煮凝りて、僕は刺身を出したつもりでした……
お目汚し失礼しました。
ところで、キラくんはここのところ平和に過ごしすぎましたよね。
SEEDだぞここ。
今回長いです。
バナディーヤにあるザフト拠点、その司令官たるアンドリュー・バルトフェルドの執務室に、セイルとキラはいた。
カガリとフレイは、バルトフェルドの情婦(カスはそう断定した)であるアイシャによって、シャワーと着替えに連れて行かれた。
「コーヒーは飲むかね?」
バルトフェルドの問いに、
「おう、二人分、ホットで頼むわ。あ、つめしぼもな。ピノとかあったら嬉しいわ」
カスはソファにふんぞり返ってそう返した。
「生憎とピノは無いねぇ。ガリガリくんでもいいかい?」
「味は?」
「味噌バターコーン」
「却下で。味覚コーディネートし忘れたの?」
「君は物怖じしないねぇ……そう言えば、直接のやり取りはこれが初めてなんだ。改めて、お名前は?」
バルトフェルドはコーヒーメーカーを操作しながら、今更ながらな質問をした。
「カズイ・バスカーク」
カス、一手目から強い手札を切ってきた。
「え」
しかし相棒がアホ顔リアクションで台無しにした。
「やっぱり、昨日の無線は偽名か……もう報告上げちゃったよ」
「キラァ……黙ってりゃどうにでもなるもんをお前さぁ、酷いよぉ」
流れるような高速の責任転嫁。
事前の打ち合わせなどは皆無であったのに。
「そ、そんな馬鹿な……」
「お前さ……何で俺に合わせて嘘つかないの?」
悲しそうな顔に僅かな狂気を滲ませて、カスはキラを見た。
「いや、じゃあ先に言っておいてくれたって……!」
「嘘つかないならお前のこと助けてやれないよ。さっき撮った写真…………もう晒すしかなくなっちゃったよ」
アークエンジェル内に流通する例の写真。
その瞬間、自分の艦内での立場は終わるのだろうとキラは確信していた。
『鉄火場で熱々の銃身からヨーグルトソース(意味深)を女の子2人にぶっかけた男』というレッテルを貼られるのだ。サイは死ぬ。
戦闘中も……
カス『ヒューッ、キラウザーさんの連続ビーム顔射だぁー!』
ムウ『ジンの野郎、ひょっとこ口で吸い付いてやがるぜー!』
カス『とんだメスブタだぁー!』
多分こうなる……馬鹿共がよぉ……地獄かよ。
キラウザーさんて誰だよ。
「艦内を歩けなくなるじゃないですか……クソッ、軍規はどうなってんですか、軍規は!」
半ば強制的に軍人にされたのに、一度としてクソの役にも立たない軍規さんは今回も沈黙を保っていた。辞めたら? この仕事。
「何勘違いしてんだ?」
しかし凡そ、人の弱みを握ったカス、ドブにはまった犬を見下ろすカス、弱みを握った相手がドブにはまっている時のカスは、持ちうるポテンシャルを120%以上発揮し、そのカス濃度は遥かなる高みにまで至る。
「ヒョッ?」
「公開先は、
「…………ヒュッ」
気が遠のくキラ。
知っていた。
カガリの父親がオーブの、洒落にならないクラスのお偉いさんであることも、フレイの父親が特権利用して軍艦に乗って娘を迎えにこれちゃうレベルの政治家であることも。
キラ's脳内
イマジナリ・カガリパパ『ぶっ殺すしかねえパパよ。顔面破裂するまで逆さ吊りにしたら花壇に植えてやるパパ。これがホントの中立ップってね……笑わねえとか非国民パパ? やっぱ生きたまま魚のエサパパよ』
イマジナリ・フレイパパ『ここここここここ殺さなきゃ! 殺さなきゃね! いけないんだよね! ノコギリでね! 死ににくい所からバラバラにね! あ! 股間は最初に潰さなきゃね! ヤスリで!』
……著しい生命の危機を感じたキラの脳内でまた、静かにマカダミアナッツみたいな種が弾けた。
あらゆる可能性、未来を計算、自身が生き残る最善のルートを描き出し、その為に必要なアクションを決行する。
……ッス
それは土下座だった。
ソファから崩れ落ちる勢いさえも利用して、余りにも静かに、あのカスが反応に遅れるほどの速度と完成度で。
静かなる土下座が完成していた。
(恐ろしい練度だ……)
バルトフェルドはそれを見て戦慄していた。
(黄金を幻視する程の美しい姿勢、動作、何よりも真摯な詫びへの向き合い方……ダコスタ君はまだあの域には至れていない!)
