エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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いや、バクゥは強いよね。
FREEDOMでもザクとか鎮圧してたじゃん。
なんなんあの、犬。


第37話 カスとオタサーの姫

 

バクゥはザフトが地球に送り出したMSの中でも、こと極地戦に限れば傑作機と評価されていた。

特に広大な荒野や氷原、砂漠など様々な環境に事欠かない地球では、四足歩行の安定性と無限軌道による踏破性はジンには無い大きな長所だった。

 

都市部でさえ、全高が低くビルの合間を駆け抜ける姿はまさしく猟犬のようだと評された。

砂漠の王たるアンドリュー・バルトフェルドがアフリカを制したのには、確かな理由があったのだ。

 

『ちっ、本当にすばしっこいな! 機銃を避けるのかよ!』

 

ムウの苛立った声が通信越しに聞こえる。

 

「焦るなよタカちん、お前で当てられねえなら他誰がやっても駄目さ……オラ!」

 

セイルは軽く言いながら3機いるバクゥの内、最後尾の1機へ突っ掛けた。鼻先へ機銃を撃ちながら、スカイグラスパー背部にあるビームの回転砲塔を真横に曲げる。

 

「しゃあっ!」

 

そのまま、不意をうつように最大加速。

地面スレスレを擦るような機動で、セイル機はバクゥの真横をすり抜けた。

 

バクゥが放ったミサイルポッドも置き去りに、すり抜け際にビームを置いていく。

 

口径も小さく、出力も程々なスカイグラスパーのビームでは、バクゥを一発で機能停止にすることは出来なかった。

しかし、確実に装甲は抜けており、背面にあるレールガンが動作不良を起こしたことが目に見えてわかった。

 

「ふふん、流石俺」

 

『格闘戦出来ない機体でもやってることが一緒じゃねえかお前は……いや、元々やってたことをMSでやってただけか』

 

「連中は対戦闘機での格闘戦を知らねえ。それより先にMSを投入したからな」

 

『つまりは、素早い出入り、一撃離脱ね……』

 

()()()()振り回してキンキン、なんてやらないっしょ俺らは。そろそろ連中にも思い出して貰わなきゃならねえな」

 

『何をさ』

 

「空の王者が、どういうものかをさ」

 

『じゃ、それは、俺がやるよ!』

 

「あ、ずっけぇ!」

 

ムウ機が最小半径でターンして、先程セイルが負傷させたバクゥに突貫すると、2発のビーム、ダメ押しの機銃を掃射した。立て続けに被弾したバクゥはその場で機能を停止し、倒れ込んだ。

 

他の2機は味方の援護のため足を止めた所をセイル機に妨害されており、挙句遠方から撃ち込まれた赤黒いプラズマ砲により1機が大破した。

 

「お、あのビッグコックマグナムはキラだな。相変わらずグロい色テカらせてんな。遠距離レ◯プもお手の物ってか」

 

『流石の暴れん棒だな、見ろよ犬が一発で昇天したぞ。かなりのテクニシャンだ』

 

『聞こえてますよ2人共!!』

 

キラのなんだか怒った声が2人に届いた。

 

「ヘリオポリスを思い出すなぁ」

 

『あん時は艦長からキランチョ言われてマジでキレてたな』

 

「おいおい……仕方ねえな。キラ、お前は今日から俺の一番弟子、キランチョを名乗るんだ。受け継げ、その意志と名を! 末代まで!」

 

『絶っっっっっっっっ対に嫌です。第8艦隊で相談したら確実に裁判所動く案件だって言われましたからね!』

 

「その場合訴えられんのはゴッピーか」

 

『可哀想に』

 

『聞こえてますよ、2人共……今日からアラスカまで毎日トイレ掃除しますか?』

 

尋常ではない怒りに震えたマリューの声が2人のコックピットに響いた。

 

『はああああっ! ザフトめ! エンデュミオン殺法を喰らえ!』

 

「うおおおおっ! アークエンジェルは俺が ま も る !!」

 

ブッ

 

『正規兵ツートップが揃ってもう……』

 

そうこうしている内に、残る1機のバクゥが踵を返して背を向けた。

武装ヘリもザイルを地面へ垂らし、無事だった他のパイロットを回収しつつ去ろうとする。

 

『おっ、こいつら撤退するぞ』

 

「なにぃ!? 逃がすかよ! このアークエンジェルの正義の翼、艦長の人力おっぱいホルダーにしてナタルちゃんの太ももに身を委ねし人類の希望、セイル・オランチョの魔の手から!!」

