エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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結局カスがカスムーブしてだけでえらい文字数が嵩んでいくですよね。


第19話 歌姫キャッチ・アンド・リリース 幕間

 

「キラの、メンタルケアですか?」

 

医務室でミリアリアの問い返した声に、ムウは重々しく頷いた。

 

「うん、まあ、正直俺も艦長も、民間人を戦わせるのはどうなんだって思いはある。あるんだが、その強がりを言ってられないくらい人手も足りん」

 

ベッドの上で上体を起こしたマリューもまた、気怠げな表情で続けた。

 

「本当に感謝しているわ。皆の協力が無ければ、この艦はここまでだって来ることが出来たかどうか……」

 

「でな、早々にブリッジ要員として働いてくれた君等のことも勿論気にはかけてるつもりなんだが……」

 

「キラ、ですか?」

 

「なし崩しで戦闘させちまって、即カスの舎弟生活、ろくなフォローもなしに連戦。しかもこの前のアルテミスじゃ、何やら相手に訳アリな様子だったじゃないか。このままだと、それこそ艦長みたいに倒れるか、限界が来ちまうんじゃないかって、心配なんだよ」

 

それは艦を、ひいてはクルーの安全を預かる軍人としての矜持が言わせたセリフだったのかもしれない。

しかし、この2人が本質的には優しい人なのだということを、職場でのやり取りを通してミリアリアはなんとなく理解していた。

 

「とは言え、俺や艦長、副長がサシやら囲んで話したいって、そりゃ酷だろ? 出来たら、ヘリオポリスで仲の良かった君等で話を聞いてやれないかな?」

 

「……わかりました。トールもキラのことは気にしてましたし、サイも落ち着いてきたので、やってみます」

 

なおカズイはようやくカスドリンクの効果が切れ始めたところに、カスによる追いカスドリンクをされたことで、連続稼働時間が80時間を超えた為、全身麻酔により強制的に意識を遮断される処置をされていた。

 

しかし脳波的にはまだ半覚醒状態であり、医務室の担当からは『あのカスは何を飲ませたんだ』と怒りの声が上がっていた。

つまりカズイは不参加となる。

 

さて、そんな話を持ちかけられたトールとサイは、二つ返事で協力してくれた。

 

「うん、そもそもキラがヘリオポリスで戦ってくれたのは、俺達の為だったんだ。せめて手伝いが出来ればってブリッジに入ったけど、それであいつのシンドさが無くなるって訳じゃないよな」

 

「あいつウジウジ悩んで抱え込むからさ、皆でメシでも食いながら、話してみようぜ……カズイの分もさ」

 

「そうだよね、カズイもきっと、同じ気持ちよね。キラのこときっと心配してると思うから……」

 

トールとミリアリアは2人して天井を見上げた。

地上からは見上げるような星々も、宇宙ならもっと近い所にあると思うから。

 

「……カズイは死んでないだろ? 何なら艦長達と話してた時ミリィの後ろで寝てた筈だろ?」

 

サイはそんな2人に若干引いていた。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

キラの朝は早い。

昨日はユニウスセブン跡の探索や予期せぬ戦闘、そしてラクス・クラインとの思わぬ邂逅。色々考えている内に朝時間となっていた。

 

今日は早くから、首脳陣でラクス・クラインへの聴取を行うと聞かされている。

 

それはさておきキラの朝は早い。

 

目覚めて最初に目に入るのは、向かいのベッドで眠るカスの姿だ。

まだ10日余り寝起きを共にしたくらいだが、キラの知る限りカスは寝る時パンツしか履かない。

 

普段タンクトップや丈の短い服を着ているから分かってはいたが、腕が太い。鍛えていないとならない筋肉の付き方をしている。

加えて腹筋も腹斜筋も、寝ているはずなのにその形を主張している。

 

朝イチで目に入るのがそれだ。

最悪の目覚めである。

 

次にキラは手早く自分の身支度を済ませると、足早に食堂へ向かい、カスに指定されたメニューを用意する。

今日は『パンで何か挟んだいい感じのやつ』だった。日に日に注文が雑になっていく。

 

食事を持って部屋に戻り、それをテーブルに置く。

 

