エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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どうすっかなー、避難民はなー。
ああいう『約束された曇らせセット』みたいな最期は好きじゃないんですよね。
C.E.にガイゾックがいる訳でもないし。
せっかく高級中華食いに来て半チャーラーメン頼むかって話なんですよ。
やっぱエビチリすよね。


第33話 低軌道会戦③

 

『オレンジ4アルファ2、陣形中央に向かい、高速の質量が接近とのこと、アークエンジェルのムウ・ラ・フラガ大尉からです! MSを曳航する高速艇らしき物体です!』

 

メネラオスのブリッジに緊張が走る。

 

「進路は?」 

 

ハルバートンの問いかけに、オペレーターの悲痛な声が返される。

 

「陣形中央からはやや外れますが、このままではいくらかの艦艇に被害が出る可能性があります。また、速度的に誘導兵器での捕捉が困難かと思われます」

 

「こんな事なら、慰安など考えず降ろしとけば良かったな」

 

ハルバートンはそう呟いた。

ヘリオポリス避難民のことだと、ホフマンにはすぐわかった。

 

「やむを得ません。着かず離れずの距離で常にザフトがいたのです。先に降ろしていれば狙われたでしょう。向こうからすれば、避難民を乗せた降下艇も新兵器を乗せたシャトルも区別する必要がない」

 

ホフマンの言葉に、ハルバートンは苦々しく顔を歪めた。

 

「せめて小康状態が維持出来ればな……ままならんものだ……ヘリオポリス避難民を降ろせ。全周囲回線で通達はしてやれよ」

 

「了解です。高速艇、尚も接近。アークエンジェルの上を通り、球形陣左舷中央へ突入想定」

 

「予測進路上にミサイルを発射。下手に狙わずにばら撒け、1発でも反応すればいい。各艦、砲はビームを使え。当てたら奢ってやる」

 

元より待ち伏せを旨とする球形陣を敷く艦隊に、機動性を発揮した回避等は不可能だ。迎撃するしかなかった。

 

「さらにザフト艦の接近を確認。球形陣直上! ローラシア級5、ナスカ級2、MS発艦を確認!」

 

「MS30機以上一斉投入か……見透かされとるな。全艦迎撃準備、射程に入ったものから撃ってよし、ネズミ共を援護してやれ。それと、アークエンジェルへ打電……降下開始せよ!」 

 

「了解! 全艦迎撃態勢、射程範囲に入り次第砲撃開始。メビウス各隊はレミング・プロトコルの施行を開始!」

 

「アークエンジェル、こちらメネラオス管制、降下開始せよ、繰り返す、降下開始せよ」

 

「っ!! アークエンジェルより打電!」

 

「なんだ!」

 

「あの……ブリッツが高速艇から切り離されたG兵器の迎撃に出たとのこと。こちらにはストライクを、その……貸す、と」 

 

「不良共めが……ストライクは不要だ、そっちが片付き次第消えろと返答しろ!」

 

再度の打電が行われるより早く、メネラオスの前をエールストライクが通り過ぎて行った。

 

「……敵のMS一斉発艦により、球形陣直上は局所的な数的有利維持が困難となっている。ストライクには程々で逃げろと言ってやれ」

 

「……了解です。ストライク、こちらメネラオス管制……」

 

つい先程の圧勝など忘れたかのように、ハルバートンの顔からは不穏に顰められたシワが消えることはなかった。

 

 

 

メビウスは弱い。

それはもう弱い。

弱いから群れるし、群れた上で戦艦を使わねば勝てない。

 

その弱い弱いネズミが群れで繰り出すレミング・プロトコルは、その性質上、数的有理が確保できない場面や高速の質量弾にはなす術がないという欠点があった。

 

そして、こと乱戦においては実行難易度が恐ろしく跳ね上がるという、考案した第8艦隊にも手の打ちようがない欠点も。

 

 

 

ザフトの高速艇は既に曳航していたMSを切り離し、無人故に、それこそネズミ花火のような無軌道さを高速で維持しながら艦隊の間を這い回った。

 

そして球形陣の左舷、中央に位置するメネラオスを遠方に目視可能な程の位置でついにその役目を終えようとしていた。

 

高速艇はここに来るまで幾度もの迎撃に遭いながら、強引にそれらを突破して来た。

 

それは高速艇自体がある程度頑丈かつ高出力のブースターがある事に加えて、既に球形陣直上から浸透しつつある多数のジンと、2隻のユーラシア級、そして1体のMS……イージスの力によるものだった。

