エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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男女関係は書くのが難しいですね。


第22話 その点トッポってすげえよな

 

「大尉、これ無理っすわ」

 

マードックはお手上げといった風に言った。

 

「いくらこの艦がG運用を前提してるっても、四肢全損は……そうでなくても十分な物資もないんで、こりゃ下手すると第8艦隊と合流するまで使えんですよ」

 

目の前には、欠損した四肢に加え、胴体にもいくらか弾痕の残るブリッツの姿があった。

 

「トリケロスは丸々予備があるんで、右腕はどうにかなりますがね。他の手足となると……」

 

「フェイズシフトがあること前提の整備計画だろうからなぁ。しゃあねえか?」

 

セイルも煙草の煙を吐き出しながら、

 

「なんか急ごしらえでもいいから、どうにかなんない?」

 

と聞き返す。しかし、声色からは駄目そうな雰囲気が駄々洩れだった。

 

「そうですね……左腕は最悪、ストライクの予備パーツと合わせれば、取り合えずフェイズシフトが出来る棒くらいにはなるんじゃないですかね」

 

確証は無さげに、マードックは呻いた。

 

「脚はなぁ……AMBACするなら質量は必要だし……ジンの脚でもつけちまいますか?」

 

「偵察型は別で使いてえからなぁ……さっきのキラたちの戦闘で鹵獲したパーツとかないの?」

 

「ブリッツの状態的に、必要になるかもしれんと坊主にトンボ返りしてもらいましたがね」

 

マードックは癖毛頭をぼりぼりと掻いた。

 

「回収できたパーツ、両方とも右脚なんすわ。しかも大腿部が破断しちまってて、ありゃくっつくかどうか……」

 

「もう最悪、背面スラスターが動くならそれでいいからさ、付けられるパーツは全部つけちゃってよ」

 

「へえへえ、ああちなみに、トリケロスは新品ですから、ランサーダートもついてますよ。流石にこれ取り外すのは最後にさせて下さいや。坊主に制御系いじってもらわにゃなりません」

 

「うお、忘れたころに復活しやがる」

 

「ジンや戦艦相手ならいい武器だと思いやすがね」

 

「その辺相手ならそれこそビームでええやんけ」

 

「そりゃあまあ……何でこんな武器付けたんでしょうね」

 

「わっかんねぇー。こればっかりはわっかんねえなー」

 

ぽけー、と煙を吐きながら、セイルはのんびり言ったものだった。

修羅場は越えたからか、既に緩み切っていた。

 

「まあ、いざという時の為に今言った補修だけは頼むわ。どうせあと3日ちょいでクソヒゲに会う事になるし、あいつんとこで直そう」

 

「そん時ゃ、交渉は大尉からしてくださいよ?」

 

「いやいや、艦長閣下に頼むわ」

 

「それまでは、手足の4本中3本が実質棒ですからね。もし乗るなら覚悟しといてくださいよ」

 

「あいあいー」

 

まったく、と太い腕を組んで溜息をつくマードック。

あえて触れないでいた話題を口にするかしまいかを逡巡し、離れた位置でメビウス・ゼロの前にいるムウ、艦長と目が合った。

 

ムウは胸を揉む動作をしながら、よろちくび、と口だけ動かした。鳥類は高く飛ぶ為に脳みそも小さいというのは本当らしい。

横にいるマリューも気付いたのか、同じジェスチャーをしながら、A.S.A.P.(なるはや)で、と口だけで言ってきた。あんたがそのジェスチャーしちゃ駄目でしょ。大分テンパっているらしい。

 

これあれだ、何か問題になった時、士官側では指示してないって言い張る時のやり口だ。

だってほら、ムウはちくびとか言ってるし、艦長も急げとしか言ってない。

何なら二人とも声は出してないのだ。

自分が勝手に動いた感じの話になるのだ。

 

マードックは大きな大きな、溜息をついた。

 

「そいで、どうするんです?」

 

「あん? だから修理は……」

 

「副艦長っすよ」

 

まー奥様ったら、おっかない笑顔ですこと。

マードックはなんだか自分がとんでもなく殺傷力の高い地雷原を歩いているような気持になった。

 

