エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

5 / 68

なぜ人は争うのか


第5話 カス、愛と平和を説く

誘導に従い、ブリッツの機体をカタパルトデッキから滑り込ませる。

すぐ横に、先程マリューが乗っていると思しき。GAT-X105ストライクが着艦する。その手には、避難民と思しき少年少女達が乗せられていた。

とても初期OSを使っているとは思えないスムーズな動きで、バランス制御、スラスター操作、着艦時にヒザで衝撃を吸収させるところまで、かなり完成度の高い動作に、セイルは舌を巻く。

 

「マリューちゃん、もしかして凄腕? やべ、さっきバカ女とか言っちゃったよ。おっぱい揉んだら許してくんねえかな」

 

呟きながら、半分くらいになった煙草から灰を落とした。ニコルの左肩は灰まみれになっていた。

 

「これ吸ったら出るか。どうせならナタルちゃんとも感動の再会と……お?」

 

振動と共に、浮遊感が消える。

どうやら戦艦を着陸させたらしい。すぐにメカニック以外にも、軍服を着たメインクルーのような連中が格納庫に集まってくる。

その中にはナタル・バジルールの姿もあった。やや煤で汚れているが、凛とした美しさに陰りは見られない。

 

「ワンチャン、大尉! 会いたかったでちゅ! ちゅきちゅき! 今日はアタチを好きにしてくだちゃい! とか言ってくんねえかな」

 

無理だろ、朦朧とする意識の中でニコルは思った。それはもう痴女というか変態の所作だろう。

 

「ん? なんであいつもいるんだ?」

 

セイルの目は、クルーの中の金髪をした男に止まった。

粗野な優男といった風体だが、通常仕様とは異なる紫色を使ったパイロットスーツを纏っている。周囲からも一目置かれているのがわかる距離感で接されており、実力者だということが察せられる。

 

「タカちん、最近見ないと思ったらこんなとこにいたのか。さすが地球連合の誇るダブル貧乏神の一柱」

 

モニターの中でこちらの2機を見上げる男。ムウ・ラ・フラガを哀れむように笑い、セイルは煙を吐き出した。

ダブル貧乏神とは、とにかく苦戦を強いられる戦闘に巻き込まれがち、そこで最後まで戦わされがちなある2人につけられた非公式の蔑称である。

ちなみにもう一柱はセイル自身である。

 

「ストライクは……やっぱマリューちゃんが乗ってたか……怪我してる? それであの着艦テクはやべえな………………ガキ?」

 

横のストライクは跪くと、手の上の子供達を降ろした後、コックピットハッチを開いた。中からは肩を押さえたマリュー・ラミアスと、更に一人の少年が降りてきた。

セイルは集音マイクの感度を上げて彼らの声を聞くことにした。

 

「キラ!」「お前、無事だったのか」「よかった!」

 

すぐさま走り寄ったのはストライクに連れてこられた同じ位の年頃の少年少女達だ。

見たところ、襲撃時の避難途中、たまたま軍の区画そばまで逃げ込んできたところを、シェルターが吹き飛ぶか何かして、さらに奥へ退避。ストライクに見つけられて救助されたのだろう。

 

「かわいそうに、こんなとこで軍事機密見ちゃって。もう普通の生活戻れないんじゃねえの?」

 

セイルは煙草の火をニコルの肩に押し付けて消した。

幸い、宇宙用のパイロットスーツは煙草の火くらいで穴が空くことはなく、ニコルも熱に焼かれずに済んだ。

 

「ねえ、これ、君が動かしてたの?」

 

ムウが降りてきた少年にそう尋ねた。

その言葉に、ナタルを始めとしたクルー達は驚きに包まれ、ざわつき始めた。

 

「あんな子供がGを……?」

 

とか聞こえる。

 

(なんか、Gって訳されるのはやだな。ゴキブリみてえ。こいつなんか特に黒いし触覚生えてるし、隠密行動向きだし……)

 

「誰がゴキブリかしら!?」

 

いきなりキレたセイルに、ニコルはビクリと肩を震わせた。

もう嫌だ。何なら気絶でもしていたかった。目覚めるアテはなかったが。

 