 

メビウス隊の編隊はかき乱され、ロッテを組んだジンによりその数を減らしていった。

 

イージスのビームライフルもこの場においては厄介極まりない。

球形陣は一歩中に踏み込めば戦艦の密集地帯だ。

どこへ撃っても当たるし、どれに当たっても沈むのだ。

 

高速艇がドレイク級戦艦ソルトレイクに迫る。

周囲の艦艇からビームが放たれるも、それは高速艇に当たると途端に拡散し威力を減じてしまう。

 

『野郎、腹の中はビームかく乱膜で一杯かよ!』

 

メビウスのパイロットが腹立たしげに言いながら、迫りくるジンにレミング・プロトコルを仕掛けるべく僚機を探す。

 

そこには、まさに高速艇の軌道上に回り込もうとする僚機の姿があった。

 

『2番機、何してる! よせ!』

 

慌てて呼びかけるも、僚機からは悲壮感の漂う叫びだけが返ってきた。

 

『あの艦には弟がいるんだ!!』

 

スラスターを全開にしたメビウス・No.8カスタムが、装填されているワイヤーを全弾撃ち出しながら高速艇にぶつかっていく。

 

拮抗すら起こらなかった。

 

飛んでくるサッカーボールを正面から止められるネズミは、いないのだ。

 

無慈悲にメビウスを蹴散らした高速艇は、しかし僅かに軌道を逸らし、ソルトレイクの左舷エンジンへと追突した。

 

航行不能になったソルトレイクからいくつもの脱出艇が飛ぶも、そこへジン達が群がり叩き落としていく。既に仲間を失っている彼等は、薄汚いナチュラル共をこの場から1人たりとも生かして帰す気はなかったのだ。

 

狂気に駆られた機動兵器達が、瞬く間に艦隊を蹂躙していく。

 

この戦いで、第8艦隊が落とせたジンは僅かに6機だった。

 

後の世の歴史書では、戦術としての効果はあったが、レミング・プロトコルはその効果を発揮するプロセス、必要練度が余りに特異で、完熟期間が足りなかった。そう記されることになる。

 

事実、この戦いで使い手の多くを失った本戦術は、この戦争の最終局面に至るまでほとんど使われることはなかったのだ。

 

「やはりこうなるか。モビルアーマーだけでは、ここが限界だな」

 

ハルバートンは艦隊指揮を執りつつも、刻一刻と悪化していく戦況から目を逸らさず、己のやるべきことを見失わずにいた。

 

「アークエンジェルは?」

 

「降下シークエンスに入りましたが、ギリギリまで援護はすると」

 

「ふむ……本艦を殿として、損傷艦で足止めを行う。ホフマン、艦載機を回収させたまだ動ける艦艇を月へ撤退させろ。選定は任せる……ストライクはどうか?」

 

「ストライク、イージスへ接敵。陣形左舷端へ押し返しています!」

 

「あの少年……気弱そうに見えたがな」

 

涙を零していたコーディネイターの少年。

 

カスの舎弟としてなす術もなく翻弄されているかのような印象を受けた彼が、ギリギリの所で第8艦隊を救ってくれた。

 

「オランチョの舎弟ですよ?」

 

ホフマンは苦笑とともにそう言った。

 

「かぁー、これだから嫌だ。あのカスに関わるとどいつもこいつも人が変わってしまう」

 

どいつもこいつも、あなたもですね。そんな言葉をホフマンは飲み込む。

 

「左舷下方のミサイル艦艇を上げろ。弾幕を張りイージスと周りのジンを分断し、ストライクを援護してやれ」

 

「了解です……退却する艦艇の選定が終わりました。再編成まで10分」

 

「よろしい。殿に残る全艦に通達、第8艦隊の意地を見せろ。敵を押し戻して彼等が抜ける隙間を作るぞ」

 

「了解。各艦、全砲門開け。艦隊戦が我らの領分であることを連中に思い知らせてやれ!」

 

既に、自分達の命を勘定の外に置いた彼等の戦意は高かった。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

『アスラン! 君は本当にこんな戦争を望んでるのか!?』

 

キラはストライクのコックピットで吠えた。

 

ソルトレイクからの脱出艇を、わざわざ銃口を押し付けて撃ち落とすジンの姿を見た。

 

助けに入ろうとするメビウスを囲み、スラスターを引き千切った後で重斬刀でコックピットを叩き潰すジンの姿を見た。

その光景を、アスランも見ていた筈なのに。

 

