エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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明けの砂漠自体は大した事ないチンピラゲリラで即殺不可避なんですが、そこにオーブの娘が預けられると話が変わってくるわけですよ。
しかもあのヒゲ子煩悩じゃないすか? よほど死なねえ自信があったんだろうなって、頭を捻って前話をでっち上げました。


第43話 燃えるタッシル、それはさておき 前編

 

「ああ……」

 

呆然とするカガリの眼前には、真っ赤な炎に包まれたタッシルの光景があった。

 

「ヤベ、映える〜! これバックにカキ氷食ったらエモさ500%で万バズ不可避じゃねえ!? キラキラキーラァー、写真撮ってー!」

 

『嫌に決まってんでしょ!? 袋叩きにされますよ!』

 

キラの乗るストライクから拒絶の声が返ってくる。

 

「えー、じゃ花火でもやるか。おいニコル、『村焼いた火種使って花火してみた』動画撮るから準備しろよ。盛り上げ役のモブガキ何人か連れて来い」

 

『嫌に決まってんでしょ!? こっちが火炙りにされますよ!』

 

避難民の誘導にあたっていたジンに乗るニコルからも拒絶され、カスは不機嫌そうにプルプルと唇を震わせた。

 

「ちぇー、なんだよつまんねーなー。映画でも観るかな……お、スタンド・バイ・ミー、名作だ。キラにしちゃ良いチョイスじゃねえの」

 

久し振りのブリッツのコックピットで、カスは娯楽用モニター(外付け)を操作して映画を流し始める。

 

……本来キラもニコルもまだ休暇中の扱いだった。

しかし焼け出された民間人の誘導や保護を先導しつつ敵を警戒するのに、機動兵器がブリッツ一機では心許ないのも事実だ。

 

というか、『カスが民間人保護の為に出撃する』という言葉を聞いたマリューがその場で小刻みに震え始めてそっとうずくまった為、副官ナタルとムウの判断により急遽スクランブルで2人も駆り出されることになった。

 

そして今、キラはストライク、ニコルはジンで周囲の警戒と誘導を行なっていた。

 

「ウェネナイッ、ハズカン、エナランディズダァ、エンダムーン、イズィオンラァイ、ウィッスィ……ダーリンダーリンウェェイ……」

 

ガッチョン! ガッチョン! ガガガガガッチョン! ブッピガァン!

 

カスはご機嫌に歌っていた。何ならブリッツに小刻みに腕を振らせ、足でリズムをとっていた。

足元の避難民達が怯えたように後退り、列が乱れた。

 

『うろ覚えなのにノリノリにも程がある……! 名曲なのに!』

 

「友達少ない奴は好きだよな、スタンド・バイ・ミー」

 

『うっ』

 

『キ、キラさん、少なくとも僕やトールさん達はあなたの友達のつもりですよ! 気を確かに!』

 

「陰キャはすぐメンブレするよな。なに、心に地雷原でもあんの?」

 

『人の心なんか地雷原みたいなもんでしょうよ。ていうか避難の邪魔ですから機動兵器踊らせないで下さいよ』

 

「言うね、ジンでピアノ弾いた奴が」

 

『あれはそういうテンションだったんだから仕方ないんですよ』

 

「わかるかねキラ君、これが湿地帯在住の陰キャと天空に住む陽キャの違いだよ。見習い給え、このアクティブな光属性を」

 

『うう、まばゆい、ニコル君がまばゆいよ……目が眩みそう』

 

『ああ、キラさん気を確かに……』

 

その時、映画に目をやったカスに電流奔る。

 

「妙だな……タイトルクレジット後にメディア外部へのコピーNGの警告がある……コイツはデータ配信じゃなく外部メディアに入れて販売されたヤツだ。にも関わらず映像データは抜き取られここにコピーされてる……じゃあ、外部メディアはどこに?……恐らくは中身が差し替えられている外部メディアには、今何が入っているんだ? あれれ〜おっかしいぞ〜!」

 

『やめて!!! そこ掘り下げるの本当にやめてください! 僕だって怒る時はあるんですよ!? 本当に、ゔっ、胸の動悸が!』

 

『キラさん!? キラさーん!』

 

「陰キャはすぐメンブレするよな」

 

『貴方って人は……! もういいから邪魔しないでください!』

 

ニコルに怒られて、カスは映画を流しつつブリッツのカメラを周囲に向けた。

 

粛々と避難を続ける住民達以外に、数十名が燃え盛る集落を前に止まっていた。

呆けたように地べたに蹲る老人、燃える集落を見つめたまま微動だにしない男達、泣き叫ぶ我が子を抱きかかえたまま自身も立ち上がれなくなった女達……

 

