【美少女アムロの】機動戦士ガンダムGA//Girls Act!!【一年戦争】   作:GA

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 お待たせしました。第2話をお届けいたします。
 前話の投稿から1ヶ月ほど掛かってしまいました。第1話の後書きに追記した内容の通り、小説をじっくり書ける時間が週末にしか取れないもので、基本的に、これくらいのペースでの更新になると思います。
 ハーメルンで活躍する速筆の方々と比べると、なんとも遅筆で情けない限りですが、気長に待って頂けると幸いです。
 どうぞ、よろしくお願いします。


Episode:02 「Side seven lullaby.」

 わずか一分足らずで戦闘を終えたガンダムは、その足元に倒れ伏したザクを静かに見下ろしていた。右のマニピュレーターには、依然として刃を形成したビームサーベルが握られており、装甲すら溶断する熱量で空気を灼いている。

 ザクの胸部、コクピットハッチに、ビームサーベルの刀身と同じ直径の穴がぽっかりと開き、背面部まで貫通していた。パイロットの生死を確かめる必要は感じられない。これで生きているわけがなかった。

 ガンダムのコクピットで、メイン・ディスプレイに映し出された光景を見つめながら、アミナは実感した。

 自分は、たった今、戦争をしたのだ。

 

(後悔なんて、ない。だけど、私が、私自身の意志で人を殺したことを、父さんやフラウはどう思うだろう)

 

 二人はきっとアミナを責めたりしない。けれども、彼女が訓練すら受けていない分際でモビルスーツを操縦し、あまつさえ戦ったことについては、なんて危ない真似をしたんだと叱ってくれるに違いなかった。

 そして、悲しむかもしれない。特に父は。

 

「それでも、やらなくちゃいけなかったんだ」

 

 アミナはビームサーベルの刃を消して、背面部の専用ホルダーに収納した。それから、周囲の状況を改めて確認する。

 このサイド7の1バンチコロニーは未だ完成しておらず、シリンダーの内壁に広がる人工大地の九割以上が手つかずのままだ。開戦後に建設された連邦軍の基地を含めて、都市機能のほとんどが、早期移住者の為に先んじて整備された港湾部付近の特定区画に集中している。総人口は1万人程度に過ぎず、地球で例えるならば「軍の基地が置かれた離島の田舎町」といったイメージだろう。

 つまり、ザクがたとえ基地だけを狙って攻撃したとしても、連邦軍の守備隊が応戦すれば、ほぼ全ての民間人を確実に巻き込んでしまう立地なのだ。ザクのパイロット達がそれを理解していなかったとは考え難い。すなわち、今回の襲撃は、民間人がどれだけ犠牲になっても構わないという心算で行われた無差別攻撃に他ならなかった。

 全高18メートルのガンダムからは町の全体がよく見渡せる。アミナの目には、もはや生活の場として用を成さないほど破壊し尽くされた廃墟だけが映っていた。第一の標的とされた基地はもとより、町で唯一の病院も、ほどよく賑わっていた繁華街も、アミナ達が通っていた学校も、何もかもが徹底的に踏みにじられていた。

 高い位置から眺めることで初めて把握できた被害の規模は、アミナの想像をはるかに超えていた。

 いったい、どれだけ大勢の死傷者が出たのか、見当もつかない。

 アミナはぞっとするような悪寒に背筋を震わせた。

 

(──怯むな! 今は怖がってる場合じゃない!)

 

 操縦レバーを握る両手に力が籠もる。

 こんな状況だからこそ、やるべきことはいくらでもあった。

 

(まずは、フラウの無事を確かめないとっ)

 

 フラウが無事ならばホワイトベースに逃げ込んでいるはずだ。彼女と別れてから、まだ十五分も経っていない。それでも、懸命に走れば、1キロくらいは移動できる時間が過ぎている。既にドッキングベイに辿り着いている可能性が高いと思われた。

 

(そういえば、父さんはどこにいるのかな。牽引車を探しに行ったんだよね……)

 

 思い返せば、テム達はガンダムを貨物搬送用リフトに乗せようとしていた。あのリフトは基地とドッキングベイの間で重量物を搬入出する為の施設だ。テム達はガンダムをホワイトベースに運び込もうとしていたのだろう。そのうえで、運び込む前にパイロット要員と合流できた場合を想定して、ガンダムをすぐさま動かせるようスタンバイさせていたのかもしれない。

 そう考えれば、アミナが乗り込む前からガンダムのコクピットハッチが開いていたことや、システムのロックが解かれてアイドリング状態にされていたことにも説明がつく。無防備に放置されていたガンダムがザクに発見されず、破壊されなかったことは、まさしく不幸中の幸いだった。

 それはともかくとして、テムは責任感の強い人物である。自分がやらなくてはと定めた仕事を、決して途中で投げ出したりしない。そんな彼がガンダムを捨て置いて逃げたとは考えられない。

 牽引車が見つからず、遠くまで探しに行かざるを得なかったのだろうか?

