エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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ニコルくんはいくら不幸にして曇らせても栄養になりますからね


第3話 カスとニコルと心強さと

目を覚ましたセイルの鼻を突いたのは、爆炎が焦がす燻んだ空気と熱気だった。

要はどこかが燃えており、燃えているから熱と煙が出ており、その熱と煙がコックピットの中まで届いているのだ。

 

「おー、事故?」

 

目をこすりながら、セイルはコックピットから顔を出す。

通路の方から小銃と思われる射撃音が聞こえてくる。

 

「うわ、めっちゃ計画バレてんじゃん。何やってんだよクソヒゲ」

 

舌打ちと共に、目覚めたばかりの頭を覚醒させるように数度振る。

 

(うちの秘密がある中立コロニーに襲撃なら、相手はザフトか。こんな奥まった区画まで銃声が届くなら、十中八九目的もここだろうし……うわぁ、めんどくさい)

 

頭を引っ込めつつ、シート下に格納されているサバイバルキットを取り出し、

拳銃とナイフ、簡易テントに固定用の縄紐を手に取った。

キットをしまうと、シートのリクライニングを戻し、その後ろに体を隠した。

夜間迷彩柄のテントを被ることで、明かりも落とされたコックピット内はぱっと見シートの奥は暗い影があるようにしか見えなくなる。

 

しばらく待っていると、金属版を固い靴底が叩く音が連続して聞こえてきた。

 

「急げよ、ニコル!」

 

「了解です! アスランも気を付けて!」

 

子供の声だ。

 

侵入者が飛び込んできたシートの衝撃から、真後ろに居るセイルにはその体重も60キロそこそこだろう事が伝わってきた。必要な筋肉がついた軍人の体ではない。

 

子供の体だ。

 

コックピットハッチがしまっていく音がする。

一瞬、外からの光が遮断され、コックピット内のモニター光が発される。

1秒も無い間だった。

 

 

モニター光が照らし出した侵入者、ニコル・アマルフィの胸、中央から少し右に外れた場所に、サバイバルナイフが突き立っていた。

 

 

次いで銃声が二発分。

両足の腿とひざの付け根から血が噴き出した。

 

 

「ナイフを抑えろ」

 

見知らぬ男の声がニコルの耳朶を打った。

 

「ナイフだ」

 

「ナイフの柄を持って抑えろ」

 

「抜いたら死ぬ場所だ」

 

「お前が抜かない限りは、生きていられる」

 

反射的にナイフを掴んだニコルの手、ナイフ、首を縄紐で縛り繋いでいく。

紐の長さ的に、もう物理的にナイフは抜けないし、無理をすれば首が締まる。

両足は今更のように痛みを伝えてきたが、ニコルの喉からは悲鳴が漏れることはなく、ただ両目から大粒の涙がこぼれていた。

 

「ふぅ、いやぁナイフ術なんて実際使ったの初めてだよ」

 

ニョキっとシートの後ろから出てきた男が、笑顔で話しかけてきた。

 

「ああちなみに、抜いたら死ぬのは嘘ね」

 

愕然とするニコルに、

 

「ほっといても死ぬんじゃない? 肺だし、心臓近いし」

 

一方的に言い放った。

 

「――ッ!」

 

暴れようとするニコルの体を持ち上げて、男……セイルはシートに滑り込んだ。

そのまま、ろくに力の入らないニコルの体を膝の上に乗せ、その上からベルトを締めた。

 

「暴れんな暴れんな――運が良ければ捕虜にはなれるって」

 

ニヤついた笑みで言いながら、セイルはニコルからヘルメットを剥ぎ取った。緑色の柔らかそうな髪の下、痛みと怯えにゆがんだ顔はやはり、少年のものだった。

 

「オゥ……なんてイカしたメットなんだ。特注品かな? 後でネットオークションに出してみるか」

 

剥ぎ取った赤いメットを自分で被り、バイザーを指先で叩く。

 

「いいね、マジで新品って感じ。ダメだよこんな所属モロバレするようなもん装備して、こんなとこ来たらさ」

 

続けて、セイルの手は呼吸も苦しそうなニコルの首元と腰回りの装備品を探っていく。

すぐに、その指先にはドックタグと軍用の情報端末が確保された。

 

「ニコル…………アマルフィ? アマルフィかぁ……こっちの端末は、網膜認証ね。ハイチーズ」

 

止める間もなく、ロックを解除したセイルは、そのまま自分の端末にデータを転送し始める。

 

「さ、他のコソ泥君はどこかなー?」

 

コックピット内のシステムを立上げ、各セクションのステータスをアクティブに切り替えていく。手元のモニターにはOS名である【General Unilateral Neuro-Link Dispersive Autonomic Maneuver】が表示される。

……最も、中身は先ほど書き換えたOSになっており、実質別物と言えたが。

 

「あ……おしっこしたくなっちゃった」

 

ニコルの尻の下でもぞもぞとセイルの手が動き、すぐに簡易キットへ排泄物が溜まっていく。

ニコルのメンタルは最悪だった。刺し傷も銃創も気絶するほど痛いし、むさい男の膝に乗せられるし、挙句そいつはションベンまでし始めた。

間違いなく人生最悪の日だ。

 

そうこうしているうちに機体のブートが終わり、メインカメラに周囲の状況が映し出された。

 

 

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自分達が、いわゆる選ばれた人間である、事実はさておき、周囲からはそのように見られていることを、ニコル・アマルフィは自然と受け入れていた。

 

