エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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カスみたいな話は手癖で書けるのに、いざ本編を進めると長くなってしまいます。不思議ですね。

カス「さ……魅せますか」



第42話 誇り高き戦士たち

 

キラが目を覚ますと、そこは医務室だった。

見渡すと点滴が刺されており、まるで自分が病人のような扱いになっていることに気付く。

 

「あれ……おかしいな……確かナタルさんに声をかけられて……いきなり何かを吹きかけられて……」

 

何もおかしくはなかった。無理やり眠らせられたらしい。

壁の時計を見れば、まだ22時だった。

 

「……久し振りだな、こんな時間に寝るの」

 

というか、0時前に眠りについた記憶がアークエンジェルに乗って以降ほぼなかった。

カスの振るタスクは難易度も数も常軌を逸しており、言われた通りの納期に間に合わせることはほぼ不可能だった。

 

キラは都度調整を入れつつもなんとかタスクをこなしていたが、ここ最近は特に激化する戦闘の疲れもあって処理件数が低下。睡眠時間もどんどん削られていた。

 

「キラさん、目が覚めましたか?」

 

ベッドの横、閉め切られたカーテンの向こうからニコルの声がした。

 

「ニコル君? ああ良かった。トールの訓練が終わった後、虫が追いかけてくるってどこかに行っちゃったから心配してたんだよ」

 

ホッとしたようにキラは言った。

 

「それは僕ではないですね」

 

ゾッとするものを感じながらニコルは返す。

あの日のキラは確かにどこかおかしかった。手の速度は普段の2倍以上速く、しかし、感情の欠落した瞳は砂漠の夜よりもなお暗かった。

 

「取り敢えず、僕とキラさんはドクターストップだそうで、戦闘がない限りは向こう3日はお休みです。とは言え、初日は寝て過ごしちゃいましたけど」

 

カーテンの向こうでは、どうやらニコルもベッドで横になっているらしかった。

 

「休み……ヤスミ……? 僕は知ってる……その言葉を……昔、どこかで聞いたことがある、優しい言葉だ……」

 

「そんな深いもんではないんですよ」

 

「あれ、でもよく納得したね、セイルさんは」

 

キラが疑問を口にする。

前に、ヘリオポリスを脱出して5日目位の時、休みが欲しいと言ったキラに対し、

 

 

『世の中には働きたくても働けない子供達が沢山いるんだ。それなのにお前は休むってのか? いや責めてるんじゃない。けどな、お前が休んだ今日は、彼らが働きたくて仕方なかった昨日なんだぞ。そんな恵まれない子供達の為にも、お前が今休むことは違うんじゃ無いかって思う訳。俺はお前ならわかってくれると思うから話してるんだぜ? なあ、お前は子供か? いや違う、働くことも出来ない地獄のような環境で苛まれる子供達にとってお前は、常に先頭で背中を見せ続ける孤高のソルジャーなんだよ。走り続けることにこそ、その背中でみんなを鼓舞することにこそ、意味はあるのさ。じゃあそれはいつか。確かに今じゃないな。でも明日かもしれない、ほんの十分後かもしれない。ソルジャーは常に備え、歩みを止めないもんだ。いつかお前の一歩に世界が注目する日がくるんだよ。わかったら二度とそんな世迷言を口に出すな働け。ジョブだよジョブジョブ、ジョブジョブジョブ。んじゃおやすみー』

 

 

言うだけ言って秒でいびきをかき始めた酒臭いカスを見て、本当にここは現実の世界なのかしらと絶望した記憶がキラにはあった。

誰だよ子供達ってどこにいるんだよ、誰がソルジャーだよ。何ならまだ子供扱いして欲しい年頃だよ。今まさに地獄のような環境にいる僕への救いはどこにあるんだよ、と。

そんな、声に出せない想いがあったのを強く覚えていた。

 

 

要するに今はヘリオポリスから数えて凡そ40日振りの休日ということらしい。

キラは枕に頭を預け、深々と息を吸い、吐いた。

 

「あの人なら当面はフラガ大尉と二交替で周辺空域の偵察シフトに入ってますよ。艦長命令で、極力艦の外に出しとこうってなったみたいですね」

 