 

(それなら、今頃、こっちに向かってるのかも)

 

 だから、アミナは、周囲を見回した。テムの運転する牽引車が、遅れ馳せながら走ってくる様子を安易に期待して、ガンダムのカメラアイをぐるりと一周させた。

 そうして、彼女は気づいた。

 注意深く見なければ、知らずに済んだであろうものに、気づいてしまった。

 

 大型の牽引車が一台、ぐしゃぐしゃにひしゃげて、横転していた。

 ザクに返り討ちにされた多くの戦闘車両と同じように、明らかに砲撃を受けた有様で、完全に大破していた。

 

 

「────」

 

 アミナの呼吸が、ひゅっという音を立てて止まる。その慎ましい胸の奥にある心臓が、どくんと、大きく跳ねるように鼓動した。

 まさか、と思う。有り得ない、と思う。テムが牽引車を探しに行ってから、アミナがガンダムに乗り込むまで、時間にすれば、わずか三十分にも満たない。テムが牽引車をすぐに見つけていたとしても、そんな短い間に攻撃されるなんてことがあるものか。

 しかし、アミナのそんな感情論に、彼女自身の冷静な部分が告げてくる。フラウの母と祖父を思い出せ。あの人達が吹き飛ばされたのは、あの時、ザクがまだ連邦軍と戦っていたからだ。民間人を平気で巻き込むような戦い方をしていたザクが、どんな理由で、走行中の牽引車を見逃すというのか。

 

「──違う! そんなこと、あるもんか!」

 

 アミナは悲鳴のような叫びを上げて、ガンダムを牽引車の側まで歩かせた。そして、跪かせ、姿勢を低くさせてから、メインカメラで、横倒しになっているトラクターヘッドを覗き込ませる。

 車体はひどく損傷していた。バンパーが脱落し、フロントガラスも砕け散っている。天井やフレームが歪んで、ねじ曲がり、運転席は半ば潰れていた。これがコロニー内での運用を前提としたEVではなく、旧世紀に普及していたガソリン車あたりであれば、火災や爆発を起こしていたかもしれない。

 だが、それを幸運と称する気持ちなど、欠片も湧いてこなかった。

 アミナは愕然としていた。

 歯の根が合わず、全身が震える。

 

 

「父さんッッ!!!」

 

 

 ──牽引車の運転席には、血まみれのテムが押し込められていた。

 

 

 

 □■□■□

 

 

 機動戦士ガンダムGA//Girls Act!!

 Episode:02 「Side seven lullaby.」

 

 

 □■□■□

 

 

 

 シャア・アズナブル少佐の指揮するムサイ級巡洋艦はサイド7へと接近しつつあった。

 余談だが、シャア少佐は普段から些か風変わりな装いをしている。目元を隠す仮面を常に着用しているのだ。士官用ヘルメットと合わさって、表情が窺い難く、どこかミステリアスな雰囲気を漂わせている。端正な輪郭と口元だけが彼の感情を表しており、英雄としてのカリスマ性をより一層高めていた。

 シャア少佐の仮面姿は、ジオン軍の中でも様々な憶測を呼んでいる。戦傷の跡を隠しているのだ、とか、やんごとなき人物の御落胤ゆえに素性を偽っているのだ、とか。それらしい噂から荒唐無稽な与太話まで、枚挙にいとまがない。

 しかし、副官のドレン中尉は、この年下の上官に優れた軍人であること以上を求めておらず、その過去を詮索したい気持ちなど、これっぽっちも持ち合わせていなかった。

 シャア少佐にとって、ドレン中尉のそんなドライさは、好ましく有難いものだった。そのうえ、副官としても実に有能であり、シャア少佐のドレン中尉に対する信頼は厚い。士官学校出身の若き英雄と、叩き上げの先任士官という、ともすれば軋轢の生まれそうな組み合わせだが、二人の関係は歯車が嚙み合うように良好だった。

