エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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いつもありがとうございます。



第60話 次の戦争の為に、次の次の戦争の為に

 

オーブ滞在6日目

 

 

「近接は必ずしもサーベルの使用を前提としない。何故なら振り下ろしや突きよりもただライフルのトリガーを引くほうが圧倒的に速いからだ」

 

アストレイのコックピット、座るマユラのすぐ後ろで、シートの背もたれに肘を掛けながら、セイルが指導にあたっている。

 

「お前はこの3人の中じゃ一番反射神経が良い。だからお前がやられる相手はお前より良い目や、速さや、機体を持っている。つまりお前が抜かれると後ろの2人も死ぬ」

 

もはや回数など覚えてすらいないシミュレーターモードでの模擬戦。個々の課題の洗い出しの為、セイルは3人娘にそれぞれ同乗する形でダメ出しと都度のアドバイスを行なっていた。

 

「抜かれることは心配しなくていい。お前の後ろは僚機の射程範囲だ。むしろ、お前は如何に無傷で敵をキルゾーンに引き込めるかを考えろ」

 

「は、はいっ!」

 

マユラの緊張した声に、セイルはからかう様に笑う。

 

「まあ、それでももし撃墜されちまったら、お前の場合は外部スピーカーで泣きながら『何でもするから助けて!』っつえばどうにかなるよ。妊娠は待った無しだろうが」

 

「それは何も助かって無いのでは?」

 

マユラは訝しんだ。

 

「命より大事なものがある、とほざくのはいつも生きてる奴だ。お前もそっち側になれるぞ、良かったな」

 

「何も良くないのでは」

 

マユラは訝しんだ。

 

「心配すんな。確かにコーディ共は見てくれに恵まれてる奴が多いから面食いだったりやたら理想が高かったりするが、お前みたいな野豚なら後腐れなくて良いって奴も一定数いる」

 

「の、野豚……」

 

初めて言われた、という顔になる野豚。

 

『クラスで3番目くらいに可愛いけどちょっと子供っぽいとこあるよな。うん、仲のいい友達のつもりだよ……え、女として? アイツは友達だって。大切な友達だ。でもアイツの良さをわからない奴が、アイツに馴れ馴れしくするのは、なんか嫌だな……と思ってるのは俺だけなんだろうな』とクラスの8割の男子から思われていた野豚はそれなりに自分に自信があったが、目の前の教官は本当に言動に慈悲がないので泣きそうだった。

 

『アイツを泣かせる奴は、俺が許さない』

うるせえよ、誰だよお前は。

 

「焼き豚や鉛との合挽き肉になるよりマシだろ? さ、相手はストライク3機、生存は40秒目標だ。行け」

 

シミュレーターモードのモニターにはリアルに再現された各武装のストライクが3機、殺意高めにマユラ機を囲んでいた。

 

「さっきからあのストライク達、滅茶苦茶に嬲って来るんですけど、キラ君てあんな戦い方するの……?」

 

まずダルマにされるのは基本だ。ランチャーがコックピットに押し付けたアグニのチャージを見せ付ければ、わざとパイロットに当たらないようにビームサーベルを突き刺してくるエール、頭頂部からノコギリのようにゆっくりと斬り裂いてくるソード。

 

マユラはもう半泣きだった。

 

「童貞を拗らせた悲しきモンスターだよ。殺す前に敵に命乞いさせた声を、録音して目覚ましアラームにしてる。もう悲鳴じゃないと勃たないらしい」

 

そしてここにまた、新しい風評被害が生まれた。

 

「やばぁ」

 

口の軽い女子にそれはばら撒かれた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

「お前に近寄って来た奴はチワ子が処理をする。狙うと決めた相手を撃墜するまで気を逸らすんじゃねえ」

 

ジュリのコックピットでも同じ様に指導が行われる。

 

「はいっ!……でも敵機が近寄って来るの滅茶苦茶怖いです!」

 

しかしこのド近眼青保留は、イマイチ緊張感がなかった。

セイルは常にチェックするように言いつけたモニターのマーカーを指で追いながら、

 

「お前はブリ子より才能が無いから、撃ち合いになったらもう終わりなんだよ。身を潜め、ブリ子とチワ子が寄越した座標を吹っ飛ばすんだ。手負いにしちまえば後はどうとでもなる」

 

そう告げた。

 

「う、撃ち漏らしたら……?」

 

「お前が無能だってわかっちまうってか? 心配すんなよ、お前がしくじれば他の2人は先に死ぬだろうから、別にわかりゃしねえよ」

 

古来より、仲良しグループの発奮のさせ方は軍隊内では確立されている。

 

「何も安心できない! 絶対みんなで生きて帰るんだから!」

 