「俺はこいつらのパイロット候補生達の護衛でここまで来たんだけど、あいつらの動かすシミュレータじゃあ、精々立ち座りや歩く程度が精一杯で、それすら覚束なかったよ……君、コーディネイターだろ?」

 

その、確信を持った言い振りに誤魔化せないと思ったのか、コックピットから降りてきた少年は頷いてみせた。

 

それが合図だったかのように、集まった者たちの中でも保安部に属する数名が、腰元の小銃に手をやり安全装置を外し始めた。

 

他の少年が、慌てて前に出て庇う。友達なのだろう。勢いもあるが直情的だ。

 

「何考えてんだよお前ら! こいつが何したってんだよ! ケガをした軍人さんをここまで運んできたのはこいつだぞ!」

 

一触即発といった空気になったところで、セイルはついに動き出した。

 

------------------------------------------------------------------

 

その日もいつも通りの1日だった。

いつものようにゼミに集まり、カトウ教授から追加の課題を渡され、仲間達と研究テーマを進めていく。

 

キラ・ヤマトにとって、いつも通りの1日だ。

強いて言えば、その日は珍しくカトウ教授に来客があったくらい。

ショートコートに深く帽子を被り、表情は伺えない。時折鋭い目線が、キラ達をどこか責めるように向けられていた。

 

不意に、警報が鳴り響いた。

 

避難経路を通り外に出て、避難しようとした所、カトウ教授の客人が未だ衝撃の響く通路の奥へと走り出した。

キラは仲間達にすぐ合流すると伝え、その人物を追い始めた。

 

途中、その人物が女の子であることが判明したり、なんかフラフラと迷い込んだ先の格納庫ブロックで、横たわるMSを発見したり、なんかそれを見た少女がパパを責め始めたり色々あった。

 

最終的に、キラは彼女を定員残り1名のシェルターへ押し込んだ後、銃撃戦に巻き込まれ、なんやかんやあって撃たれた女性将校であるマリュー・ラミアスとGAT-X105ストライクに乗り込んだ。

なんなら幼馴染っぽい奴までいた気がする。冗談ではなかった。

 

目の前で立ち上がったブリッツから銃口を向けられた際には肝を冷やしたが、どうやら味方らしい。通信でひたすら恐縮する様子のマリュー・ラミアスを見るに、目上の軍人のようだった。

 

ストライクが起動してからは、地球連合産の不完全なOSをリアルタイムで書き換えるという離れ業によって、迫りくるジンを撃退した。

 

ブリッツは形容し難い動きでライフルを連射し、ジンを撃墜していた。遠目で見ていたキラでさえ、あんな相手に落とされるのは嫌だと思った。

 

その後、足元に友人達を見つけたキラは彼等を救助し、コロニー内に侵入してきた戦艦へ、マリューの指示もあって着艦することになった。

 

ようやく、解放されると思ったのだ。

 

 

「君、コーディネイターだろ?」

 

 

その時までは。

自分が頷きと共に返答を返した途端、場が騒然となったことに、キラは悲しげに目を伏せた。

 

「何考えてんだよお前ら!」

 

銃すら手にしようとした一部の軍人に対して、友人のトール・ケーニヒが猛然と立ち塞がった。

同世代の男友達で、ガールフレンドのミリアリア・ハウ共々、自分にとっても大切な存在だ。彼らがいたから、キラはさっきだって恐怖を押し殺して戦えたのだ。

 

やめて下さい、彼らに危害を加えないで

 

そう言おうとした時、それまで沈黙していたブリッツから男の声が響き渡った。

 

------------------------------------------------------------------

 

「やめろバカ共が、銃降ろせ! お前も何してんだムウ、見てねえで止めろ!」

 

セイルは外部マイクでそう言うと、ベルトを外し、ニコルの胴体を横抱きにして、開いたコックピットからワイヤー製のタラップを伝い下に降りた。

 

手を離すと、ニコルは前のめりに倒れそうになったので、襟首を掴んで引き起こす。

 

「あっ……ガハッ!」

 

吐血により口元は赤く、胸元に突き刺さったナイフとそれを握らされた手を縄紐で固定され、両足を撃ち抜かれたニコルの虚ろな目が、その場にいる全員に向けられた。

 

