日間3位ありがとうございます。
C.E.70の2月22日、世界樹攻防戦で初めて投入されたニュートロンジャマーは、戦場の様相を大きく変えた。核分裂を抑制する効果もさることながら、何より大きな影響はレーダー機能の阻害だった。
小回りで勝るザフトのMSに対し、連合の艦隊は戦列艦を並べて飽和火力による面制圧力と精密な照準システムにバックアップされたピンポイント爆撃により、拮抗状態を作り出すことに成功していた。
たかだか中隊、大隊規模のMSに対して、師団規模の戦列艦とモビルアーマーが必要となる時点で、万が一拮抗が崩れた場合の被害は連合艦隊の方が大きい、歪な拮抗ではあったが。ニュートロンジャマーが、少なくともその拮抗の天秤を大きくザフトの側へ傾けるものなのは確かだった。
セイルも、その戦場にいた。第8艦隊から第3艦隊に出向させられて、3日目の話だった。
その戦場で、自機をマーカーにしてMSへ接近し、照準有無を誤認させつつリアルタイムで弾道観測を行うことで、戦艦の火力を最大効率で運用するはずだったセイルの思惑は、大きな変更を余儀なくされることとなった。
というか、変更しないと遠からず地球連合側の損害が取り返しのつかないことになると、精神鑑定で佐官への昇格を取り消しにされたことのある機能だけは優秀なセイルの脳みそには想像がついていた。
連合のモビルアーマー、メビウスは悲しいかな弱い。機動兵器とは名ばかりで、戦闘機の宇宙適応モデルの枠を出ていない。初速と小回りでMSに負け、最大加速もしょぼく、頼みの武装は豆鉄砲のバルカンと対装甲リニアガンに有線誘導ミサイル。
MSとの初戦闘でミサイルを直撃させたジンが、多少ガタついていたものの五体満足で爆炎から出てきた瞬間、セイルはメビウスによる対MS戦闘の自己完結を断念した。
そもそもジン1機相手にメビウス5機で拮抗するなど、戦いになっていない。金魚とカツオ位の差があるのだ。舐めてんのか。
メビウスでMSを仕留めるには、多角的な攻撃でスラスターや急所を狙えるメビウス・ゼロで最低限。何か恐ろしく高威力で小型で取り回しの良い火器でもあれば話は別だが、そんなものを小器用に扱えるほどメビウスは優秀ではないのだ。
であれば、やはり戦艦の火力は必須だという結論になる。
必要なのは、旧型艦艇であろうと直撃弾の期待できる砲撃フロー。遠距離でも、ニュートロンジャマーの影響をものともせずに照準が可能なメソッドだった。
戦闘中盤、被弾したセイルが着艦した戦艦では、ニュートロンジャマーの影響下において少しでも打つ手はないかと、旧式レーダーや電装装備を引っ張り出していたところだった。
――思い付きを、とりあえずやってみるか、と行動に移すメンタリティをセイル・オランチョという男は持っていた。
メインとは別でサブエンジンを積み込み、戦艦との通信リンクだけに長じた通信装置を常にアクティブにする。
観測情報を多角的にモニタリング出来るセンサー……は無かったので、古き時代に作業ポッドで使われた三角測量用の計測アンテナを突貫で溶接。
機体全周を観測機器、通信装置で覆われたメビウスなど、ただの的に過ぎない為、コクピット全損で回収されていた誰かのメビウスからブースターを移植。コックピットには臨時の配線とボタン、レバーが倍以上増設された。
代わりに、クソの役にも立たない有線ミサイルとバルカン、弾倉を外す。リニアカノン一丁と山ほどの観測機器、子供が適当に組んだようなブースターでシルエットは太ったハリネズミのようになったメビウス。
メカニックは言った。
「こんなもん、まともに飛んだら奇跡ですぜ」
――知ってるわ、そんなもん。
セイルは余裕の笑みを浮かべてやった。
「なら今日から俺を、奇跡の男と呼ぶんだな」
多くの人間が、その奇跡を目撃した。
型遅れの旧式戦艦が、実に6機ものMSを艦砲射撃で撃墜したという奇跡を。
砲撃を先導するように奔るハリネズミの流星と共に。
ただ生憎と、そのクソダサいニックネームは流行らなかった。
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タネの話をするならば、戦闘開始と同時にナタルはヘルダート対空ミサイルの内4門を、位置情報をブリッツに送信するアンテナ代わりとして宙域に射出していた。
宙域を漂うミサイルは、観測範囲内に入って来たミゲル機を自動でロックオン。そしてその情報をブリッツへ送信。
ブリッツはそのミサイルと自身の位置から三角測量を行い、敵機の位置をマーク。
ロックオンが続く限り位置情報は更新され続ける。
動き回る自身の銃口の先が、送られてくる位置情報と重なった瞬間に発砲した。