「かぁー、どいつもこいつもこの世の終わりみたいなツラしちゃってまぁ。甘やかされて生きてると人間こうも厚かましくなるもんかね……タカちん達も苦労してんね、ウチの物資だって限りがあんだろうに」

 

地上ではマリュー達アークエンジェルクルーと数名の保安部隊員で物資の配布を行なっている。

 

ほんの数十分前にこの集落を包囲したアンドリュー・バルトフェルドは、必要最低限以外の荷物持ち出しを許可せず、住人達の生活の場のみを焼き払ったのだ。

極論、明日の食事にさえ困るような状況に、彼らは追い込まれていた。

 

「わかってた筈だろ……何をどうしたって、この土地にお前らの場所が出来る訳じゃねえってよ」

 

ため息。心底つまらない映画を観た時の様なそれが、セイルの口から吐き出された。

 

何の興味も感慨も沸かない……いっそこのまま寝てしまおうかとすら考えたカスの目に、それは飛び込んできた。

 

 

ナタルだ。

 

ナタル・バジルールだ。

 

夜の砂漠で炎に照らされた、月か氷のような女がいた。

 

 

彼女は泣いている子供に恐る恐る近付き、チョコバーを差し出す。

渡された子供はキョトンとしていたが、程なく笑った。

 

 

それを見た周りの子供達も近寄って来る。

すぐに手持ちのチョコバーを渡し尽くしてしまったのだろう、それでも縋ってくる子供達に囲まれ、抱き着かれ、怒るにも怒れず、ナタルは困ったように立ち尽くした。

 

 

一人の子供が臀部付近に抱き着く。

痩せた細い手が形の良いヒップラインに埋まる。

 

 

 

「キラ、フッケバイン・プロトコルをやるぞ。あそこで俺の尻に無断で触ってるガキをイーゲルシュテルンでロックしろ。俺がカバーに突っ込んですれ違いざまに尻を攫うから、お前はそのまま発砲するんだ。大丈夫、所詮はゲリラに属するガキなんだ、この世に居ねえのと一緒さ」

 

ブチ切れた歴戦のカスが信頼する副隊長に指示を出した。

 

『それ普通に僕が子供ロックして撃ち殺すだけじゃないですか。絶対嫌ですよ。何が大丈夫なんですか』

 

副隊長は冷静にそれを拒否した。

 

「何だお前は。最近イヤイヤ期なのか? 仕方ねえ、ロックはニコルにやらせるよ」

 

『考えうる限り最悪の共同作業じゃないですか。絶対嫌ですからね』

 

ニコルも拒否をした。吐き気を催す邪悪だと思った。

 

「てめえら……俺の尻が減ったらどうするつもりだゴラァ! まだ17回しか揉んでねえんだぞ!!」

 

『またそういうことを……』

 

『お言葉ですが女性の臀部を揉んだ回数覚えてるのはヤバイですよ』

 

キラ、ニコルの軽く引いた言葉に、カスはついに自分で動き出した。

 

「そこのガキどもぉ! 誰の尻に抱き着いてんだオラァ! ぶっ殺すぞ! それは、俺の尻だ!! ゲラウトマイヒップッ!!」

 

外部スピーカーで叫び続けナタルのいるところに近付いていく。

 

ガッチョン、ガッチョン、ギュピーン

 

ザフトに理不尽にも住む場所を焼かれた無抵抗の子供達を脅す為、大股で近付きながらカメラアイを光らせる地球連合軍の誇る機動兵器GAT-X207ブリッツ。

子供達はチビリ散らかしながら逃げていった。

 

後の世で、C.E史上最悪のMS利用用途と言われた瞬間である。

 

 

 

「正座」

 

月か氷か、時々鬼のような女の前で、地球連合軍の誇る機動兵器GAT-X207ブリッツは正座させられていた。

本当はカスに降りてきてさせるつもりだったが、カスは普通にブリッツを正座させた。

 

キラは、関節の可動域そこまで余裕あったっけ? と思った。

ニコルも、よしんば膝が曲がっても自重がふくらはぎに集中するのは構造上不味いんじゃないです? と思った。

 

しかしナタルが怖くて何も言えなかった。

 

結果、正座をさせられた地球連合軍の誇る機動兵器GAT-X207ブリッツの可哀想な膝関節からは程なく『ブチン』という音が響き、スネ部分の装甲も『ギギギャァァァ』という音を立てた。

 

カスは鳴り響く機体異常を知らせるアラートを切り、コックピットで線路を歩く少年達を観ていた。

片手にはコーラがあった。

 

「誰の何が何です? 無抵抗の子供をMSで脅すなど正気ですか?」

 

早々に銃を抜いていたが、周囲の避難民を刺激しないよう発砲は控えつつ、どう控えめに見てもバチバチに切れ散らかしている様子のナタルに詰められるブリッツ。

 