「セイルさん、朝ですよ」

 

ひと声かける。カスは微動だにしない。

いつもの事なので気にすることなく、キラは端末を開いて自身のタスクを開始する。

 

今日はカスが『アークエンジェル艦内を使った椅子1GP』を開催すると言うので、競技用キャスター付き椅子の設計を行うことにした。

競技用のキャスター付き椅子ってなんだろう、という疑問を抱く心はとうに失われていた。キラは椅子に推進用の翼と空気抵抗を減らす三角錐型の衝角を外付けする『キャスター付き椅子エールストライカーパック』の図面を作成し、細かな翼角度の調整やそれによって得られる加速の計算を行いまとめていく。

カスは雑に仕事を投げる癖に、チェックの目は厳しかった。

 

最終的に、MSがデコピンで押し出せば時速60キロはキープ可能な椅子が完成したので良しとした。

 

「耐久的に、椅子のフェイズシフトは必須、と……よし、セイルさん、起きて下さい、朝ですよ」

 

ひとタスク終え、再度声をかける。カスは微動だにしない。

 

「……次は、昨日拾ってきた偵察型ジンのレーダー機能とアークエンジェルの相互リンク及びターゲッティング共有システムか……流石に連合艦とザフトのMSじゃ規格が……サードパーティ製で何かないか……ちっ、これじゃ要求値に全然足りないじゃないか……仕方ない、アークエンジェル側をホストに子機として機能するアプリケーションを作成してジンのOS上にゲストでインストール……!? 何だこれ、このジン、ストレージ領域がほとんどレドームの運用に割かれてる……見えないところでケチるなんて、仮にも主力機の発展型なのに……」

 

その時、カスの枕元にある目覚まし時計が鳴った。

 

パァン

 

寝ていたカスの手にはいつの間にか自称相棒の『TTI C.E.64 コンバットマスター』が握られており、銃口からは既に硝煙が立ち昇り、発射された9mmの薬莢が床に跳ね、弾丸は時計に突き刺さっていた。

 

なお時計は『俺がいるのに近接しか出来ないとか邪魔』というカスの独断により、未だ出番のないソードストライカーパックの一部を削り取ったものを、マードックにダマで加工させたものだった。

9mm位では壊れないし、表面の特殊加工により弾はめり込んで止まっていた。

 

このカスが装填済みの銃を枕の下に置いて寝ていることを知ってから、キラは起こす際に一切近寄ろうとしない。

 

「あ"〜なんだよキラ、こいつが鳴る前に起こせって言ってるだろ?」

 

彫刻じみた体躯がまるで駆動音を上げるように軋みながら、その身を持ち上げた。

 

「いつも言ってますけど、起こしてはいるんですよ。起きてこないだけで」

 

「んーあー……ふぅ」

 

カスは枕元の煙草に安っぽいガスライターで火をつけて、美味そうに煙を吐き出す。

 

「ぽんぽん減った」

 

「そこにサンドイッチがありますよ。具はチキンペーストと豆だそうで」

 

「チキン……チキンか」

 

「贅沢言わないで下さいよ。パイロットは優先的に食事を用意してもらえるだけ、ありがたいんですから」

 

「俺の欲望は正直者なんだよ」

 

「他の選択肢は野菜かアンチョビペーストでしたよ?」

 

「チキンサイコー、実は幼馴染なんだ。結婚の約束もしてる。式場は俺の胃袋」

 

「よくもまあポンポンとそんな……それじゃ、僕は食堂行って食べてきますから、これ競技用のキャスター付き椅子の設計図です。作るならマードックさんに言ってくださいね」

 

キラはそう言うと、印刷しておいた資料をカスに渡し、食堂へ向かうことにした。

 

 

 

「キラ、これからご飯? よかったら皆で食べない?」

 

そこで、トレイを持ったミリアリアに声を掛けられた。

見ればトールとサイもいた。

カズイは医務室だろう。なんかそんな話を一昨日位に聞いた気がする。

 

「うん、いいよ。食べようか」

 

キラはそう言うと、レーションを中心としたセットを載せたトレイを持ち、彼らの待つテーブルへ向かった。

そう言えばヘリオポリスを出てから、あまりゆっくりと会話する機会に恵まれなかったな、とキラは思い出した。本当に、10日足らずの間に色々な事が起こったものだった。

 