「そうなんだ……それなら安心して眠れるね」

 

ニコルの言葉に安堵の声を漏らすキラ。

 

「僕はまあ、アルテミス以降でしたけど、キラさんはずっとでしたからね。お疲れでしょう」

 

「すごいよ……今、全身に力が入らないんだ……自分の体じゃないみたい………………あ、涙が」

 

「お労しい……」

 

やがてすうすうと言うキラの寝息が聞こえてくる。

どうやら眠ったらしい。

 

カーテンの向こうで横になっていたニコルはそれを確認すると、起こしていた上半身をベッドに横たえた。

 

「……そう言えばカガリさんのこと伝え忘れちゃったな」

 

気付いたように呟くが、睡魔はニコルにも訪れており、徐々に思考が鈍くなっていく。

 

「あの変なエナドリ飲んだって言ったら、物凄く同情されてたけど、大丈夫だろうか……」

 

育ちがいいはずのお嬢様は朦朧とする意識の中、訓練室の共用冷蔵庫に入っていた見たことのないエナドリに意地汚く手を付けてから、バキバキに目がキマってヤバかった。

 

通り掛かった自称有識者のスキンヘッドアライグマから『何しても無駄だから効果切れるまで動いてた方がいいよ、ジッとしてると発狂しそうになるから』と言われた為、哨戒任務付き添いとしてスカイグラスパーのサブシートに座ることになったカガリ。

 

実は押し付けじゃんけんによってムウが都合2度目、数年ぶりの勝利を収めた為に、よりにもよってカスの複座に座らされているカガリ。

 

「何ていうか、ツキのない女性ですよね。無事だといいんですが……」

 

ニコルの心配は届くのか、それは神にすらわからないのだ。

そしてC.E.にはそもそも、信じる神など存在してはいないのだ。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

さて、場面変わってここは空の上である。

時刻は昼過ぎ。キラ達の休日で言えば2日目となる。

スカイグラスパー2号機のコックピットで、カスはタバコを吸いながらカキ氷を嗜んでいた。イチゴ味であった。

 

「お、おい、ちゃんと操縦桿握ってるのか!? なんでコックピットで食ってんだ!? あとケムい! クサい!」

 

そこへエナドリの影響かテンション高めで吹っ切れているカガリから声がかかる。

 

「このクソ暑い中を太陽の近く飛ばされてんだ。体調管理の為に煙と氷はマストアイテムだろうが。処女くせえ猿は黙ってろ」

 

「誰がしょ、しょ……猿だ!」

 

「今更恥じらいアピこいてんじゃねえぞオーブ産チンパンが。たくタカちんもこんな時だけ引きが強えの、やっぱ持ってんだなぁ」

 

ため息と共に愚痴る。

これまでカスはその動体視力を最大限に発揮した後の先による後出しであいこ又は勝ちをもぎ取っていた。

しかしここに来てエンデュミオンの鷹は起死回生の一手を打った。

 

 

カードじゃんけんの導入である。

 

 

目の前に置かれた手作り感満載のカードを、無情にも破り捨てようとしたカスだったが、それに描かれた集団リンチに遭ったアン◯ンマンのような怪異とその下の『ぐー』という几帳面な文字がある事実を気付かせた。

 

紛れもなく、ナタル・バジルール手製のカードである事実を。

 

そして、そのカードを破棄することがカスには出来なかった。

ムウは一世一代のギャンブルに、この時勝利していたのである。

 

勝負は各手を10枚ずつで作られた山札をシャッフルし、裏のまま場に出して同時に開いて勝敗を決めるルール。

 

要するに純粋な運否天賦でカスが鷹に負けたのである。

これにはムウもガッツポーズであった。

 

 

そんな経緯で、カスは複座にいけ好かない国のいけ好かない令嬢を乗せて周辺空域の警戒任務という世にも退屈な任務に出てきているのだ。

テンションは近年稀に見る低空飛行を続けていた。

 

「おい、レーダーは見とけよ。Nジャマーのせいで有効範囲は狭えがその分、そこに感があった時点で動かねえと後手に回るんだからな」

 

