エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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うちのセイルなら、キラをFREEDOM時点でアコードを即殺出来るキリングマシーンに育てられますよ。


第12話 今日から僕は!

 

イージスに乗っていたのはアスラン・ザラだった。

 

 

アークエンジェルへと帰還し、パイロットスーツを脱いで友人達のところへ向かう途中、キラ・ヤマトは苦悩していた。

 

幼い頃、親友と呼べる間柄だった相手が、今はザフトのパイロットになっていた。

彼らの行いのせいで、ヘリオポリスは崩壊し、多くの人たちが今も救助を待っているような状態だ。

 

キラ・ヤマトは苦悶していた。

 

絶対に、絶対に絶対に、何を犠牲にしても、それこそ命のやり取りになったとしても、あの男にそれを悟られてはいけない。

何を言われて、やらされるかわかったものではない。

最悪、自分はブリッツの頭に縛り付けられて人質として使われる可能性まで考慮しなければならない。

 

「お疲れ、坊主。よく頑張ったな」

 

そこへ、ドリンクを二つ手にしたムウがやって来た。一つをキラへ手渡しながら、ねぎらうように肩を叩く。

 

「本当に、お前さんはよくやったよ。クルーゼ隊に狙われて、コロニーを焼け出されて、急にMSに乗せられて……あのカスの玩具になって生き延びたんだからな……うっ泣けてきた」

 

「いくらなんでもあんまりですよ、特に最後……う、胸が……」

 

「そうだな、すまん、悪かった」

 

幻痛に胸を抑えるキラへ、本気で申し訳なさそうにムウは詫びた。

 

「キラー! ありがとうなー!」

 

通路の先から、トールたちが、キラに手を振りながら向かってくる。

 

「キラ、無事でよかった」

 

「お前、本当に、ありがとうな」

 

「ありがとう……」

 

「艦内で戦闘映像が流れてたんだ。あのストライクってのを動かしてたのがキラなんだろ?」

 

トールやサイ、ミリアリアにカズイがそれぞれの言葉で礼を言い、キラを迎えてくれた。

 

「ありがとう、キラ。でもごめんな、俺達のせいで、キラが戦うことになっちゃって……」

 

申し訳なさそうに、トールは目を伏せた。

 

「いいんだ……みんなが無事ならそれでもう――」

 

良かった、守れたんだ。

キラは自分が今抱えている胸奥の苦しささえも、軽くなっていくのを感じた。

 

「いいお友達じゃないの……ちょっと騒がしいが」

 

ムウはしみじみと呟いた。お互いが思い合い、尊重し、感謝する。そんな優しい世界がそこにはあった。

 

 

 

「ヘーイ! ビッグコックボーイ、調子どう? 元気してる?」

 

 

 

この瞬間までは。

 

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「……なんですか」

 

警戒も露わに、サイが一同の前に一歩出てセイルと向き合った。

 

「誰だてめえはデコメガネが」

 

パイロットスーツを脱ぎ、私服に着替えたのだろう。火はつけていない咥えタバコに、上半身はタンクトップ、下はレインボー柄のステテコにビーサンという出で立ちで、セイルはサイを睨み付けた。

 

完全なるヤカラである。

 

「サイ・アーガイルです。キラの友達です」

 

流石にまとめ役的な立ち位置でもあるからか、萎縮せずに返すサイ。

 

「こいつはついさっきまで、俺達の為に戦ってくれていたんです。俺達は何もしてやれなかったけど、せめて今は休ませてやりたいんですよ」

 

「あぁん?」

 

もはやチンピラとしてベテランの風格を放つセイルが眉を八の字にして詰めていく。

 

ちなみに胸元には金色の字でデカデカと『カス虫 〜生まれてきてごめんなさい〜』と書いてあった。

ハルバートンがセイルの女癖の悪さにブチ切れて、わざわざ特注で作らせたものだった。

 

そりゃあまあ、政府高官の娘が姉妹揃ってセイルに遊ばれた挙句捨てられて、そのせいで『え、ワシってこんな新人がやらかした時の中間管理職みたいな怒られ方するの? 准将なんですけど?』ってレベルで関係各所から激詰めにされればストレスで発作的にそんなこともする。

 

セイルはセイルで、実は真面目な子ほど見せた時のウケが良いので気に入って着ていたりする。何なら同じデザインで複数枚買い足していた。

 

……それを知ったハルバートンは愛用のシグ・ザウエルのセイフティを躊躇いなく外して部屋を出ていこうとした。副官のホフマンが止めなければ、使途不明の弾丸消費が最低でも1弾倉分は報告された可能性があった。

 

「サイ、いいよありがとう。僕は大丈夫だから……」

 

さて、キラはそんなセイルと相対すべく、サイを庇うように前に出た。

 