 さて、実のところ、シャア少佐の部隊がホワイトベースを捕捉できたのは全くの偶然だった。つい先日まで、シャア少佐達は、とある宙域にて、ジオン公国に刃向かうゲリラ部隊の掃討作戦に参加していた。その作戦を終えて帰投している最中に、偶々、ホワイトベースを発見したのである。

 シャア少佐はザクのパイロットとして戦功を積み上げることで出世した。巡洋艦一隻を率いる立場に就いた現在でも、己の本分はパイロットだと認識しており、ザクに搭乗して自ら出撃することを好んでいる。彼には「自分自身こそが最も信頼できる戦力だ」という強烈な自負があった。

 そして、シャア少佐がザクで前線に出ている間、ムサイ級巡洋艦を任されるのは、当然ながらドレン中尉である。彼の豊富な経験に裏打ちされた操艦は、英雄シャア・アズナブルをして痒いところに手が届くと評する見事なものだった。

 そんな歴戦の二人だが、再びスレンダー軍曹からのレーザー通信を受けて、その報告の内容に困惑していた。

 通信用モニターに映るスレンダー軍曹は、あからさまに表情を強張らせながら断言した。

 

『デニム曹長とジーンは間違いなく戦死です。あれで生きているとは思えません』

「たった一機の新造モビルスーツに、二機のザクが一方的に敗れたというのか……」

 

 シャア少佐は腕組みをしたまま嘆息する。

 スレンダー軍曹の報告はにわかには信じがたいものだった。彼曰く、連邦軍のモビルスーツが一機だけ起動するやいなや、単独で近接戦闘を敢行し、二機のザクを一分足らずのうちに沈黙させたという。その運動性は驚異的で、ザクに反撃らしい反撃を許さず、コクピットだけをピンポイントに破壊してのけたらしい。

 潜伏していた場所からの望遠とはいえ、戦闘の様子をつぶさに見ていたスレンダー軍曹の証言には生々しい実感が伴っていた。

 シャア少佐はスレンダー軍曹に言った。

 

「分かった。詳細はおまえの帰艦後に改めて聞こう。今、どこにいる?」

『侵入に使用したメンテナンス・ハッチを出たところです。敵にはまだ発見されておりません』

「よし。こちらも間もなく予定の回収ポイントに到着する。陽動として、サイド7にメガ粒子砲とミサイルを撃ち込む。おまえはメガ粒子砲の着弾と同時に離脱しろ」

『りょ、了解です!』

 

 通信を終えると、シャア少佐はドレン中尉に尋ねた。

 

「ドレン。どう見る?」

「スレンダーは少々臆病なところがあります。些か大袈裟に言っている可能性も否めんでしょう。しかし、デニムとジーンが撃破されたことは間違いありません。スレンダーの報告通り、連邦軍のモビルスーツが並外れて高性能だったのか、はたまた、そのパイロットの腕がずば抜けていたのか」

「どちらにせよ、ザクを二機も失ったのは大きな痛手だな。ザクを容易く翻弄できる運動性か……。あるいは、重力下での戦闘に特化した機体かもしれん」

「重力下……地球でこそ本領を発揮するモビルスーツですか」

「現在の連邦が待ち望んでいるのは、我々ジオンを地球から追い出す為の手段、重力戦線で優位に立てる戦力だからな。そのような特化を目指して開発された機体なら、スレンダーの報告もあながち大袈裟とは言えまい」

「確かに。我々のザクも分類は陸戦兵器ですが、宇宙戦艦の艦載機として運用することを前提に開発されたものです。重力下の戦闘に特化したモビルスーツが相手となれば、陸戦で後れを取ることも有り得ましょう」

「まあ、全ては憶測だ。スレンダー軍曹が戻ってきたら、より詳しく話を聞くとしよう」

「そうですな。さて、そろそろ予定のポイントです」

「まずはメガ粒子砲の斉射をスペースゲートあたりに撃ち込んでやれ。それから大型ミサイルを、スレンダーが戻ってくるまでの間、断続的に撃ち続けろ」

「離脱の援護にしては大盤振る舞いですが……何か狙いがおありで?」

「いや、なに、もののついでのハラスメント攻撃さ。例の新型戦艦はドッキングベイに停泊しているだろうからな。大切な部下とザクを失わされたのだ。私とて、少しは思うところがある。それに、直にやり合う前に、わずかなりとも重圧を与えておきたい」

 