「皆は調子はどう? 大変じゃない?」

 

「大変は大変だけどよ、皆なんとかついて行ってるよ。キラこそどうなんだ?」

 

なるべくヘリオポリスのあの頃と、変わらぬように意識してトールは問い掛けた。

 

「僕? 僕はまあ……」

 

キラは考えるように天井を見た。

 

「うん、慣れてきたって、そう言うのが多分正しいと思う。最初は大変だったけどね」

 

そして、苦笑いと共に答えた。

 

「まあそうだよな。いや、俺達が簡単にわかるとか言っちゃいけないのかもしれないけどさ。感謝してるのは本当なんだぜ?」

 

「俺達ヘリオポリスを出てから、本当に色々あったけど、それでも今こうしていられるのは、キラのお陰だって思ってる」

 

トールに続けて、サイが穏やかに笑った。

 

フレイ・アルスターの件があり一時期落ち込んでいたが、ナタルからの『大尉に一目惚れするって事は男を見る目が無いってことだぞ。そんな女と恋人になりたいのか?』という至極真っ当な指摘により自分を取り戻していた。

 

今ではフレイを見掛けたり声を掛けられても、心臓を押さえながら崩れ落ち10秒ほど呼吸困難になるだけで済んでいた。

それを見て見ないふりする程度の情けは、クルー達にもあった。

 

「そんなことないよ……僕だって皆だって、ただ必死だっただけで、今こうしていられるのも、すごい偶然の結果なんじゃないかって思うんだ……ほんと、毎朝思ってるよ」

 

「……その、やっぱり戦闘は、辛い?」

 

ミリアリアからのストレートな問いに、

 

「……? いや、戦闘は正直そこまで……あれ、皆セイルさんの無茶振りの話してたんじゃなくて?」

 

「キラ……! お前……」

 

「そうじゃねえだろ!」

 

「ねえキラ、落ち着いて考えて? 一歩間違ったら命の危険があるのは隊長と戦闘のどっち?」

 

「えっと、7:3で隊長、かな」

 

「キラ……キラァ!」

 

「すまねえキラ……すまねえ!」

 

「そんな……ごめんなさいキラ、私達、全然駄目だね。もっとキラを助けてあげたかったのに……」

 

(なんだろう、この、戦場でなんとか生き延びたけどそれは自分達の成果ではなく仲間の1人が銃弾を代わりに受け止めてくれていたからだった事を、戦闘後に仲間の傷跡を見て気付いたようなリアクションは……?)

 

キラは不思議に思いながら水を飲んだ。

 

「キラ、私オペレーターだから、この前の戦闘で聞いちゃったの。相手のパイロット、知り合いなんでしょ? そんな相手と戦うのは、きっと辛いことなのよ」

 

ミリアリアの追い縋るような言葉に、キラは考えた。

しかし、正直アスランとのことを考えるよりもセイルに言われた『コックピットに電子レンジつけてよ』という舐めたタスクの為に機体の配線から見直す作業の方がよほど骨が折れることだった。

 

「キラお願い、1回隊長の事は忘れて? 優先順位がバグってるわ。戦闘でのことに絞って、話を聞かせて欲しいの」

 

ミリアリアは辛抱強く言葉を重ねた。

友人はどうやら正気ではない、なんとなくそれを感じていた。

 

「そうは言ってもな……」

 

食事も終わり、キラはきちんと考えを整理してみるも、答えは出ない。

不意にこみ上げてきたあくびを誤魔化すように、両手を前に出し伸びをしながら、

 

「強いて言えば、この前イージスに乗ってたのがアスランっていうんだけど、子供の頃は一時期ウチで預かってたこともあって、兄弟同然に過ごした親友だったんだ。驚いちゃったよ、アハハッ」

 

そうぶちまけた。特になんの呵責もなく。

 

「キラお前、馬鹿野郎!」

 

サイがキラの頭を抱き寄せて叫ぶ。

 

「言えよ! そんな辛いことって無いだろ! ごめんなぁキラ、ずっと無理させてたんだな、ごめんなぁ!」

 

