エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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ハルバートンとカスの会話書くの楽し過ぎて無限に続けられそうだけど、流石にクルーゼさんがキモいアスラン抱えてスタンバってるから先に進みます。


第30話 蛇達の群像劇

 

だって、止まれなかったじゃないか。

 

コロニーを焼かれても、地球が飢えて凍えても、俺達は止まれなかったじゃないか。

 

 

凄まじい寒気と共に、ナタル・バジルールは目を覚ました。

すぐの戦闘は起こらないと、安心して眠りに落ちた筈が、今の彼女は全身が寝汗でぐっしょりと濡れていた。

 

「夢……そうか……」

 

ナタルはシャワーを浴びる為、ベッドから身を起こす。

 

「あの時も第8艦隊で、提督とアイツと、私がいたのだったな……」

 

目を床に向けると、そこには酒瓶を枕にするセイルとうつ伏せの赤ちゃんみたいな体勢で眠るハルバートンがいた。

 

「この3人での思い出話など……いや、感傷だな」

 

ナタルはそう呟くと、そっとハルバートンの身体を揺すった。

 

「提督、起きて下さい。朝です」

 

「……ハニィ、僕のヒゲダンス見てぇ……ムニャムニャ…………おはようバジルール中尉、よい朝だね」

 

「提督……昔は勇壮な方だったのに……」

 

配属された当初、父の旧友だと言うハルバートンは、それはもう厳格で知的で、それでいて優しさを兼ね備えた将校たるものかくあるべしといった人物だった。

 

それがセイルを引き抜いてから、最高で日に15枚の報告書作成と25件に及ぶ謝罪廻りと次々と艦隊内に結成される被害者の会と愛する息子からの言葉に精神を消耗していった。

 

特に報告書と謝罪廻りは、セイル本人が他所の艦隊へ出向中の時も絶え間なく続き、いつの間にかハルバートンは1発目を装填した銃を持ち歩くようになっていた。

 

「……起きろ」

 

ナタルは次に、セイルが枕にしている酒瓶を蹴り飛ばした。

 

「ふみぃ……ぼく、ナタルちゃんがお尻で優しく揺らしてくれないと、起きられないよぉ」

 

カッチャ

 

銃のスライドを引くと、カスはまぶたを開けた。

 

「わかった、胸で手を打とう」

 

「提督、0615です。少し早いですが、お疲れでしょう。メネラオスにお戻り下さい」

 

ナタルは無視してハルバートンに敬礼をする。

 

「うむ……久し振りに君等と飲めて良かったよ。すまないが女性士官の部屋に一晩いたことは、内緒にしてくれたまえ」

 

返礼すると冗談めかしてウインクをし、ハルバートンは部屋を出ていった。

ちゃんとセイルの足も掴み、引き摺りながら。

 

「おーい、このヒゲタク運転荒いよぉ。ナタルちゃんのおっぱいお尻クッションないのー?」

 

「喧しい……食堂にでも捨てるか」

 

2人は扉の向こうに消えていった。

少しして銃声が聞こえたので、セイルもいい加減動き出すだろう。

 

ナタルは昨晩から着たままのワイシャツを脱ぐと、ベッドの上に放った。壁際には真新しい軍服の上着と、襟元に輝く階級章が光っている。

 

ナタル・バジルールはここまでの道のりにおける功績で、1階級の昇進を遂げていた。

アークエンジェルが第8艦隊に合流して3日目、予定ではこの日、地球へ降下することになっている。

 

後に低軌道会戦と呼ばれる1日は、こうして始まった。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

マリュー・ラミアスの朝は早い。

目覚めと共に白湯を1杯飲み干し、その日の胃のコンディションを確かめる。

 

「……ふやかしたヌードルならイケるかしら」

 

平常時を0とするならば、ここ最近はずっと-5〜-10を行ったり来たりしている。原点に戻ることはなかった。

 

食前用の胃薬を手早く服用し、身支度を済ませていく。

最後に袖を通した軍服には、地球連合軍少佐を示す階級章がつけられていた。

 

「さ……あとひと頑張りね」

 

頬を叩いて気合を入れると、マリューは部屋を出た。

食堂へ向かう途中、ハルバートンがセイルを引き摺っているのを目撃し、一度現実から逃げたくなったが、頑張った。

 

端末にメッセージ着信を知らせる音が鳴り、見ればムウからであった。

どうやら食堂にいるらしい。朝食のお誘いだった。

 

「何だか、大尉には面倒ばかりかけてしまうわね」

 

どうやら絆され始めているらしい、そんな自分の気持ちはさておき、マリューは今日も艦長をやるのだ。

 

