もしもカスえもんがプラントで産まれていたらこの話のヒロインはエザリアさんだったし、その場合幼少期から舎弟にされた事でイザークは感情を失った悲しき獣になっていましたが、カスえもんをパパと呼んだ時に悲しみだけを取り戻しました。
感動的ですね、ナナチ。
「ニコル君、本当にごめんね……もうあんな目に遭わせないようにするから……」
格納庫で、キラは真剣に頭を下げた。
いざという時にはかのアークエンジェル王朝カス帝オランチョ一世の弑逆すらも厭わない、覚悟を決めたセリフだった。
「いいんですよ、キラさん。自分が何に加担したのかはわかっています」
頭を上げてください、とニコルはキラの肩に手を添えた。
「僕は、ヘリオポリス崩壊を聞いてから、ずっと考えていました。中立コロニーが地球連合に組していた……
顔を上げたキラは、応えるように言った。
「僕も、ほんの数日前までは、戦争なんか関係ないって思ってた。でも違った。無関係な人なんかいないんだ。ただ
あのカスに出会い、それが良くわかった。
「戦いを避けたいって思うことが間違ってるわけじゃないんだ。でも、思いだけじゃ何も守れない。じゃあ力があればとも思ったけど、力があれば尚の事、戦いは避けられない……中立って、何なんだろうね」
「お互い、何だか面倒な事で悩んじゃってますね」
ニコルはそう言って笑った。かつてザフトとしてヘリオポリスを襲撃した少年は、屈託のない笑みでキラを見た。
「そうだね。でもきっと、一度でも銃を、力を手に取ってしまった以上は、考え続けていかなければいけないんだと、そう思う」
キラも返すように笑い、覚悟を込めた目でニコルに頷いた。
「へェイ、キラ! お前イージス半殺しで見逃しただろ! 目的未達でニコルの尻は片方を競りに掛けるからな! 売れたらニコルが尻で稼いだ金でジュース奢ってやるよ!」
だと言うのにこのカスは、このカスは……
「ニコル君はザフトの捕虜なんだから、そんな事したらコルシカ条約違反ですよ、大尉」
「キラさん! ありがとうございます! ありがとうございます!」
ニコルは少し症状が改善したのか、半泣きになりながらもキラに駆け寄る位で済んだ。
「ええ? 俺宗教上の理由であの条約守れないんだよね」
「今どき宗教て。どこの神様なんです?」
「俺教。唯一神俺を崇拝、俺こそが戒律にして法律」
「邪神教じゃないですか」
「お、言ったなこいつ」
ニヤついた金髪男は軽く頭を小突き、キラ達の横を通り過ぎて行った。
あまりに呆気ないやり取りにキラは、
「そっか……これで良かったのか」
と呟いた。
何だか今まで、無駄にセイル・オランチョという男を怖がり過ぎていたように思えた。
彼の言葉を借りるなら、キラにとって同じ戦場に出ているセイルは戦友で、曲がりなりにも仲間の命を助けてくれた恩人で、ヘリオポリスでの約束を守ろうとしてくれている軍人なのだ。
そう思えば、普段の態度やワガママも、少しは許せるような気が、キラにはしていたのだった。
「マズイですね」
その光景を見て、アルテミスで受けた補給内容の確認に、マリューやムウ達と来ていたナタルが呟いた。
「むしろ関係が改善したように見えたんだが……そうなのか?」
不思議そうに尋ねるムウ。
よくある先任パイロットが新人を認めてやった瞬間のように見えたのだ。
「ヤツの舎弟となった者は大体3通りのタイプを推移する末路を辿ります」
「待ってナタル、末路って正しい表現……?」
「1つ目が無茶振りタイプ。暇潰しのオモチャにされ、能力以上の要求をされ続け9割の者がここで脱落します」
「人間だけを殺す装置の話してる?」
「次に2つ目、過負荷で精神が摩耗した状態になり、ちょっと普通の会話をしただけのことを、自分が成長したと勘違いし、勝手にヤツを受け入れ、文句を言いつつも自発的にヤツが喜ぶことをしようと動き始めます」
「DV被害者の話かしら?」
「そして3つ目、ヤツの行いに対し正常な判断力を失い、無条件で協力を約束し全力でそれを遂行するようになります。何ならヤツの相棒を自称するようになり、常にヤツを全肯定するようになるのが特徴です」
