エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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原作だと第8艦隊はAAのほとんど巻き添えで壊滅するとかいう、流石にそれはどうなん、という流れでした。本SSではカスとヒゲが頑張ってるせいで艦隊そのものは大きな損害を受けることなくここまで来てます。

なので、そこに喧嘩売るザフトの目的は、というのを議論するでっち上げ会になります。



第26話 カス式戦略講座

 

あとわずかで第8艦隊と合流となる。

アークエンジェル内ではそこかしこで緊張状態からの開放を待ち望む声で溢れている。

急に住む場所を追い出された挙句、戦火に巻き込まれた避難民達はこれでようやく元の生活に戻れると安堵の声を漏らしていた。

 

「つまり何か悪いことが起こるわけよ」

 

そういう時に空気を乱すのはいつもカスだった。

 

ブリッジでいきなりそう宣った彼に、合流に向けたミーティングを行っていたムウたちは怪訝そうな顔を向けた。

 

「つまり? あんまり縁起の悪いこと言うなよ……そうでなくてもおたくと俺が相乗りしてるんだ。変なこと言ってると現実になっちまうぜ?」

 

「大尉も十分縁起が悪いこと言ってますよ」

 

マリューの困ったような声。しかし、無視はできないと思ったのか、

 

「オランチョ大尉は、何が起こると?」

 

そう聞くことにした。

カスは鼻をほじりつつ答えた。

 

「こんな近距離まで来てても、クソヒゲが迎えは出せないと判断するレベルで、ザフトのハエが飛んでる訳だ」

 

ほじった指を近付けられたチャンドラが椅子の下に退避した。

やむを得ず、指はカズイの頭に着地した。

 

「……あんまりだ」

 

カズイはそっとウェッティを取り出して拭く。キュッキュッという音がブリッジに響いた。

 

「じゃあそのハエは、なんで俺らの警戒範囲には出てこない? クルーゼがお姫様を本国に送り届けているにせよ、近隣部隊への連携くらいは指示出してるだろ。なのに、結局あれから俺らんとこにはハエどころか哨戒機らしきもんすら現れてねえ」

 

「敵の優先目標が、我々から変わっている、と?」

 

ナタルの考えるような問いかけ。

 

「少なくとも、連合のMSはハードウェアとしてはジンより優秀だ。それを唯一搭載し、運用することを前提にしたアークエンジェルは、まあ優先度は高いだろうさ」

 

カスはそんなナタルに材料を与えるような話し方をする。

 

「つまり、依然我々は敵の目標からは外れていない。加えて、宙域の状況を鑑みるなら現時点で戦闘にならない筈がない……」

 

「でも俺ら平和じゃん? 暇人どもが明日の予定を話してるんだぜ? どこの学校の放課後よ」

 

「であれば、我々の今の状況自体が、敵の計画に入っている……?」

 

「ミソなのは、クソヒゲには察知されてる……いや、させてるって点だな。連中は第8艦隊の位置は補足してる。そこに俺らが向かっていることも、当然把握してるだろう」

 

「いや……しかし、ならば当然、合流前に叩こうとするでしょう」

 

「俺等を襲えば、クソヒゲは流石に援軍を出す。必然的に相手を挟める形になる。その逆も然り。ザフトは現在、俺等とクソヒゲのどっちかに足止め用の戦力を割かねえと満足に戦えねえ状態になっちまってるのさ」

 

セイルはカズイを目の前に座らせると、頭にマジックで簡易的な見取り図を書き始めた。油性である。

 

「あんまりだ……」

 

肌色ボードが呻いた。

 

「だが、これから向かう衛星軌道上は通常の宇宙空間とは違う。足元には地面があり、そこを踏み越えると重力に引かれて落ちて死ぬ。つまり逃げ道の一本を防ぐことができる」

 

キュッキュッキュッ

 

「囲んで叩くのに、これ以上適した場所はねえ。加えて、もしもクルーゼが帰還に間に合えば、フェイズシフト搭載機がこの包囲網に参加することになる」

 

キュッ、キュー

 