ジュリは要領こそいいが知恵や知識とは別の意味で頭が悪い、とセイルは判断していたので、噛み砕きながら説明していく。

 

「お前らが連合とやり合うかザフトに襲われるかは知らねえが、少なくともいつ、どっちがビーム兵器を持ち出してきてもおかしくねえんだ。わかるな? ザフトにはGが渡っちまってるし、連合には俺達がアラスカでデータを提供するからだ。ビーム兵装の相手はな、正面に立たず、僚機で釣ったところを丁寧に畳んでくんだよ」

 

ジュリは不安そうに機体の各部をチェックする。

 

「この大砲、まだシミュレーターのデータ上にしか無いですけど、本当に作れるんですか? エリカさん、図面見て頭抱えてましたけど」

 

そして今回のシミュレーターで唯一、アストレイの換装パックとしてデータが用意された装備、肩部大口径多目的ビームランチャーのデータを改めて見返す。

 

ジュリのアストレイは背部スラスターが二回りほど小さいものになっており、変わりに大き目のパワーコンデンサが装着されている。そこから伸びるケーブルが、頭部のすぐ右横から、突き出る砲塔へと繋がっていた。

 

「キラとニコルに図面を引かせたんだ。まあ動くだろ」

 

セイルがアストレイの小隊を見て思ったことの一つが、決戦火力の欠如だった。汎用的と言えば聞こえは良いが、その実は没個性で尖った所がない。

3機編成にするのであれば、1機には特化型の装備を求めたのである。

 

で、無茶振りされた憐れなるコーディネイター少年ボーイズが一晩で図面を描いてシミュレーターテストをやって『これなら動く筈、後は造ってから考えて』と言える状態まで仕上げたのだ。

 

「あの2人、敵同士だったのに仲良いですよね」

 

「デキてるからな」

 

そんな健気な2人の悪質なデマをばら撒く輩がいるらしい。

 

「え、嘘っ!?」

 

「遅れてるな、オーブは」

 

しかもネタバラシもしないのはかなり悪質だった。

 

「ほわああ……」

 

「あいつらの愛の結晶だ。しっかり使いこなせよ」

 

「はいっ!」

 

真実を捻じ曲げる最適な方法とは、当人に知らせないことである。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

突然だがセイル・オランチョという男の話だ。

 

家庭の都合で物心つく頃には男女関係で起こる大抵の物事には知見が付き、自分が同級生に比べ遥かに『持っている側』の人間である事を自覚して生きて来た。

 

11歳で教師相手に童貞を捨ててから経験を重ね、女という生き物の重さ軽さを経験した。男という生物のご多分に漏れず、強くなることに興味を見出してからは軍人と言う道に向かい邁進した。

 

幼馴染を煽るため、勉学にも励み、ナチュラルの身の上で超人の様に周囲から見られていた。

 

そんな生活を送る上で、セイルにとって欠かせないものこそが、やはり女なのである。多くの女を口説き、抱き、捨てて来た。次の曲がり角の先にいる一番可愛い女、なんて適当さで相手を見繕った事さえあった。

 

 

要するにそんな彼にとって、たかだか17歳でろくに経験もない女の子であるアサギのちょっとした態度や変化から、彼女の気持ちを見抜く事など、この男にとっては造作もないことなのであった。

 

 

「前に出るのか、横への動きで敵を釣るのか、判断してから動け。半端に出るな、青保留の邪魔になる」

 

セイルはアサギの後ろから、シミュレーター訓練の指導を行なっている。

 

「わ、わかった」

 

距離の問題だろう。

やや声の上ずったアサギは、何とか機体の操作に集中しようとしていた。

 

「前に出るなら、ブリ子の位置に注意しろ。立ち位置ミスると味方を殺す事になるぞ」

 

「ん……挟み込めるようにってこと?」

 

「ちげえ、お前が突っ掛けた時、もしも相手が後退した方向にブリ子がいたら、青保留が砲撃出来ねえ」

 

「あ、そっか……」

 

ようやく訓練に身が入ってきた所で、セイルは努めて優しく、穏やかな物言いで言葉をかけた。

 

「……お前は目が良い、仲間を良く見てる。小隊長クラスには必須のスキルだ」

 

「う、うん……」

 

「その仲間が獲物を狩りやすいように、お前が狩場を整えるんだ。そんでもって死ぬな。またこの国に来た時、お前がいねえと張り合いがねえからな」

 

身を乗り出し、チラと目を向けてやれば、アサギの緊張した顔が見えた。耳が赤くなっている。

 

「……はい」

 

キャパをやや超えつつあるアサギの返答に、今度は軽口で接する。

 

