エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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今回もしカスがカス過ぎて不快にさせたならごめんなさいね。



第34話 地獄への道は悪意で舗装されている

 

ジンが2、3機もいれば、現行の地球連合艦隊に太刀打ちできる戦艦は居ないとされている。

余程腕の良い観測手に銃手がいれば話は別だが、3次元的な機動を旨とするMSという兵器は、正しく鈍重な戦艦にとっての天敵であったのだ。

 

それをハルバートンは深く理解していた。

 

殿艦隊を取り囲む20機余りのジン。その数で対空砲火を掻い潜り接近する隙を狙われていては、もはや艦隊の命運は決まったも同然だった。

 

「提督、どうやらこれは……」

 

撤退していく味方艦には目もくれず殿に食いつくジン達の姿に、ホフマンが苦々しげに言った。

 

「我ながら人気者になったものだ。デキの良いオツムしといてこんな老害が怖いと見える」

 

ハルバートンは呵々と笑いながら指揮を止めない。

 

「対空砲火を絶やすなよ。オルソン、ラビオラは掻い潜ってきたハエに主砲を叩き込んでやれ」

 

とはいえ、これは単なる時間稼ぎだ。

 

古豪にしてベテラン揃いの第8艦隊は、今、戦火の中でその役目を終えようとしていた。

 

 

 

『お邪魔ー!!』

 

ロッテを組み殿艦隊へ接近を試みていたジンの片割れが、飛び込んできたブリッツに速度の乗った足蹴りを食らった。

 

新型スラスターで十二分に速度の乗ったそれは、直撃したジンの胸部を一撃で粉砕してみせた。

 

「あんの、カスが!」

 

ハルバートンの叫びに怒りが見て取れた。

 

ブリッツは勢いを殺さずグレイプニールで残った1機を手繰り寄せ、ビームサーベルであっという間にダルマにしてしまった。

 

胴体だけになったジンを抱えると、18機のジンへと向き直る。

 

『アローハー! イケメン戦士スーパーオランチョのイケイケ戦場ラジオのお時間です! 今から自称優秀なコーディネイター君を素焼きにしていきまーす!』

 

全周囲回線で邪悪な言葉をばら撒きながら、低出力に絞ったサーベルをコックピットへ近付けていく。

コックピット表面装甲が赤熱、溶解していくと、ブリッツとの接触回線を通じてジンのパイロットがあげる悲惨な悲鳴が響き渡った。

 

『ああっ、熱い! 熱い! いや、助けてぇ!』

 

『おっとぉ、リスナーは女の子なのかなぁ? これはラッキー! 本日の被害者は女の子だぁー!!』

 

『や、やめっ、やめてっ! やめてよぉっ!!』

 

『素晴らしいASMR! 殺伐とした戦場に、R18Gをお届けだぁ! G兵器だけにネ!!』

 

やかましいわ、そんな無言の圧が周囲のジン達から伝わってきた。

 

『あ、あ、あああ……』

 

『おっと、危ない』

 

セイルはビームを切るともはや融解して用をなさないコックピットを覆う装甲を引き剥がした。

シートに座る女はぐったりとして動かない。ノーマルスーツの許容限界を超える熱に、火傷を負ったようだった。

 

『素敵な声を聞かせてくれたリスナーに、皆拍手!』

 

パチパチパチ

 

セイルが自分で鳴らした拍手の音が、通信に乗って辺りに響いた。

 

『はっは、しかし何だな、情けねえなぁ最近のコーディ君は』

 

聞くものを苛立たせずにはいられない、明らかに馬鹿にしていることがわかる声。

 

『ちょっと小突いただけで、どいつもこいつもチニタクナーイ、タチュケテエーンって無様晒しやがる! そんなんでよく優良人種名乗れたもんだなぁ? 先祖や親に申し訳ねえとは思わねえかぁ? ああ、思わねえか。遺伝子イジられてんだもんな。お前等は受け継ぐ生き物じゃなくて、ワンオフの生肉フィギュアみてえなもんだったわなぁ!』

 

これを言っている男は、きっと嗤っているのだろう。それだけは確かだった。

 

 

 

 

状況の推移を正確に予測出来ていたのはこの時点では5人だった。

 

ハルバートン、ホフマン、ナタル、ムウ、そしてクルーゼだ。

全員が知っていた。

あの男が、エンデュミオンで何をやったかを。

 

