カスは可愛い舎弟の童貞卒業アシストをするなんて、なんて優しくて面倒見の良い上司なんだ俺は、流石地球連合軍のファンタジスタ、リーグMVP不可避、セイル・バロンドール・オランチョ、と思っています。
だって知らないから。
3人娘、アニメでの退場シーンですらセリフない場合がありキャラが迷子。連ザや突如として溢れ出した存在しない記憶だよりの描写になりつつある。
白い装甲に所々赤を基調としたカラーリングの、ストライクの面影があるMSが3機、機動テストを行なっていた。
起動ではない。機動である。
モッタリ、モッタリ、ガッチョン、ガッキョン……
遅い、とにかく遅い。
歩行すら安定しないのに何故か対人拳法の動きを取り入れているのはギャグなのだろうか。どこで何相手に使うつもりの動作なんだあれは。
その、恐ろしくもっさりとした動きを目の当たりにして、流石カスも他所様の製作物だしなぁという遠慮をして、当たり障りのない感想を吐いた。
「何これ、ウンコじゃん」
エリカは額を抑える。
「……仰りたいことはわかります」
カスは両手を口の横につけメガホンの様にして叫んだ。
「ヘイヘイヘーイ! 腰イワしたジジイみたいになってるよー! 実にスロウリーだぁ! パンツに漏らしたモン落とさないようにしてるのかい!」
『あいつ……!』『やだもぉ』『お嫁に行けない!』
最悪の野次にパイロットをしている3人娘は顔を顰めた。
「ぎこち無いのは許してあげて。まだ乗り始めて間もないのよ」
エリカはフォローするが、カスの顔からバカにしたような笑みは消えなかった。
「流石オーブ驚異の科学力(笑)っすね。名前は?」
「M1アストレイよ」
「
カスは我が意を得たりとばかりに揶揄り始めた。
「中々洒落乙で自虐的な名前じゃねえの。あの3人組がそのトリオ名でM1に出場でもすんのか?」
「王道ではない、と言う意味で……そういう趣旨のM1でもないのよ」
「ふぅん、王道ねぇ? まるで
探るような視線を受け流し、エリカは応じた。
「他意はありません。これがオーブのMSです」
「それで、お願いってのは? 便器? それとも便座ガールズ?」
「……両方です」
「悪いけどまとめ売りは対応してないから、個別会計になるんだけど」
「問題ありません」
その言葉に、カスは感心したような声を上げる。
「おお、言うねぇ」
「オーブの為ですもの。カガリ様にもわかって頂けるわ」
カガリの身売りが順調に決まっていく中、エリカは手元の通信機から3機へ指示を出す。
「みんな、こっちに集まってくれる?」
すると、3機のアストレイはまたゆったりと、それでいて不安定な動作で片膝立ちになった。そしてパイロット達がタラップで降りてくる。
「あん? なんでその場で降りんの? ここまで来させりゃいいじゃん」
「素早い動きを打ち込むとOSがフリーズするのよ。現状、人間の小走りに負けるわ」
カスの疑問に対するまさかの答えに、珍しくこの男の顔に困惑と疑問が同居した。
「……おい、俺が見てんのは本当にMSか? メカニック大リーグボール養成ギブスとかではなく?」
「ちょっと! 聞こえてるんですけど!」
走り寄ってくる3人の内、特に威勢がいいのが金髪のアサギだった。
「はあ? パイロットにもなれてねえ人間未満のクソ垂れ猿が俺に話し掛けるんじゃねえよ、このウンコ製造機が。便所の隅でゾウリムシと戯れてろザーコ」
しかし当然、カスはそのような勢いのある若手に対するメタカードである。音速かつ圧倒的手数の口汚さで先手を取る。
「はあああああああ!?」
「ぶっちゃけ、MSに乗ったお前よりバナナの皮の方がキルレ高そうだわ。転職したら? 頭の色一緒だし」
ぴるぴるぴる、と舌を出してバカにした仕草をするカスに、アサギは更にヒートアップしていく。