冷静に考えるとこのカス虫、ここまでの10日ちょっとの航海で、20発近い銃弾を撃っているのだ……艦内で。誰も死んでいないのは奇跡だと思うし、キラとの相部屋の壁にはその内半分近い銃弾が埋まっているらしい。

カートリッジ補充してー、と空を持ってこられたマードックは三回くらい見直したのを覚えている。恐ろしく引き金が軽い男だった。

 

「あー……」

 

ショートし火花の散るエンジンに手を突っ込むような心地で、マードックは言葉を選んだ。

 

()()()()じゃないすか」

 

選んだが、不器用な男にそんな上等な選択肢は用意されていなかった。

 

あの時、MSよりスクラップに近い状態のブリッツから降りてきたセイルとラクス。

流石に憔悴した表情のラクスは、すぐに近寄ってきたフレイに手を引かれて医務室へと向かった。

 

騙されて怒られる羽目になったマードックが怒鳴るよりも早く、マリューが珍しく「あなたねぇっ!」と言いかけたその時、稲妻のように走り込んできたナタルが、投球フォームのように振りかぶった平手を、カスの右頬に叩き込んだ。

 

全員が唖然とする中、肩を震わせたナタルは目元をグイと拭うと、何も言わずに去っていったのだ。

 

全員何も言えなかった。

 

「泣いてる時が一番ブサイクで可愛いんだよな、ナタルちゃんは。怒り過ぎて泣くんだよいつも」

 

なのにカスはこんなだ。

 

「いつもって、今まで何度泣かせたんです?」

 

「今回入れて……五、や、四回かな」

 

……子供の時、■■――■■■、世界樹攻防戦、エンデュミオン、今回……ほら、()()()

 

「そういや、副艦長とは長いんで? 第8艦隊じゃ一緒だったのは知ってますが」

 

ちょっとそういう話をそこだけでしないでよ! 共有して共有、報連相! 後でレポート!

遠くから艦長がクソみたいなハンドサインを飛ばしてくる。セイルの背中越しに見た艦長は、下世話なオバハンの霊を背負っていた。

 

「……10歳の頃だよ。俺は一般家庭の素朴な少年だったのに、『個人の自由と権利を侵害し学校の風紀を混乱させるな!』とか言って突っかかって来たお嬢様がいてな」

 

「侵害して混乱させてたんすね?」

 

「まさか。ちょっと学校内に専用通貨を流通させてオママゴトにリアリティを追加しただけさ。市場規模が広がって奴隷制度まで発生したのは驚いたけど。他クラスの奴をさらってきて開催する奴隷オークションは笑っちゃったよなー」

 

「主犯じゃないすか」

 

「結局通貨は使うより絞る側に回った方が儲かるんだよな。あれは勉強になったわ」

 

「管理する側だったんすね?」

 

「造幣局局長、校内秘密警察長官、生徒会長を務めていた俺に隙はなかった」

 

「三権分立をご存じでない?」

 

「そんで、お嬢様に無実の罪をでっちあげて奴隷落ちさせて、オークションにかけさせたのを、俺が直々に落札してやった時、初めて泣かれたんだよね」

 

「この人すげえな、過去から今までたっぷりカスが詰まってるよ」

 

「奴隷制度自体は、学校での扱いを担保に家族へ()()を要求して現金化するスキームだったんだけど、まあ当時中佐だった彼女の親父さんがブチ切れましてね。あえなくこの遊びは終焉となったのさ」

 

「職業軍人に介入されたの? 10歳児が?」

 

「一個小隊規模の私兵だったよ。即日でナタルちゃんを取り戻しに来たのね」

 

カスはしみじみと思い出すように目を閉じた。

 

「二回までは撃退したんだよ。それで学舎が半壊してね」

 

「しちゃったんだ撃退、そして半壊」

 

「俺の作戦立案能力は学校に攻めてきたテロリストをどう撃退するか繰り返し想像することで鍛えられていた。途中からなんかナタルちゃんもノッて来てな。私兵連中の情報源として大変活躍してくれた。何だかんだそれからの付き合いなんだよね」

 

懐かしいなー、と唸るキング・カス。

 

「あいつんちは代々歴史ある士官学校に中等部から入るらしくてな、推薦入学決まった時は自慢気に言いに来たよ。あの頃のナタルちゃんは本当に可愛かった」

 