 

 

「アークエンジェルより入電! これは……航行ルート情報?」

 

オペレーターからの報告を聞いたハルバートンは天井を見上げた。

 

「あの……馬鹿がっ!!」

 

ホフマンも舌打ちを1つ零す。

 

「ルートを宙域マップに反映。当艦とミサイル艦クサントス、バルバロッサで情報リンク形成。指定された進路上にミサイル照準合わせ! 全弾だ!」

 

「ホフマンッ!」

 

副官の出した指示に、ハルバートンが掴みかかる。

 

「もう止まりませんよ」

 

「望んで殿やってる我々まで、あのカスに拾わせる気か!? 何の為に艦隊から切り離したと思っとる!!」

 

「こうなる前に、アイツは死んでおくべきだった。死ぬべき人間だった」

 

ホフマンもまた、ハルバートンを睨み返した。普段物静かな男の様子に、ブリッジに緊張が走る。

 

「でも、生き延びました。なら生きている限り、アイツは、()()()()()()()()()()()()んですよ、提督」

 

ハルバートンはそっとホフマンから手を離した。

 

「…………来世では、お近付きにはならんことを祈るか」

 

「どうですかね。見てる分には面白いので、私としては同じようなポジションでお願いしたいところです」

 

「おっ前、たまに他人事みたいな顔してたのマジだったんかい」

 

「特等席ですからな。生の映画を観てるようなもんでしたよ」

 

意外なところにいた怪人ステーションバーおじさんに、ハルバートンは慄いた。

 

 

 

 

「コリントス、ヘルダート、スレッジハマー全弾装填。指定ルート上にロック。ポイント到達と同時に起爆をセット!」

 

ナタルの指示にCICが慌ただしくなる。

 

「バジルール中尉、何をやるかは聞かせてもらえる?」

 

マリューの言葉に、指示を出し終えたナタルは振り返った。

 

「フッケバイン・プロトコルです。但し、恐ろしく原始的な」

 

「原始的?」

 

「敵機にブリッツを追わせ、追っているその背中を爆撃します」

 

その言葉に、マリューは首をひねる。

 

「それ、は……いつもと同じなのでは……?」

 

「違いますよ」

 

ナタルはモニターに目をやり、表示されるルートをそっと撫でた。

 

「これは戦術というより、自爆特攻に近いものですから」

 

その言葉に、誰も二の句を継げなくなった。

 

 

 

 

「奴を討て! これ以上喋らせるな!」

 

ヴェサリウスのブリッジで指揮を執っていたクルーゼはがなり立てるように指示を出した。

 

「凶鳥の囀りに、耳を傾けるな! 連れて行かれるぞ!!」

 

しかし、突如として現れたブリッツに人質に取られた味方、その悲鳴が、現場のパイロット達の足を止めていた。

 

「アデス! 私の機体は!?」

 

珍しく焦りすら見せる上官の様子に、しかしアデスは首を振って答えた。

 

「無理ですよ。先日のラクス・クライン返還時に、鷹から受けた攻撃で腰部駆動系が死んでいます。メカニックの話では、オーバーホールどころか新品と交換する方が適切だと」

 

「ええい、我ながら情けない油断をしたものだ!」

 

油断というか、殺意マシマシでストライクに襲い掛かった所をラクス・クラインに止められて、ほぼ同時に身を隠していたメビウス・ゼロから一斉射を受けたのだ。

本来なら撃墜されていてもおかしくはなかった。

 

「アスラン達はどうか?」

 

「イザーク、ディアッカは帰投中、アスランはストライクと交戦中です」

 

「……アスランも呼び戻せ。このままだと死ぬぞ」

 

「それ程ですか? この前は隊長とイザークで撃墜一歩手前まで追い詰めたではありませんか」

 

アデスの疑問にしかし、クルーゼは確信を持った言葉で返した。

 

「無理だよ。絶対に抗えん。今ザフトにいるもので、凶鳥の策に抗える者などおらんよ」

 

その言葉に、アデスは不気味な予感を感じていた。

 

 

 

『ザフトとかいう軍隊の物真似サークルにいると、折角優秀なコーディネイターに生まれても何の意味もねえな。だって馬鹿だもんなお前等。特に今のお前等はホント、馬鹿と間抜けの展覧会って感じだぜ! 高え金かけて馬鹿作るとか、ホント意味わかんねえよ、欠陥生物共のやることはさぁ!』