「そうだぜ、笑ってんじゃねえよ! お前、嫌だって言わなきゃ、言ってくれなきゃわかんねえよ……」

 

トールも半泣きである。

 

「辛い……そうか、アスランと戦うのは辛いことってだって、僕は思ってた筈なのに……なんで……あれ、涙が……」

 

「キラ!」

 

ようやく人の心を取り戻した友人に、ミリアリア達は抱きついたのだった。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

「ええと、つまりお姫様は本当にユニウスセブンの追悼慰霊で来てたところを、地球軍の艦に襲われて危うく脱出した、と?」

 

ムウは聴取の結果を書き取った内容を総括して言った。

 

「ええ、私以外の人達も、無事でしたら良いのですが……」

 

「あのジンはきっと、報告を受けたから探しに来てたんですよ。なら、誰かしらが生き残ってたってことでしょう。今はそれ以上気にしても仕方ありませんよ」

 

「そうですわね……ありがとうございます、フラガ様。気遣っていただいて……」

 

「いやいいんだが……調子狂うな」

 

頭を掻くムウに代わり、今度はマリューが尋口を開く。

 

「一応確認ですが、この艦は地球連合軍のものです。貴方が一般人であるのなら、艦隊に届けた後で正規のルートで返してあげることも出来るのだけど……」

 

「存じております。私の父がシーゲル・クラインである以上、事情が変わって来るのだということは」

 

「捕虜の扱いについてはコルシカ条約に則ったものになります。おいそれと貴方に危害を加えるような者は居ないかと思いますが、念の為艦内の一室に軟禁させて頂きます」

 

ナタルの言葉にも動じた様子はなく、ラクスは微笑みを崩さなかった。

 

「あの、もし可能でしたら、私を拾ってくださったパイロットの方にもお礼を言いたいのですが……」

 

「……ご要望はわかりました。叶えられるかは本人の意思に任せますので、今はお部屋へお願いします」

 

「わかりましたわ。どうかよろしくお願いいたします」

 

 

 

保安部によって部屋へ連れて行かれたラクスを見送って、残った3人は盛大にため息を吐いた。

 

「やれやれ、まさか本当に厄ネタとはね。あちらさんへ返すにしろ、一旦ハルバートン提督のとこへ連れてくにしろ、扱いは相当デリケートにやんないとな」

 

「そうね……可哀想だけど、部屋からは出せないでしょうね」

 

だってほら、ウチにはカスがいるから。

ピラニアのいる川に、金魚は生息できないのだ。

 

「少なくともお嬢様然とした相手はヤツの好みからは著しく外れますので、一旦は大丈夫かと」

 

「そうなの? そういや、あいつにしちゃ興味を示してなかったな」

 

「士官学校時代に、一度痛い目にあってますから」

 

「あら、それは楽しい話?」

 

「いえ、単純に、教導担当の箱入り娘に手を出したところ、訓練メニューが10倍に増やされた挙句曲射の標的にされたので」

 

「なんで生きてるのかしら……」

 

「それは士官学校最新の七不思議の1つです」

 

まあ、良いザマでしたが、とナタルは言葉を締めて、報告資料の作成に取り掛かった。

3人とも、戦闘するかしないか位の事で頭を悩ませていたヘリオポリス脱出直後が、酷く懐かしかった。





カスの愛銃『TTI C.E.64 コンバットマスター』は捏造です。
デザイン的にはジョン・ウィックがホテル戦でバカバカ撃ってたアレです。グリップがかっちょいいですよね。

仮にカスがプコーディネイターでザフトに所属していた場合、

カス「中立のコロニー襲うんすかぁ?」

クルーゼ「気が進まないだろうがここで手をこまねいては……」

カス「え、じゃあ毒ガス流し込むか外壁穴だらけにしてワイヤーも切っちゃおうよ。面倒くせえじゃん、抵抗されてもさ」

クルーゼ「え」

カス「ほらほらたーいちょ、指示してよ隊長、隊長の責任でさ、やっちゃおうよ。隊長の、ちょっとイイとこ見てみたーい!」

クルーゼ「……震えているのか、この私が!?」

ってなってGは全部強奪されます。艦も。
ジークアクスSEED始まったな。
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