 シャア少佐の口元に苦笑いが浮かぶ。ドレン中尉はなるほどと頷いてから、艦橋の面々に聞こえるよう、攻撃の準備を命令した。

 ムサイの主兵装であるビーム兵器、連装メガ粒子砲にエネルギーがチャージされていく。

 狙うは、はるか遠くに見えるサイド7のスペースコロニーだ。

 火器管制担当から準備完了の報告を受けて、ドレン中尉は号令を発した。

 

「目標! サイド7のスペースゲート! メガ粒子砲──ってえい!!」

 

 ムサイの連装メガ粒子砲が一斉にビームを発射する。

 薄紅色の光条が漆黒の宇宙を切り裂くように突き進む。着弾。サイド7のコロニーの外壁に眩い爆炎がいくつも花開いた。

 ムサイの艦橋で、その様子を眺めながら、シャア・アズナブルは自嘲気味に呟いた。

 

「まったく──認めたくないものだな。自分自身の、若さゆえの過ちというものを」

 

 

 * * *

 

 

 アミナは、自分がどうやってテムを牽引車から助け出したのか、まるで覚えていなかった。ガンダムを使ったのは間違いない。それ以外に方法がない。けれど、何に注意して、どんな風に操縦したのか、全く記憶に残っていなかった。

 ただ、ただ、無我夢中だった。

 気がついた時には、牽引車のトラクターヘッドをばらばらに解体していて、テムを車外の地面、車体で火災が起きても安全を確保できるくらい離れた場所に、仰向けで横たわらせていた。

 跪いたガンダムが、テムを真上から見下ろしている。

 アミナはコクピットハッチを開けて、マニピュレーターをエレベーター代わりにして降りると、つんのめりながら、テムの側まで駆け寄った。

 

「父さんっ!」

 

 そうして、テムの姿を間近に見て、アミナは膝から崩れ落ちた。

 力なく、ぺたんと尻もちをつき、動けなくなる。

 

「父…さん……?」

 

 横たわるテムは、どう見ても、手遅れだった。手足がおかしな方向に折れ曲がり、その体にはいくつもの大きな金属片がノーマルスーツを貫いて深々と突き刺さっている。ノーマルスーツのあちこちに走る亀裂からは、まるで湧き水のように血が流れており、テムの口元も吐血の痕跡でべっとりと赤く汚れていた。

 今すぐ高度な設備の整った病院に連れて行けば、もしかしたら何とかなるかもしれない。

 しかし、アミナは既に知っている。その目で見ている。町で唯一の病院はザクの攻撃でとっくに破壊されていた。もはや、それなりの医療設備が残っているのは、おそらくホワイトベースだけだろう。最新鋭の軍艦ならば、それこそちょっとした病院並みの医務室があってもおかしくはない。けれども、連邦軍の守備隊やコロニー内の状況を考えると、今は間違いなく、野戦病院のように逼迫している。そもそも、テムのこの状態では、ガンダムによる運搬にさえ耐えられると思えなかった。

 ──無理だ。助けられない。

 アミナは、彼女自身の聡明さによって、父の死を確信させられた。

 

「やだ……やだよ……父さん……やだぁ……!」

 

 ぼろぼろと涙が零れ落ちた、その時だった。

 まるで、愛娘の嘆きを止めようとするかのように、テムのまぶたが開き、その唇がわずかに動いた。

 

「ア…ミナ……?」

「っ!? 父さんっ!!」

 

 アミナはテムの声を聞いて、弾かれたように顔を近づけた。

 テムは苦しそうに喘ぎながらも、懸命に言葉を紡ぐ。

 

「アミナ……そこに、いるのか……? 見えない、もう、何も……アミナ……」

「いるよ! ここにいる! 私はここにいる!」

「ああ…アミナ……」

 

 テムの左手が、ぶるぶると痙攣しながらも、ほんの少しだけ持ち上がる。アミナはその手を咄嗟に掴み、両手でしっかりと包み込んだ。

 その感触が少しでも伝わったのだろうか。分からない。それでもテムは安堵したように言った。

 

「大丈夫なんだな……」

「うん! 大丈夫だよ! 父さんの、父さんが作ったモビルスーツが、ガンダムが守ってくれたの! だから!」

「そうか。ガンダムが…そうか……」

 

 どこか誇らしげに、テムは微笑んだ。もう彼には何も見えていない。自分と娘を見下ろしているガンダムの姿も捉えておらず、そのガンダムを誰が操縦していたのかという、残酷な真実を察することも叶わない。