「なんですってぇ!?」
「アア、アサギ、落ち着いて!」
「やだ、なんでこんなテンション高いのこの子!」
慌てたのは残りの2人だ。
マユラ・ラバッツとジュリ・ウー・ニェンは両脇からアサギの腕を掴んでなだめた。先程半殺しにされて銃殺一歩手前まで行った人間の剣幕ではなかった。
からかうことに飽きたカスは、エリカに質問していく。
「誰が作ったOS?」
「色々な人の手を借りて、かしらね」
「コーディも?」
「まあ……そうね」
「まさか、イチから組んだのか?」
「一応、モビルワーカーのものを土台にはしているのよ。でも大きさが段違いの上に動作も複雑化してて、登録したモーションパターンも殆ど駄目になってるわ」
その言葉に、ついに呆れた様子を覗かせるカス。
「最新のVRゲーをファミコンのスペックとコントローラーで動かすようなもんだな。レトロゲーの趣味でもあんの?」
「まさか……機体の処理能力は足りているはずなの。でもどうしてもフリーズしてしまう。潜在的なバグがあるのよ」
カスは、えー、という顔だ。
次の
「それを見つけて改修しろって? フィッティングはそっちでも散々やってんだろ? その現状があのザマだと改修通り越して殆ど作り直しになんぞ」
「ストライクのパイロット……キラ・ヤマト君だったかしら? 彼の力を借りたいの。一佐からの報告は見たけど、ヘリオポリス納品時のOSをあそこまで動く様に出来た彼なら……」
どうやら、メンタルバキバキゴリラのキサカは思ったよりもきちんと自分の仕事を果たしていたらしい。と言うより、アークエンジェルと合流したから自国の為になることを考えて実行した、ということなのだろう。
機会があったら殺しとくか、とカスは思った。
「ジンの動きを元にしたOSならあるが?」
「それも考えたのだけど、丸々入れ替えはリスクが高いし、アストレイはビーム兵器を使うのよ。ジンの動きではどうしても齟齬が出るわ」
エリカの言葉を聞いて、本当に珍しくカスが言い淀んだ。
「ビ」
漏れた言葉をしまい込み、整理して吐き出す。
「こいつらにビーム兵器……!? ブタに真珠じゃん」
3人娘を指指して『オエー』というジェスチャーまで添えた。
「誰がブタよぉ!」
カッとなる若者、アサギ。
「例えだろうが。思い上がるんじゃねえよ、お前はブタ未満だっつの。生物としてマンボウにすら劣るわ。ラードでも飲んで肥えてから出直して来いよ間抜け。お前に比べたら地雷背負わせたカピバラの方がまだ戦果出すわ。黙ってろこのバナナマンボウが」
七色の多段式侮辱砲は再びアサギをボコボコにした。
「バナナマンボウって何よ……ホントに何よ!?」
バナマンが吠えた。
「バナナマンゴーみたいな響きだねー」
「甘い物食べたいなぁ」
10代の女子みたいな会話が始まった。
10代の女子だった。
「キラにやらせても良いが、2つ条件がある」
少し考えていたカスは、そう切り出した。
「聞くわ」
指を1本立てる。
「1つ、どの程度原型が残るかは問わず、真っ当に動くようになった場合のライセンス権はあいつによこせ。まさか、ゴミ山築いた無能共で山分けなんてケチな真似はしねえだろ?」
「……構わないわ」
2本目。
「2つ、あいつは今正規の地球連合軍人だ。その力を借りてMSを造ったってことを、正規文書で残せ。1つ目と合わせて契約書を作り、双方の署名と拇印を確認してから作業だ。原本はこちらで管理する」
「それは……でも何故?」
意図を測りかねたエリカに、カスがつらつらと説明を始める。
「近い将来、オーブの中立をやめようって連中が出るだろう。これは絶対に出て来る、っていうか
嫌な質感と重さの話は、聞いているエリカの心を重くした。
この話は、オーブの今後を縛る話だと思った。
