僕はニコルが好きですが、最初ボクっ娘だと誤認した記憶があるので、今の内に叩いておかないと後々サイかカズイが道を踏み外すんですよ
ヘリオポリス宇宙港付近に停止、砲を港に向けている艦艇があった。
ザフト艦ヴェサリウス、ザフト軍クルーゼ隊の母艦である。
ブリッジでは白い仮面をつけた金髪の男、ラウ・ル・クルーゼが、コロニー内に潜入した部下達からの報告を受けていた。
『ニコルと、ラスティが……失敗、しました。ラスティは、KIA……ニコルは不明です』
部下であるアスラン・ザラからの報告は頭が痛くなるような内容だった。
ラウ・ル・クルーゼは失望の溜息も舌打ちも堪えると、部下を安心させるために計算されたトーンでの応対を開始した。
『フム……三機は奪取出来たのだな? アスランは二人をまとめ、何としても機体を持ち帰ることに全力を尽くすんだ。気にするなとは言わん。言わんが、君達で無理だったのであればザフトのどの部隊の誰がやろうと無理だったろうさ』
(……無警戒だった施設への侵入と、我々に一日の長があるMSの奪取などで、大前提として被害など出して欲しくは無かったがね)
ラウとて部隊を預かる指揮官であり、常、想定通りに進む作戦などありはしないとわかってはいても、少なくとも連合の新型MSを強奪するこのフェーズまでは、比較的犠牲も無く完了できる見込みだったのだ。
『兎に角、三人は帰還だ。宇宙港のハッチは今立て込んでいるから、使うなら注意しなさい。私も直掩で出よう。後詰めはミゲル達が動いているから送りオオカミは気にしなくてよろしい』
『……了解です』
悔しそうな感情を滲ませながら、アスランはそう言って通信を切った。
「まだまだ、感情が先立つようではな……アデス、私も出る。引き続き増援を警戒しつつ、アスラン達を回収次第、信号弾を打て」
ラウは艦長であるアデスに声をかけると、MSデッキに向かいブリッジを出た。
「ご武運を」
短いアデスからの言葉に返礼をし、ラウは壁を蹴る足に力を入れた。
「全く厄介なものだな、連邦のMSとは」
作戦前から感じていた、この件は厄ネタになるという自分の勘は、どうやら正しかったらしい。今後の未来を想像し、ラウはわずかに口元を歪ませるのであった。
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『下等なナチュラルごときがMSなどと!』
黄昏の魔弾という異名を持つミゲル・アイマンが駆るジンが、突撃銃を突き出して飛び掛かってくる。外部マイクで出力したその声は、ようやく青年期に足を踏み入れたような若々しさに溢れていた。
「いきなり差別かよ? コーディらしいな」
左手に握ったままのランサーダートを突き出して、セイルはブースターを点火した。
ビームライフルは撃てるが、管制システムの調整が不十分で、動いているものに当てる自信は無かったのである。
その様を見たニコルは、メインカメラに映るジンが突撃銃の引き金を引き絞るのを見て、思わず目をつぶった。
「フェイズシフト装甲ならジンには全局面で有利取れるな」
装甲の表面が弾丸を弾く音、振動をものともせず、セイルは更にペダルを踏みこんだ。
「電撃戦仕様を舐めんなよ!」
突き出されるランサーダートの槍、それを、ミゲルの操るジンはわずかな軌道変更でかわそうと試みる。
「悪い癖だよなぁ! 目が良いとさぁ!」
避けた先に、ブリッツの右腕が突き出された。
わずかな抵抗の後、フェイズシフトした装甲版を叩きつけられたジンのフレームが軋む音がする。
「ゼロ距離!」
叩きつけるようにトリガーをオン。
右腕に残されたランサーダートを発射。同時に真横に機体をスライドさせてスラスター噴射、相手のジンをその場に置き去りにした。
『バ、バカなっ……この俺がぁ!』
ジンの左肩と脇腹に突き立つ二本のランサーダート。
「あれ、信管作動しねえんだけど? あ、これ本体と距離近いと駄目なやつ?」
本来、実体弾として標的に突き刺さった後、内部信管を作動させて炸裂するまでが、ランサーダートの機能である。
しかし、目の前のジンに刺さった槍状の弾は未だ炸裂することなくその場に残っていた。
『ク……ッソがぁ!!』
何と、ジンはその二本の槍を強引に引き抜いて地面へ投げ捨ててしまったではないか。
「わは……っははは、ランサーダート君、アウト~」
二度と使わねえ、セイルはそう決めるとビームライフルの銃口をジンへ向ける。
対するジンは、右腕で引き抜いた対艦刀の腹を盾に、なおも前傾に構えた。
『ナチュラルの不細工なMSなんかに!』
「そうやってすぐ見た目の問題にするの良くないよ男子ぃ」
発砲。
MSに搭載可能な初の携帯ビーム兵器、ビームライフルの、既存の重火器とは一線を画する威力の歴史的な一撃が…………
ズバシュ!