それ程に美しい土下座だった。
「ブリッツの新しいモーションパターン3種追加で、何卒……!」
キラは自身の睡眠時間を売り渡す決意をした。
「おいおい、俺の聞き間違いかぁ? 桁がぁ、一つぅ、足りねえんじゃあ、ねえかなぁ?」
カス、まだ舞う、他人の弱みを燃料にまだ舞えると言わんばかり。汚物の飛翔は止まらない。
「じ、10は無理です……!」
「え? なに? 15? やっるぅー!」
「うぐぅ……うううううぅ…………」
ぐにゃあああ、とキラの輪郭が揺れる。それはそう。
キラが持ち前の反射神経と判断力に任せて、ほぼ全部手動で操作しているストライクと違い、カスのブリッツは複数のマニューバパターンを組み合わせることで複雑怪奇な機動を実現している。
ただでさえ数が多いのだ。今更新規のパターンを考えるなど拷問に等しい手間がかかる。
「表パターン15と、対になる裏パターン15、合わせて30。しょうがねえ、それで許してやらあ」
しかしカスダンス、まさに最高潮。
とてつもないゴラッソをキラのメンタルに叩き込んでいく。
「ンギィイイイ……」
ドブに落ちた犬に救いはない、救いはないのだ。
「話がまとまった所で、コーヒータイムだ……で、君の名前は?」
コーヒーカップを受け取りながら、カスは珍しく、不思議そうな顔をした。
「クルーゼから聞いてねえか? セイル・オランチョさ。地球連合軍が誇るゆるかわマスコットっつった方が通りがいいかな?」
どこに通ってるんだろう、座り直しながらキラは思った。
「……君がか…………いざ対面すると、言葉に迷うな」
バルトフェルドは大きなため息をついた。
「会いたかった……いや、君と話をしてみたかったんだ」
その言葉に、片眉を上げてコーヒーに口をつけるカス。
「この香り……モカ・マタリにしちゃ酸味が強いな……等級は?」
「No.8を使ってるが、そいつはオリジナルブレンドさ」
「ああ、通りで。個人的にはフルシティのイタリアンブレンド一択なんだが、こういうのも悪くない」
その言葉に、バルトフェルドは苦笑をもって返す。
「そりゃよかった。ダコスタ君……部下には不評でね」
キラはそんな言葉を聞きながらコーヒーに口をつけた。
……花の香がする泥が、舌の上で酸味と苦味を爆発させた。
それぞれが独立した不味さで鼻の奥を突き刺してくる。
キラは慎重に舌の上の劇物を、細心の注意を払って飲み下した。
「美味い不味い、個性無個性、どれか一つでもコーヒーは飲む理由になる」
嘘だろこの人普通に飲んでる。
「不味くても、ですか?」
驚愕したキラからの問いに、カスは肩をすくめた。
「不味くても……まあ、こう言うのはポリシーの領域なんだろうな。苦くて熱いモノを、好き好んで飲むんだから」
「……惜しいな……戦時中の、敵対関係でなければどれだけ有意義な語り合いが出来るか」
万感の思いを込めた、そんなバルトフェルドの物言いだった。
カスは珍しく穏やかな笑みを浮かべると、
「まあ付き合うさ。コーヒー分は」
そう言ってまたコーヒーを啜った。
バルトフェルドも同じ様に笑うと、本題を切り出した。
「ありがたい…………マグノフ・サラグナヤという男を知ってるかな?」
「マグノフ……?」
聞いた名に、カスは眉を顰める。
「1年くらい前だよ。腕の良い連合のアーマー乗りでね。この砂漠でやり合った」
アーマー乗り、その言葉に合点がいったのか、記憶にある情報が解凍された。赤毛で、負けず嫌いな、同期の――
「ああ、あいつか。士官学校時代の同期だった。喧嘩売ってきたのをズタズタにして生涯奴隷契約を結ばせたんだよな」