そういう事が出来るようにカスタマイズしたOSを、ブリッツは積まされていた。
動き続ける敵機が指定の範囲に来るのと同時に射撃する為、特定の部位を狙う事は不可能だったが、遠隔で再点火したミサイルが当たる程度の時間は稼ぐことが可能だった。
――セイルの上司であるハルバートンは懐疑的な性格だったが、その上で堅実さを重んじつつ、博打の出来る男だった。
悪魔の申し子、女殴るタイプのイケメン、人類最害悪、戦艦に地引網やらせた男、笑顔で押す側の人間、人類の悪性腫瘍、人間の精神に底があるとすればこいつ、不倫裁判36件を共同訴訟された男、ドブに落ちた犬を見て笑える人間等、お前そこまで悪く言うなら置いとくなよレベルの悪評を持っていたが、関わってきた人間全員が、
『間違いなく優秀よ。能力に意思の強さを含むなら、コーディネイター含めてもアレ以上は思いつかない』
ニュアンスは違えどそう言い切る男を懐に迎え入れたりもした……衛生兵上がりで、戦場の聖母とまで呼ばれた女性からまで『アレ』呼ばわりされたことには引いたが……。
そんな男、セイルだからこそ、試験的に作らせた連合製MSのパイロットに推したし、乗らせる以上はそれまで違法改造メビウスでやれていたことは全て出来るようにしてやった。
戦艦と帯同することを前提にした電子機器と、即座に銃口を向けられる高い運動性を持つ機体に、発射と命中にラグが少ないビームライフルは、セイルがメビウスで死にものぐるいでやっていたことを、より高い精度で実行可能にした。
遠距離の戦闘で戦艦が砲撃を的中させることは容易ではない。
だが、戦艦の優れたレーダー機能に相乗りして今度は自分が相手をロックせずに捕捉することで、逆に戦艦の砲撃が当てられる隙を相手に生み出すことが出来る。
ナタル・バジルールの考案したフッケバイン・プロトコル・フェーズ2は、宇宙空間という限定性はあるものの相応の効果を発揮した。
なお、かつてナタルからブラッシュアップしたプロトコルの報告を受けたハルバートンは、
「戦艦に照準をさせて、自分はノールックで………………ハァ?」
と言った。
「吟味はしよう」
とも言った。
セイルから提出された何度目かの佐官昇格試験の申込み書類は、ハルバートンの机下にあるゴミ箱の底敷きにジョブチェンジした。
ナタルは1週間の休暇を言い渡された。
さて、普通の人間は照準機能を使わずに機動兵器のトリガーは引かない。当たるわけが無いからだ。
ただ、人中のカスことセイルは常々、相手の位置が割れていて、銃口と相手が直線で結ばれていて、間に障害物が無いのなら、例えそうした観測結果が外付けの情報だったとして、ガキが撃っても当たるだろうと思っていた。
そして、ガキが撃っても当たるなら、カスが撃っても当たるのだ。
今回で言えば、セイルとアークエンジェルの間に入り込んだ時点で、ミゲルは自分の居場所だけが丸見えの、見えないキルゾーンに足を踏み入れていた。
可哀想なミゲルが爆炎の中に消えていくのを一瞥すらせず、セイルはブリッツのスラスターを全開にしてクルーゼへと追随していた。
『成る程。随分とうまく戦艦を使うものだ』
クルーゼは苦々しく言いながら、ジンハイマニューバに突撃銃を構えさせた。
『奴自身が放置出来ないエースであるのに加えて、そちらに気を取られれば戦艦が。戦艦に向かえば後ろから凶鳥に啄まれるか。さぞエンデュミオンではコーディネイターから恨まれたろうに』
発砲。
ばら撒かれた弾丸は、大きく迂回しつつバレルロールを行いながら迫りくるブリッツにはかすりもしない。
『ん……? なるほど』
クルーゼはその様子に何か思いついたのか、3点バーストに切り替えてブリッツの予測軌道上に弾を撃ち出した。
弾丸がフェイズシフト装甲に弾かれて、宇宙空間に火花が咲く。
「うお、当ててきやがる」
セイルはブリッツのコックピットで冷や汗を流していた。
「明らかに読まれたな……ネビュラ勲章持ちはやっぱ厳しいね」
セイルは軌道を変えつつ追い縋り、時折ビームを放つが決定打は未だ出ていなかった。
それどころか、被弾率はどんどん上がっていく。
『慣れない兵器に乗るものではないな! モーションパターンからアーマー乗りの癖が消えていないぞ!』
「クッソ、ペーパー相手にイキりやがって……」
ブリッツの俊敏性は大したものなのだが、いかんせんその俊敏さを活かせる武装がこいつには無いのだ。
まだ短い付き合いのセイルも、せめて右腕のシールドが打撃にも使えればとか、シールドのフチもビームサーベルになっていればすり抜けざまに切り裂けるのにとか、ライフルも短銃型のをもう一丁持たせろとかは思っていた。あとランサーダートは死ねとか考えたがあいつはもう下船していた。
