エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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キラには兄貴分が必要と思って書き始めたんですよ。


第23話 オランチョ小隊副隊長、下僕にして孫の手

 

ラクス返品対応を言い渡されたキラは、出発前の準備中、セイルに話しかけられた。

 

「最悪な、お前、向こうに行っちまってもいいぞ」

 

セイルからそのように言われ、キラは一瞬何のことかと目を瞬かせた。

 

「えっと……?」

 

戸惑うキラ。

 

「話は聞いたよ……イージスに乗ってるの、お前の友達なんだろ?」

 

優し気なセイルの物言いに、キラは戦慄した。

 

「そ、その話を、どこで……!?」

 

「バッカお前、舎弟のことならなんでもお見通しだっつの」

 

セイルは……カスはキラの肩をポンと叩いた。

そのまま、何かをつまみ上げるように引いたカスの指には、キラの軍服の襟内から引き抜かれた針のようなアンテナのついた、米粒みたいな盗聴器が挟まれていた。

 

「兄貴分にして師匠である俺に隠し事なんて……お前はなんて酷い奴なんだぁキーラー?」

 

人の弱みに付け込むカスの笑顔が向けられていた。

 

「じ、人権が無視されている……これはもう、裁判所も黙ってないですよ!?」

 

そんなキラの狼狽を鼻で笑う。

 

「だがまあ、こんなことはもうしないよ」

 

「え?」

 

「お前は俺の舎弟だった。もう違う」

 

「セイル、さん……」

 

セイルはそっと、キラの肩に手を置く。

 

「今日からお前は俺の忠実な下僕にして、偉大なるこの俺の右腕にして左腕、時々孫の手、全自動タスク消化マシーン、心の友だ。俺が作れと言えば全てを犠牲にしてでもそれを作り、直せと言えばチンポジでも喜んで直す、俺が黒だと言ったものを否定する奴を皆殺しにするのがお前の仕事だ」

 

「嫌です」

 

「はっはっは、許そう許そう、お前は今日から栄えあるオランチョ小隊の副隊長だ!」

 

「嫌です……」

 

「はっはっはっはっはっは!」

 

「ああ、何一つ聞いてくれない……!」

 

「で、さっきの件なんだけどね」

 

「うわぁ急に冷静になった……」

 

セイルは肩をすくめた。

 

「向こうがお前に来て欲しがってて、お前が行きたいってんなら、行ってもいいよって話」

 

余りにも軽い言い様に、キラは混乱しそうになる。

 

「お前のお友達の話なら、まあぶっちゃけ、ここでクルーゼの足止めさえ出来るなら、どうにかオーブまでは送り届けてやれるだろう。お前が、この艦にパイロットとしている理由は無くなるんだよ」

 

「それは……」

 

「俺はこの戦争に開戦当時からずっと参加してる。L5、世界樹、月、たまに地球……戦争はおっかねえぞ。このままだとお前、どこまでも引きずられていっちまうぜ?」

 

煙草を咥えてキラに火を催促する。

キラは無視をした。

どこからか飛んできたトリィがセイルの肩に止まり、目から光線を撃ち出し煙草を灯した。

 

「またやったんですね?」

 

「わざマシン使ったんだよ……ナチュラルか、コーディネイターか、それを発端にした問題は、多分ずっとお前について回る。だったらせめて、周り全部コーディの方が、生きやすくはあるんじゃねえかな」

 

で、どうする? とキラへ判断を投げてくる。

キラは本当に一瞬だけ、逡巡するように視線を漂わせたが、すぐ呆れたように笑った。

 

「例えばザフトに入ったら、僕が通用しますかね?」

 

「しますねー、ぶっちゃけ上澄み」

 

「ってことは当面生き残れますよね?」

 

「そうだねー」

 

「そうしたらきっと、どこか、宇宙か地上かで、大きな戦闘なんかあって」

 

キラは、口にするのも憚られる、と言った風に肩を震わせた。

 

「きっと、その場の地球連合側には、セイルさんがいるんでしょうね」

 

「まあそれは確実だね」

 

「じゃ止めときます。セイルさんと敵対するのはちょっと……それに、正直嫌ですけど、ほとばしるほど嫌ですけど、副隊長はいた方がいいでしょ? これ以上カズイをおもちゃにされても困りますからね」

 

「カズイ……?」

 

「誰……? みたいなリアクションほんと良くないと思いますよ、隊長」

 

「ははっ……自分の人望が怖いな」

 

「人望ある人は部下を適応障害にはしないんですよ」

 

「キラァ、戻ったら適応パッチ作ってあいつらにインストールしといてー」

 

「人望ある人は部下へのパッチ当ては指示しないんですよ」

 

「よぅし、お前人質にしてイージスかデュエルを鹵獲し返しちまおう! パイロットのお坊ちゃま君を宇宙イチ間抜けなコーディにしてやろうぜ!」

 

吹っ切れたのか、キラは今度こそ年相応に笑ってみせた。

 

「ハハ、構わないですよ。この前からなんか怖いんですよねアスラン、ちょっと粘着質っていうか……」

 

「お前のケツでも狙ってんじゃね?」

 

「やめて下さいよ、人の思い出と親友をなんだと思ってんですか」

 

「自分のケツでも狙わせたいんじゃね?」

 

「僕を何だと思ってんですか!」

 

セイルは煙を吐き出すと、空いた手でキラの尻を叩いた。

 