『キラァ! 今日こそ俺は、お前を!』

 

『くっ、そんなに戦いがしたいのか、アスラン!』

 

迫りくるイージス。アスラン本人の持つ格闘戦の技量が遂に開花したのか、クロスレンジでは手のつけようのない暴れっぷりだった。

四方から迫るビームサーベルをいなしつつ、キラは叫んだ。

 

『この戦争がここまで悪化したのは、ナチュラルがユニウスセブンに核を使ったからだ! やられたから、もうやらせない為に、戦うんだろうが! 何故わからない!』

 

避けきれなかったサーベルをシールドで受ける。

 

『虐殺さえもやり返すっていうのか!?』

 

目の前で、知っているかもしれない人達が死んだ。

それがキラの心に抑えきれない怒りと悲しみを生んでいた。

 

『俺の母もユニウスセブンで死んだ! ナチュラルに殺されたんだ!!』

 

幼い頃、言葉を交わしたこともある女性の姿が脳裏を過る。

 

『くっ!? だからといって……』

 

『キラ、お前だって俺の気持ちをわかる筈だ! あんなにも一緒だったじゃないか!』

 

どこかで縋るようなアスランのセリフに、キラは葛藤を押し殺すように叫んだ。

 

『それでも、剣を手に取るなら僕は……大事なものを守る為に戦いたい!』

 

『キラ! 今日、ここで、お前の目を覚ます!! お前のベスト・オブ・ザ・フレンドであるこの俺が!!!』

 

『あッ、スゥー……アスラァン!!』

 

『キラァァァ!!!』

 

一瞬感じた寒気を、キラは気合で無視することにした。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

「まあ、もう艦隊戦の時代じゃねえもんな……」

 

劣勢に追い込まれていく第8艦隊を見やりつつ、セイルは呟いた。

 

「アレだな。いっそのこと超高速で飛ぶ戦艦に100丁くらいビームライフル括り付けたら戦場のビッグウェーブになるかもな」

 

今度ヒゲに作らせよう。

 

「お前等もそう思うだろ?」

 

セイルが駆るブリッツの眼前には、既にフェイズシフトが切れたデュエルと、自慢の長砲身を切断されたバスターがいた。

両機共煤で汚れ、装甲のあちこちに爆発で出来たと思しき破断箇所が見て取れた。

 

『こいつ……なんだあの動きは!?』

 

『いくら歴戦の第8艦隊って言っても、MSにここまでミサイル当てられるなんて聞いてねえぞ、おい!』

 

イザークとディアッカは機体を寄せ合いながら驚愕に身を震わせていた。

 

前に見たよりも一回り大きなスラスターを背負ったブリッツ。その後方に、第8艦隊のミサイル艦が並んでいる。

 

『これが隊長の言っていた、凶鳥の戦い方か……』

 

『ミゲル達がやられる訳だぜ』

 

ブリッツは速かった。

ともすれば自身も巻き込みかねないレベルの弾幕を至近距離で躱し、こちらに押し付けていく。

最初イザーク達は、自爆特攻でも仕掛けてきたのかと思った程だった。

 

あっという間に飛び抜けて行った狂鳥は、ミサイルの束を2機に押し付けた。直撃をしなくても殺傷範囲の広い兵器によって、彼等のフェイズシフト装甲は瞬く間にその機能を喪失していった。

 

バスターに至っては、最大火力を発揮するための砲身まで凶鳥のサーベルによって分断されている。

 

『オランチョ中尉、旗艦より撤退命令が出ました』

 

先程までフッケバイン・プロトコルに組み込まれていたミサイル艦から通信が入る。オペレーターは、かつてセイルの舎弟だった男である。

 

「あら、もうお帰り? 気を付けて帰るのよ。敵ぶっ殺して帰って女抱いて自慢話するまでが戦争だからね」

 

『生憎と、我々に下されたのは殿への参加です。さ、中尉もお早く艦に。ここは我等が食い止めます』

 

「はあ? 一斉に退きゃいいだろうが。こっちはこっちで降りるからよ。最低でも向こうを二分できるし、そもそも損傷艦だらけのお前らでどうやって――」

 

『メネラオスを中心とした殿部隊がアークエンジェル降下の為の足止めと、一部艦隊の月への撤退支援を行います。低軌道上で足を止めての艦隊戦です。腕が鳴りますよ』

 

セイルは言葉を止めた。

 

「……やめとけよ、それはさ」

 

