ザラのボンはいっつも組織でギスギスしとるな。
君にも問題はあるやで?
小説情報を更新しました。初期のままだと、わかりにくい部分があるかな、と思ったので(汗)
『地球に降りて早々に遭難とは、君もつくづく運がないなアスラン』
宇宙からわざわざ映像付きの通信を繋いできた上司、ラウ・ル・クルーゼの言葉に、アスランは忸怩たる思いで頭を下げた。
「ご面倒をお掛けし申し訳ございませんでした。まさか自分達の着任前にモラシム隊長がやられているとは……」
『それについてはこちらも予想外だ。流石はエンデュミオンの英雄と言ったところだな』
その言葉に、アスランは戸惑いを浮かべた。
「英雄、ですか……」
『そんな顔をするな。私とて、遺憾の極みさ』
「しかし、自分達が不覚をとったばかりに……」
クルーゼは真意のわからない仮面の下に笑みを浮かべた。
『ふ、敵味方問わず、あの戦いがどう語られているか知ってるかね? 智将ハルバートン率いる第8艦隊がザフトの英雄、ラウ・ル・クルーゼの部隊を粉砕した、さ』
「は……第8艦隊が、ですか?」
MS部隊は壊滅的な損害を出したものの、戦艦は複数残っていた。生き残った全員が聞いていたはずだ、奴の、セイル・オランチョの嘶きを。
『ふん、凶鳥も元を正せば第8艦隊所属だ。恐らく戦果をまとめることにより真相をぼやかそうとしているのさ。あの戦いの経緯は、我々からすれば中々にショッキングだったからな』
「しかし、連合からすれば大戦果でしょう……あの男の名が出て来ないのは不自然です」
『簡単だよ。向こうにもいるんだろうさ。凶鳥の禍々しさに、陽の目を当てぬよう仕組んだ連中がな』
その言葉に、背筋が寒くなるような錯覚をアスランは感じていた。存在そのものが怪物、そのようなものがいるという事実に対して。
「味方からも秘匿を……」
『凶鳥は闇から飛び出るからこそ、その効力を最大限に発揮するということだろう。突如現れ、鳴き声一つであのザマなのだからな』
「……奴は、必ず討ちます」
決意を込めたアスランの言葉に、クルーゼは苦笑を浮かべた。
『すまないが、いくら議長閣下のご子息である君の望みだとて、こればかりは譲れんな。奴は私が落とす……と、言いたいところだが』
首を振り、指を眉間の辺りに添えた。
『私が乗っていた指揮官用のシグーは生産が終了していてね。ビーム兵器搭載型の次世代機が支給されるそうなのだが、生憎手配に時間を要している』
ただ、非常に残念そうな、その言い方は真に迫ったものがあった。
『それまでの間、私には別命が下る事になった。そこで、地上での作戦行動については以後、君を隊長とするザラ隊として部隊を運用せよ、とのことだ』
「じ、自分がですか!? イザークではなく?」
『君の機体は指揮官機仕様だ……というのは建前でね。ザラ議長閣下の期待の表れだと思ってくれたまえ。無論、私も君なら問題ないと判断した。既に辞令も下っている。他の者には先んじて通達済みだ』
「しかし……」
『隊長となるからには私怨にだけ取り憑かれるわけにはいかん。この任務で、君の更なる成長を期待しているよ、アスラン』
「クルーゼ隊長……」
そもそもあなた、機体失ったのは私怨バリバリでカバーリングも困難な位置から近接ありきの奇襲をかけたのを、敵のモビルアーマーに捕捉されたからですよね、とは言わなかった。
上司との良き関係には配慮が必要であることを、アスランは理解していた。
クルーゼとの通信を終えたアスランは、自室から出てブリーフィングルームへと向かっていた。辞令後初となる任務を、部下達へ説明するためだ。
「地上に降りて早々にバカンスを楽しんだ割には、シケたツラじゃないか、アスラン隊長?」
そんなアスランに、背後から唐突に声がかかる。
「ディアッカ……」
赤服の同期、ディアッカ・エルスマンとイザーク・ジュールの2人がそこにいた。
「ハッ、少しは日焼けしたかと思えば、相変わらず生っ白い奴だ。そんなことでクルーゼ隊長の代わりが務まるのかな?」
からかう様なイザーク達の言葉に、アスランは唇を噛み締めた。
「イザーク……」
――ダメですよイザーク、そんな物言いをしては。
「ニコル……」
「ん?」
「え?」
――アスランは誤解されやすいから……
「キラアアアア!」
「っ!?」ビクッ
「っ!?」ビクッ
一瞬激しそうになったアスランは、深呼吸で自身を落ち着けると、冷静に頭を下げた。
「二人にも迷惑をかけて済まなかった。もう聞いてると思うが、当面は俺が部隊を指揮することになる。二人の手助けが必要だ。よろしく頼む……さ、ブリーフィングに行こう」
歩き出す。大丈夫、どんな辛くても、苦しくても。俺には仲間が、仲間達がいる。友達もいる。俺達は無敵だ!