「キラ、お前……」

 

「ありがとう、でも、みんなはこの人に関わっちゃ駄目だ……僕はもう、手遅れだから……」

 

不治の病に冒され余命幾ばくもない中で、それを理由に死地へと赴く悲劇の主人公みたいなやり取りだった。

 

「……お前らなぁ、何か誤解してるぜ?」

 

セイルはそれを見て、呆れたように言った。

 

「そもそも俺がキラを痛めつけたり苦しめたりする訳ないだろ?」

 

「「「「「「え」」」」」」

 

美しい六重奏(ムウ含み)だった。

 

「そりゃさっきは緊急事態で四の五の言ってらんねえから、ちょっと強引にいったけどよ。そんでも、俺達はもう同じ戦場を戦った戦友な訳」

 

肩を竦め、気の良いお兄さん、といった風体でセイルは笑った。

 

「戦友は大事にするよ。当たり前だろ? 誰だって一人じゃ戦えねえんだ。誰かと少しずつ背中を預け合って、戦場を生き抜いていくんだよ」

 

その言葉に、サイ達は安心したように笑みを浮かべた。

よかった、なんだよ良い人じゃん、そんな雰囲気だ。

 

「キラは今日から、少なくともお前らがこの艦を降りるまでは」

 

ニッコリと、満面の笑みで、

 

 

「 俺 の 舎 弟 だ 」

 

 

空気の軋む音がした。

 

その言葉を聞いた瞬間、キラはヒザから崩れ落ちた。

辛うじて上体を起こすも、立ち上がる力が湧いてこない。

着ている服すら耐え難い重さに感じた。

身体を動かすための最も原初の原動力が、根こそぎ失われた。キラはそう思った。

 

「キ、キラ……」「酷え……」「希望が失われると人はああなるのね……」「見て、泣いてる……悲しいんだよ。感情があるんだ……」「無理もねえよ。いきなり人生終わったって言われたようなもんさ……」

 

酷い言われようだった。

 

「俺は舎弟の事は大切にするぜ? まあ、前提として限界まで酷使はするが」

 

ニコニコのセイルを前に、もはや声の挙げられるヘリオポリスメンバーはいなかった。

 

「あー、なあセイル、そんでお前さんは結局、キラに何の用事だったんだ?」

 

仕方なしに、ムウがその場を取り持つことにした。

流石にさっきまで戦闘だったのだ。サイの言葉ではないが、休ませてやりたかった。

 

「ああ、それそれ。別になんてことはないのよ。ブリッツのOSイジってもらおうと思ってさ。また戦闘になる前に何とかしたいんだよ……ってことでキラ、ブリッツの今マニュアルになってるとこの動きパッケージ化して用途によって組み合わせ出来る感じでイオンポンプ連動の設定組んどいてもらえる? ああ、急加速時にケツから持ち上がる感じ、俺嫌いだからスラスター制御は女の機嫌とるみたいに慎重にな。これ明日までで。あとナタルに言ってお前と俺は相部屋にしてもらったから、取り敢えず俺との連携について教えることが二、三百位あるんで覚えてくれる? これは別に今日中でいいから。そんで明日の朝は0600に起きるからその30分前から5分起きに声掛けて欲しくて朝飯はシリアルにプルーン入れたの持ってきてもらっていい? 後コイバナしようよコイバナ。おじさん若い子の赤裸々な話聞きたいなー。あ、酒飲む? 俺は飲むからお前も飲め。そうだ、さっきの戦闘のログから相手の隊長機の動きにパターン分析掛けといてよ。出来たらナタルに渡しといてな。取り急ぎはそんなとこだから、よろしく。俺部屋で寝てるから2000には来てくれな。それまでにOSは完成させとけよ。あ、俺寝起きは良くねえから起こされて怒鳴ったり銃抜いたらごめんな。遅延したらぶっ殺すからな。って伝えに来たんだよ」

 

セイルが言葉を紡ぐ度に、キラの顔から色が消えていく。

重苦しい沈黙だけがその場を支配した。

 

「どうして……」

 

キラは虚ろな目で天井を見上げながら呟いた。

 

「僕は、こんなところに、来てしまったんだろう……」

 

ヘリオポリスでの平和な日々が、走馬灯のように脳裏を走り抜けていった。

 

「僕達の……世界は……」

 

何か最終回で悟りを開いた主人公のようなことを言い始めたキラの前に、トールが歩み出た。

 

「あ、あの!」

 

「おん?」

 

セイルに目を向けられると、トールは一瞬震えたがすぐに持ち直す。

 

「俺も何か手伝えることはありませんか!?」

 

「な!?」「トール!?」「嘘だろ……?」「あらあら」

 

トールの言葉とサイ達の反応を見つつ、セイルは面白そうに聞き返す。

 