 

『その正義バグってんぞ』

 

『触ったら軍法会議ですよ』

 

『委ねられても困るんですが……』

 

『希望が自分で魔の手とか言っちゃうんですね』

 

「と思ったけどどう見ても威力偵察だし追い散らせば良しとしとくか」

 

『急に冷静になるじゃん』

 

「こっちが迎撃出てからも引き気味じゃんこいつら。ヘリでさえ裏取ろうとして来ねえし。これどっかで見てるのいるだろ」

 

『こちらの索敵範囲には何も居ませんよ……航空戦力が率先して敵に向かっていくので大して索敵も出来ていませんが』

 

ナタルの何処か諦めたような声。

エンデュミオン生き残りのモビルアーマー乗りは、2人揃って索敵は自分が撃墜する為に行ってきたタイプの蛮族なので、Nジャマーが潤沢に漂う地上ではアークエンジェルの視界はこの2機がいる方なら見えるという、サカバンバスピスみたいな状態になっていた。

 

「しゃあねえな。今度からニコルかカズイにチャリで偵察させるか」

 

『何もしゃあなく無いんですよ。彼等になんかしたら許しませんよ僕は』

 

『しかし現実問題、索敵役がいないのはな。相変わらず戦力がカツカツだな、うちは』

 

「次からは俺とタカちんがじゃんけんして負けた方がやるでいいんじゃね?」

 

『俺、お前にじゃんけん勝ったことねえんだけど……』

 

「そんなことねえよ。ほら、30回位前に勝ったじゃん。酒保でアイス賭けた時に」

 

『あー……いや待って、そっから30連敗してんの俺……?』

 

「隠そうとしても出ちまうもんだなぁ……格ってやつは」

 

『ほざけよ。言っとくがメビウスでの単独撃墜数はまだ俺のが上だからな?』

 

「…………っふー」

 

『てめ、この』

 

『2人共! 逃げちゃいましたよ!?』

 

アークエンジェルを先導するようにキラがやって来た頃には、上空を旋回する2機のスカイグラスパーの遥か遠方に、敵は去っていた。

 

「だぁから、追わなくていいんだって。どうせアフリカったらアンドリュー・バルトフェルドの勢力下じゃねえか。仮にこのまま追っかけてレセップスでも出て来たら、それこそ面倒なんだよ」

 

セイルはそう言いながら、逃げていくバクゥとヘリの背中を見やった。

 

「……おん?」

 

バクゥの足元で、何かが光ったのだ。

 

「地雷……? いや、あの高さは携行火器か?」

 

機首を巡らせ少し追うと、バクゥの足元をアリのようなジープに乗った連中が何台かで走り回っていた。

時折ロケットランチャー等が撃ち込まれ、バクゥの機体を揺らしている。

 

「……馬鹿か? 徹甲弾も無しにMSの装甲をどうしようってんだよ」

 

『ありゃ連合かな?』

 

ムウの問い掛けに、セイルは鼻を鳴らした。

 

「どうかな。あの貧弱なのが味方だったら泣きたくなるが」

 

『まあ……あれじゃ止まらんよな……ほら、逃げられた』

 

結局、バクゥ達はジープの連中を相手にせず悠々と撤退していった。それだけならまだしも、その連中は車をこちらに向け始めている。来る気だ。

 

「……タカちん、悪いけど先艦に戻ってさ、保安部の連中に武装させて格納庫に集めといて貰える?」

 

『一応聞くが、それは最悪のケースに備えてだよな?』

 

「当たり前だろ? 俺は非暴力主義の男だぜ? ガンジーを尊敬してる」

 

『ガンジーもさぞキレるだろうな。お前にそう言われて』

 

そう言い残すと、ムウは機体をアークエンジェルに向けた。

 

「キラは……どうせそのマグナムであいつらをファックしてやれ、っても出来ねえだろ?」

 

『それは……まあ、そうですね』

 

「だよねー……ナタルちゃーん、イーゲルシュテルンでさぁ、あのジープロック出来る?」

 

『無論です。バスカーク二等兵、接近中のジープにイーゲルシュテルン照準。近い順でいい』

 

「取り敢えずこっちで話聞いてみるからさ。拗れそうなら撃っちゃって」

 

『……艦長、よろしいですか?』

 

『ええ、と、ううん、良いのかしら……だったら先にこの場を立ち去った方が……』

 

「情報は欲しいよ。連中が地域密着型ゲリラとかなら、最悪頭ブッ叩けばタカれそうじゃん?」

 