その光景を、避難民達は遠目に眺めていた。

 

なんだこいつら、そんな副音声が聞こえてきそうな光景だった。

 

「誰にだって触れちゃならねえ心の痛みが――」

 

「誰の尻が心の痛みです?」

 

「……お前の尻はガキにはまだ早えよ。性癖歪んだらどうすんだよムチムチムチムチしやがってPTAが黙ってねえぞ」

 

「ムチムチなどしていません。そもそも今は救護活動中ですよ? 先程からヤマト達にばかり働かせて、何をしているんですか」

 

「してるよ、ムチムチ。映画観てるよムチムチ」

 

どことなく哀愁を漂わせ始めるブリッツから、カスの純真な声が響いた。

 

「………………どうも、レジスタンス絡みでの貴方はいつも以上に不真面目のようですが、何が理由なんです?」

 

ナタルはため息をついた。先日の邂逅から、どうにもこの男のやる気というか、普段欠片ばかりは感じられる軍務への姿勢のようなものが、根こそぎ欠如しているように思えた。

それは長いことカスと付き合ってきたナタルからしても、かなり稀なことであったのだ。

 

「コイツらに構って何のメリットがあんのよ。緩衝地帯でスポンジ代わりに使われてる、レジスタンスとは名ばかりの棄民じゃねえか」

 

映画では慎重に線路を渡る少年達の後ろから、汽車が迫って来ていた。

 

「この戦争は無限に続くのか? そんな訳ねえよな。どんなに長くても数年だろうよ。そしたら勝った側はこの土地でまず何をすると思う?」

 

走り出す少年達。大きな汽笛の音ががなり立てるように彼等を追い立てた。

 

「決まってる、害虫掃除さ。コイツらは寿命数年足らずの、殺しても助けてもなんの旨味もねえ民間人未満の虫なんだよ」

 

「馬鹿な……彼等は今日もこうしてザフトに脅かされている、れっきとした被害者ですよ」

 

「おい、よせよナタルちゃん。わかってんだろ? どこの世界に銃持って襲って来る被害者がいるんだよ。コイツらは被害者ヅラが上手いだけの犯罪者集団だよ。だから良いように使われてるし、使い潰してもいいと思われてる」

 

ついに汽車から逃れた少年達の姿を目を細めて観ていたセイルは、ようやくモニター越しにナタルへ目をやった。

 

「俺等がここで物資をくれてやって、なんになる? 焼き出されたコイツらを助けに向かうって選択をした時点で、どうせ俺らはもう虎に捕捉されてる。ここまで内陸に入っちまえば、ワンチャン一番近い海岸線を抜けるって線は消えた。恐らく数日内には戦闘になるだろう」

 

「元より戦闘は避けられない……だからこそ土地勘のある彼等の協力が必要なのでは?」

 

それはナタルやムウ、マリューらの話し合いで出た結論だった。最悪アラスカまでの航路はどうにかなったとして、この広大な砂漠でアンドリュー・バルトフェルドを相手取るには味方は少しでも多い方がいい、と。

 

「キサカの情報とこの土地の情勢から照らし合わせれば、コイツらが味方と呼ぶにもおこがましい養殖ゲリラなことはすぐわかった。おまけにあの犬みてえなザフトのMS、ありゃ軽車両じゃどう足掻いても無理だ。クソの役にも立たねえよ」

 

とは言え、カスなりに思うところはあったのか、気まずそうに頭を掻いて、言葉を続けた。

 

「……俺はコイツらが、コイツらみたいな連中は、駄目だ……線の向こう側だと思ってる。嫌いなんだ……悪かったよ、ナタルちゃん、ごめんな」

 

 

「――――――え?」

 

キラは己の耳がイカれたと思った。

鼓膜に未知のウイルスが侵入し、脳にまで至り、幻聴が聞こえるようになったのだと確信しそうになった。

 

カスの口から、悪意ない詫びの言葉が……?

 

 

「――――――え?」

 

二人の会話の様子をロングレンジのカメラに収めながらナレーション風の解説を入れていたマリューも、同じように思っていた。

スパダリ風ヤンチャ不良系男子が弱気見せるとかその後の真面目風堅物系エロボディ女子からの慰めシーン不可避じゃないですかやーだー、とか考えていた。

 

……それはもうムウ達には救えないモノだった。

 

 

「ザフトの野郎どもが! もう我慢出来ねえ! 報復だ!!」

 

だからまあ、その直後に高らかと響いたアフメド君の言葉は、それはもう空気の読めていない侘しさに満ち溢れていた。





没タイトル:ロリショタに囲まれているナタルさんからしか接種出来ない栄養素の名前を僕達はまだ知らない

ちょっとこの辺は長めにやるかも。。。くどかったらごめんなさいね。
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