「……あのアンケート用紙、労基に持ち込んだら勝てないかしら……軍に労基ってあるのかしら……?」

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

薄暗い部屋に置かれた円卓。そこに8つの椅子が並んでいる。

朝早くというのに、それぞれの椅子にはすでに全員が着席していた。

 

「諸君、由々しき事態だ」

 

椅子に座る1人、神経質そうな短髪の男がそう言った。

胸元には真っ赤なミミズにしか見えないが、彼等曰く、()()()()()()()()を模したエンブレムがつけられていた。

 

「開口一番それか? ついに提督が入会でも決めたのかね?」

 

向かいの席に座る壮年の男が訪ねる。

短髪は頷きを返すと、顔を左へと向けた。

 

「報告を聞けばわかる。青の、頼めるか?」

 

その呼び掛けに、顔を向けられた席に座っていた若い男が立ち上がる。

 

「はい。先日、ヘリオポリスからここまでやって来たアークエンジェルより、学生5名を保護しました」

 

そして、手にした端末に表示させた文章を読み上げる。

 

「彼等は正規軍人が不足するアークエンジェルにて、戦時徴用を受け、ここまで戦闘に参加しながらやって来ました……カスの小隊隊員として」

 

その言葉に、場がざわつき出す。

 

ここは第8艦隊円卓の間……なんてものは無かったので、メネラオスの備品倉庫に勝手にパーティションを持ち込んで作った部屋に円卓を置いたものだった。

 

そして今、ここには第8艦隊におけるカス被害者の会、その会長全員が集まっていた。

 

「その中でもトリアージブルーで比較的普通の会話が可能なトール・ケーニヒ及びミリアリア・ハウの2名から経緯のヒアリングをした所……その……」

 

言い淀む彼に、短髪は続きを促した。

 

「続けてくれ。これは全員が知らなければならないことだ」

 

「……彼等は、驚くべきことに、日常的に平均してカスニチュード3.5以上の被害を受けておりました」

 

※カスニチュード:第8艦隊の造語。カス害の強さを表す指標で、2以上で精神に支障をきたすと言われる。過去最大は、ある舎弟がパシリタスクを振られ過ぎ、納期を並べると72時間先まで一分の隙間もない事が発覚した『終わらない明日へ』事件の際の7だとされている。

 

「3.5だと!?」「バカな、あり得ん」「何故人のカタチを保てるのだ……」「5人もいたら1人は死んでるだろ」「確かレッドサバイバーに行った奴いたな」「意外と皆元気ではあるんですが……」

 

「内訳として、トール・ケーニヒ、ミリアリア・ハウ2名が平均1〜2.5、サイ・アーガイルが3、カズイ・バスカークが5……そして」

 

若い男……青き正常な日々の構成員は、恐怖に彩られた顔で、震える声を隠しきれないまま続けた。

 

「キラ・ヤマトが……推定7以上です」

 

場が静まり返る。

何人かは天井を見上げ、何人かは手で顔を覆い震えながら机に伏してしまう。

 

「神よ……」「神はいねえだろ」「いたらあのカスは天罰受け過ぎて消滅してるよ」「悪魔よ……」「悪魔はアイツ自身だろ」「もう人間扱いすらされないんですね」

 

「更にキラ・ヤマトについては、カス小隊の副隊長であり、カス本人から相棒、右腕、孫の手、下僕と認定されております。『終わらない明日へ』規模のタスク量が常態化しており、これを驚異的なペースでこなしながらMSパイロットとして戦闘まで行っていたと」

 

「まさか……舎弟フェーズ4!?」「実在していたというのか」「彼はコーディネイターらしいから……」「だからなんだよ」「人間として無理っつってんだよ」「あの……」

 

「以上のことから、キラ・ヤマトは虚ろなる混沌への入会が適正と思い、紹介した所……」

 

若い男は席の一角を見やって続けた。

 

「その経歴から即会長として就任。今もそちらに座っております」

 

「うわあ!」「うわあ!」「うわあ!」「うわあ!」「うわあ!」

 

「……どうも、キラ・ヤマトです。あの、帰ってもいいですか……?」

 

こうして、後の世でカス派筆頭、パシリで世界を救った男、逸般コーディネイターと呼ばれる存在が世界に対して産声をあげた。ガチ泣きの様相を呈していたという。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

ヴェサリウスは速力を上げて、既に合流した第8艦隊とアークエンジェルの場所へと向かっていた。

 

「一手読まれたな。こちらの手を潰すではなく、制限するやり口……智将ハルバートン、ひと筋縄ではいかんな」

 

帰還したクルーゼは、ブリッジでアデスに話をしていた。

 

「どうされますか? 急いではいますが、どうやってもあと半日はかかります。既に補給も終わっているならば、いつ降下を始めてもおかしくないでしょう」

 