碌でもない記憶だった。
「本人は舎弟にして一番弟子、無窮の友だと言っていたが」
「偶にそうやって変な方に振り切る奴がいるんだよ……で、そいつが?」
バルトフェルドは掌を飛行機に見立て、テーブルスレスレを移動させた。
「本当に凄腕だった。スピアヘッドを低空飛行させて、横列で火力支援していたザウートの隊列間をすり抜けるんだ。我が目を疑ったよ」
「度胸はあったからなぁ。確かに、あいつならやるだろう」
「バクゥを先行させてた裏目を突かれてね。後にも先にも、艦載機にあそこまで母艦に肉薄された経験はないよ。僕が直衛にいなけりゃ、そもそもザフトの北アフリカ攻略は半年以上遅れていたかもしれない」
そう語るバルトフェルドの顔は、晴れ晴れしさすらあった。
そこへアイシャが戻ってくる。
ノックすら無い、風貌と相まって猫のような気軽さで部屋に踏み込んできた。
「お待たせアンディ……あら、男の子同士で楽しくお喋り? 妬けちゃうわ」
「待ち望んでいた時なんだ。すまないアイシャ……彼女達は?」
一試合終えた後のセフレとのピロートークみたいな雰囲気を漂わせながら2人は笑い合った。
キラは急にコーヒーが飲みやすくなった様に感じた。
「こんな感じでどうかしら? 2人共、入ってらっしゃい」
呼ばれて入室してきたのは、フレイとカガリだ。
「どうです隊長! 似合いますよね?」
濃い赤に黒の模様が映えるドレスのフレイと、
「うう、なんでこんな格好……」
若草色のワンピース型ドレスを着たカガリだ。
「おお、いいじゃん、泡っぽい泡っぽい。あと何年かしたら抱けるよ」
カスは正直者なので偽りなく所感を述べた。
「やだ♡婚約確定!?」
絶対サイには見せられない顔でフレイがカスの横に滑り込んだ。
今更だがずっと頭がピンボケてる彼女がヘリオポリス組では一番幸せそうだった。
「抱けるとか言うなよ生々しいんだよぉ……」
カガリは恥ずかしそうに身を縮めてキラの横に座り込んだ。
「二人とも綺麗だね。お姫様みたいだ」
キラは自身のメンタルが地の底まで沈み込んでいた代わりに、歯の浮くようなセリフを吐き出した。
「あら、キラも言うじゃない。今のは高ポイントよ」
「だだだ誰がお姫様だ誰が!」
流石に褒められ慣れているフレイと、ガキの頃からランニングシャツにハーパンで駆け回り麦茶をシバいていたカガリでは反応がえらい違いだった。
「童貞は褒め言葉に脂質が無いからサッパリしてて女ウケ良いよな。最初だけ」
しかし現実は残酷だった。
「そんなササミみたいなことあります?」
ササミチキン・ヤマトは草食系なのでその辺りが疎かった。
「はっはっはっ……もう一杯どうだね? 今度は秘蔵のブレンドをお出ししよう。そっちの彼……キラ君とも話してみたくてね」
「いいさ、付き合うよ」
バルトフェルドが再びコーヒメーカーに向かいながら。懐かしむように語り出す。
「まあ、結局なんとか撃墜に成功してね。しばらく捕虜として生活して貰っていたのさ」
「生きてんのかあいつ。まあ、鉛玉ぶち込んでも生きてたからな」
「え、何で同期を撃つ必要があったんです?」
流石に飲み下せなかった情報にキラが突っ込んだ。
とうしてこの人は何か喋るたびに犯罪臭がチラつくんだろう。
「タイマン売ってきたんだからしょうがねえだろ……ああ、心配しなくても弱装弾だよ」
「そういうことでなくてですね」
全く意に介していないバルトフェルドは、新しいカップにコーヒーを注ぐと、セイルへ手渡した。