「こいつらを矢面にすれば、艦隊戦はハエ共有利で進めることが出来る」

 

「待って下さい。確かにフェイズシフト搭載機は強力ですが、所詮は3機です。数の上では……」

 

ナタルが言い募るが、それはムウによって否定される。

 

「いや少尉、そりゃ希望的観測だよ。ザフトは俺達より先にMSを使い始めて、その戦術にも長けてる。連合なら艦載機頼みの作戦なんかまず立てないが、MSならそれも可能であることを俺達よりも理解してるんだよ」

 

「タカちんが良いことを言った。少なくとも、俺かキラでも戦艦5隻程度ならそこまで苦にならないぜ? だって向こうはこっちより遅いし、こっちは2、3発当てりゃ十分なビーム兵器があるんだ」

 

キュー、キュー、キュキュ

 

「え、今なんか書くことありました?」

 

「俺ならGを集中投入して戦列に穴を空け、そこにMS隊を放り込むかな。何せメビウスはほら、弱いし」

 

「話をまとめましょう。つまり我々が第8艦隊と合流後に、敵の襲撃があると考えられるのね?」

 

マリューが眉間に指を当てて頭痛に堪えながらまとめる。

 

「それも、合流直後じゃなく、アークエンジェル降下直前だろうな。その方がこっちからの援護がしにくいし、向こうは撃ち放題だ」

 

続くムウの言葉は正しいだろうと、その場の全員が感じた。

未だかつて大気圏突入フェーズ下での戦闘等聞いたことが無い。

しかし、あくまでも艦艇同士での戦闘が主であった頃の話だ。

 

より小回りが利き、単独で高火力を行使できるMSが主役となりつつある戦場では、これまでは無かった何もかもが起こるかもしれない。

少なくとも目の前のパイロット達はそう考えており、マリューやナタルに否定する材料は見つからなかった。

 

「ザフトの狙いは第8艦隊の撃退、もしくは力を削ぐ事か?」

 

とはいえ確証は持てない、自信の無いムウの質問に、やはりセイルも頭を悩ませた様子だ。

 

「にしちゃクルーゼのこっちへの執着がな……普通アルテミス辺りで引き返してんだろ。そうでなくても、俺らがユニウスセブンへ寄ってる間に周辺部隊と合流して、さっさと第8艦隊を攻めとけばよかったんだよ。少なくともモントゴメリーは捕まえたんだから、辿るのも簡単だった筈だ」

 

カスは気付かなかったが、必要以上にクルーゼを煽り散らかしたことにより発生した恨みつらみによる特大のノイズが、逆に彼らの思考を邪魔していた。

 

「目的の統一感がないな。連中、曲がりなりにも軍隊を名乗ってるんだ。何らかの作戦目標はある筈なんだがなぁ」

 

ムウは顎に手をやって、ザフトの目的を推測してみるが、これ、というものは出てこなかった。

 

「んー……有識者が二人、頭を突き合わせて『筈だ』なんて言ってんだから、何かズレてんだなこれ」

 

カスの物言いは、妙な説得力を持ってムウの思考を別方向へと回した。

 

「第8艦隊が狙われてるって方向性はあってるだろ。勘だけど、それは自信あるぜ?」

 

指を立て、カズイの頭の上をキューっと滑らせる。

 

「てことは着地点が違うんだ。こういう場合、大抵は左右への微差じゃなく、前後の深度かな」

 

「目的は俺達と第8艦隊、どちらかか、その両方? なんか不自然に見えるぜ」

 

「強引に筋を通してみっか。クルーゼはあくまで俺らをぶっ殺したかった、が、大本営からは第8艦隊を優先するよう指示が出た。だから周りの艦隊を使って、俺らと第8をひとまとめにしようとしてる、どうだ?」

 

「目的の大半は第8艦隊にある、と。そこまでして叩きたい理由は何だろうな。邪魔なのはわかるが、それこそ目の敵にする程じゃないだろうに」

 

「うーん、それ考えちゃうとなぁ…………あー、んん? 邪魔?」

 