 

知ったような言葉を垂れ流すブリッツに、苛立ちながらもジン達は近付く事が出来ない。

殿艦隊からの砲撃もさることながら、悲鳴を聞いてしまった味方を見捨てることが、軍という組織に徹しきれない彼等にとっては非常に困難だった。

 

『この野郎、人質なんて恥ずかしくないのか!?』

 

『エレーナを離せ!』

 

『ナチュラル風情が、その口を閉じろ!!』

 

激昂した何機かは、そのように言い立てた。

その他のパイロット達も、似たような心境だった。

 

『おっとぉ、ご質問がドシドシ来てるね。流石馬鹿、自分を棚に上げるのは得意分野だ! あ、リスナーの子はエレーナっていうの、よろしくねぇ!』

 

ふざけた通信は止まない。

何か目的があるのだろうが、それすら想像もつかない中、遂にその時がやって来た。

 

 

ブリッツのコックピットモニターに、航行ルートが表示される。

次いで、リンクされた艦艇の準備が完了したことも。

最後に、ナタルからの『どうかご無事で』のメッセージ。

 

セイルは一度、大きく息を吸い込んだ。

 

 

『今のお前等は最低だ! お前等の先達は少なくとも、お前等よりは軍隊してたぜ? 守る為に戦ってた! 立派だった!』

 

そこまで言って、セイルはブリッツの手を手刀の形に変えて、一気に人質にしているジンのコックピットに突き込んだ。

エレーナは全身を潰され惨たらしく即死した。

 

『ああっ!?』

 

『あの野郎!』

 

『殺せ! あいつを、殺――』

 

ジン達が群がろうとする刹那、その言葉は放たれた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

戦場の時間が止まったような静寂。

 

()()()()()() ()()()()()() そう言って、核を積んだメビウスを最後まで追い掛けてた。()()()()()()

 

嗤っている。嗤いながらその言葉は、凶鳥の囀りはぶち撒けられた。

 

『そいつらの背中を鴨撃ちにする……あんな楽な仕事は無かったぜ! どうした? 静かだな……もしかしてあの違法コロニーで、間抜けなコーディの身内でも死んだかぁ?』

 

ブリッツはジンの胴体を放り出すと、相倒するジンに見えるように左腕を突き出し、中指を突き立てて見せた。

 

『怖いなら逃げてもいいぜ? チンカス共が』

 

 

『あの機体を、ナチュラルを殺せぇ!!!!

 

 

『クハッ、ギャハーハッハッハッハッハッ!!!』

 

ブリッツのスラスターを6割で吹かしながらセイルは耳障りな音量で嗤った。

案の定、馬鹿が群れを成して追ってくる。

任務より感情が優先されると思っている、それで軍隊を名乗り、平然と差別を口にする。

 

『お前等やっぱ軍隊じゃねえわ!! ただのテロリストだわ!!』

 

無駄に蛇行、切り返しを入れて、18機のジン全てが自分を射程に入れた事を確認する。

既にいくらかの弾丸が、ブリッツへ向けて放たれてもいる。

 

『俺は正義の軍人様だからよぉ! テロリストに負ける訳にはいかねえんだよなぁ!!』

 

ブリッツは彼等に背を向けると、やはり6割出力のスラスターで攻撃をかわしながら送られてきた航行ルートをトレースして飛び始めた。

 

進路はこのまま、低軌道をスレスレまで降りて、地球を下に、大気圏の地面を沿うように進むものだった。

 

『流石、ウチの女神はスパルタだな』

 

反射で引き絞りたくなるスラスター出力を抑え、セイルは時にバレルロール、急旋回を繰り返しながらそのルートに向けて進んでいく。

 

『どうしたコーディ! 速くて追いつけねえか?』

 

『ふざけるなよ犯罪者がぁ! 同胞の無念を今日こそ晴らしてくれる!!』

 

追い掛けてくるジンが、気を吐いた言葉を投げた。

 

『戦争ってのは生きてる奴を理由に始めて、死んだ奴を理由にして終わるもんだ。それを真逆にしてる時点で、お前等こそが軍隊にすら成り切れないテロリストの犯罪者集団なんだよ馬鹿が!!』

 

