翌日、ビデオ屋の駐車場に邪兎屋の面々が来ていた。
ニコ「お、来たわね……ってハルは?」
アキラ「ギリギリまで寝てるって言って、工房のソファで横になってるよ」
リン「昨日もご飯食べてからもずっと作業してたもんね」
ニコ「そ、そう……本題だけど、金庫の位置はもう把握したわ。それで、この前頼んでたやつはどうなったの?」
アキラ「メモリディスクのことかい?それならもう修復できてる。しかも君の予想通り、中には金庫の暗証番号が保存されてたよ」
ニコ「さあみんな!プロキシのおかげで準備は整った。そろそろ次の計画に移るわよ!アンビー!計画を説明してちょうだい!」
アンビー「了解。コホン…諸君、こちらにある新エリー都の地図を見てくれたまえ。我々の行動計画は、クリティホロウに入り、上級エーテリアス『デュラハン』を倒して、金庫を手に入れることである」
リン「それで……おしまい?」
アンビー「そうよ。それが何か?」
アキラ「じゃあ、地図を用意した意味は?」
アンビー「ニコは、協力者に舐められないようプロらしく振る舞おうと言ってた。さもないと後々値切りが面倒に──んむむむむ」
ニコ「また余計なこと言って!ビリー、何でちゃんと見張ってないのよ!」
ビリー「俺のせいじゃねぇって!アンビーが準備したプロのミーティングがこんなんだとは思わなかったんだよ……あ、だから集合前に探偵映画のミーティングシーンを観てたのか!」
リン「あの…全部聞こえてるんですけど…」
ハル「…努力の方向間違えてんじゃねえの?……ふわぁ〜ぁ……」
アンビー「あ、ハル。おはよう」
ハル「ん、おう」
途中でハルが起きてくるが、ニコは話を進める。
ニコ「コホン!と、とにかく!アンビーが説明したように、計画は至ってシンプルよ──金庫を探して取り戻す!外からじゃホロウ内の状況をリアルタイムで確認することはできないから、中での支援とガイドは任せたわ!」
ハル「んじゃ、準備して行きますかぁ」
準備をしてから、邪兎屋の3人とハルはボンプを連れてクリティホロウへと向かった。
─クリティホロウ─
邪兎屋の3人と前と同じ装備を付けたハルとイアスと同期したパエトーンはホロウ内に入った。
ニコ「よし!ホロウに入れたわね!早速あたしの金庫を探すわよ〜!」
ビリー「そういや、ニコの親分。一体どっから金庫の位置情報を入手したんだ?」
ニコ「ふふん、それは企業秘密よ!そう簡単に話すわけにはいかないわ。でもまぁ、今ここに部外者はいないわけだし?ちょーっとだけなら教えてあげてもいいわよ?」
リン「本当は元から自慢するつもりだったでしょ?」
アンビー「分かってても口にしちゃダメ。こういう時のニコは、意外と繊細だから」
ニコ「ちょっと!余計なこと言わないでってば!コホン!言ってしまえば単純よ。調査協会にツテがあるの。実は彼ら、ここ最近のホロウ定期観測任務とエーテル資源採掘任務の記録係を任されてたのよね。そこであたしは、奴らに決して断れない申し出をして、ホロウ内で起こった直近2回の異変に関するデータを照合してもらったの。相違のあるポイントを羅列すれば、おおよその位置が特定できるでしょう?」
ビリー「流石ニコの親分!」
ハル「意外なとこにツテがあるもんだねぇ」
ニコ「あたしとしてはあんたの人脈に驚かされるけどね。さ、話はここまでよ。さっさと金庫を回収して、ホロウを出るわよ!」
リン「………」
急に無言になるボンプ。
ハル「……リン?」
リン「……ッ………!」
ハルの呼びかけに反応するが、何やら様子がおかしい。
アンビー「プロキシ先生?」
ハル「おい、リン。大丈夫か?」
リン「………あ、うん!ちょっと接続が不安定になってたけど大丈夫!」
ニコ「そう?ならいいけど……おおまかな位置は把握してるけど、どうやって辿り着くかはあんた頼みなんだからね?」
リン「大丈夫!任せといて!」
一抹の不安を抱えながらも、一行はホロウの中を進んでいく。
しばらくホロウを進んでいくが、依然としてプロキシの反応は悪化していた。
ニコ「パエトーン、今日はどうしちゃったの?なんだか上の空だけど……お得意先に向かって、よくそんな態度が取れるわね!」
リン「……、…ッ……!……」
ニコ「ちょっとパエトーン?」
ハル「ニコ、待った。やっぱさっきから変だ」
ニコ「変って何よ?」
ハル「さっきもリンが言ってたろ。接続が不安定だって。もしかしたらホロウのエーテルがH.D.Dに影響を与えてるかもしれん」
ビリー「おいおい……そりゃマズくないか?」
アンビー「それで、どうするの?」
ハル「向こうに任せるしかないな。こっちからは手の出しようがない」
ビリー「それしかねえかぁ。店長のサポートがないとまともに探索できねえし……」
すると再接続されたのか、急にボンプが歩き始めた。
ニコ「プロキシ!戻ったのね!」
しかし、ニコの言葉に耳を貸すことなく、ボンプは進んでいく。
ビリー「……とりあえずついて行けばいいの……か?」
ハル「すっげー嫌な予感がガンガンするけど…」
そう言いながらハルはバイザーを操作すると、ボンプの進む方向に複数の敵反応が検知される。
ハル「やべぇ!?エーテリアスの方に歩いてるぞ!」