「その話も聞いてるよ。愚かで身の程知らずな跳ね返りに、畏れ多くも試練を与えて頂いたって言ってたねぇ」
「な?」
コーヒを受け取ったカスは得意気だった。
「何がです? 何か納得出来る要素ありました?」
な、じゃないんですよ、な、じゃ。
「とにかく、彼は強かったよ。しかも自分が強くなれたのは全部君のお陰だなんて言うんだ」
「参ったな……流石俺」
「僕の部下にも彼の様な強者になって欲しくてね……かれこれ1年近く、伝え聞いた君のやり方を試してるんだがうまくいかないんだよね」
どうやらカスのバタフライエフェクトが発生しているようだった。
一方でカスは、コズミック・イラでも絶賛放送されている長寿テレビ番組『プロジェクトダブルX』で紹介される匠のように、足を組み、ろくろを回し、誰もいない空中に目線を置いて得意気に話し始めた。
「誰しもが最初は素人だった。俺はただほんのちょっと、人の素質を引き出すのがうまかっただけだよ」
あと人の心がなかっただけですよね、と言わないだけの分別がキラにもあった。
「原形無くなるくらいまでオブラートに包んだら、それはもうオブラートだと思うんですよね、僕」
とは言え得意気な様子がどうにも納得出来ず、キラは呟いた。
「あやかりたいもんだ……そうだな、仮に数日後の戦闘で僕が勝ったら、軍門に降ってくれるかい?」
それは余りにも気軽な物言いにして、暴力を前提にした要求そのものだった。
「戦争終結の為、君の力を貸して欲しいんだ」
バルトフェルドの視線を受け止めて、カス……セイルは『んー』と声を漏らした。
「戦争終結とはデカく出たなおい。少なくともこっちにゃ、お前らのホームグラウンドである宇宙で、お前らの得意種目であるMS戦で大活躍した、連合のダブルエースがいる訳だが」
「まさか僕のこと言ってますか? やめてくださいよ本当に」
「ふむ……つまり君が地球に来た初日に、遠距離でバクゥを撃ち抜いてくれたエスパー君かな?」
その言葉に、キラはキョトン顔、セイルは感心したような顔になった。
「エスパー君?」
「やられたパイロットが言うには、照準されたことを知らせるアラートなど無かったと言っていてね。なら、あり得ない話だが目視で当てたか……エスパーなのかなって」
「よくぞ見抜いた! こいつこそ地球連合軍秘密兵器、童貞エスパー、キラババ・カッパーフィールドだ! 中立コロニーを消滅させる爆笑マジックが得意なんだよ」
「乗らないでくださいよ!……何が爆笑マジックですか!? あれは事故ですよ! っていうか僕だけのせいじゃないでしょ!!」
「……そっかぁ」
必死なキラの様子に、バルトフェルドは『お前がそう言うならそうなんだろうな。お前の中では』という感情が透けて見える声色で反応した。
「あれ!? もしかして引いてます!? おかしいでしょ!? 今までの隊長の話の方がよっぽど非人道的でしたよ!?」
信じられない、ちょっと久し振りにまともな大人に会えたと思ったらこれだ。キラは世の中に絶望した。
「そうね……私達の住んでた街、学校……もう二度と見ることは出来ないけど、気にしちゃダメよ……キラババ?」
「フレイ!? そんなまさか、フレイ!?」
「すまない、お前の罪は、私も半分背負ってやるからな……カッパーフィールド?」
「カガリ!? そんなまさか、カガリ!?」
「お前色んな名前で呼ばれ過ぎててどれが本名か分かんないんだよっ!」
挙句、ノリノリなフレイと割とガチなカガリに挟まれて、キラは人間不信がグーンと上がった。
「しかしまあ、その歳であのクルーゼ隊相手に宇宙で互角以上に戦ったんだ……ひょっとして、君はコーディネイターなのかな?」