ブリッツがルートに入る。すぐ下には青い地球が。そして不可視の大地たる大気圏が横たわる。

一度そこに足を取られれば、MSと言えど重力に引かれ助かる術はない。

 

地上から見ればはるか上空、100キロ先の空で、過去最大規模のデッドチェイスが繰り広げられていた。

 

『何故当たらない!? この数だぞ!』

 

ジンのパイロットが驚愕と共に呻く。

放たれる突撃銃の弾丸、重粒子砲の一撃を、背中に目がついているように躱すブリッツの姿に、彼等は不気味な鳥の姿を夢想した。

 

『大した速度じゃないんだぞ!』

 

『任せろ! ハイマニューバなら――っうわぁ!?』

 

一気にスラスターを吹かして追いつこうと、仲間の上を通り抜けようとしたジンハイマニューバが、突如として爆炎に包まれ地球へ墜落していった。

 

『な、何だ……っ!?』

 

他のパイロットが見上げると、そこには自分達の進行方向と、背後を覆うように飛来するミサイルの空があった。

 

『は、はぁ!?』

 

『ふざけんな、なんだコレ!』

 

『止まるな! 捕まるぞ!!』

 

『ミサイルの迎撃を!』

 

『無理だ、数が多過ぎるし、まだ増えてる!』

 

『アイツを落として飛び抜けるしかない!』

 

『所詮はミサイルだ! 当たらなければ……え?』

 

また1機、爆炎に押し出されるようにコースアウトして行った。

 

『なんで……当たってないのに……』

 

『まさか、起爆設定されてる!? 正気かこいつ! 自分だって巻き添えになるかもしれないんだぞ!!?』

 

その様子に、セイルは冷や汗を流しながら余裕ぶって見せた。

 

『おーおー、ビビっちゃって可愛いねぇ。その調子でミサイルに媚でも売って見逃してもらったらどうだ?』

 

徐々に、徐々に、スラスターの出力を上げていく。

 

ミサイルはマッハ1から1.2で飛ぶ。

それらが指定地点到達と同時に起爆するよう設定されている。

 

予め決められたルートをミサイルで舗装し、そこを飛び抜ける。多くの敵機を巻き込めるよう、わざと追い付かせながら。

 

フッケバイン・プロトコルのフェーズ3とはつまりその様な、技術、メンタル両面からセイル・オランチョ専用戦術として成立していた。

 

成立する意味がわからないと、ハルバートンは常々言っていた。

 

ホフマンも強く頷いていた。

 

ムウはエンデュミオンの後でそれを聞き、こいつは変態なんだな、と思った。

 

クルーゼはそこに狂気を感じた。

 

ナタルは、自分がルート設定をするなら勝算はありますよ、と言った。

身内はみんなドン引きしていた。

 

とは言え、このフェーズでは敵を引きつけ続けること、味方艦からのミサイルの巻き添えにならないことが肝要だった。

 

セイルはそれを、持ち前のスキルと、乗機の機動性能で無理やりに解決していた。

 

ミサイルが落ちてくる。

ジン達は加速を最大にしながらブリッツを追う。

先んじてルートに到達した、進行方向上のミサイル群が起爆を始めた。

 

そこを駆け抜ける。

 

セイルは今こそ、刷新されたブリッツの新型スラスターに最大出力を要求した。

暴力的なGがセイルを襲う。ミシミシと身体から音が鳴る。

 

『ああクソ、死にたくねえな……死にたくねえよ』

 

前を見る。

 

ミサイルが炸裂していくのが見える。

 

その真下を飛ぶ。

 

ミサイルの爆炎は秒速320m。

つまりそれは、()()3()5()0()m()()()()()()()()()()()()、とセイルは解釈していた。

だから、そのようにした。

 

荒れ狂う爆炎と衝撃波の嵐を、凶鳥は切り裂いて飛ぶのだ。

 

 

遂に途切れた爆炎から飛び出してきたブリッツを、追い掛ける機影は1つもいなかった。





前に書いたと思うんですよ。
こいつは開戦前から軍にいて、L5宙域で聞くもクズ、語るもカスな経験をしたって。

話を聞けばクズだと思うし、本人が話していたらカスだと思うじゃないですか。

カスがちょっと良いことすると、3倍よく見られる現象はなんなんでしょうね。僕は好きです。それによって何もしてないのに評価落とされて人生狂うモブとかが大好きです。
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