「人に寄生した挙句に擬態する何らかの生物の話よね……?」
「俺そんな映画観たことあるわー」
「見た所、ヤマトは1つ目のパターンを辿っていましたが、不幸にも耐えきり、2つ目に移行し始めているように思います。危険な兆候です」
ナタルの顔は真面目だった。
「き、危険?」
マリューは青ざめた顔で聞き返す。
嫌よこれ以上、薬は増やしたくないのよ。
「この艦の最大戦力である2機のMSが、実質ヤツの支配下に置かれるということです。衛星軌道上までもう少しですが、仮にヤツの指示でヤマトまでフッケバイン・プロトコルに参加するようになると……」
「あー、CICの負担が増える、とか?」
ムウが恐る恐る聞くと、ナタルは沈痛そうな面持ちで首を振った。
「いえ……恐らくハルバートン提督がキレます。元々この艦は5機のGを運用する想定でしたが、連携する上では機能的にシナジーの薄いブリッツがオランチョ大尉に割り当てられたのは、機動性もそうですが、他のGにはあの戦術をやらせるなという提督のメッセージだった筈です」
「そうなの? ええと、確かにかなり特異な戦術なんでしょうけど、効果はあったように思えたけれど……」
「何を仰っているんです。戦艦の砲撃の的にするんですよ? 仮にも連合の最新兵器を、習熟訓練もなしに何機も費やしていい戦術ではありませんよ」
言われてマリューも、ハッとする。
効果だけ見れば大したものだし、カスが軽々と熟しているから誤解していたが、冷静に考えたらドッグファイトの最中に前後左右から敵と味方の弾が自分に飛んでくる等冗談ではないのだ。
フェーズ2に至っては曲芸も良いところだ……何故かナタルは鼻高々に『こっちの方が実用的』位の事を言っていたのだが、宇宙空間で照準装置の補助もなく、直進しかしない弾が当たる訳ないのだ。
マリューだって素人では無いのだから、ヘリオポリスの後でこっそりとムウに聞いたのだ。
『大尉なら、あの戦術を実行可能ですか?』
と。
ムウはまるで自分の身内親族全員を人質に取られ、目の前でこめかみに銃口を突き付けられた時のように慎重に言葉を選び、
『その場合、命じてきた艦長は夜な夜な小動物の生き血を啜り常に酒を飲みながら指揮し全裸で艦内を徘徊するなど完全に正気を失っていたって証言するかな……ブリッジを破壊した後の軍事法廷で』
と答えた。
どうやら裁判になるようなことをされるらしかった。というか、ブリッジを撃たれるらしい。
「で、でもほら、オランチョ大尉だって提督のご意向は理解してるんでしょ? なら、そんな無茶は……」
「アレは提督が嫌がることなら真摯に取り組みますよ。提督のまだ幼いご子息に取り入り『パパよりセイルさんの方が好き』と言わせた男ですよ? 仮に強奪が無かったなら、今頃パイロット達は全員ヤツの舎弟だった事でしょう」
「か、艦載機の9割がオランチョ大尉の……? 想像しただけで胃に穴が空きそう……」
「提督可哀想過ぎない?」
「泣きながらレミントンM870を持って艦内を歩く提督は印象的でした」
「印象しかねえだろ、それは」
「お労しい……」
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「やっぱり、水が足りないですね。飲む分はどうにかなりますが、生活用水が……」
アルテミス出航の翌日、尉官ミーティングで集まった4名の軍人達は、会議室で頭を悩ませていた。
「シャワーはともかく、トイレとか掃除用の水もよね?」
マリューの質問に、ナタルが頷く。
「はい。機体の除染やメンテナンスにも水は使いますし、その他の用途も含めれば、このままで行くと3日後には飲み水以外が枯渇するでしょう」
「うーん、男連中はがさつなヤツならそこまで気にしないんだろうけど、女性陣がいることを考えるとなぁ」
「とは言え、補給手段が無いことには……」
マリューはお手上げと言った風に呟いた。