その問いに、キラは一息入れて落ち着くと、やや緊張した様子で頷いた。とても敵基地にいる軍人とは思えない取り乱し方をした直後なので、何を今更感はあったが。
「そうか……地球連合軍に与する同胞と会うのは初めてだ……なあ、僕とは違う環境で育ちながら、今は同じ戦場にいる同胞の君、この戦争はこの先、どうなると思う?」
「それが、セイルさんに協力しろって言ったことに関係があるんですか?」
「そうだね……少なくとも我々は、我々だけの力では、コーディネイター以上の何かにはなれない。散々優勢種だの選ばれた人類だの言っておいて、やってる事はナチュラルと同じ戦争行為なんだから」
バルトフェルドは自身もコーヒーに口をつけると、訥々と語り始めた。
「少なくともこの戦争でコーディネイターが示したのは破壊と殺戮の力だけだ。良いように使われ、会談では後手に回り、ようやく立ち上げた農業用プラントはふっ飛ばされて。成功したのは反撃と奇襲……これが遺伝子の可能性かね? 持って生まれたものだけで喧嘩出来る程、僕らが優秀なんて誰が言ったんだ?」
農業用プラント、と言った辺りでセイルを見た。
「マグノフは……僕がこの地で戦ったナチュラルは本当に、本当に強かった。その強さが後天的で、しかも誰かに鍛えてもらった結果と聞いて、羨ましくて堪らなかった。彼は変わった、変われたんだと。その変わる力こそが、僕達に足りていないものなんじゃないかって思ったんだ」
きっと開戦から今日まで、最前線に近い場所で戦争を見てきたバルトフェルドなりの理屈があるのだろう、そう感じさせる言葉だった。
「僕が指揮を取り、君が鍛えた部隊が戦うなら、このアフリカ大陸を皮切りに、カオシュンやジブラルタル、パナマに至るまでザフトの勢力を盤石なものに出来るかもしれない。宇宙はまあ、クルーゼ辺りにどうにかしてもらおう。少なくとも地球連合軍側の継戦能力を削り落とさなければ、停戦の兆しすら見えやしないんだ。地球上の陣地拡大は必須だろう。その為に、突出した部隊が欲しい」
セイルが鍛えた部隊……部隊?
キラは想像したが、何故か脳味噌に電極を刺された虚ろな目の集団しか出力されなかった。
「あの……それは本当に現実的な案でしょうか……?」
No.ネームレス(カス被害者の会の一つ)のような人達を1,000人程度生み出せば、一個小隊位は出来るのかもしれない。しかしそれは余りに非人道的では無いだろうか。
「……この戦争は僅か1,2年で激化の一途を辿り続けている。遅かれ早かれ、どちらかが致命的な一手を取る可能性が高い。そうなる前に、落としどころが探れる位の戦局にしなければならない……そうなった時に……
絶滅、と言う言葉の重さに、キラは二の句を継げなくなってしまった。ナチュラルだ、コーディネイターだとお互いを線引きし続ければ、いつかはそこに行き着くのだと、キラ本人も確信に近いものが確かにあった。
「それでも……それでもやっぱり、貴方の考えもわかるけど……」
自分の中にある思いを慎重に言葉として絞り出そうとするキラ。
一方、自分の言葉に高揚する部分もあったのだろう、バルトフェルドの声は一層勢いを増した。
「ではどうする? やはり君も、どちらかが全滅するまで戦うしかないと思うクチかね?」
セイルは何も言わなかった。むしろキラが何を言うのかを、面白そうに見ていた。
キラは……本来史実において生涯持ち得なかった、カスによって培われた開き直りの精神が、今開花しようとしていた。
「全滅させたら戦争が終わるんですか?
