エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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僕は可能な限り原作キャラは原作通り、明らかに無理のある改変はしないつもりです。
※カスに絡まれた、脳を破壊された際等のリアクションは想像になりますのでこの限りではありません。

が、このおっさんだけは別でした。ごめんねえ。


第24話 地球連合軍第8艦隊 〜カスの帰還〜

 

「……来ました、第8艦隊の暗号通信です!」

 

アークエンジェルのブリッジではにわかに歓喜の声が上がっていた。

 

「モントゴメリーが我々のことを伝えてくれたようです……追手は気にせず、こちらにまっすぐ合流するようにとのこと! また、双方向通信が開き次第、ここまでの戦闘レポートを提出する旨指示があります!」

 

チャンドラの読み上げた内容に、急場しのぎで艦長となったマリューは、初めて艦長椅子の上で全身の力を抜いた。

 

「ハルバートン提督……ようやく」

 

「まだ艦内には出すなよ。合流までの経路、想定されるリスクの洗い出しを行ってからだ! レポートについてはこちらで準備したものがある。双方向開始と同時に送信を開始せよ」

 

緩んだ空気を引き締める様に、ナタルの凛とした声がブリッジに響いた。

 

「ええ……そうね、互いに位置を掴んだと言っても、まだ合流までは……ノイマン曹長、2日位かしら?」

 

「ええと、この位置は当初の予定通り、地球の衛星軌道上です。向こうは動かないでしょうから、我々がたどり着く形になりますので……凡そ3日と言ったところでしょう」

 

ノイマンの答えに、3日、と感慨深くマリューは呟いた。

 

「バジルール少尉の言う通り、まだ気を抜くことは出来ません。ですが、急ごしらえで艦長になった未熟な私を支えてくれて、皆本当にありがとう……」

 

椅子に座ったまま、マリューは頭を下げた。そこにはわずか半月足らずの期間で、確かに艦長へと成長したことを示す威厳があった。

クルー達を代表するように、ナタルが口を開く。

 

「第8艦隊では例え10年以上艦長を務めるベテランでも、ヤツを抱えることは土下座をして辞退します。むしろ艦長が成し遂げたことは、ヤツの日頃の言動を知る我々からすれば、偉業と言っても良い成果だったかと。どうか胸をお張り下さい…………そのせいで続投の指示は出るかもしれませんが」

 

「ねえ~~~ナタル~~~どおしてえ? どうしてそういう事言うの~~~? 私をこの胃痛から解放してえ~~~?」

 

座ったまま体をくの字に折りたたむマリュー。吐き出される言葉から威厳は消滅していた。

 

「第8艦隊で艦長をするものは皆その胃痛を経験するそうです。主に、ヤツを想像配属することで」

 

「想像配属? 新しい言葉?」

 

「中にはブリッジでヤツから通信が入ったことを想像しただけで吐いた艦長もいました」

 

「吐く? 戦艦の艦長が? ブリッジで? 想像だけで?」

 

「今回、何もかも間に合わせで稼働する中、ヤツもかなり気を遣っていますよ。第8での所業はあんなものでは……そうか、提督の銃声も、もうしばらく聞いていませんでしたね」

 

「やめてくれないかしら、ここに来て、知りたくなかった情報を、山のように流し込んでくるのは」

 

「すみません、どうやら少し、私も高揚しているようです」

 

ナタルは珍しく苦笑いを浮かべると、綺麗な敬礼をして見せた。

 

「ともあれ、ここまでの航行を無事に終わらせた貴方を、私は尊敬いたします」

 

「……ありがとう、ナタルにそう言ってもらえると、素直に嬉しいわ」

 

マリューはそう言って、深く息を吐いた。

 

「そうしたら、そろそろ話してもらえるかしら?」

 

「は?」

 

「オランチョ大尉が昨日あの後、あなたとした会話について」

 

「黙秘権を行使いたします」

 

「ごめんなさいナタル、アークエンジェル特別法廷では艦長権限で黙秘権が認められないの」

 

「それはもはや独裁国家の法では……」

 