『……極力、手荒な真似はしないで下さいね。先ずは話をするところから始めましょう』

 

「りょ。キラ、降りるぞ。コックピット出る前にロックかけんの忘れんなよ?」

 

『了解です』

 

スカイグラスパーを着陸させ、セイルが降り立つ頃には、ジープの群れはもうすぐそこまでやって来ていた。

キラも直立させたストライクのコックピットから、タラップを垂らして降りてくる。

 

そこへ、先頭のジープが到着した。

一目散にストライクへ近寄って停車すると、飛び降りるように小柄な人物が走り出した。

 

小柄、というか、要所要所が華奢なその体躯を見て、セイルは武装ゲリラにも女とかいるんだな、と思った。

相棒のコンバットマスターのセイフティを外し、スライドを引く。

 

キラまでの距離は50メートル程だ。

十分間に合う。

 

セイルはヘルメット内に内蔵した無線でキラへ話しかけた。

 

「相手が武器抜くまではされるがままにしとけ。危なくなったら俺が何とかしてやるから、心配すんな」

 

悠々と歩いて、セイルはキラの元へと向かった。

 

一方で、キラは不安で仕方ない。ストライクに乗っていればよかったが、万一友好な勢力なら下手に刺激しないほうが良い、というセイルの意見が通った形だった。

 

近付いてくる人物の顔が見えてくると、キラは驚いた。

ヘルメットを外し、向こうにも顔を見せる。

 

「君は……無事だったんだね」

 

しかし、相手はキラの顔を見るや顔に更なる激昂を募らせて、一気に走り寄ってきた。

胸倉を掴まれる。

 

「お前! 何でお前がこんなものに乗っているんだ! バカ野郎!!」

 

殴られた。

大して痛くはなかったが、キラはショックを受けた。

自分が何故殴られたのか、1ミリたりとも理解出来なかったからだ。

人は自分が理解出来ない外的要因に晒されると、一時的に脳が硬直状態になる、という話は本当だったのだな、とキラは思った。

 

なのでその後の出来事に対して、キラは全く反応することが出来なかった。

 

「っだっテメこのウジ虫が。ウチのに何しやがる」

 

言葉を追い掛けるように銃声が響き、キラを殴った人物が横殴りに倒れた。

 

セイルだった。

手にした銃からは硝煙が立ち昇っている。

 

「カガリー!!」

 

同じジープから追い掛けてきた大柄な、まさにゲリラ兵と言った出で立ちの男が叫んだ。

ああそうか、この子はカガリと言うのか。

キラは頭の片隅でそう思った。

 

「う、うぅ……」

 

カガリのうめき声に、ハッとして目をやると、どうやら防弾ベストを着ていたらしく、脇腹を抑えつつも出血はない状態だった。

 

「おいそこのデカブツ! それ以上近付くんじゃねえよ! このアマの頭吹っ飛ばすぞ!! あぁっ!?」

 

更に数発、目は大男に向けたまま、セイルは引き金を引く。

弾はカガリの頭のすぐ横、背中スレスレ、足の間にそれぞれ着弾し、砂が舞った。

 

それを見て、大男の足が止まる。すぐに持っていた武器をその場に捨て、

 

「待ってくれ、こちらの無礼は謝罪する。どうか彼女を殺さないでくれ」

 

両手を挙げて、そう言った。

ああ良かった、この人達はちゃんと話し合える人だ。キラは今し方目の前で起こった惨劇をうっちゃって変な悟りを開いていた。

 

「仮にも連合の識別信号出してる艦のパイロットに危害を加えるならよぉ! オメーらは俺等に楯突く第三勢力って理解で良いんだよなぁ!? なら、皆殺しにされても文句はねえってことだなぁ!? 俺はそういう風に理解したぜぇ!!」

 

更に1発、今度は大男の足元に着弾した。

 

「誤解だ! 我々は、この地を支配するザフトに反抗する勢力だ……頼む、話を聞いてくれ……」

 

見ると、他のジープも周囲を囲む様に停車し、降りてきた男達が皆厳しい目でキラ達を睨み付けていた。

一部、飛び出そうとする若者を周囲が必死に抑えてすらいた。

一触即発、そんな空気であった。

 

「……代表者、前出ろ」

 

セイルの言葉に、一人の男が踏み出した。

ヒゲの濃い大柄な男だ。険しい目をセイルに向けつつ、両手を挙げた。

 

「俺だ……このレジスタンス組織、明けの砂漠のリーダーをしている、サイーブ・アシュマンという者だ……そちらと戦うつもりはない」

 