「ブハッ」
フレイとカガリ、それにそれまで黙って聞いていたアイシャまでがギョッとした顔をキラに向けた。
セイルは思わず吹き出して笑った。
バルトフェルドは眉根にシワを寄せた。
「それじゃあ、地球とプラントじゃ地球の方が住んでる人が多いんだから、プラントの方に全滅してもらえるんですか?」
何となく、カスが人を煽る時の気持ちが少しキラには理解出来た。
自己嫌悪の後ろで、僅かに爽快感が顔を覗かせた。
「ああでも、
コーヒーを、先程は不味い上に熱くて飲めたものではなかったそれを一息に飲み干した。
「この場で一番力があって、部下も大勢いて、僕達のことなんて気分一つで皆殺しに出来る貴方が、一番力のある貴方が、更に力を求めるんですか? ならきっと、隊長を手に入れても満足なんて出来ませんよ。もっと、さらに、まだまだ先へ」
不味いコーヒーだった。
それでもこの出会いは得難いものだった、とキラは思った。
ヘリオポリス、アルテミス、ユニウスセブンと流されるままに戦ってきて、少しずつキラの中に蓄積されて来たものが、形を成そうとしていた。
「この戦争だって、
巻き込まれ、命の危機に晒され続けて、他に手はなく力を求めた。
守る為に、そう言って武器を手に取ることが正しいのか、ラクスやニコルとのやり取りの中で迷い、考え続けてきた。
「否定はしないよ。しかしだからこそ力を欲する……それは間違っているかな?」
「僕は力が欲しいと思った事はないです。戦いは嫌いです。でも護る為に力を振るうことを、間違ってるとは思いません。だって……」
だって、そう、あの日、ヘリオポリスを焼いたものもまた、
「だって護りたいとか、戦いたくない、死にたくない、逃げたい、苦しい、助けて欲しい……そんな想いだけで、一体何が出来るっていうんですか」
誰かの、何かに向けた想いと力なのだから。
「だから貴方も、力を求めるならその先を、その力をどうやって使うかを考えて欲しいです。そしてさっき貴方が言ったことは、戦争を続ける為の力であるようにしか、僕には思えませんでした。きっとまた、お互いへの排斥心から新しい火種が生まれるでしょう」
「その先か……ザフトに与する以上は、プラントに勝利をと考えてしまうのはあるか……」
キラの脳裏に、低軌道での記憶が蘇る。
高速艇が激突した戦艦から出て来た脱出ポッドを、嬲るように潰していくザフトのMSの姿。
「ナチュラルとコーディネイターの間にある確執って、そんな簡単に解消できるものじゃないですよね。だから戦争になってる訳で……じゃあきっと、戦後のことを、考え、る、なら……」
何となく、セイルが言っていたことが、その断片が、一筋の光が差し込むように、キラにも掴めたような気がした。
「どちらかの勝利をもって、終わっちゃ……いけない……のか?」
その言葉を聞いていたセイルは、ただ笑った。
笑って、未だ言葉に迷うキラの頭を乱暴に撫でた。
「うはは、ワリィなトラちん。コイツもMSパイロットとしてちょっと濃い目の経験して来てっからさ。戦争に関しちゃ一家言ある訳よ」
「……どうやらその様だ。交渉は、決裂かな?」
バルトフェルドも興味深そうにキラを見ながら、苦笑を浮かべた。
「や、まあそうだなぁ……んー……もしもウチの艦が航行不能な状態にされた上で、ブリッジが投降した時点で、俺やキラが生きてたら大人しく従ってやるよ」
「おや、いいのかい?」
「どのみちあの艦とMSが届けられねえなら、この戦争は共倒れで終わるよ。最後はなんだ、ボアズでも引っ張ってきて地球に落とすとかやるんじゃねえの?」
でもまあ、とセイルは続けた。
「そうならねえ為にも、こいつが頑張るんだろうさ……だろ、キラ?」
「……はい!」
話は終わりだ、とセイルは空になったカップを置いて立ち上がる。
「話し込んじまった。そろそろ帰るわ……メンテキッドはまた今度でいいや」
「そうかね。歩哨に案内させよう」
「おう、またな」
「ああ……また、戦場で」
「戦場で」
子供達を促し、先に部屋から出す。
最後に退出の際、セイルはチラとバルトフェルドを振り返った。