ニコ「嘘でしょ!?」
ビリー「て、店長を守らねえと!」
アンビー「プロキシ先生!」
4人はボンプに向かってくるエーテリアスの迎撃を開始する。
ニコ「邪魔しないで!!」
ビリー「後ろにも敵だ!」
アンビー「側面からも」
ハル「こんのっ、どきやがれ!」
襲いかかるエーテリアスの集団を蹴散らす4人。しかしどういうわけか妙に数が多く、苦戦しつつある。
ハル「クッソ!やけに多いなおい!」
ニコ「ねえ!本当にこの道で大丈夫なの!?」
リン「……」
エーテリアスにすら反応せずに、黙ったまま歩き続けるボンプ。
ビリー「店長、どうしたんだ?ずっと黙って歩くばっかで、戦闘を回避するつもりもなさそうだけどよ……」
ニコ「──プロキシ?」
アンビー「怒ってる?ニコが着手金を支払う前時に値切ったりしたから?」
ビリー「えぇ!?そうなのか!?」
ハル「おいコラ、ニコォ!!」
ニコ「そんなわけないでしょ!?」
そうしてる間にも、ボンプはただただ歩き続けている。
ニコ「おかしい……ホロウに入った時から全然ガイドしてるようには見えない……」
ハル「こいつぁ……ホロウじゃなくて外の方で何かあったか……?」
ニコ「ねえ!何かあったの?」
リン「……」
ハル「…………プロキシ」
ニコとハルからの呼びかけにも反応せず、ただ2人を見つめるボンプ。
その目はいつもの黄緑色ではなく赤い目をしている。
ハル「ボンプの目の色が違う……こりゃドンピシャか。外で何か妨害食らったな?」
ニコ「うっそでしょ……」
ハル「チッ。一体どこのバカがんなことを……」
再びエーテリアスがいる方へと歩き出すボンプ。
ニコ「あっ、ちょっと、そっち行かないで!」
ハル「またエーテリアスが来やがった!」
ニコ「ああもう!奴らを食い止めて!プロキシを守るのよ!」
ひとまずは、次々と襲いかかるエーテリアスからボンプを守るため、4人はエーテリアスの群れに応戦する。
その後粗方エーテリアスを蹴散らした後、4人は近くの電車の陰に身を潜め、エーテリアスの様子を伺っていた。
『Guuuu……』
『Grrrr……』
アンビー「…エーテリアスの群れはまだそこにいる」
ビリー「家賃を取り立てにくる大家さんみてぇだな……時間だ、これで4回『ホロウ内安全活動推奨時間』が過ぎたぞ」
ニコ「プロキシ、早く正気に戻らないと、永遠に借金を回収できなくなるわよ…!」
ハル「それどころか、俺らもこのままじゃジリー・プアーだしな…」
アンビー「っ、隠れて!」
アンビーが何かを察したのか声を上げる。
ビリー「な、何だ?また化け物が来たのか?」
アンビー「エーテリアスじゃない。ホロウ調査チームよ。この前にいる」
ビリー「なんだよ、調査員か……待て、調査員!?」
ビリー「助かったぜニコの親分!調査協会の連中なら、キャロットを持ってるはずだ!助けを求めれば奴らと一緒にホロウから出られるぞ!」
ニコ「なにバカなこと言ってんの、あれって治安局の仲間でしょ?あたしたちはホロウレイダーなのよ。あいつらについてここから出られても、最後は逮捕されちゃうわ」
ビリー「俺たちだけじゃそうかもしれねえが──こいつも一緒なら…」
そう言ってビリーはボンプを指した。
ビリー「覚えてるか?治安局の政策でプロキシを突き出せば手柄として減刑してもらえるって……」
アンビー「ビリー」
ビリー「なんだよ、アン…ビー……」
アンビーに呼ばれてビリーが振り向くと、ハルが真っ直ぐとビリーの方を見据えていた。
心なしか空気がピリついたような感覚を感じ始めた。
ハル「…………………………………」
ビリー「あ……いや、その……あ、あくまで最終手段ってやつで、流石に店長を突き出そうとは──」
ハル「わーかってるっての。別に怒ってるわけじゃねえんだから。ホロウレイダーじゃなくても誰だって自分の命の方が惜しいんだから」
アンビー「でもハル」
アンビーは閉じられたバイザーをパカッと開けると、そこには瞳孔がガン開き、血管の浮き出た両目があった。
ビリー「ウオォォ!?」
アンビー「瞳孔がすごく開いてるわ」
ハル「キレてないっすよ」
アンビー「怒ってる人ほどそう言う」
ビリー「ち、ちちち誓って店長たちを治安局に突き出すようなことは致しません!!」
ビリーは両手と頭を地面に叩きつけ、DO☆GE☆ZAの体勢でそう言った。
ハル「……まあいいや。そんで?どうすんだ、ニコ?どう選択しようが、責めやしないが」
ニコ「……ここは長く留まっていい場所じゃない。行きましょ」
持っていたボンプを下ろして、歩き出したニコに3人もついていった。
アンビー「……ねえ、ハル」
ハル「あん?」
アンビー「あなただったら、こういう時どうするの?」
ハル「そりゃ直るまで待つか……待ちながらさっきの調査員の後をつけて出口を探すかだな」
アンビー「そう……」
ハル「パエトーンは……アキラとリンは今の俺にとって家族同然だからな。どんなにヤバい状況だろうと、俺は家族と友達を犠牲にするようなことは絶対にしない」
アンビー「………」
ハルの眼にはそうした確固たる信念が宿っているのを、アンビーは見えた気がした。
ジリー・プアー……ジリ貧、徐々に不利という意味の忍殺語。