「あの副艦長にもそんな時期がねぇ」

 

「『私は春から違う学校なんだからな! もうお前が規律を破っても、叱ってやれないからな!』って、あの頃から変に真面目だったよなぁナタルちゃん」

 

「うわぁマジかよこいつ、マジかよ」

 

「だから、一週間位徹夜して同じ学校受けて一般トップで入学して答辞を読んでやったんだよ。あん時のナタルちゃんの顔は傑作だったぜ。泣きそうなのに笑ってんの」

 

「うわぁマジかよこいつ、マジかよ」

 

マジかよ。マードックは四度言った。

 

「……ま、そんな長い付き合いだ。少し位の愚痴なら聞いてやるか」

 

セイルは肩を竦めると、歩き出した。

きっと仲直りに向かったのだろう。マードックはなんだかむず痒い思いを抱えて立ち尽くした。

 

「ありゃあ……あー、噂通りの女癖の悪さも納得だわなぁ。大切さの度合いというか、置き場所が完全に違うんだろうなぁ」

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

さて、ユニウスセブン跡へ立ち寄ったせいで、ヴェサリウスに追い付かれることは確定的な状況だった。

 

武力による足止めは分が悪く、一時的な足止めならともかく、撤退させる程に人質としての価値がニコルにあるかは微妙だった。

少なくともセイルなら早々に見捨てている。

 

それこそ、ユニウスセブンで発掘した死体でも艦に張り付け人間の盾(死体)代わりにしようかとも思ったが、試しにブリッツに掴ませた死体は、死後過酷な環境の宇宙空間を漂っていた為か、グシャグシャになってしまった。

 

うっわ、えんがちょ……あれ、こうやってバラバラにした死体を組み合わせたら、なんかビジネスに使えるんじゃないかしら……?

カスは一旦問題を棚上げしていた。

 

そうしたら、忠実なる一の僕にして舎弟であるキラが、ゴミ山からジョーカー(ラクス・クライン)を拾ってきた。

小躍りしたくなるほどテンションの上がったカスは、キラの位置づけを舎弟から心の友にして相棒(下僕)に格上げしてやった。

 

しかし、彼女を一目見た瞬間、野獣じみた直感が働いた。それは長年セイルを支えてきた感覚だった。

無視すれば大抵ヤバい目に遭ってきた。

 

その直感が言うのだ。

 

 

ラクス・クラインは自分にとっての厄ネタになり得る。

 

 

直ぐ様切り札を切る決断をしたセイルは、無断で交換交渉に赴いた。

 

その直感はヴェサリウスへの道中、交わされた会話によってより強固になった。争いを憂い、悲しみつつも、彼女は一度として戦う事を否定しなかった。自身の選択肢からも外すことは無かった。

 

セイルとラクス、お互いに考えている事が深く理解できた半面、何一つ賛同できる点は無かった。

その上で恐らくは向こうも思った筈だ。

 

――こいつは使えるが、邪魔になる、と。

 

そしてそうであるならば、使い方は選ばない。

少なくともセイルならそうする。

 

とっとと返してやるから、政争かなんかに巻き込まれて後腐れなく死んでくれ、とセイルは思っていた。

ついでにシーゲルとパトリック辺りを道連れに、ザフトの体制を終わらせてくれとも考えていた。

取り急ぎ今は、連中を本国へ帰らせる理由になってくれ、と。

 

 

 

――やっぱ、あん時殺しときゃ良かったなー。

 

晩年セイルは、何度かそう振り返った。

 

 

 

そして、歌姫返品作戦が始まった。





次の次位でようやくあの男が出せそうです。


皆様からの温かい感想を頂き、どうやら僕がスパロボに求めるものは何か間違っているのかもしれないと思いました。

皆、『ぼくらの』のチズが原作通りの末路を迎えた後、全ての事情を知って『勇気だよ勇気、勇気勇気勇気』とか励ましてた凱が、どのツラさげて命と会話するのか、想像しただけでワクワクすると思ってました。

でも、流石に竜宮島をオーブに横付けするくらいは許されますよね。ガキに犠牲を押し付けてる島の横で『中立』( ー`дー´)キリッとかやってるウズミ程ピエロって言葉の似合う存在はないと思うんですよ。
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