「なんだ? 生まれて初めて褒められたのか? オラ、常にブリ子を斜め前に置いて、青保留の射程ギリギリのラインを維持するんだ。スラスターはいつでも吹かせるようにしとけよチワ子」

 

「うっさい!」

 

からかわれたとわかったのだろう、アサギの怒った声に、

 

「明後日には俺らもこの国を出るからな。お前がやべえ事になっても、俺は助けてやれねえんだ」

 

セイルは緩急をつけた。

 

「この国は戦争被害を抑えつつも、色んなものが集まり過ぎた。早晩、それを奪い取ろうとする勢力と戦端を開く事になる。どこと戦っても戦力はお前らより多い……だから、守る為の戦い方を身に着けろよ」

 

そして知っている。自分の様な見た目と実力、実績を備え持った男は、仮にこの場で目の前の女の子の頭を唐突に撫でようが肩に手を置こうが許されるということを。

 

なんなら健全であるその手の接触は望まれてすらいるだろうことを。

 

「お前はいつも張り詰めた目してんな……早めに酒でも覚えて、緊張の散らし方を身に付けとけ」

 

なのでセイルは更に向こうへ(プルズウルトラ)った。

頭ポン、からの頬に手をスライドし右目の下をムニり、顔を自分の方へ向けさせた後で鼻先を指で突いた。

 

基本的に10代は対象外のセイルだったが、数年後に生きてりゃ『収穫』してもいいかな位でキープすることは、ままあった。

 

フレイに塩対応気味なのは、彼女が政治家の娘であり、アークエンジェルでの道中が常に有事みたいな状況だったからだ。

 

「あ、うぅ……」

 

熱に浮かされたような顔でこちらを見るアサギに対し、

 

(チョロいもんだガキなんか……やっぱ俺モテるよなぁ、エリーは抱いときたかったなぁ)

 

そんな事を考えながらそっと手を離す。

 

「明日は休みだから、お前らの訓練は今日で最後だ。終わったらあいつらも連れて飯でも行くか?」

 

「あ、うん、良いね……カガリ様も来るかも。今日終わり際に顔見せるって言ってた」

 

「そりゃお前、財布は多い方がいいだろ」

 

セイルの言葉に、アサギは苦笑する。

 

「カガリ様はあんまりお金持ってないよ。お小遣い、同年代の貰ってる額の平均値なんだって」

 

「公務員みてえな制度導入してんな……だからあいつ趣味がガキっぽいのか。下着買う時に躊躇いなくワゴンのフリーサイズ手に取るのは、流石にやべえだろ」

 

砂漠での買い出しを思い出したセイルは、呆れたように言った。

 

「うわぁ」

 

これには流石の臣下もドン引きらしい。

 

「そういうの教えてやれよ。あれ相当許容範囲が広いか、あの性格が良いって男じゃねえと無理だぜ」

 

「いやぁ、何故か女の子らしさみたいなものだけ、何教えてもすり抜けていくのよね」

 

アサギの残念な言葉に、セイルもうへぇ、と漏らした。

 

「終わってんじゃん」

 

「女的にはまだ始まってすらいないんだけどね」

 

「アイツが20歳までに結婚してるか賭けようぜ。俺は出来ないと思う」

 

「いいけど、何賭けるの? それ賭けになるのかな……」

 

「その頃にゃ俺が29でお前が21ってところか……お前が勝ったら酒でも奢ってやるよ」

 

「アンタが勝ったら?」

 

「何して欲しい? 今の内に考えとけ」

 

その大層魅力的な言葉に、アサギはちょっとだけ妄想強めの未来を想像した。

 

久々の再会、賭けの結果を肴に酒を飲み、そのまま夜の街へ……

 

「私は結婚してる方に賭けるわね。大丈夫、最悪その辺の電柱とかとでも結婚させてみせるから」

 

「部下に恵まれてんなぁ、あのチワワは」

 

そうやって、訓練最終日は緩やかに過ぎて行った。

 

 

キラはエリカに捕まり、アークエンジェル特級呪物であるシミュレーターデータの複製をさせられていた。

予め性能を落としたモノを渡せとセイルから言われていた為、交渉そのものはスムーズだったが、流石に環境が違う為手間取っていた。

 

キラ・ヤマト、灼熱の時……3徹目突入だった。

 

「え、セイルさん達は切り上げてご飯に?……僕のとこの負荷おかしくないですか? あの、なんで部外者の僕が施設の消灯と施錠しなきゃいけないんですか?」

 

施錠確認用チェックシートを手にしたキラの声は、誰にも届かなかった。





オランチョ家=全部汚えゾルデック家

いや、甘酸っぱい恋愛要素は書いててムズムズしますね。
好きな少女漫画は花君とカレカノです。
最遊記における八戒の嫁の最後は大変芸術点が高いと思います。
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