「うん? 邪魔だろうさ、そりゃ。第8艦隊が衛星軌道上で睨みを利かせてるってのは、ザフトにとってもやりにくいだろ」

 

「なんで邪魔になるんだ?」

 

「そりゃ衛星軌道に艦隊なんかいたら……地球への、大規模な、降、下が……」

 

ムウは言いながら察したのか、目を見開いた。

 

「どこに降下するのに、邪魔だ? ほれ考えろ、妄想は得意だろ?」

 

「普通に考えたらアラスカかパナマ……だろうな。連合本拠地もマスドライバーも、連中からしてみたら戦局が有利な内に潰しておきたいだろうさ。特にマスドライバーなんて、宇宙での戦局をより優位に運ぶためには必須だ。最低でも破壊はしておきたい」

 

「ザフトからしてみれば、プラントから地球の間で使えそうな障害物はボアズくらいだ。実は早いとこ地上の制圧を進めたい……いや……地上を決戦場にしたいって意図がある、か?」

 

「ある、かなぁ……要するに、今回第8艦隊を攻めたいのは、アラスカかパナマへの侵攻計画の前振り……って、ちょっと陰謀論が過ぎないか?」

 

「いいんだよ、とりあえず俺等が今狙われてねえ理由については、想像レベルで予想できたんだ。何も思いつかなかったらそれこそやべえよ」

 

「あら、そうなの?」

 

「戦場の真っただ中にいる軍人が、自分達がなんで見逃されてるか想像もできないってのは、もう中心点から相当遠いところに置かれちまってるってことだからな。今ならまだ、俺らも役者面して参加できる」

 

「そんなもんかねぇ」

 

「士官の仕事はリスクの予測と対策だよタカちん。お前、パイロットだからって脳筋過ぎんよ。そんなんだと、部下なんか誰も生き残らねえぜ?」

 

カスの偉ぶった物言いに、お前歳下だろと思わなくもないムウだった。

カスはカズイの頭に描かれた見事なカカ◯ットの画を端末のカメラで撮影しながら、ムウに言葉を投げる。

 

「タカちん、賭けしない?」

 

ムウは言われた瞬間、負けると確信した。

何か勘のようなものが、自分が勝つことは絶対に無いと告げていた。

 

「何に?」

 

だから、そう聞き返したのはせめてもの意地だった。

 

「そうだなぁ。ザフトの狙いはアラスカか、パナマか、どちらでもない、か」

 

「それ、結局俺等二人が選ばなかったのが現実になりそうだよな」

 

「まあまあ、ある意味じゃ、ダブル貧乏神のゲン担ぎみたいなもんさ……俺はパナマで」

 

「じゃ、俺はアラスカかな」

 

結論から言えば、この賭けは二人の言った通りになった。

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

ラクス・クラインをプラントへ送り届けたクルーゼとアスランは、体を休めることもなくヴェサリウスへ向けた高速艇に乗り込んでいた。

 

「よかったのかね? 折角の機会だ。婚約者との時間を優先するくらいは許されたろうに」

 

クルーゼの問い掛けに、アスランは爛々とした瞳を携えて吠えた。

 

「無論……次に身体を休める時は友の膝の上と決めております」

 

「うん……うん、そうか」

 

クルーゼは様々な葛藤を鋼の精神で御し切って、答えた。

 

ただ、気持ち悪いなこいつ、とは思った。

その辺は鏡見てどうぞ、といった世界なことに、2人はついぞ気付かなかった。

 

「足付きに第8艦隊、鷹に凶鳥……上手く行けば様々な事に片が付く」

 

深謀思慮を示すかのように笑うクルーゼだったが、結局のところあのカスをぶっ殺すという意図は1ミリもズレてはいなかった。

 

気持ち悪いなこいつら、と高速艇のパイロットは1人思った。






ナタルさんが好きなのに何故カスとくっつけようとするのか、という問いに答えるならば、好きなヒロインの未来を思い浮かべた時、専業主婦で何不自由無い生活を想像しますか? という話なんですよ。
僕は小汚い定食屋で注文取ってるところを想像してドキドキします。そんなもんです。
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