「オラ、いいからはよあのお嬢様を捨ててこい! 間違ってもまた持ち帰ってくるなよ?」

 

「はいはい、分かりましたよ。他に用事はないですね?」

 

「おお、パパ思いのいい子だキラ。そうだな……折角だしニコルが元気にしてる映像でも……あ」

 

「え?」

 

「……ヤッヴェ」

 

 

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クルーゼは激怒した。

必ずやかのカスを血祭りに上げてやることの誓いを新たにした。

 

 

 

「先ほどの通信時、何やら同時並行で動画ファイルの転送が行われていたようです」

 

手傷は与えたものの、凶鳥を取り逃がしたクルーゼが帰還すると、アデスがそう伝えてきた。

 

「件名がFor.クルーゼとなっており、スキャン結果も異状なかった為、一旦隊長のストレージ宛てに格納しておきました」

 

「ふむ……察するに、何やら個人的なメッセージのような気がするな。わかった、念の為、私の個人端末で確認しよう。内容については……必要に応じて共有する」

 

「了解です。よろしくお願いします」

 

 

 

そして今、クルーゼは端末に転送した動画ファイルを再生していた。

 

 

『ぼくと赤ペケせんせい ~せんせい、今日も補修だね~』

 

 

そんなタイトルが流れた。そして答案用紙のようなものの前で裸の……――

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

クルーゼは壁に向けて端末を投げつけると、それが床に落ち切る前に腰から引き抜いたグロックを向けて引き金を引き続けた。

一瞬で画面がブラックアウトし、立て続けに穴が開いた端末が、床に落ちてもなお撃ち続ける。

 

端末がかつて精密機器だったゴミと化し、弾が切れてもなお引き金を引き続け、ようやくクルーゼは自分を取り戻した。

 

「……殺す、必ず殺す! 奴を殺す為にこの命はあったのだ!」

 

鼻息も荒く、クルーゼは言い切った。

 

「レイ……私を導いてくれ……」

 

クルーゼはそう呟くと、自分の机に近付きチェストから取り出した薬を服用する。

 

「フフ……必ずだ、何をしてでも殺してやる、殺してやるぞセイル・オランチョ!」

 

薄暗い部屋に、孤独な後方古参ヅラ厄介ファンおじさんの慟哭が響いた。

 

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返品作戦終了後……

 

戻って来たキラをセイルは温かく出迎えた。

 

「いやー、良かった。ガキの方が相手しやすいと思ってイージスかデュエルっつっといて本当に良かった。なあキラ? 多分最初っからクルーゼが来てたらお前死んでたぜ?」

 

キラは疲労困憊と言った表情でカスへ言い返した。

 

「何も良くないんですよ。結局クルーゼって人はデブリの陰に伏せてた訳だし、ムウさんがフォローに来てくれなかったら本当に危なかったんですよ。僕は重斬刀2本持ちにして擦り合わせながら飛んでくるジンなんか初めて見ましたよ。絶対なんかやったでしょ、普通じゃなかったですよあの殺意は」

 

「ちょっとなんか、この前話した感じで赤ペケ先生に執着してるっぽかったからさ、俺が赤ペケ先生やってた女の子とハ〇撮りした映像をつなぎ合わせてタイトル付けて、お前に作らせたアプリで接触通信リンク通して送れるようにしといたんだけど、お姫様連れてった時に間違えてアクティブにしちゃってたんだよね」

 

参っちゃうよね、と肩を竦めるカス。

相変わらず人型の喋るクソがそこにはいた。

 

「なんでいつも想像の三コ上くらい最悪な答えがデフォなんですか? 僕、結局彼女の引渡し以外でアスランと一言も喋れなかったんですけど」

 

「ぶはは、クソウケる」

 

「ウケないでくださいよ、人の心とかないんですか」

 

「よく言われるよ」

 

「でしょうね。全く……ラクスが止めてくれなければ、本当に撃墜されてたかもしれなかったですよ」

 

その瞬間、カスは真顔でキラの肩に手を回し、周囲を気にするように声を落とした。

 

「おいキラ、お前は知らねえだろうが、別に女を呼び捨てで呼んでも童貞が卒業出来る訳じゃねえんだぞ?」

 

可哀想にこの子は、『なんちゃって大人の階段』を登った気でいるのだろう。やはり女だ、女を買わせることは全てを解決する。

 

「向こうがそう呼んでくれって言ったんですよ…………誰が童貞ですか」

 

キラは忌々しそうにその手を払った。

 

「お前は童貞だろ? なあ?」

 

「トリィ!」

 

どこからか飛んできたトリィがセイルの肩に乗り、翼をまるで手のように動かして羽の隙間から小さな扇子を取り出して広げた。

 

『童 貞』と書いてあった。

 

扇子を持ったまま腰をカクカクさせながら小躍りするトリィ。

 

「何仕込んでんですかやめろぉ! これ関節増やして可動域弄ったでしょ!?」

 

キラは激怒した。

必ずやこのカスに思い知らせなければいけないと決意した。

 

 

 

後年、キラ・ヤマト回顧録にはこう記されている。

 

『決意はしたんだ。決意は。それだけはまだ胸にあるんだよ、本当だよ』

 

 

 





返品作戦自体は書いてみて、ほとんど原作通りだったんでカットしました。
ちょっとアスランの鼻息が荒くてラクスがドン引きしてクルーゼが常にブチ切れて巻き舌気味に怒鳴り散らしていたくらいの差異しかありません。
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