ったそれに引っ張られる形で離脱。次の瞬間、先程まで俺の頭があった地点にデカブツの足が勢いよく落とされ、地面が激しくひび割れた。
もしもあそこにまだ自分の頭があったら、と想像し━━嫌な汗が背中を伝う。
「ありがとうございます、イレイザーヘッド先輩」
「礼は後でいい。それよりもアイツだ」
「はっはっはぁ!ケッサクだなぁヒーロー!どうだ、勝てるかもと思った直後にこっぴどくやられるのは特にキクだろ?」
そして肝心の手だらけ野郎と来たら、俺を救助した際に拘束が緩んだのかイレイザーヘッドの足元から逃れ、デカブツと対峙する俺たちをニヤニヤと薄笑いの表情で眺めていた。あくまでも傍観者に徹するつもりか、悪趣味なヤツめ。
「そいつ━━━脳無はさ、オールマイトを足止めする為に作られた特別製なんだよ」
そして、デカブツが再び跳躍。
手だらけ男はひとりで語り続けており隙だらけだが、デカブツの対処に手一杯でそちらまで手が回らない━━━━どころか、普通にやられっぱなしである。
一撃が先程までとは段違いに重く、速い。
━━━━━━━これは、ちょっとダメかもしれない。
ふと頭をよぎった弱気な考えを振り切り、あくまでも強気な目で相手を睨みつける。
「そんなやつ相手に、たかだか雄英の教師をやってる程度のヒーローがまともに戦えるわけ無いだろ?もしかして期待しちゃったか?」
「……なんだ、そうやって嫌がらせしたいが為に本気を出させなかったのか?」
イレイザーヘッドが静かに、しかし怒りを込めた口調で問いただした。
「ああ、そうだよ。嫌がらせってやつだよ!」
すると手だらけ男は芝居がかった風に両手を広げ、そして滔々と語りだした。
「俺はさ、ヒーローってのが心底嫌いなんだよ。ヒーローも、そんな奴らを持て囃してるこの社会も。自分たちが守れなかった者なんていないみたいな顔でぬくぬくと生きてるのが、イライラしてたまらないんだ」
捲し立てるように述べる男は、しかし、目つきからしてその本心は丸見えである。
「だから俺は訴えるんだ!お前らが享受してる平和は所詮
「……随分とまあ、ペラペラとよく回る口だね」
コイツにそんな大それた思想などない。
コイツからは、いつか見たフルフェイスマスクの男のような暗い輝きも、どこかの鉄拳オヤジのような義侠心も伝わらない。
「お前はそんな大それた奴じゃあない。それだけはよく分かるよ」
そこにあるのはただ、他者を踏み躙って嘲笑う悪意だけ。
「なんだ、バレてるか……」
「まあ、どっちでもいいけどさ」
言いながら拳を構える。
先程殴られた時に折れたのだろう、左腕はろくに上がらないし、肋も何本かイッてるのか呼吸の度にズキズキと鋭い痛みが走る。
俺が盾として前に立ち、後ろでイレイザーヘッドが構えるといういつもの立ち位置。それを維持しながら、ジリジリと距離を詰める。
「私が倒れるわけにはいかないんだよ」
帰ってこいと、そう言ったから。
散り散りになってしまった生徒たちを、それでも守らねばならないから。
いつかの
「来いよ、デカブツ。
◆◆◆
緑谷出久は考えていた。
同じ場所へ転移させられたクラスメイトの
「広場……先生たちは制圧するつもりなんだろうけど、いくら何でも数が多すぎると思うんだ」
言いながら、遠くの広場を見やる。
目線の先ではイレイザーヘッドとガントレッドの二人のヒーローがヴィランたちを引き付けている途中。
それを見てふと、ある考えが彼の頭を
「まさか緑谷、バカバカバカ……」
「まさか!邪魔になるような事は思ってないよ。ただ、隙を見て……何かできればって、そう思うんだ」
何かできれば、と。
それはつい先程の成功体験によるものか、「敵を退けた」という事実が良くも悪くも彼の心の奥底に響いていたためだ。