「あ、ああ……」
「い、いきなり仕切るなよ……」
低軌道会戦の後、アスランは重度の鬱、適応障害と診断され、一時期は戦線離脱さえ囁かれた。
しかし、彼の父親であるパトリック・ザラはそれを許さず、アスランに地球降下の命令を下した。
服薬により精神バランスが変容しながらも、懸命に残存戦力の取りまとめや再編成の補佐をするアスランを見て、流石にイザークやディアッカも普段の嫌味擦りは差し控えた。
むしろなんてことのないコミュニケーションが増え、その中で明かされる、アスランとストライクのパイロット、キラ・ヤマトとの関係性。
イザーク達はそんな重いものを抱えてこれまで戦っていたアスランを責め、その上で自分達を頼れと言い放った。
同期でもラスティやニコルを次々失い(ニコルは生きて? いたが)、戦争の齎すものに2人の意識も変わりつつあったのだ。
そしてある晩、それは始まった。
『俺とキラの
そしたらアスランの仕事の品質はバカみたいに向上したが、代わりになんか幻覚と幻聴が新たな症状としてログインし始めた。主にイザークとディアッカの前でだけ。
今では3人はザフト内でもクレイジー・レッドと呼ばれるアンタッチャブルと化している。有り体に言えば新しい友達が全く出来なくなった。
(おいイザーク! 今日こそガツンと言ってやるんじゃなかったのか!?)
(バカ言うなバカ! 普通に怖いだろうが! 低軌道からずっとこうだぞコイツ!)
(辞令見ただろ!? これからこいつが隊長になるんだぞ!? イモ引いてていいのかよ?)
(ええい、やかましい! なるようにしかならんわ!)
(イザークのバカ、意気地なし!)
「アスラン、ブリーフィングの後でディアッカがストライクのパイロットについて詳しく聞きたいそうだ」
ピキッたイザークは秒で友を売り飛ばした。
なお迂闊にキラの名前を口にすると高確率でアスランがピキるので避けていた。
「おまっ!?」
呆然とするディアッカに、アスランは菩薩か宣教師のような微笑みを浮かべた。
「わかった。前は確か邂逅編26章の15話だったな。そろそろ幼少期編も終わりだぞ、ディアッカ」
聖書かて。
「あ……あ……」
FXで全財産溶かした顔のディアッカは子鹿のように震え出した。
「俺はトレーニングがあるので不参加だが、ディアッカをよろしく頼む」
イザーク、更に距離を突き放す圧巻のステップワーク。
「任せてくれイザーク。良ければ音声版を渡すが?」
聖書かて。
「や……大丈夫だ。ほら、シミュレーターもやるから……耳も使うんだ」
軽快なステップは迫る脅威を完璧に防ぎ切った。
「そうか、わかった。さあ、ブリーフィングだ」
「あ……あ……」
残されたディアッカを置いて。
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「はい、作戦会議します」
マリュー、ナタル、ムウ、キサカ、カスが会議室に集まったところで、カスがそのように発言した。
「中尉、もう少しでオーブなんですよ……どうか、到着したら現地の人を相手に存分に解放していいので、今は……」
マリューは頭を抱えて懇願する。
「あの、国民を売り渡さないで頂きたいんだが……」
キサカは『この女マジでやべえ』という目をマリューに向けた。
「えー、そのオーブ到着前に発生するであろう遭遇戦及び、オーブ出国後の待ち伏せについてなんだけど……やめとく?」
「ええぇ……まだ戦闘があるんですか……?」
カスの言葉に、泣きそうな顔になるマリュー。
「7、8割あると思ってるよ」
「お前さんがそう言うなら、ある前提でいた方がよさそうだな」
ムウはため息を吐きつつ頭を掻いた。
そこに疑いの余地はないのだろう。目に真剣さが宿る。
「壁のモニターに現在地点からオーブまでの予定進路を出します」
ナタルはさっさと動き出していた。
「さすナタ」
「それで、追手の部隊も撃墜し、追跡も振り切れたと判断していましたが、襲撃の根拠とは?」
ナタルからの問いに、カスは端末を操作する。
壁に移された進路図隅に、顔写真が投映された。