「コーディネイターとかナチュラルとかくだらねえ理屈で、誰かを傷つけていい道理なんかねえんだよ! ラブ・アンド・ピース!!!」

 

セイルはその場にいる全員を見渡して言った。

 

「明らかに巻き込まれた立場の子供に、なにやってんだ! おめえも煽るようなこと言ってんじゃねえぞムウ!」

 

説教、紛うことなき説教だった。

突如現れて自分達に味方する軍人に対して、ヘリオポリスの子供達の信頼度もドッカンドッカンである。諸手を挙げてセイルを歓迎した。

 

嘘である。

 

辛うじて、トールが何かを言おうとしたが結局言葉は出てこなかった。

その場にいた全員の気持ちは間違いなく一つになっていた。

 

 

 

ドン引きである。

 

 

 

「あー、久し振りって挨拶から始めたいとこなんだけどな、オランチョ大尉……その」

 

代表して、ムウが話し掛ける。

 

「そちらの子供は?」

 

「人が乗ってる機体に相乗りしてきたから半殺しにしただけだが?」

 

「いや、にしてもだって……」

 

「うるせえ! 話を逸らすんじゃねえ! 俺は今戦場における無軌道で無差別な暴力の否定について話してんだ!」

 

「うん、だからな、あのな……」

 

「失礼ですが、オランチョ大尉」

 

ナタルが一歩進み出る。

 

「フラガ大尉はこう仰りたいのです……お前が言うな、と」

 

「そう、それ。あ、君そういうのコイツに言える感じなの? 助かるわー」

 

ムウは同意とともに安堵の声を出した。

 

「俺が……? すまないが、心当たりが……」

 

セイルはそう言いつつ、ポケットから煙草と……ブリッツ起動中に小便をした簡易パックを取り出した。無論、密封済みである。

 

煙草に火をつけ、簡易パックについているフックをニコルの手元の紐に引っ掛けた。

 

「それは?」

 

「おしっこ。我慢できなかった」

 

「もう一度言いましょうか? お前が言うな、と。そう言っています」

 

「?」

 

嘘だろ……!? 何だこの人……やべえ……

 

それまでとは違うざわめきがその場に広がる。

 

「あなたがその少年にしたことは、まさに無軌道で無差別な暴力で、殺人未遂そのものでは?」

 

「俺が操縦するのに邪魔にならないようにって目的はあるから無軌道じゃないし、ザフトとかいう民間テロ組織の人間ならいくらぶっ殺してもいいんだから無差別でもないだろうが。大体、こんなちびたナイフ食道周りに刺したところで人間が死ぬ訳ないだろ。何言ってんだお前」

 

その言葉に、ニコルが今日何度目かの愕然とした表情を浮かべる。

 

「そうですか。おい、お前!」

 

早々に会話を打ち切ったナタルは、救護班のスタッフに声を掛ける。

 

「そこの少年を救護室に。ただし、子供でもコーディネーターだ。治療に支障が出ない範囲で、必ず拘束しろ。逃亡を図るようなら銃殺して構わん」

 

「はっ!」

 

スタッフがニコルを回収し、慎重に縄紐を外していく。

もはやニコルに抵抗する力は残されていなかった。

手錠をされた上で、別のスタッフが持ってきた担架に乗せられ、運ばれていく。

 

「保安部2名、治療が終わるまであの少年を見張れ。治療が終わり次第、状況を報告せよ。言っておくが、私刑に掛けようなどとは思うなよ。捕虜の扱いはコルシカ条約に定められているのだからな」

 

「了解しました!」

 

保安部の人間2名が、ニコルの乗った担架を追いかけていった。

 

「殺してもいいと言いながらも、実際には生かしておいたのは何か理由が?」

 

ナタルは何もなかったかのように、セイルへ問い掛けた。

 

「えー、それ聞いちゃう?」

 

煙草の煙を鼻から吹き出しつつ、セイルは答えた

 

「ニコル・アマルフィって、あのガキの名前」

 

ナタルは黙って、その先を促した。

 

「プラント評議会議員のガキだよ、あれ。着てるパイロットスーツもエリート部隊のだし。忍び込んできた連中もアスラン、イザーク、ディアッカとか、全部プラント権力者のガキ共だった。間違いねえって」