「君、名前は?」

 

「ト、トール・ケーニヒです!」

 

「何が出来んの?」

 

「わかりません! でもキラの助けになりたいです!」

 

「ふむ……君等は?」

 

セイルの目が向けられると、サイ達は一度顔を見合わせて、頷き合う。

 

「俺達も一緒です。キラの助けになれるなら、手伝わせてください」

 

「トールがやるなら私だって!」

 

「嫌だけど、怖いけど、何もしないのも怖いから……」

 

「それは、軍属として扱われてもいいってことか?」

 

「構いません!」「はい!」「私も!」「う、はい!」

 

彼等の言葉を聞いたセイルは、感じ入るように目を閉じて深く息を吸い、吐いた。

感動のあまり、その目端からは一筋の涙が零れ落ちた。

 

「素晴らしい、聞いたかタカちん」

 

「やめろタカちんは」

 

「友達の為に、自分達も手伝いたい、人類はこうやって何か大きな試練をいつだって乗り越えてきたんだよ。ちんちん、俺は今、猛烈に感動している」

 

「せめてタカは残せよ!……前半は同意してやるが……」

 

「わかった! 俺から艦長達には話しておく! 今この艦はどこも人が足りてねえ、正直助かるってのが本音だ」

 

俺に任せろ、と言わんばかりにセイルは胸を叩いた。

金色の『カス虫』が輝く。

サイ達も、よかったと安堵の表情だ。

 

「お前ら今日から、全員俺の舎弟、そして部下だ!」

 

「「「「え」」」」

 

サイ達の顔は秒速で曇った。もう日が昇ることは無い。

 

「俺達は今日から同じ小隊、つまりは家族だ!」

 

「「「「これ現実?」」」」

 

「いやー、俺も、そろそろ、いい加減部下を持たなきゃなって思ってたんだよな。何故かみんなすぐにいなくなっちゃうから」

 

「「「「でしょうね」」」」

 

「お前、部隊管理させてもらえないのに功績だけで大尉までいったってマジなの?」

 

「部隊指揮についても天才なんだけどね。クソヒゲが俺の才能を妬んで発揮する機会を与えないようにしてるんだよ」

 

「いや、小隊持たせたら三日で全員が適応障害になったって噂聞いたが……」

 

「「「「でしょうね」」」」

 

「俺と言う環境に、お前らしっかり適応しろよ?」

 

自分を親指で指しながら、セイルはサイ達に白い歯をきらりと見せた。

 

「おい、言っとくが部下はペットじゃねえんだからな? 可愛いがってるつもりでも相手からすりゃ地獄の苦しみってことも……」

 

「だったら地獄の苦しみを『可愛がって頂いている感謝』として受け取ればええやんけ」

 

「「「「やっべえぞこれ」」」」

 

「現地徴用した子供に何かあったらお前――」

 

ムウがそこまで言いかけたところで、艦内放送が入った。

 

『――こちら格納庫。先ほどオランチョ大尉が戦闘中アンカーを突き刺した挙句おとりに使い、最終的に放り捨ててデブリに追突した救命ボートだが、著しく機能が低下していた。その為、オランチョ大尉に人命救助の観点から回収を行わせている』

 

「「「「なんて?」」」」

 

『これからロックの解除を行うが、怪我人や死者がいた場合、回収にあたっての経緯は決して話さないように。また、キラ・ヤマトは格納庫へ。知り合いなどいた場合には取りまとめをお願いしたい』

 

「お、早速任務だな。キラは俺が先に使うから、お前ら行ってこい! ちゃんとナタルには『セイルさんに部下にしてもらいました』って言うんだぞ?」

 

『なお、本件の伝達を指示したが恐らく完全に忘れ今も艦内のどこかをうろついているオランチョ大尉は、救命ボード破損の件も含めた報告書を明朝0500までに作成の上、艦長へ報告するように。以上』

 

「わりいなキラ、さっきのタスクに報告書も追加だ」

 

セイルは颯爽と立ち去っていった。

 

「えっと……あれ許されるんですか?」

 

サイが恐る恐るムウに尋ねるが、

 

「最終的な処分はハルバートン提督がするんだよ。あいつより階級が上の人間はいないから。同じ大尉っつっても、艦長は既に胃をやってるし、俺は所属部隊が違うから。唯一ズバズバ言える副長のバジルール少尉だけが頼りだから、お前らも早めに顔つなぎはしておくといい」

 

その言葉に、子供たちは顔を青くして格納庫へと向かっていった。

 

その場に残されたキラは何度か立ち上がることに失敗した後、ムウに肩を借りてとぼとぼと格納庫へと向かうのであった。

ここからの36時間、キラは睡眠した記憶がない。





シレッとしたフレイの回収、俺でなきゃ見逃しちゃうね。
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