「こいつを見てくれ」
それは、両頬を真っ赤に腫らして鼻血を垂らしたカガリが写っていた。
「あら真っ赤」
マリューは気の毒そうに呟く。
「お前、女の子の顔ぶつなよ……」
若干引きつつ、ムウもそんな顔をする。
「こうした方が話が速いんだよ。女は説得の時に殴る場所選ばなくていいから助かるぜ」
安定のカス。
「ああ、カガリ……こんなトマトみたいな顔に……」
呆然と漏らすキサカだが、抗議はしない。折れてるからね、心が。
そしてカスが話し出す。
「えー、このクソバカお嬢様が盗難こいた俺のスカイグラスパーですが――」
「軍の、ですね」
「カメラ映像チェックしたらですね、コイツが映ってましたー」
写真が更新される。
そこには、幾度となく接敵してきたMSが写っていた。
「イ、イージス!?」
「マジか」
「地上に降りてきていたとは……」
「今朝これを見つけた俺は即座にあのガキを探し、出会い頭にビンタ3発入れて質問した。『殺されてえのかクソガキが、いや待て、やっぱ殺すわ。いいよね?』とな。答える前に更に5回ビンタした」
「穏やかな昼下がりに発生するタイプの通り魔じゃん」
「カガリさん可哀想……」
「……まあ、とにかく今は話を進めましょう。キサカ一佐も、それでいいですね。オーブに着いたら、第8艦隊の相談窓口をお教えしますので」
「ウズミ様になんて言えば……」
大人達は皆一様に頭痛に見舞われたようにこめかみを押さえた。
カスは大人じゃなくてカスだから大丈夫だった。
「でね、そもそもスカイグラスパーは最新モビルアーマーだろ? んなもんを勢力圏外で運用出来る存在は限られる。少なくとも落ち目の海軍じゃ無理だ……と、俺なら判断するよね」
「……ああ、なる程……確かに航空、航宙が可能な当艦と結びつけられる可能性はありますね。直前で海上に出てるのは捕捉されていたでしょうし」
ナタルがカスからの情報を組み上げていく。
「そしたらこのガキ、イージスのパイロットと仲良く遭難ごっこして焚き火を囲んで乳繰り合ってた時にさぁ」
「いやいや、坊主への態度を見るに、あの子まだしょ――」
「フラガ大尉?」
氷のような艦長の瞳に、ムウは言葉を切った。
「……ゲスな勘ぐりは止めようよセイル君」
でも普段のカスとナタルの関係にはキャッキャ言ってる癖に、と思わなくもなかった。
「処女なのは見りゃわかんだよムウ君。問題はこのボケが身の上話の一環でオーブ所属なことを喋ってたって点だ」
「まさか、それで進路が?」
カスは自分の側頭部を指差し、くるくる回しながら言った。
「軍服もパイスーも着てねえ、言動がいちいち猿っぽいあいつを見て軍人だなんて思う奴いるか? しかも見慣れねえモビルアーマーに乗ってると来た。オーブ所属の、何かしらの事情持ちってとこまでは推測されてる筈だ。民間人の類いは、低軌道で逃がしてんの知ってるだろうからな」
うわー、と、ムウは呻いた。
まあまあ確度の高い予測じゃん、絶対戦闘起こるじゃん、と。
「おまけに砂漠を出てからはオーブへ進路を取ってた訳だから、地図見ればこっちの目的地は予測出来る、ってことか」
「そゆこと。とは言え進路を完全に塞ぐような予測は出来ねえだろうから、広めに網を張る形になるわな。少なくともその網を突破する為に、一度は戦闘が必要になる」
そんなムウの言葉に、カスは肯定を返す。
どうやらこの話は本当に深刻な内容のようだった。自身も考えを交えながら議論に参加していく。
「そいつは確かにありそうだが……出国後の待ち伏せは? ザフト視点だと、《積荷》だけ降ろしてオーブの領海を突っ切るって可能性もあるんだ。流石にルートは絞り切れないと思うが」
「俺もそれにワンチャン賭けたい。ただ、もし向こうの任務がこの艦の撃墜なら、新たな目撃情報が出るまでは待ちに徹してくる可能性も高いと思ってる」
「中尉の懸念は何なんです?」
そこまで聞いたナタルが、小さく手を挙げて質問した。マリューは静かにその姿をフォルダに格納した。
「遭遇戦レベルならまだ押し切れる。だが……」
カスは言葉を切ると、珍しく苦笑いを浮かべた。