「わ、わかってる……今のところは何も探知内には引っ掛かってない……何で私がこんな目に……お父様、もしかしたら私が間違ってたのかもしれません……」

 

「お前の親父は時代を代表する間違い系ピエロじゃん。心配しなくても娘のお前も間違いなくその系譜だから。何やっても間違えるのがお前の血筋だよ」

 

「そんな血筋嫌だぁ」

 

しょぼくれた電気ネズミのような顔をしたカガリは、鉛のように重いため息を吐いた。

 

「……しっかし行けども行けども砂と廃墟ばっかだな。お前ら実はヒマ人だった? こんなとこで遭遇戦オンリーのド貧困ゲリラなんか生きてけねえだろ」

 

手元のコンソールをイジり、外気空調(外付け)によってコックピット内に溜まった煙と臭いが排出。ついでにダストシュート(外付け)に吸い殻と食べ終わったカキ氷のカップを放り込む。

 

「そんな訳あるか! ザフトの哨戒ルートで待ち伏せして――」

 

「おい、砂漠の虎がゴキブリごときに哨戒ルート掴まれる訳ねえだろ」

 

カガリのムキになった言葉を、シャットアウトするようにカスは断言した。

 

「そりゃお前、適当に遊び相手用意されてただけだよ。どうせ向こうは軽車両にヘリ、MSは精々一機随伴って規模だったんじゃねえの?」

 

「そ、そんなこと……」

 

「図星か? おおかた軽車両とかだけ見て襲いかかったら、伏せてあったMSで蹴散らされて逃げ帰る日々だったんだろうが」

 

「なんで知って――」

 

「戦略的には重要度の低いアフリカに、なんでコーディ共が居座ってんだ?」

 

カスは二本目のタバコに火をつけた。

 

「レアメタル産地ではあるが、資源衛星の確保が容易な本国からしたら優先度は低い。だが戦争勝利後に、親ザフト派である北側の勢力は政治的有利を増やすためにも残さなきゃなんねえ」

 

煙がカガリの鼻をくすぐるが、黙って次の言葉を待つ。

 

「アンドリュー・バルトフェルドなんてビッグネームをここに置いてんのは、それが親地球連合派である南アフリカ統一機構への抑止力になるからだ」

 

シートの肘掛けにあるスライド式の灰皿(外付け)に灰を落とす。

 

「元々アフリカは南北に分かれて内紛抱えてた場所なんだよ。そこに砂漠の虎が来たおかげで戦力差が明確になった。南アフリカ統一機構からしたら噴飯モノだが、第二次ビクトリア侵攻以降、地球連合軍からの援護も期待出来ねえ以上は突っ掛けても負けるのは目に見えてる」

 

「ええと、つまり、どの勢力も戦闘が大きくなるのは避けたいってことか?」

 

カガリの言葉に、カスは深々とため息をついた。

 

「お前、本当に親父から何も教わってねえんだな……」

 

「う……」

 

「南アフリカ統一機構は言い訳を用意した。この地はザフトに制圧されたが、ゲリラ共の動きが活発であり、紛争地域となっている。正規戦力の投入はリスクが大きい、てな」

 

「ゲリラ……私達のことか」

 

「お前等の役目は無駄にザフトに盾突いて勝てもしない戦闘を続けてこの地の平穏を乱し続けることなんだよ。お前らが居なくなると本格的な戦闘に舵を切らなきゃいけなくなる南北の勢力は、お前等を使って紛争ごっこをやってるのさ……後でサイーブかキサカに聞いてみろ。受け取ってる補給物資、南アフリカ産かって」

 

予定航路をクリアした事を知らせるアラームが鳴る。

カスは機首をアークエンジェルへと向けるため操縦桿を操作した。

 

「わかるか? 誰からも相手にされてないが居なくなると困るから最低限生かして貰ってる世界一情けない武装集団がお前等だ。お前の親父はここならお前は死なねえと思ったんだろうな。愛娘が馬鹿過ぎて本気でゲリラやり始めたのは誤算だったんだろうがよ」

 

あくび。この退屈極まりない哨戒任務も、あと少しで終わりだ。

 