せめて1日の終わりに体を拭いて髪をとかす位はしたかった……
「おたくは何か思いつかないのか?」
ムウに振られたセイルは、先日アルテミスでマリューが撮影した衣装姿のナタルの立体造形を下から眺めながら答えた。
「もう面倒くせえから、ヴェサリウス返り討ちにして強奪しちゃう? こっちも半分以上死ぬけど、死んだらその分水使わなくて済むじゃん?」
「それで負けちまったら色々終わりだろ」
「追加ブースターとありったけの爆薬積んだ機体で特攻するんだよ。メビウス・ゼロっていうの。最悪相打ち狙えるって」
「ぶっ殺すぞ」
「ほな無理か」
「現実的な案をお願いします……ところで、その人形は?」
「3Dプリンターで作った。キラは造形全然駄目なんだけど、新たな下僕にして舎弟、ニコル君が芸術肌でな。キラプログラミング、デザインド・バイ・ニコルによる乳尻太もものビルドアップナタルの作成に成功したんだ」
「ヤマトは戦時任官の特務少尉でしたね」
「お、おう……確かそうだな、坊主はパイロットだし。戦闘時のみ少尉待遇だ」
「後でアマルフィと2人で艦体の掃除でも言いつけておきましょう……モップで」
「坊主……」
「ニコル君まで……」
「コロニーとか、なんか無いの? それも無いなら、この話終わりじゃね?」
人形のホットパンツを脱がせながらセイルは言った。
下着も完全再現らしい。
「……その下着は?」
「ニコルに母親の勝負下着でいいから履かせろっつったら作ってくれた。たまに親父が襲われてるらしい」
「今日イチで聞きたくなかったなー、その情報」
「……あの1つだけ提案があるの。皆の意見を聞かせてほしいのだけど……」
マリューは意を決したように口を開いた。
このままでは、なし崩し的に話し合いが終わることを察知したらしい。
「少し進路から外れるけど、航路の一部が重なるのよ……その……デブリ帯と」
「っ! おいおい、そりゃ……ま、他に手もないか」
意図を察したのか、ムウが驚きの声を上げる。
「……成る程。確かにあそこなら、放置された物資も残っているかもしれませんね。除染し不純物を取り除けば、水は使えるかもしれません……」
「あー、あの宇宙に不法投棄されたゴミ溜め? いいんじゃね? ケツ拭いたり垢流したりする水の産地に拘ってもしゃあねえだろ」
とうやら、首脳陣に反対意見は無いらしい。
「それでは、本艦は針路をデブリ帯……ユニウスセブンへ変更します。クルーや避難民の感情面での問題が起こるかもしれない為、事前に説明は行います。御三方も、反対者が出たら別個に対応をお願いします」
「任せな」
カスは胸元から拳銃を取り出しスライドを引いた。
「俺の相棒は説得が得意なんだ」
「バジルール少尉はオランチョ大尉をくれぐれも本当に本当に本当に本当にお願いします。あ、胃が、胃がキュルキュルいってる」
「ああほら、白湯飲んで、一息入れてから仕事に戻ろうな」
そうして、アークエンジェルは一路デブリ帯……かつてユニウスセブンと呼ばれた廃コロニーへ向かうことになった。
クルーゼはレイ(幼)が赤ペケ先生にほのかな恋心を抱いた際、『一度も会ったことのない人を好きになるなんて変でしょうか。とても字の、綺麗な方なんです』という相談を受けていました。
クルーゼは『君が感じた想いは君だけのものだ。それこそが最も価値のあるものだと言える。その想いを否定など、私はしないよ』と後方古参ヅラ厄介ファンみたいな顔をして回答しました。
レイの初恋はそこから約2年続き、思春期の訪れと共に卒業しました。
クルーゼにとってそうしたレイの様子は、自身のもう一つの可能性を見ている気分になり、まさに生の映画を観ているようなもんで、完全にステーションバーおじさんのメンタルとなっていました。
クルーゼ視点だと、そんな花の咲き乱れる聖域に無断で侵入して一面をダイナマイトで吹き飛ばした上に排泄物を撒き散らし、思い出と言う名の花壇をただの肥溜めランドにしたのがセイルなんですよね。
ワンアウトってとこですね。