両親ともにコーディネイターで、父はプラント評議会議員。ユニウスセブンの件を受けて軍拡化に傾いたプラントにおいて、自身にも出来る事を求めて士官学校へ入ると、上位の成績で卒業、赤服を与えられ、エリート部隊であるクルーゼ隊へと配属された。

 

同期のアスラン・ザラ達も競い合いながらも決していがみ合うことなく、プラントの為に、全力を賭す仲間としてやってきた。

 

その同期たちも、皆クルーゼ隊だ。

ザフトが誇るトップエースであるラウ・ル・クルーゼ率いる、まさにザフト軍の最強部隊。

 

そこに配属されたことは誇りであるし、プレッシャーでもあった。

だが、志を共にする仲間達とザフトの、プラントの為に、どんな困難であろうとも乗り越えて、戦い抜く覚悟を決めていた。

 

そしてついに、その時がやってきた。

 

連合の新兵器強奪作戦。味方が陽動している隙に、地球連合が開発したMSを奪い取り、反撃の機会を奪う。

ザフトの優位性が先行してMSを戦線に投入していることで保たれ、一方で総力差は大きく負けていることを正しく理解しているからこそ、敵の巻き返しの芽を徹底的に摘む。

与えられた役目は大きいが、やり遂げてみせる。

ニコルはそうしてこの作戦に参加した。

 

が、何の前触れもなく降り掛かってきた暴力と痛みの前には、そのような決意だの覚悟だのという概念は、ものの役には立たなかった。

痛みと恐怖に震えるニコルの目の前で、動き出した地球連合製のMSのメインカメラに、まさに他のMSへ乗り込む為、連合軍人と銃撃戦を繰り広げる同期の姿が映し出されていた。

 

 

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(ラスティ、逃げて!)

 

声も出ぬままに、ニコルは祈った。

ブリッツと侵入者、ラスティの距離は20メートル程。

5機のMSは並べて置かれていたため、その横を順次侵入者が乗り込みながら進んでいるようだった。

 

「対歩兵用の装備もねえのかよ……あ、これでいいか」

 

セイルはそう呟くと、ブリッツの左腕で右手の盾裏にマウントされている実体弾、ランサーダートを1本引き抜いた。

 

「オラ、クソ虫が、死ねオラ」

 

そのまま、丸めたポスターで虫を叩くように、ランサーダートを振り下ろす。

 

「っ……あ、ラス……ティ」

 

訳も分からぬといった顔のまま、床のシミとなってしまった同期の姿に、ニコルは愕然として声を漏らした。同時に、激痛が胸元から喉へと込み上げる。

 

血を吐き出しながら震えるニコルを見て、セイルは心配そうに声をかけた。

 

「どうした? 大丈夫か? 身体は大事にしろ、せめて、人質として使える内はな」

 

機体を起き上がらせて、フェイズシフトを起動する。

すると、周りの機体から通信が入る。

 

『ニコル! 何があった!?』

 

『おいおい、ラスティをやっちまったのかよ』

 

『貴様ぁ、そこにいるのは誰だ!?』

 

「敵施設に侵入しといて名前呼びまくりなのヤバ過ぎでしょ。ボーイスカウトかよ」

 

特に返事を返すことなく、先程使えるようにしたビームライフルの銃口を、セイルは知らないがデュエルという名称の機体に向けた。

 

『っ!? 貴様ぁ!!』

 

『イザーク!? やめろよ!』

 

「はいはい、イザーク君ね」

 

次に、バスターへ。

 

『ぅおい! 俺かよ!?』

 

『くっ、すぐに起動する。耐えろディアッカ!』

 

「こっちはディアッカ君、と」

 

続けて、イージス。

 

『動ける者から離脱しろ! こいつは俺が……』

 

『アスラァン! 貴様こそさっさと帰還しろ!』

 

「アスラァン君、ん? アスランかな?」

 

最後に、ストライクへ。

 

『こちらGAT-X105 ストライク、ブリッツに乗っているのは、ひょっとしてオランチョ大尉ですか!?』

 

「俺はオランチョ、と……………………はぁぁぁぁ、これだから技術屋はよぉ」

 

その声は、ちょっと前に聞いた女の声、マリュー・ラミアスのものだった。

 

「おい、バカ女。目の前に敵いんのに気安く人の名前と階級を口に出すな。中立コロニーだぞここ」

 

『あっ、申し訳……いや、そんなこと言ってる場合じゃ……』

 

「とにかく外出るぞ。シェルター避難は始まってるんだろ? 巻き込んだら遺族への手紙はお前に書かせるからな」

 

どうやら侵入者達は、既に機体をほぼ掌握出来ているらしい。フェイズシフトを起動させつつ、動き始めている。

 

「クッソ、一匹位撃っときゃ良かったか? でもなぁ、ぜってぇ後で『なんで撃った?』とか聞かれそうだし、爆発とかしたら俺のせいにされそうだしな」

 

背面のブースターを点火すると、セイルの操るブリッツは比較的スムーズに飛び上がり、開けた場所へと着陸した。

 

「うわぁ」

 

コロニー内のいたるところで混乱が起きていた。人々は逃げ惑い、時折爆煙が吐き上がる。

 

「こりゃ、ナタルは死んだかな」

 

見上げると、親の顔より見たジンが、こちらを発見したところだった。

距離を詰めてくる速度から、どうやら既に仲間の失敗は聞いているらしい。

 

こうして、人類史上初めてとなる地球連合、ザフト双方の、MS同士の戦闘が発生した。





ラスティは間違えて名前ついちゃったモブだと思ってます。
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