 

「それは……事実なら大事なのでは?」

 

「別にあいつの親がタカ派なら今すぐぶっ殺してもいいけどよ。ハト派が子供殺されたって吹き上がって転向されても困るじゃん。ハト派なら生きてることだけ外交時に伝えて、こっちで飼い殺しにしときゃいいのよ」

 

プラントは一枚岩ではない。

血のバレンタイン以降、主戦派が主流となっていながらも評議会議長はハト派トップのシーゲル・クラインであることからも、思想の統一が行えていないことは明白だった。

 

「もしあいつら自体がそういうボンボンの寄せ集めなら、親共の意向的に万に一つを許さないエリート部隊に配属させてるだろ。ならプライドだって高そうだ。下等なナチュラルのMSを5機中3機しか盗めなかった上に、仲間を殺されてるこの状況を、失態と判断してる可能性が高え」

 

「再度、襲撃があると?」

 

「あるでしょ。見てよあれ。あの装備全部剥ぎ取られた可哀想なメビウス・ゼロ」

 

指差したのは、格納庫の一角に置かれたオレンジ色メビウス。

 

「フラガさんちのムウ君をあんなケチョンケチョンに出来る奴なんか限られてるだろ」

 

次に、ムウへと視線を移す。

 

「クルーゼ? サトー?」

 

その問いかけに、ムウは硬い表情で答えた。

 

「クルーゼだ。ヴェサリウスも来てる。俺の乗ってきた艦もやられて、這々の体でこの艦に滑り込んだんだよ。正直、途中で盗まれたGとの合流を優先されなかったら落とされてたと思う」

 

「じゃ、絶対追撃あるでしょ。クルーゼなんかタカ派筆頭のパトリック・ザラの懐刀じゃん。取り敢えず全員ぶっ殺せ以外の指示なんか出ねえって」

 

「随分とザフトの内情にお詳しいようで」

 

「お前グリマルディの後で俺がどこにいたと思ってんの? 諜報科よ? 来る日も来る日も教科書みてえな資料読んでりゃ、嫌でも頭に入るわ」

 

ゲンナリとした顔で言いつつ、セイルは煙草を捨てて踏み消した。

 

「だからまたすぐ戦闘になるっつってんの。仮にもMS扱えるガキに銃口向けてへそ曲げられてる余裕とか無いのよウチは。戦力貧乏なんだから」

 

わかったら解散、と手を振りつつ、セイルはキラ達の方へ向かった。

 

「……さて、それじゃお兄さんとお話しよっか」

 

キラ・ヤマトとセイル・オランチョ、2人の運命はここで交わることになった。

 

後年、キラはこの時のことをこう語っている。

 

 

 

『マジで勘弁して欲しかったです。あの頃に戻れるなら、ストライク強奪してでも逃げてました』

 

と。






簡易人物紹介

氏名:セイル・オランチョ
年齢:24歳
所属:地球軍
経歴:下士官育成用の軍学校を卒業後、モビルアーマーパイロットとして第8艦隊所属となる。配属時点の階級は少尉。
佐官への昇格を目的とした教育を受けており、成績は優秀だった。

艦隊配属後、乗機であるメビウスとプラントの有するMSの性能差から、従来の運用では戦力的不利が否めないと判断し、新たな戦術プランを発案したが、棄却されている。

地球圏、プラントとの関係が加熱するに従い緊張が高まる中、血のバレンタインが発生。
ついに始まった戦闘において、棄却された自身の戦術を無許可で実施。初陣で撃墜2、撃墜補佐6の戦果をあげるも、ハルバートン提督より直々に『頭ヤベー奴』との評価を降された。

その後、グリマルディ戦線エンデュミオンクレーターの戦いに援軍として派遣され、撃墜3、撃墜補佐12の戦果を叩き出すも、功績を語るには余りに影響が大きいと判断され、諜報科のデスクワークに回されていた。

新型MSの開発が進むにつれ、パイロット候補の選定となった際、最初に名前が挙がりハルバートンの推挙もあってブリッツのパイロットとなる。

ナタル・バジルールは軍学校の同期で幼馴染。
ムウ・ラ・フラガとはお互い貧乏くじを引きやすいことを笑い合う間柄。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。