圧倒的に釣り合わないが、乗らざるを得ない対価をチラつかされている。悪魔との取り引きとは、こういうものなのだろうとエリカは感じていた。
「第一、工業施設とマスドライバーのある地上拠点なんか、プラントの連中にやれる訳ねえだろ……ホント、クソみたいな国だが設備だけはあるんだよなここ。だから嫌われるんだが」
「わかりました。ウズミ様へも確認が必要ですが、恐らく通ると思います。もう一つの依頼ですが……」
決断を下すエリカの言葉を引き取って、カスは汚物を見るような目を3人娘に向けた。
「こいつらか……」
「何よ……」
「あー、死にたくないよー」
「普通の女の子に戻りたいぃ……」
うるさくて反抗的で馬鹿っぽくてガキ。
その面倒を見るのは、カスにとってかなり気が進まない話だった。
ため息を吐いたカスは、唐突に拍手をした。
パチパチパチ……
「ブラボー……よく頑張った。もうお前達に教える事は何もない、一人前の顔になったな。流石俺の弟子だ」
そう言うと、エリカへ向き直る。
「終わったよ」
「何がです? 始まってすらいないのだけど」
流石に通らなかった。
「おいコラァ!」
「不安しかないなー」
「ずっと宇宙にいたかったぁ……」
絶対に嫌だが、OSと合わせてこの3人をある程度使えるようにしてやらないと、そもそも取り引きが成立しないのである。
仕方ないので、カスは現実と向き合うことにした。
「OSの調整はキラに一晩でやらせるが、それまでに適性見ねえとだな。ちょっと、必要なもん用意してくれる?」
注射器のポンプを押すような仕草を腕に向け、エリカにそう言った。
「えっと、そのジェスチャーは?」
「え?……何って……薬物だけど?」
薬物、という言葉にエリカが眉を顰める。
「具体的には……?」
「なんか、脳汁とかドバドバ出ちゃうやつ」
「……違法薬物の類なのでは?」
それはそう。
カスは肩をすくめた。
「大丈夫だよこいつら若いし。人生やり直せるよ」
明るい未来を見据えた言葉だった。
「一回駄目になるの前提!? 絶対に嫌だからね!」
「お母さーん!」
「助けてロウ……!」
嘆く3人に対し、カスは諭すように言った。
「馬鹿野郎、一度も挫折したことのない人間に何が守れんだよ」
「だからって挫折を促すな!」
相変わらず噛み付いてくるアサギを忌々しそうに見る。
「マジでキャンキャンうるせえな、この国の金髪のガキは全員チワワかよ。大丈夫だっつってんだろ。どうせすぐ自分の名前も思い出せなくなんだからよ」
「それ聞いて何が大丈夫か!」
不機嫌な感情が、カスの言葉に宿る。
「……野良チワワてめえ、言っとくがお姫様が俺の舎弟の童貞卒業させられなかったら、契約不履行のアンハッピーセットでお前の頭も吹っ飛ぶって事を忘れんなよ?」
「あたしはアサギ・コードウェルよ! 誰が野良チワワよ! カガリ様はそりゃ確かに子供っぽいし内弁慶だし調子に乗るとすぐ痛い目に遭うけどキメる時はキメるのよ!?」
キャンキャン吠えるバナマンチワワ。
「何、チワワの生態紹介? んなもんはここまでの道中で散々見て来たんだよ。猿とチワワの間の子だアイツは。血統書の有無だけだろお前との違い」
端で見ていると到底勝ち目のない相手に向かっていくチワワを哀れに思ったのか、エリカが助け舟を出した。
「まあまあ……何にせよ、壊されるのは困ってしまうわ。多少厳しいのは仕方ないので、常識の範囲内でお願いします」
カスはいい加減諦めたのだろう、面倒臭そうに頭を掻いた。
「常識ねぇ……ま、取り敢えず体力測定から始めるか」
「……いいわ、私達の力、見せてやろうじゃない!」
「その私達ってもしかしなくても私達?」
「未成年でもここから入れる保険無いかなぁ」