『うおおぉ!? 貴様ぁ!!』
『イザークゥゥゥゥゥ!』
炸裂した。
飛び去ろうとするデュエルの後頭部に。
「照準装置がおかしい」
ニコルはかつてない戦慄に身を震わせていた。
連合のMSパイロットってこれ許されるの? なんで? 照準システムとか使わないの?
「もうちょっとこう、パイロットの気持ちを汲んでくれないとさぁ。俺が狙いたいと思う方を優先的にロックしてくれなきゃ、困っちゃうよ」
知らん、なんだそのサイコガンみたいなシステム。
「ほぅぅぅぅ……わっちゃあ! あーたたたたたたっ、ほわたぁ!」
がちゃがちゃがちゃがちゃ!
『アスラン、ディアッカ! イザークを連れて下がれ! こいつは俺が、あああああああああああ!』
無差別に銃口から飛び出すピンクのビーム達。
飛び去ろうとするアスラン達をかばって前に出たミゲルのジンから左腕が消し飛んだ。
「アニメみてえにグイグイ曲がって当たるまであと何世紀かかんのかなぁ」
がちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃ!
『ハイドロ応答なし!? クソがああああああああ!』
かわいそうなミゲルのジンは、へその位置を撃ち抜かれて動かなくなった。
「また勝ってしまった……」
既に宇宙港に向けて飛び去りつつある新型MS達を見送りつつ、セイルはメットを脱いで煙草に火をつけた。
「ッケホ! ケホッ!」
緑髪の抱きマスコットが血を吐く。
その時、
『こちら地球連合軍、強襲機動特装艦アークエンジェル、GTXシリーズ搭乗者へ告ぐ。速やかに当艦へ着艦せよ。繰り返す……』
宇宙港エントランスを突き破るように、木馬のようなシルエットの白い戦艦が飛び出してきた。
ご丁寧に、全方位へ勧告通信を放ちながら。
「この声は……ナタルちゃんか。しぶといねー」
先程強奪された3機は、その横をすり抜けて、空いた穴に飛び込むように消えていった。
「んー、しまったなあー、せっかく追い詰めていたのに、あの戦艦が出てきたせいでMSを盗まれてしまったぞおー、困ったなあー」
煙を吐き出しつつ、しゃあしゃあと言ってのける。
「お前も見たよな? 俺は悪くないだろ?」
火のついた煙草の先端を栗色の瞳に近付けつつ、セイルは世間話のような声色で問い掛けた。
「カヒュー、カヒュー」
「だろ? 良くないよなぁ、人の努力をおじゃんにするなんて。これはもはやあの腰と尻を1年間無料で好き放題させてもらうに匹敵するレベルだよなあ?」
「カー、ヒュー、カー、ヒュー」
「返事が無いのは良くない」
ナイフを握らされた手を、下からド突かれた。
「がっ!? あ、ぐうううう……」
痛みか出血か、もはやニコルの意識は朦朧としていた。突き刺さったナイフの冷たさと熱さが、自分の命が失われていくのを教えてくれているようだった。
「まあ、それじゃ呼ばれてるみたいだし、行きますか。よかったなー、後30分もすれば治療してもらえるぜ」
ニカッと笑みを浮かべセイルは言った。
「ナチュラル印、ナチュラル運用のナチュラル戦艦さ。気に入ってくれると嬉しいぜ」
もはや、この命は尽きたのだと、ニコルはこの時確信した。
ミゲルが何をしたっていうんだ