「海上で局所的な物量戦をやられたら、ニハチで不利と見てる」
「それは……しかし、我々は砂漠の虎にさえ勝ちましたが……」
余りに悲観的な予測に、マリューが異を唱えた。
アンドリュー・バルトフェルドとの戦闘も、蓋を開けてみれば相当な戦力差があったのだ。
「ザウートはレセップス帯同が前提の戦力だったし、撃てば当たる位置にいた。もし今回、連中の母艦が潜水艦だと、確実に撃沈可能な手段がこっちにねえ。その上で、仮に空戦用のMS10機以上とG共が連携した場合、多分向こうの展開を捌ききれなくなる」
「それでしたら、一機を囮にして敵戦線を抜けての奇襲は出来ないんですか? それこそ、砂漠の時のように」
マリューの言葉に、カスは首を振る。
「向こうに機動力と防御力を兼ね備えたビーム兵装搭載機がいるなら無理。保たない……こいつみたいな」
イージスを指す。
「G兵器……本当に厄介……」
頭を抱えるマリュー。
カスはムウに目をやった。
「俺がブリッツで出れば、デュエルは俺んとこ来るだろ。キモイージスはキラ。残ったバスターに張り付かれた状態でタカちん、MSの群れ突っ切って潜水艦が呑気に浮上してるに賭けてワンチャンダイブ狙える?」
「いやー、不可能は可能にしたいけど、それは流石にな」
無理、と言わないのは強がりではなく、この場の空気をこれ以上重くしないためだった。
「とにかく使える手が足りねえ。こっちもスカイグラスパーが一機余るが、コイツはストライクの支援用に必要だ……あ、トールかニコルには準備させとけよ……せめてG兵器の数が逆ならな」
ボヤくカスに、
「鹵獲したジンでは……焼け石に水ですか」
ナタルは尋ねるが回答は無情だった。
「誤差だろうね。偵察型だから、戦闘力は普通のジンより低い」
「懸念事項はわかりました。で、作戦とは? その為の会議なのでしょう?」
幼馴染の才媛は、めげずに話を続けた。
目の前の男が、『だから諦めましょう』等と言う筈がないからだ。
「まずは現状整理だが、今のアークエンジェル、損害状況はどんなもん?」
カスの問いに、ナタルはスラスラと答える。
「左舷エンジンが出力40%を切りました。元々砂漠でレセップスにやられていたところに、ドリフトでディンを撥ねた際に衝撃で……」
「艦底のラミネート装甲もヤバイって聞いたぜ? まあまあ撃たれたからな」
ムウも戦闘後、マードックから聞いていた情報を出す。
「後はクルーの定数確保が難しい状態です」
マリューが恨みのこもった目をカスに向けた。
「エンジンと装甲……戦艦の命綱じゃん」
しかしカスはスルーした。
「あとクルーね。サイとか」
「カズイ君、赤ちゃんの瞳してるから攻撃指示を出し辛いのよね」
「後、なし崩し的に重用してますがアマルフィはそもそも捕虜ですよ。いい加減問題になります」
どんどん出てきた。
「わかった、順番に行こう」
カスが仕切り直すように手を叩く。
「まずサイだが、フレイに色恋営業型キャバ嬢のトークテクを仕込んで看病させてる。店外チラつかせてブリッジに復帰させる予定だ」
「どうして切傷の上から骨折させる様なことするの……? 殺す気?」
「次にカズイだが、子泣き爺のコスをさせることで実質赤ちゃんジジイになる。問題は解決だ」
「あの……ブリッジに子泣き爺がいるの、嫌なんですけど……」
「最後にニコルだが、ちょっと追い込んで前後不覚になったタイミングを狙い、法的に効力を持つ類の隷属契約書にサインさせる方向で考えてる。ま、俺なら2時間あれば可能だろう」
「まず法的に効力のある隷属契約書というのが、法的にどうなんですか」
問題を問題で上書きするカス式メソッドは著しく不評だった。
「とにかく、オーブまで3日前後だ。出国後の対策については、否応なしにオーブ国内で実行する必要がある」
何も解決してない、という解決策を提示したカスは、さっさと次の話題に移った。
「そもそも入国させてくれるのか? 曲がりなりにも中立国家に、地球連合軍の戦艦をさ」
ムウの懸念は最もだが、ここでもカスのアイデアが火を吹いた。