 ただ、愛娘の未来の為に生み出した己の渾身の成果が、その力を存分に発揮した。

 他でもないアミナ本人からそう言われたことで、彼の心だけは救われていた。

 だからこそ、テム・レイは、父親として最後の力を振り絞った。

 

「アミナ。よく、聞きなさい……」

「父さん…?」

 

 

 ──生きるんだ。

 

 

「生きるんだ、アミナ。父さんの作ったガンダムが、きっと、この戦争を終わらせる。おまえは、平和な時代を生きていける。だから、たとえ父さんがいなくなっても、一人になっても、諦めずに生き延びるんだ」

「父さん……やだ、やめて……父さん……っ!」

「生きろ。生きるんだ。生きてくれ。アミナ……生き……て………」

「父さん……?」

 

 アミナの両手の中で、テムの左手から、わずかに残っていた力が抜ける。

 生命の灯が、静かに燃え尽きて、消え失せる。

 

「あ……」

 

 ふと、アミナは思い出した。

 そういえば、父さんは、文句なしの天才だけど、すごく不器用な人だった。例えば、ぬいぐるみだ。私の部屋にある沢山のぬいぐるみは、実は全部、父さんからのプレゼントだったりする。それも誕生日以外で贈られたものだ。ささやかな御祝いだとか、学校で良い成績を修めた御褒美だとか、そういうちょっとした機会に恵まれる度に、父さんはぬいぐるみを買ってきた。

 どうしてそんな習慣ができたのか。私自身はよく覚えていないけど、私がエレメンタリースクールに入学した時に、親戚からぬいぐるみを頂いたところ、ものすごく喜んだことが切っ掛けらしい。さすがにそろそろ子供っぽいと思わなくもないけれど、まあ、今でも可愛いものは大好きだから、プレゼントはありがたく受け取って、ああして部屋にずらっと並べている。

 でも、父さんの本音としては、やっぱり自分との共通点を大切にして欲しかったんだろうなあ。幼い頃の私が、ほんのちょっぴり、父さんの仕事に興味を示した途端、その年の誕生日プレゼントは初心者向けの電子工作キットになっていた。そして、それ以来、誕生日のプレゼントと言えば、工学の専門書やら工具やらが定番となった。一番大切なお祝い事である誕生日のプレゼントだけは、どうしても、私と父さんの二人ならではのものにしたかったらしい。

 そうして貰った本を読み、分からないことがあれば、当然、私は父さんに訊くわけだけど。これがまた、毎回、すごく嬉しそうに色々と教えてくれるのだ。さすがお父さんって拍手をしたら、得意気に笑ってさ、子供心にこれが狙いかぁって分かっちゃった。

 もう、私が工学好きの変わり者に育ったから良かったけど、これが普通の女の子だったら嫌われていたかもしれないよ?

 

「ああ……」

 

 そんな、私に甘々な父さんだけど、怒る時はかなりしっかり怒る。さすがにぶたれたことはないけれど、私が無茶なことや良くないことをした時は、私が泣こうが駄々を捏ねようが、叱るべきことが残っている限り、懇切丁寧に、理路整然と、最後までしっかりと叱ってくれた。それでも最後は許してしまうので、私もついつい馬鹿を繰り返す悪癖を身につけてしまったわけだけど、普段はばっちり優等生をやっているのだから見逃して欲しい。

 あとは、そうそう、父さんはああ見えて、意外とサプライズが好きなのだ。

 フラウやハヤト、彼女達の家族まで巻き込んで、私のバースデーパーティーを催してくれた時は、正直、めちゃくちゃ吃驚した。ジオンとの戦争が始まって、世の中がとんでもなく暗くなって、父さんは前みたいに家に帰って来れなくなった。連邦軍がモビルスーツの開発計画に本腰を入れ始めたからだ。軍事機密だから、父さんは何も言えなかったし、言わなかったけど、そこは蛇の道は蛇というやつで、私だって少しは察していた。

 だから気にしてなかったんだけどね。でも、父さんは、娘に寂しい思いをさせているんじゃないかと心配していたみたい。

 そこで、サプライズ・バースデーパーティー!

 フラウに協力してもらったと言っていたけれど、娘の友達にこっそり渡りをつけるとか、ちょっとアクティブ過ぎませんか、テム・レイ大尉殿。あとフラウは面倒見が良すぎると思うのだ。いや、うん、ありがとうとしか言えないけどねっ!