アデスの言葉に、クルーゼは表面上、苦々しく口元を歪めた。

 

「誠に遺憾ではあるが、分の悪い賭けに出るしかあるまい……連中もまた、我々をこの辺で沈めておきたいと考えてくれているかどうか……」

 

クルーゼはオペレーターへ確認する。

 

「目標に最接近しているのはどこの部隊か」

 

「はっ……チェレス隊です」

 

「聞かん名だ……アデス、わかるか?」

 

アデスは近隣の僚艦と言うこともあり、あらかじめ調べておいた情報を返答する。

 

「確か、ここ数年のアカデミー卒業生を中心に組まれた隊です。隊長はチェレス・マッケイ、こちらもまだ若い、艦長成り立てですな。エンデュミオンの後立ち上がった補充計画で行われた、部隊指揮官の早期育成プロジェクトの参加者です」

 

「つまりは、これからザフトを担う若手ということか……成程」

 

つまり今の時点では担うに値しない、と。

 

「チェレス隊に打電。先行し、敵戦力誘引を開始せよ、と」

 

「誘引、ですか?」

 

「少し押して、引く。これまで小競り合いすら起こっていないのだ。下手をすれば我々の到着前に足つきが離脱する。強引に戦闘態勢に引き摺り込み、我々が近くにいると察して足つきを手元に残す判断をするかどうか、賭けだな」

 

「ふむ……しかし、チェレス隊には酷ですな。新造部隊が、果たしてあのハルバートン麾下の第8艦隊に風穴を空けられるか」

 

「そこは期待するとしよう。ザフトの未来を背負う彼等に」

 

その口ぶりからクルーゼの内心を悟ったか、運の無い隊長に着くこと程哀れなものはないな、とアデスは思った。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

低軌道会戦当日、0930、第8艦隊球形陣の外縁に位置するドレイク級護衛艦セレウコスが、急接近するザフト艦を察知した。

 

その情報は直ちに球形陣内に伝達され、ハルバートンの指示により第一種戦闘配置が発令された。

 

「クルーゼ隊の合流まであと6時間はあろうに、随分慌ただしいじゃないか」

 

ハルバートンはため息と共に、取り出した葉巻の先端をカットする。

 

「提督、ブリッジは禁煙です」

 

ホフマンの嗜めに対し、

 

「知っとるよ。艦内規則には詳しいんだ、何せ提督だからね」

 

咥えて火をつけながら言ってのけた。

この人本当に言動が似てきてるよなカスに、とホフマンは思った。

 

「さて、何らかの狙いがあるか、はたまた独断専行か」

 

吐き出した紫煙が天井に届く頃、新たな報せが入る。

 

「敵艦、更に加速! セレウコス射程圏まであと1800!」

 

「……カサンドロス前進、セレウコスと歩調を合わせつつ、両艦はメビウスを発艦」

 

「了解です。カサンドロス前進! セレウコスと支援リンクを維持しつつ艦載機発艦! 後続艦は戦闘態勢を維持!」

 

ハルバートンは、レーダー上に展開する10機のメビウスと2隻の戦艦が、たかが巡洋艦クラスのザフト艦1隻に劣るということを理解していた。

 

正確には、ザフトが艦載機としているMSと呼ばれる兵器に対して、地球連合軍の艦は余りにも脆弱だった。

 

「敵艦よりMS発進を確認! 数4、尚も接近!」

 

だから、しかし、それでも、ハルバートンは不敵に笑ってみせた。

 

「レミング・プロトコルを展開する。ウチの勇敢なネズミ共に、食い散らせと伝えてやれ」

 

「はっ、対MS戦 艦隊運用プロトコル改訂2.5版、施行開始!」

 

ハルバートンの指示に、ホフマンが従う。

 

低軌道会戦の第1ラウンドが、始まろうとしていた。

 





始まる……捏造に捏造を重ねた一大イベントが……!

■簡易人物紹介
チェレス・マッケイ
アスラン達の2年先輩。赤服ではないが比較的優秀な成績でアカデミーを卒業。
エンデュミオンクレーターの戦いで欠損した戦力補充のため、早期育成プログラムに参加し、若くして部隊を預かる艦長となった。

プラントに一緒に育った幼馴染がいる。
チェレスが軍人を志しアカデミーに通う間、彼女は夢であるパン屋を開く為に勉強していた。

この戦争が終わったらプロポーズしようと思っている。
従軍する際プレゼントされた懐中時計に彼女の写真をしまっている。
将来は彼女と一緒にパン屋をやるのも悪くないと思っている。

今回の作戦は『こんな、ナチュラル如きに様子見なんてイモ引いてる連中と一緒になんかいられるか!』と、クルーゼの誘いに嬉々として乗っかり出撃した。
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