「戦艦なんて艦長の独裁国家みたいなものよ。さ、私の部屋に行きましょうか、お茶も出すわよ?」

 

「待ってください、いくらなんでもこれは」

 

「それにほら……副艦長とパイロットが不和だとクルーが不安がるから、ね?」

 

「せめて目を見て言ってください……手を、手を引っ張らないで――や、力が、強っ――」

 

二人はブリッジを出ていった。

まあ艦長室はここからすぐだし、オペレーターからの直通回線も引かれている。

今の緩んだ空気の中であれば、そうしたコミュニケーションも許される雰囲気となっていた。

 

 

 

「一時はどうなるかと思ったけど、何とかなりそうだな」

 

トールが安堵の声を出す。

実際、職業軍人でもない学生が戦艦のブリッジ業務に携わっていたのだから、その解放を目前にしての安心感もひとしおだった。

 

「本当に、よくやったよお前ら。実際スジも良かったし、なんならこのまま残らないか?」

 

ノイマンからの声掛けに、

 

「いやー、調子乗るからやめて下さいよノイマン曹長。トールに軍人なんて無理ですって」

 

「なにおう!」

 

「お前ら、一応まだ味方と合流できたわけじゃないんだからな?」

 

元々まとめ役だったサイが窘めると、トールとミリアリアはバツが悪そうに頭を下げた。

 

「二人とも相変わらずだね。僕は戦闘もないのに、まだ緊張しっぱなしだよ」

 

カズイがそこにいた。

カスドリンクの影響も消え、目もいつもの様に気力の無いアライグマのようだった。

髪型だけが巨大なプラスドライバーがハマりそうだったものから、完全なスキンヘッドへと変貌していた。違った、眉毛もそり落とされていた。

 

「カズイはその内慣れるよ、っても、戦闘さえ起こらなきゃ気楽なもんさ、俺達CICは」

 

チャンドラがカズイの肩を叩いた。

 

「でもその、フッケバイン・プロトコルでしたっけ? オランチョ隊長を狙うなんて……当てたらどんな目に遭うか……」

 

「まあ、お前はそれ気にするのもわかるよ」

 

バリカンで一思いにやられたであろう頭部を、チャンドラは指先でつつきながら言った。復帰祝いと言いシェービングクリームとバリカンを持ってきたカスを止める術などなかったのである。

 

「でもあの人、本当に後ろに目でもついてんのかってくらい砲撃を避けるし、当たっても一切文句は言わないって、副長が言ってたぜ?」

 

トールは気楽そうに言うが、そもそも機動兵器のパイロットが後ろから飛んでくる弾を難なく躱すこと自体が異常なのだということに、現在のブリッジ員は誰も気付いていなかった。

 

 

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トゥルントゥルンになった頬を撫でながら、マリューが艦長室から出てきた。

その後に続いて、5徹の人間にフルマラソンをやらせたような疲れ方をしたナタルも出てくる。

根掘り葉掘り根こそぎこそぎ、どうやらアークエンジェル特別法廷では個人のプライベートは守られないらしい。

 

「うふふのふ」

 

ツヤツヤであった。

ちょっとゆで卵みたいだな、とナタルは思った。

 

「あ、艦長。ちょうどお呼びするところでした」

 

ブリッジに戻ると、ミリアリアから声が掛かる。

聡い彼女は、横にいるナタルの様子についてはスルーを決め込んでいる。

 

「あら、どうしたのかしら?」

 

「第8艦隊旗艦メネラオスのハルバートン提督から暗号化通信が入っています。また、2分前に双方向通信が有効化しています」

 

その言葉に、マリューとナタルは一瞬で軍人モードへと切り替えた。先ほどまでの下世話な理由でうざ絡みした先輩とされた後輩OLみたいな空気は消滅する。

 

「いいわ、モニターに出して」

 

「はい」

 

 

 

ややあって、多少のノイズは走るものの顔の見えるレベルに鮮明な映像通信が繋がった。

 

『こちら第8艦隊旗艦メネラオス、遠路はるばる、よく無事に辿り着いてくれたな、ラミアス大尉』

 