これから先の数日を、3人は何度も夢に見ては悲鳴を上げて目を覚ます生活を送ることになる。
人はそれをPTSDと言った。
―――――――――――――――――――――――――
「初日はそんな流れで、現在キラくんによるOS改修中です……流れるような二つ返事で完徹指示を受け入れていたのはちょっと怖かったですが」
『オランチョはかなり特異な人物と聞いている。現場に無理が出ないよう、よろしく頼む』
エリカからの報告を、画面越しに受けていたオーブが誇るダンディライオン、ウズミは頷きながら聞いていた。
「承知致しました。そう言えばお嬢様ですが」
『アレが何か?』
「どうやらキラ君に浅からぬ好意を抱いているようですね」
『ぐむぅ』ガタンッ
何かを倒したような音が画面の向こうから聞こえてきた。
「ウ、ウズミ様!?」
『いや……それで?』
「ええ……それで、どうもオランチョ氏からキラ君を誘惑するように頼まれていまして……」
『んんんぅ……』ガァンッ
何かをぶっ叩いたような音が以下略。
「……カガリ様も、満更では無さそうでしたので、お耳には入れておこうかと……ちなみに、キラ君の夜勤でそれも一旦は流れましたが」
『ふうううぅ……』
安堵の吐息を漏らすウズミ。
今更ながら、入国許可を出したのは失敗だったかな、と思っていた。
「あの、ウズミ様?」
『……何かな?』
「確実に何か事情があるようですので、さっさと調整なり説明なりしておかないと手遅れになりますよ? オランチョ氏の速度感はちょっと異常です」
『異常、か』
エリカからの忠告に、ウズミは耳を傾ける。
「異常です。他者を牽引する事に極めて長けており、相手の思考を誘導しながら目的を達そうとする実行力は下士官レベルのものではありません。加えてあの知識量。真因の洗い出しとアプローチの正確性に関しては、過度に強引で暴力的な事を除けば、私の知る限りでは最高の人間です。性格の難点さえ無ければオーブで一軍を率いることも可能でしょう」
『人間とは……
「全てです」
その言葉に、ウズミは深いため息を吐いた。
『そうか……わかった。カガリに関してはこちらで手を打つ。モルゲンレーテ側の進捗については、適宜報告を頼む』
「承知致しました……あの、ウズミ様」
『ん? どうした?』
「ひとつだけ……オランチョ氏が、ウズミ様を死人だと。自身の言葉に押し潰され、責任を果たせなくなった、死人、と」
『…………そう、か』
「今のオーブがあるのはウズミ様のお陰です。これからのオーブにも、きっと必要な方だと信じております」
『ありがとう……』
「ですのでどうか、カガリ様の向こう見ずなところはなんとかお願いします。本当に」
『……………………善処する』
大人達の会話はそうして終わった。
エリカは続けて、家にいる家族へ通話を始めた。
執務室のウズミは、しばらく天井を見上げていたが、もう一度ため息を吐くと、そっと瞳を閉じた。
そのまましばらく、彼は動きを見せなかった。
一時代を築いたオーブの獅子と呼ばれた男が、そうしているとまるで死体のようだった。
カス君ちょっと、お口が悪過ぎるよー。
もっと、愛とか平和をチェーンするとかさ。
アサギは犠牲になったのよ……狂言回しの犠牲にな。
古来より、兄妹、又は姉弟として育った2人が禁断の恋に落ち、断腸の思いで諦めた矢先に『血の繋がりは無い』と聞かされてタガが外れる光景からは質の高い栄養が摂取出来ます。
これには亜種含め様々なパターンがありますが、個人的には赤の他人同士だと思って色々やっちゃった後に『血の繋がりがある』と聞かされるパターンが一番ちんちんにキます。
エリカさんはサハクにケツ振ってる癖してウズミからも信任受けてんだから絶対不倫すんの上手い筈なんですよ。いや、してる(断言)。した(妄想)。