 ほんと、父さんは、さ。

 父さんは──。

 

 

「ああああああああああ────っ!!!」

 

 

 もう、駄目だった。何も考えられなかった。両手で握り締めたテムの左手に頬を寄せて、アミナはひたすらに泣き叫んだ。顔が熱い。涙が溢れて止まらず、視界がにじみ、喉が引きつり、胸の奥が痛いほど締めつけられた。

 決して取り返しのつかない喪失に、経験したことのない苦しみに、アミナは叩きのめされる。

 

 泣いた。泣き続けた。

 泣き続けて──自分のこれまでの日常が終わったことを、受け入れた。

 

 しゃくりあげながら、トレーナーの袖で涙と鼻水を拭う。

 奥歯を噛み締めて、鼻で深く息を吸い、口から大きく吐いて、無理やり呼吸を整える。

 アミナは、テムの傍らに座り込んだまま、真上を見た。

 RXー78ガンダム。父が作り上げたもの。つまり姉弟のようなもの。白いモビルスーツが、まるで神像のように、アミナを無言で見守っていた。

 その特徴的なツインアイと視線を合わせる。

 確かめるように、呟いた。

 

「“ガンダムが、きっと、この戦争を終わらせる”……」

 

 視線を下ろして、テムを見つめる。死に際にあってなお、痛いとも、苦しいとも、助けてくれとも訴えず、アミナを案じてくれるばかりの父だった。

 大好きな、お父さんだった。

 そのまぶたを、そっと、手で閉じた。

 

「ねえ、父さん」

 

 アミナは、息を引き取ったテムに語り掛ける。

 もう、彼女は、泣いていない。

 

「約束する。私は諦めない」

 

 別れの言葉に代えて、父から贈られた願いと祈りに応える。

 つまり、これは────。

 

 

 

 

 

「生きるよ。何があっても」

 

 

 

 

 

 ────アミナ・レイの誓いだった。

 

 

 




 Q.ヒロインを序盤から覚悟ガンギマリにさせたいの! どうしたらいいかな?
 A.大好きなお父さんを目の前で〇なせるといい、とガンダムが言っている。

 Q,ちょっとぉ、ひどくない?
 A.ZとかVとかUCとか観よう、とガンダムが言っている。


 テム・レイは犠牲になったのだ。徹底的に打ちのめされても立ち上がる、ガッツの塊みたいなヒロインが大好きという作者の性癖の犠牲にな……。
 でも、皆さんもお好きでしょう? 健気で、強くて、不屈なヒロイン。

 はい、第2話をお届けしました。読んで下さり、本当にありがとうございます!
 第1話に比べると短いかもしれませんが、言い訳をさせて下さい(土下座)。

 第2話が短いというより、第1話が長いんですっ!

 いやね、第1話は、意地でも原作アニメの第1話「ガンダム、大地に立つ」の最後まで書きたかったんですよ。つまり、ガンダムがザクを倒すところまでですね。で、いざ書いてみたら、めちゃくちゃ長くなっちゃったのでした。2万字超えちゃったよ!?
 第1話は、書いていて、改めて機動戦士ガンダムの第1話ってとんでもないなって思い知らされました。1話に含まれる情報量が本当にものすごい。あの内容を24分くらいに収めるとか、構成が上手すぎてガチでビビります。小説に落とし込んだら、書いても書いても終わらねえんですよ……なんぞこれ……。
 そんなわけで、第1話が特別に文字数が多かったというだけで、この2話以降はその半分くらい、1万字前後で進んでいくと思います。エピソードとして区切りのいいところまで書く形で行こうと思っていますので、多少増減するとは思いますが、基本的にはそういう感じでやっていきたいなと。
 更新ペースも、やはり月一くらいになりそうです。

 なんともドン亀更新ですが、内容については、一生懸命に考えて、面白いと思って頂けるものを、頑張って書いているつもりです。
 どうぞ、応援のほど、よろしくお願いします。
 ではでは。



 余談ですが、ジークアクス、やっぱり、はちゃめちゃに面白いですよね。
 マチュのキャラクターについては賛否両論あるようですが、私はとても好きです。いや、ほんと、いいですよマチュ。あの「自分が本当は何を大切に思っているのか、自分でもよく分かっていない」ゆえの足掻きっぷりが堪らないというか。あの子が最後にどこに辿り着くのか、見届けたくて仕方ないです。
 ジークアクスを観ると、創作意欲がもりもり湧いてきますね!
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