「お前、部下育てる時に自分で限界を線引きしてやってるだろ……面倒見良さそうだもんな。一回そう言うの取っ払って、限界以上の負荷をかけてみろ。見込みがあるなら、割と
そう言って扉を閉める。
残されたバルトフェルドとアイシャは顔を見合わせると笑い合った。
「ふむ、良いことを聞いたね」
「あらアンディ、悪い顔してるわ」
「なに、詳しい事は戦いが終わった後でまた聞くさ」
「そう……残念ねアンディ。ああいうお友達、欲しかったんでしょ?」
「いいさ、今はただ、この出会いに感謝するよ」
窓の外ではボチボチ夕方に差し掛かる陽の落ち具合だった。
タッシルが最低限、生活基盤を修復するのに後2日程度だろうと、偵察からの報告を受けている。
開戦はその翌日といったところだろう。
「対艦、対空戦の戦術プランを洗い直す。虎の牙が天使の羽根すら食い千切れることを、彼等に教えてやらなければ」
「ふふ、やっぱりそういう、オスっぽいところが最高に素敵よアンディ」
そっと身を寄せてくるアイシャを受け入れながら、バルトフェルドは先程までキラ達が座っていたソファを見た。
(勝ってはいけない、か……なんて困難な道を示すんだろうね。まったく)
アイシャの細い腰に手を回しながら、バルトフェルドはしばし未来について思いを馳せた。
ダコスタ「やてめよ、ガチ迷惑」
虎、上等なモカ・マタリに雑にキリマンをブレンドしてそうな負の信頼がある。酸味に酸味を足すんじゃねえ。
カガリは幼少期、ランニングシャツに短パンとかで駆け回り、バッタやセミを素手で捕まえてはウズミの執務室にリリースした後で、冷蔵庫空けっぱにして麦茶飲んでました。
原作にあったか? いやないですけど、やってたかやってなかったかで言えばやってたでしょ。
史実との大きな違いはケチョンケチョンにやられたクルーゼ隊からの支援がないので赤服共が地球に来てないことと、キラ君のメンタルがカスによって大分歪に成長(成長?)してることですかね。
■人物紹介
マグノフ・サラグナヤ
カスの士官学校時代の同期。
偶々カスがナンパして引っ掛けた相手が自分の恋人だったことから、カスに強い殺意を抱く。
その後彼女の母親に手を出し破局したカスが、急に自分に馴れ馴れしくなったと思ったら母親と姉が喰われていたことから殺意を実行に移す決意をする。
訓練中の事故に見せかけた殺害を計画するも、当時カスは特別選抜クラスのトップであり、事故に見せかける為には自身も着いていけるよう技量を磨く必要があった。
半年に渡る極限まで自分を追い込んだ訓練の末、それでも勝ち目の見えないカスにある種の尊敬を抱き始める。
自身の中に生まれた迷いを打ち消す為、カスに決闘を申し入れる。
種目はシミュレーターを使ったドッグファイトだったが、当然カスは敵対者に容赦がなかった為、決闘前夜にハニトラを仕込まれて一睡も出来ず、直前の食事に下剤を盛られてフラフラになり、シミュレーターに入ったところに実弾を撃ち込まれて半殺しにされた状態で臨むことになった。
結果、決闘開始と同時にフルスロットで地面に突っ込んで終了となった。
意識が朦朧とするマグノフに生涯奴隷契約書にサインさせ、2人の因縁は終結した。
※カスは同期で自分に匹敵するならこいつだろうと思っていたマグノフから決闘を申し込まれた為、全力で勝ちに行った。
その後、生死の境を彷徨ったマグノフはマウントポジションを取ったカスから笑いながら殴られ続けるという夢を見続け、目覚めた時には立派なカスシンパとなっていた。そこから毎日が舎弟デイズ。
※最終的にはフェーズ2に該当した。
バルトフェルドへの感染源。罪深い……
ちなみに上に姉が1人と、男女の双子がいる。
マグノフは末っ子だった。
合唱部のエースだった双子だが、何年か前に揃って家出し消息不明になっている。
シンパ化後、偶々写真を見せたカスが2日程固形物が摂取できなくなるレベルに憔悴した。『マジごめん』と言われたが未だに何のことかは分かっていない。
余談だが五女の家には鳥籠(人間サイズ)がある。趣味は人間観察と歌唱鑑賞。