「そうかいサイーブ、手荒な真似して悪かったな……だがこのメスガキはそうじゃねえって言ってるみてえだ。お前に俺達と戦うつもりが無いんなら、このガキはなんだ? ああ、跳ねっ返りは手を焼くよな……友好の印に、片付けを手伝ってやろう」

 

再び銃口が、カガリへと向けられる。

今度は、セイルの顔も一緒だ。次は()()()()。その場にいる全員にそう予感させた。

 

「すまないが、彼女も大事な仲間だ。無礼は心より詫びる。どうか許してくれないか」

 

頭を下げるサイーブの姿を見て、先程から抑えられていた若者がついに荒げた声を上げた。

 

「ふざけんなよ! こいつらもザフトと同じだ! 力で俺達を抑えつけようとしてんだよ! そいつはカガリを撃ったんだ! なんでこっちが謝るんだよ!!」

 

響き渡るその声を、しかし止めようとする者はいなかった。

大男とサイーブも、苦い顔をしている。

 

「なんだ、オタサーの姫ってやつか?……おいそこの、こいつで童貞捨てたのか?」

 

「黙れクズ野郎! カガリは……カガリは俺の……」

 

「そこまでだアフメド! もうよせ、お前が騒いでも状況は変わらん」

 

サイーブの取り成しも、激昂する若者、アフメドには意味を成さない。

 

「俺達はただここに暮らしているだけだったのに、それをお前等がどんどん戦火を拡大させて、こんなことになっちまってんだろうが! 俺達は自分の土地を取り戻す為に戦ってるだけだ!!」

 

それを聞いて……聞いた瞬間のセイルの顔を見て、キラは完全に目の前の人達に対する興味を、セイルが失ったのを理解した。

 

「あっそ、もういいや。キラ、そいつに手錠かけて艦に連れてけ。9mmの通常弾だし、気絶してるだけだろ」

 

「は、はいっ」

 

キラがカガリに手錠をかけて、担ぎ上げてストライクに向かう。

それを見送ると、セイルはその場にいる全員に向けて、

 

「見えるか? 艦の機銃がお前等のジープを狙ってる。デブリも無いこの距離で、艦載火器が狙いを外す事はあり得ない。何人死ぬかも分からないし、どうでもいい」

 

そう言い放った。

事実、上空にあるアークエンジェルの機銃は全て地上へ向けられている。明けの砂漠のメンバー達は、息を呑んでそれを見つめていた。

 

「あのガキは一旦預かる。それとそこの大男は俺と来い。お前等との連絡役にしてやる」

 

言うやいなや、スカイグラスパーに向けて歩き出すセイル。

慌てて後を追う大男は、サイーブに必ず連絡することを伝えると、スカイグラスパーの後部座席に身体を押し込んだ。

 

「あー、あのガキ、カガリって、本名?」

 

コックピットで、セイルは大男に話し掛けた。

 

「……そうだ、カガリ・ユラ。それが彼女の名前だ」

 

「そ。お前は?」

 

「私はキサカという……貴方は?」

 

「俺? セイル・オランチョ、知らない?」

 

その名前に、キサカは背筋が凍りつくような寒気を覚えた。

 

「エンデュミオンの、凶鳥……!?」

 

「そだよー。残念だったねえ、俺以外なら楽に交渉出来ただろうにねぇ」

 

セイルは機体を起動させつつ、取り出した端末で何かを調べ始める。

 

「ユラ、ユラ……カガリ……ああ、アスハか」

 

その言葉に、キサカは驚愕で呻いた。

 

「っ!!?」

 

「隠しときてえなら外出すなよ。この偽名も馬鹿みてえじゃん。そんなだから落ち目になるんだよ、お前等は」

 

発進したスカイグラスパーの後部座席で、キサカはぶるりと肩が震えるのを感じた。

 

かつてキサカは聞いたことがあった。

地球連合のトップエースの1人であるエンデュミオンの凶鳥は、何もエンデュミオンで生まれた訳では無い。ただ、目立つ戦果があったからそう呼ばれているだけに過ぎないのだと。

 

ただその戦い方も、人物像も、余りにも禍々しく、故に凶鳥と呼ぶしかないのだと。敵対するなら死を選ぶ、所属する艦隊ではそうとさえ言われている男なのだ。

 

もはや事態は、彼一人の手に負えるものではなくなっていた。





ヒロインじゃないなら2、3発撃っても許されるやろ。
カスは主張が強いからね。ごめんなさいね。
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