「全周囲回線であのガキの指をヤスリで削り落とすASMR流してやればすぐよ」
「やめてくださいそこは私が何とかするのでやめてください」
キサカが土下座しそうな勢いで頭を下げた。
そんな彼には何も答えず、カスは言葉を続けた。
「さて、それではこれからオペレーション・
「あの、その金づるってもしかしてオーブを指してますか?」
キサカは忌憚のない意見を述べた。
「黙れキサカ。言っとくが俺がオーブ滞在中は毎晩SSSクラスの美女を俺の部屋に送らせるからな。勿論お前の奢りで」
キサカのストレスがグンと上がった。
「ぐぅ……胃が……!」
腹を押さえるキサカに、慈愛の微笑みを浮かべたマリューが声を掛ける。
「その胃痛にはモルヒネがオススメですよ? どうせ治らないので、痛みを麻痺させるのが板ですわ」
「急にスペシャリストみたいな風格出してきたな」
「人間こうはなりたくないもんだぜ」
「誰のせいだと……」
「オラ、まずは物資、次に整備面で必要事項出してくぞ。ナタル、遭遇戦での消耗はいくつかのパターンで予測をたてろよ」
「では、損耗5%からで」
「まずはその辺から行ってみようか」
議論は夜中まで続いた。
――――――――――――――――――――――
格納庫、壁際のスペースでキラは横に座るカガリの世話をしていた。
「ふぐぅ、うえっ……」
「大丈夫? 氷もっと持ってこようか?」
顔が物理的に真っ赤なカガリは、両頬に氷嚢を当てながら首を振った。
「だい、ヒック、大丈夫」
数時間前に彼女を襲ったカス害は、未だに彼女に涙を零させていた。主に痛みで。
「カガリは悪くないよ。アスランを……僕の友達を殺さないでくれて、ありがとう」
イージスがいたなら、パイロットはアスランだろう。
聞けばカガリは、隙をついて銃まで奪っておきながら彼を撃てなかった。
それが当たり前だと思うし、自分だって本当は撃ちたくなんかない。
「キラ……キラァ……」
カガリが縋り付くように身を寄せてくる。
「カガリ……」
その頭をそっと撫でながら、数メートル離れた位置を指差した。
「ところでセイルさんからそこにある機体を、今後カガリの専用機にするように言われてるんだけど、大丈夫?」
……それは、機体と呼ぶにはあまりに優し過ぎた。
白磁のつややかな、丸みを帯びたシルエット。全ての人類を平等に受け止めてきた慈愛という名の機能美。幾星霜の時を重ねて完成された人類の叡智。
それは正しく便器だった。
「なぁにぃ、あれぇ」
個室用便器にガムテープでカセットコンロ巻き付けられている。マジックで『すらすたー』と書かれていた。
その横に置かれているおもちゃのピストルはまさか武装だろうか。
「Knight of Ultimate Sunshine the Orbだって」
「K.U.S.Oじゃないかぁ!」
「King of Arcadia from Stylish Ultraでもいいって」
「K.A.S.Uじゃないかぁ!」
「まあ、そうだよね……」
「うええええぇん……」
更に激しく泣き出すカガリをあやしながら、
「はいはい、スペシャルカガリ号ってことで、僕から伝えておくね」
キラは優しげに言った。
「そうゆう問題じゃなぁいいいぃ……」
こいつ……なんかこいつも……変だよな。
カガリは思った。
スペシャルカガリ号『僕はやめろって言ったんですよ』
左門君は好きですか? 僕は好きです。
■用語説明
・俺とキラのロード・トゥ・メモリー
アスラン・ザラが執筆、編纂したと言われる自身とキラ・ヤマトとの関係性を幼少期から振り返り、歴史的観点を添えて作成された自伝。
随所に写真や動画ファイル、自作の詩、イフ小説などが挟み込まれ、全15編、話数にして450話という長編となっている。
長らく泥酔したディアッカ・エルスマンの口からしか存在が確認出来ていなかったが、後年、英雄キラ・ヤマトの日記にも記載されていたことで実在が確定した。
以下抜粋
『違うんだラクス、話を聞いてくれ。僕は10歳以降でアスランと一緒に風呂に入ったことなんかないんだ、頼むからそのすりこぎ棒を置いてくれ』