「ならばっ!」
ブリッツは体をひねり左腕を後方へ振りかぶる。タメを作るような動作に、クルーゼも警戒し距離を置こうとした。
「地獄からの使者、スパイ〇ーマッ!」
ぴゅーん
ひょい
しゅるしゅるしゅる
ぐいーん
ぺしっ
しゅるしゅるしゅる
「……グレイプニール、お前も船降りろもう」
『警戒している相手に正面から有線兵器が当たるとでも?』
再びジンハイマニューバに銃を構えさせたクルーゼの耳に、デブリとは思えない速度で接近する質量のアラートが鳴り響いた。
『むっ?』
振り返ると、少し前にヘリオポリスから射出された救命ポッドがこちらに向かって飛んできていた。
というか、ワイヤーを巻き取られるグレイプニールの爪先に引っ掛かっていた。
「あ、やっべぇ」
どうやら事故だったらしい。
手元までグレイプニールを巻き取ると、救命ポッドを取り外す。
念のため、クルーゼ機に対して『ワレ キュウゴ カツドウチュウ シロウト ハ ダマットレ』と信号も送る。
『……どう見ても巻き込んだようにしか見えんが、こちらも中立コロニーを攻撃するというリスクを犯しているのだ。そんな理屈が通用するとは――!?』
いきなりだった。
自機であるジンハイマニューバの背面スラスター1基が動作不良を警告してきた。
コックピットから確認すると、どうやら角度調整に著しい制限が発生しているらしい。
『馬鹿な、なぜ今……これは!』
何かひも状のものが、自機からブリッツへと伸びている。
左腕に装着されていた、爪状のアタッチメントからだ。
「馬鹿が、かかりやがったな!」
セイルは救命ポッドをその場にポイ捨てして、最大加速でクルーゼ機へ迫った。
『冗談ではない!』
距離を取ろうとするも、スラスター不調により機体が速度に乗るまでに時間が掛かる。
オマケに、ワイヤーの手繰り元はブリッツだ。このままで逃げ切れる目が無かった。
「死ねゴラァ!!!」
セイルはビームを三発撃つと、ここにきて初めてサーベルを起動した。
『ビームサーベルまで!? ちぃっ!』
ビームで片足が吹き飛ぶ中、絡まるワイヤーに重斬刀をひっかけると、それでブリッツのビームサーベルと打ち合う。
耐熱限界を超えた重斬刀が赤熱し、徐々に押し込まれていく。
クルーゼはその状態で、重斬刀にひっかけたワイヤーを掴み、右のマニュピレーターごとサーベルへ押し付けた。
「おいおい、対応力お化けか? 進研ゼミやってた?」
宇宙空間で機体同士が接触している為、二機の間で会話可能な通信ラインが成立する。
『生憎と、君のような輩に対する問題は無かったがね』
「赤ペケ先生なら三人くらい抱いたぜ?」
『……貴様はいつか私が手ずからに殺す』
その言葉を最後に、通信が切れ、ジンハイマニューバの残った足が思い切りブリッツに叩き付けられた。
切斬されたワイヤーが二機の間を流れていく。
『必ず……必ずだ!』
「足癖ワリィな……なんだあいつ、初恋相手が赤ペケ先生だったクチか?」
セイルが姿勢制御を終えた時には、既にジンハイマニューバのスラスター光は遠ざかっていた。
間を置かず、信号弾が打ちあがる。
撤退していくクルーゼ機と、アークエンジェルからだ。
クルーゼの方は撤退信号だろう。
アークエンジェルの方を見たセイルは、
「おお、やるやんけキラ」
どうやらしのぎ切ったらしい。このまま最大船速で突っ切るので、進路上でセイルを拾うとのことだ。
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『今ここで、奴を討てない私を許してくれ、レイ……』
幼いころ赤ペケ先生から褒められた答案を持って、嬉しそうに頬を染めていた知り合いの子供を思い出し、クルーゼは音が鳴るほどに歯を嚙み締めた。
『セイル・オランチョ、貴様はムウ・ラ・フラガ同様に、この世に許されてはいけない存在だ……!』
地球連合が世界に恥じるカスが、人知れず何千回目かの絶ゆる判定を受けた。
右後方より、信号弾を見て撤退してきたアスランのイージスが接近してくる。
『隊長、機体に損傷を!?』
ザフトが誇るトップオブエースであるラウ・ル・クルーゼが被弾したところなど、冗談ではなく初めて見たのだ。
『アスランか。すぐヴェサリウスに戻るぞ。近隣部隊へ伝達し、足つきの追跡と並行して補給を受ける』
『はい……ミゲル達の仇を討ちましょう!』
『当然だ!……ふっ、私もまだまだ、若かったということか……』
見えてきた母艦。終息した戦闘。
しかし、少なくともこの二人の戦意は微塵も衰えていなかった。
SEED世界、C.E.70から細かい戦闘起こり過ぎなんだよ。
良くそれで平和だ和平だの言えたもんだな。