「ハルバートン提督……!」

 

マリューをはじめとするブリッジクルー達は、全員揃って敬礼をした。

 

そこには、落ちたついた紳士然とした年配の軍人が映っていた。口髭も整えられ、優しげな面持ちはしかし、良く通る強い意志を感じさせる声音と合わさり、成程、軍人であった。

 

キリッとした返礼に、見ていたトール達まで思わず背筋を伸ばしてしまった。

 

『本当に、想定外のトラブルに見舞われた中、よくぞ艦と2機のGを守り抜いてくれた。これは間違いなく、未来に残る偉業になるだろう』

 

「勿体ないお言葉です、提督」

 

『流石は私の教え子だな、はっはっはっ』

 

「まあ、お懐かしい」

 

かつて教えを受けていた頃を思い出し、マリューは上品に笑ってみせた。本当に、さっきまでのあれは何だったというのか。

笑うゆで卵に釈然としないものを感じつつも、ナタルは二人のやりとりを見ていた。

 

『バジルール少尉も、ご苦労だった。正規クルーを失ったその艦で、良くここまで戦い抜いた』

 

水が向けられると、ナタルは凛とした声でハキハキと答えた。

 

「はっ、お褒めに預かり光栄であります! しかし、小官は自身の義務を果たしたに過ぎません。この結果は今のクルー達全員の成果だと考えております」

 

『うんうん……ところで』

 

鷹揚に頷くと、ハルバートンは続けて問うた。

 

『死んだか?』

 

「生きてます」

 

『何故死なない?』

 

「アレはセイル・オランチョですから……理由はそれだけかと」

 

『ちょっと死にそうな位の怪我とかは?』

 

「無傷です」

 

『そうか…………おい、シャンパンはお預けだ。クラッカーも片付けろ。プレゼント交換会も中止、横断幕は『涙の残念会』に書き換えなさい。今日はみんな塩と酎ハイだ』

 

何やら指示を飛ばす提督を見て、全員が思った。

 

この立派な軍人にここまで言われるの、本当にやべえなあいつ、と。

 

 

 

『さて……出来れば迎えを出したいのだが、ここの所クルーゼ以外にも近辺でザフトの動きが活発でな。下手に部隊を動かすと捕捉されかねん。申し訳ないが……』

 

何事もなかったかのようにハルバートンは続けた。

 

「ええと、本艦は第8艦隊まで凡そ3日で到達予定の航路をとっております。何とか辿り着いてご覧に入れます」

 

マリューも大人な対応で返答した。

 

『うむ。それまでに君達の送ってくれたレポートに目を通しておくとしよう。では、貴艦の航海の無事を祈る……カス虫は死んでいていいよ、事故で済ますからね』

 

プチン、と通信が切れた。

 

「………………艦長」

 

ミリアリアが恐る恐る声を掛ける。

 

「何も言わないで」

 

マリューは両手で顔を覆っている。

 

「ウチの隊長、ヤバくないですか?」

 

「言わないでったら!」

 

「艦長は直接ご覧になったことはないかもしれませんが」

 

ナタルがボソリと声を上げた。

 

「アレと直接相対した時の提督は、こんなものではありませんよ?」

 

「もおおおおおおおおおおおお! やだああああああああああああああああ!! おうち帰るうううううううううううう!!!」

 

残念ながら艦を預かる者にとっては、艦こそが家だ。

そしてこの家にはデフォルトでカスがついてくるのだ。

 

慟哭するマリューを乗せて、アークエンジェルは第8艦隊との合流地点へと向かうのだった。

 

 

 




ナタルさんがほんのわずかな言動の中に見せる「や」とか「あ」とか「きゃ」みたいなやつが好きで、めっちゃドキドキするし可愛いですよね。残念ながら原作では一度も言ってくれなかったんで脳内で再現してるんですけどめっちゃいいですよね。

アラスカでムウと握手した時に自分の手をじっと見てたシーン(妄想の可能性あり)あったじゃないですか、僕の中でSEED最高のヒロインはこの時からナタルさんなんすよ。
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