『第8艦隊は連合艦隊のエースですよ? どうかご安心下さい。一発の砲弾さえ、通さずにご覧に入れます』

 

「おい、クソヒゲにも伝えろ。さもなきゃ今すぐ降下を止めるぞ」

 

『それは困るよ』

 

通信にハルバートンの声だけが割り込んできた。

 

『言ったろ。お前らが無事アラスカに辿り着く事は、この戦争にとって非常に大きな意味を持つ。地球連合軍最初の独自MS運用メソッドだ。ここで失う訳にはいかん』

 

「ジジイになるとモノの価値が正しく見えなくなるってのはホントらしいな。こんな、お前な」

 

セイルの語尾に力が籠る。

 

「後でどうとでもなるようなモン、二束三文にもなりゃしねえ。開戦から今日まで損耗率一桁でやって来た艦隊の人材と経験値を、ここで失うよりはマシだろうが。大体、この先だって無事アラスカまで行けるかさえ怪しいもんを――」

 

『そうでもないさ……送り出す中に、悪友の一人もおるのならな』

 

ハルバートンの言葉に、セイルは頭を抱える。

もう駄目だ、このヒゲは完全に決めているし、そうなった以上はやり通すだろう。

そういう男だ。よく知っている。

 

「お前のガキは可哀想だなぁ! なんせ親父は無駄死にした上、戦争にも負けちまうんだ!」

 

しかし、それでもセイルの口は動いた。

ブリッツの遥か頭上で、メネラオスを中心とした艦隊統制が行われ、小規模な艦隊が組織的な砲戦を開始した。

 

まだ20機以上のジンが健在。

ここまでにナスカ級1、ユーラシア級1が爆沈したものの、ザフト側の優性に間違いは無かった。

 

『勝つさ、我々は。()が我々を負けさせはせんだろう。例え最後の一兵まで息絶えようと、地球が死の星になろうとも、連中に深々とした敗北感を与えずにはいられない、そんな男を知っておる』

 

「想像してみろお前の嫁が、他の男に抱かれてる様をよ! ガキはいつまでお前を覚えてるんだろうな! お前がどんな人間だったかを、いつ頃忘れちまうんだろうな!?」

 

『ふっ、相変わらずお前は、悪意を使って愛を測るのだな、ガキめ』

 

「キッモイんだよクソヒゲがぁ!…………ナタルゥ!!!」

 

通信をアークエンジェルへと飛ばす。

それに答えたかのように、アークエンジェルが宙域へ突入してきた。

 

『現在降下フェーズ試行中です、中尉。早く着艦してください!』

 

「流石、良い女はタイミングを間違えないね」

 

セイルは獰猛に歯をむき出し、吠えた。

 

()()()()3()をやる! 道作れ! クソヒゲやその辺のミサイル艦も使い倒せ!」

 

その指示に、ナタルはブリッジで顔色を変えた。

 

『あれは……もう使わないと約束した筈です!』

 

その言葉に、マリューを始めとするブリッジクルー達も顔を青褪める。

 

『絶対よくないことだと思うわ』

 

『絶対よくないことでしょうね』

 

マリューとノイマンは揃ってうめき声をあげた。

 

「約束の価値を証明する方法は二つある。守るか、破るかだ。俺は破る方が好き」

 

『ハァ……もし、これで、何かあれば』

 

ナタルは軍帽を被り直し、鋭い目をモニターへ向ける。

 

『私は泣きますからね』

 

「泣くのか……俺以外の男の前で?」

 

『ですね。その辺の適当な男の前で』

 

「そいつを殺すまでは生きててやるさ」

 

ナタルが一瞬、下唇を噛む。

マリューは電光石火のスピードで端末のカメラを構えた。

 

『……ご武運を。それと、あまり自分を粗末に扱わないでください』

 

「俺程に自分を大切にしてる人間はいないよ?」

 

そう言って、セイルとブリッツは上昇した。

着艦の為ではない。

アークエンジェルを飛び越えて、行く先は第8艦隊の殿部隊だ。

 

「クソヒゲェ!! テメエを宇宙イチ間抜けな死に損ないにしてやるよぉ!!」

 

戦場に不幸を運ぶ不吉な鳥が、その真価を発揮しようとしていた。





デュエルとバスターはけちょんけちょんにされてこの後母艦に逃げ帰りました。

カスだけど芯が通っている、だとよくあるなんちゃってカスになりそうだったので、いっそ振り切ってカス、それはそれとして譲れないものもある。位に書いてます。
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