「生きてても死んでも価値がねえ砂漠のゴミ虫が、『この地を取り戻すために戦ってるんだぁー』って。脳みそがねえ虫の割には愉快な鳴き声あげるもんだぜ。全く笑えねえ……」

 

「それでも……私達は生きる為に、大切な誰かを守る為に、誇りをかけて戦ってるんだ!」

 

絞り出すようなカガリの言葉に、今度こそカスはニチャついた笑みに明確な嘲りを含ませて返した。

 

「そうか、まあ勝手にやってくれ。その誇りとやらのオッズは知らねえが、配当出ることを祈ってるよ」

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

『セイル、お前の回ったコースとは真逆の方で、デカい爆発があった。地表付近かつ、爆音の規模から、対戦車地雷の類じゃねえかってチャンドラが言ってる』

 

アークエンジェルに帰るなり、ブリッジのムウから連絡が入った。

 

「何だって? そいつぁ大変だ。急いで向かうよ、シャワー浴びて一眠りしたら直ぐにな」

 

言いながらコックピットを出ようとするカス。何の躊躇いもない動きにカガリも焦ったように話に割って入った。

 

「地雷だって!? 予測地点をキサカに伝えてくれ! もしかしたら、明けの砂漠かもしれない!」

 

『おい、心当たりあるのか嬢ちゃん?』

 

「この砂漠には地下洞穴があちこちにあるんだ。そこに地雷を仕掛けてMSを誘導すれば、撃破出来るかもって作戦があって……」

 

「おい、その話そんなに重要? 仮にゲリラ共がMS撃破なんてしちまったなら、報復されて終わりだろうが。時間の無駄だよ」

 

混ぜっ返すカス。

 

「待ってくれ。さっきの話が真実なら、報復なんて……」

 

「積み木を散らかす程度なら笑って済ませるママでもな、お気に入りの香水瓶割られたらぶん殴るんだよ。かわいくもねえ他人の子供ならなおさらだろうが」

 

開けたキャノピーからさっさと立ち上がりながら、

 

「まあ運が良ければ半殺しで済むよ。ホント、命の重さが平等じゃなくて助かったぜー」

 

背伸びをしてそう言った。

 

「彼等と合流してくれ! このままじゃ……」

 

「あーワリィ。この辺サービスエリアねえから止まれねえんだよ。さっきのインター降りときゃよかったぜ……運が無かったな」

 

去っていくカスの背を、カガリはままならない想いで見つめていた。

 

二時間後、明けの砂漠が拠点とする集落、タッシルがザフト軍の襲撃を受け炎上したとの知らせが入る。

 

天秤が傾こうとしていた。

 





いやだって、ナタルさんは絵下手でしょ(確信)
カード破棄を真っ先に警戒したムウがナタルさんに頭を下げて原本となるグーチョキパーのカードを作ってもらいました。

各カードのデザインは、

グー:集団リンチに遭ったアン◯ンマン
チョキ:異形の尿路結石
パー:ガス生命体アイに潰された人

によく似ています。
受け取ったムウは怖くて自信満々なナタルの顔が見れませんでした。


ところで、陽の目を見なかった話の供養になりますが、地球降下時のシナリオは2種類考えていて、元々は原作通りイザークが降下艇を撃ち落とす予定でした。

でも、それをカスに録画されてて、『ナチュラルキラー』『避難民殺し』『ザフトが産んだマス・マーダラー』『C.E.における殺人鬼の語源』『エンデュミオンの凶鳥にカスと呼ばれた男』等の異名を付けられ、MSの一撃で史上最も多くの民間人を殺した男としてギネス登録され個人情報を顔写真付きで世界中にバラ撒かれた挙句、『俺は幼女をビームライフルで焼かないと興奮出来ない』『ナチュラルをウルトラ上手に焼きました』『次は生きたナチュラル使ってメンコやりたい』等の発言を捏造され、低俗なネットミームにまでなります。ウチのカスはそこまでやります。

結果、精神崩壊まで行く目に遭う予定だったんですが、それやると多分こいつオーブ編の前に自分で頭撃ち抜きそうだったんですよね(汗)

そうするとカスが今後エザリアさんに絡む旨味がなくなるから今の流れにしました。
良かったな、ママにToLOVEる適性があって。
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