━━━━━━━━━━それがただの思い上がりだと気付くのは、そのすぐ後の事だった。
***
「……どうした、ヒーロー?『しぶとい』んじゃあなかったか?」
目の前にあるのは、ただただ凄惨な光景だった。
真っ黒い身体をした脳ミソ丸見えの怪人と、身体中にいくつもの手がまとわりついている男。
そして、怪人に腹を踏まれ仰向けに横たわるイレイザーヘッドと、片腕を掴まれて力無く宙吊りになっているガントレッド。
一連の流れを見ていた緑谷達ですら、何があったのかはよく理解できなかった。押していたはずのイレイザーヘッドとガントレッドだが急に真っ黒い怪人の動きが速くなり、そして瞬く間に制圧されていたのだ。
「ハッハハハハ!あれだけ言っておきながら、脳無がちょっと本気を出せばこの程度だ!だらしないとこ見せてくれるなよ、ヒーロー?」
どさり、とまるでゴミ袋を捨てるかのような勢いで、黒い怪物は手に持ったガントレッドを投げ捨てた。それでも何の反応も返ってこない事から、嫌な想像で緑谷の背中に冷や汗が伝う。
そして、一歩進んで。
語りかけるように男が言う。
「あー……まあ、悪いとは思ってるぜ?わざと脳無の力を隠して、お前らをぬか喜びさせたのはさ。でも仕方ないだろ?」
口では悪いと言っておきながら、顔に張り付いた手の隙間に覗く目からそんな感情は読み取れない。そこには敗れた相手への嘲りがあるだけで、真摯さなどかけらもない。
「お前らヒーローは国家に肯定されて堂々と暴力を振るえるんだ、だから俺らヴィランはずる賢く立ち回らなきゃ━━」
「
そうして男が語っている途中、その声を遮るようにして背後に黒い靄が現れた。名を呼ばれた男━━死柄木は演説を遮られたせいか、不満そうな顔で振り向いて答える。
「どうした、黒霧。13号は?」
「行動不能にはしましたが……子供を一部、散らしそこねまして。一人、逃げられました」
「……は?はあ……」
そして、深いため息を吐く。
「……黒霧……お前がワープゲートじゃなきゃ殺してたぞ」
振り向いて呟いたのは、ゾッとするほど冷たい声。
コイツは「殺す」と言えば冗談ではなく本当に人を殺せる。そう信じるに足るだけの冷酷さの籠った声であった。
「しょうがない。流石にヒーローが何十人も来たら手も足も出ないや……ああ、ゲームオーバーだ。帰ろっか」
帰る。
その言葉に、にわかに色めきたつ峰田。
「カエル!?帰るっつったかアイツ今!?」
「そう聞こえたわ。でも、気味が悪いわね」
「うん。こんな事をしでかしておいて、そう簡単に諦めるなんて……」
ここで諦めても無駄に手下のヴィランを消費して雄英の危機意識を上げるだけで、なんの得にもならない。
そうして、相手の行動の不可解さに緑谷が困惑していると。
「でも、その前に……」
ぐらり、と死柄木の上体が揺れて。
「平和の象徴としての矜恃を、少しでも━━」
走り出した死柄木は次の瞬間、緑谷たちの目の前にしゃがみこんでいて。
「━━へし折って帰ろう!」
蛙水の顔に、手が触れ━━━━
「……なんだ、本っ当に……」
触れない。
代わりに、男の手は鱗で出来た巨大な腕を掴んでいて━━そして、それは触った端から崩れていき━━
「さわら……せ、ねえよ……」
「脳無」
死柄木を殴ろうとした姿勢のまま、ゴッ、と鈍い音がして。緑谷の目の前で蛙水を庇ったガントレッドが、真っ黒い怪人に殴り飛ばされていった。
「……はあ。とんだ邪魔が……」
「~~~ッ!」
(逃がして、いやまず救けなきゃでも手がもう触れそうで触れると崩れるのかイレイザーヘッド先生はダウンしてるしガントレッド先生も━━━━)
「そこ、どけぇっ!」
緑谷が一瞬の逡巡の後殴りかかった、その瞬間。
「もう大丈夫!」
轟音と共に扉が蹴破られて。
土煙の中から、頼もしい声が聞こえて。
「私が━━来た!」