エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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来世は個性に期待してワンチャンダイブ、無個性に向けた一部の隙も無い慈愛に満ちた言葉で感動的ですよね。直哉の辞世の句と同等の美しさを感じる。あれはもう愛の散文ですよ。
次世代に語り継ぐべき名文です。よこせ、その才能。


第62話 ワンチャンダイバー

 

「何かアスラン達がいたんでほぼ待ち伏せされてると思います」

 

モルゲンレーテのドッグに戻って来たキラは、速やかにチクりを入れることにした。何せ、黙っているメリットが皆無だからである。

 

「はあ? あいつら入国(はい)って来てんのかよ。キサカァ、どうなってんだ? テメエの国の仕切りはよぉ」

 

最終日ということで、関係者が集まるそこでセイルは嫌そうに顔を顰めた。

 

「てことは、やっぱ待ち伏せはあるな。ルートも限られてるし、包囲の隙をついてアラスカ向かってワンチャンダイブか……」

 

「それは……本当なのだな、ヤマト少尉」

 

カガリと連れ立ってやって来ていたキサカは、確認するように尋ねる。

 

「はい……逆光でよく見えなかったけど、仲間と一緒のようでした」

 

「よし、クソガキを艦首に縛り付けて御守りにしよう。俺達の航海を護ってくれる御守り兼肉の盾に」

 

カスの判断は早かった。

 

「勘弁してください……」

 

キサカが……この数日でゲッソリと痩せこけたキサカが絞り出すように言った。

 

「おいおいキサカァ、この数日で、俺からあいつへのツケはとっくに消化不良起こしてて相当数貯まってるんだぜ? 今すぐここで裸踊りさせてやろうか?」

 

カスが馴れ馴れしくキサカの肩に手を回し、ニタニタと笑う。

 

「こ、公序良俗に反するものは、どうか……」

 

そんな反応に何を思ったのか、咳払いをしたカスは徐ろにキラへと手を差し出した。

 

「キラ君、例のものを」

 

そう言われたキラは、一度キサカを見た。

 

「……あの、キサカさん……」

 

「ヤマト少尉……」

 

「恨まないでくださいね?」

 

それは諦めに似た感情と声だった。

ポケットから小さなメモリスティックを取り出すと、カスへ手渡す。

 

「そんな、ヤマト少尉……そんな!」

 

そこまで絡みもないはずなのに、何故か裏切られたような感覚に陥るキサカ。悲鳴のような声を漏らす。

 

「エリー! これなーんだ!」

 

カスはそのメモリスティックを振りながら、少し離れた位置で3人娘と話していたエリカへと声を掛けた。

 

「……絶対に良くないものなのはわかります。カガリ様、裸踊りの準備を」

 

話は聞いていたのだろう、才女の決断は速かった。

 

「嫌に決まってんだろ! 何でもするとは言ったけど私にも恥ってものがあるんだよ!」

 

流石にそれはね、流石にね。カガリはキチンと嫌なことは嫌だと言える子なのだ。

 

「俺達が出航して2時間経つと、アストレイのOS並びにシミュレーターデータが、俺達がここに来た初日のものにロールバックされる様になっている」

 

カスは容赦なく滅びの呪文を唱えた。

 

「…………みんな、カガリ様を手伝ってあげてもらえる?」

 

頭痛を堪えるような仕草で、エリカは手下をけしかけた。

 

「心が痛むわ」「ごめんねーカガリ様ー」「チワワは本来裸なんですよカガリ様ー」

 

三位一体の連携で瞬く間にカガリの衣服を剥ぎ取ろうと襲い掛かる3人娘達。そこに慈悲はなかった。

 

「おい、ちょ、やめ……やめろ!!」

 

わちゃわちゃやってる女子共を他所に、エリカは慎重にキラへと尋ねる。

 

「察するに、それを読み込ませればロールバックは止められるのね?」

 

カスはキラへと目を向ける。

 

「キラ君?」

 

説明しろ、という副音声と共に、その名を呼ぶ。

 

「はい……あの、明日中に読み込ませて反映、データリンクすれば大丈夫です。それを過ぎると自動でOS内のデータ連結部を制御するアルゴリズムが、一部BIOSを初期化しながら自壊します。シミュレーターのデータも同様です……僕を責めないでください、その目をやめてください、僕が反抗出来ると思ってんですか」

 

「さ、何をしてもらおっかなっ、かなっ」

 

ルンルンで笑顔になるカスに、冷や汗を流しながらエリカは呻いた。

 

「もう少しこう、手心と言うか……」

 

「ウチは良いんだよ別に。テストパイロット3人をウチに出向させてもらっても。艦内で監禁しときゃバレやしねえし、撃墜されれば勝手に死んでくれるからな……またイチから連携の出来る小隊を育て給えよ」

 

肩をすくめるカスに、3人娘達も戦々恐々である。

 

「あ、私はそれでも別に」「アサギ、ステイ!」「チワワは脳みそが小さいから……」

 

1名を除いて。

 

「それだけは勘弁してください」

 

飛び込んできたカガリが頭を地面に擦り付けるような見事な土下座を披露した。

 

「お前は世界一土下座の似合う権力者の娘だなカガリ……」

 

 

「何をしているんですか……」

 

 

カス魔王が暴虐の限りを尽くしていた所に、救世主ナタルが現れた。キチンと軍服を身に纏い、寝起きである痕跡は欠片もないいつも通りの凛とした姿だ。

 

「ナタルちゃん、起きたの?」

 

「少し前に……部屋の片付けありがとうございました」

 

不承不承といった様子のナタル。育ちが良いせいかどんな相手にもお礼は言える子なのだ。

 

「おう、下着は俺の好きなやつ入れといたからね」

 

「道理で……あの紐と貝殻は貴方の仕業ですか。元々入っていたものは?」

 

それは不承不承にもなろうが。どんな関係なんだよ、と見ていたエリカは思った。

 

「一旦持って帰ってキラのベッドの上に並べてあるよ」

 

「え」

 

衝撃の事実に言葉を失うキラ。アークエンジェルでは稀に非常によくある光景だった。

 

「ヤマト少尉……済まないが後で届けてもらえると助かる」

 

「触らせるのか?……俺以外の奴に下着を」

 

オート9が引き抜かれると、チュイーンという音が唸り初弾を自動で装填。銃口は当然のようにキラの股間に向けられた。

 

「これとばっちり以外の何物でも無いですよね!? いくらなんでもあんまりだ!」

 

キラは泣き叫んだ。可哀想に、その場の誰もが思った。

 

「それで、ナタルちゃんは今、どんな下着をつけてるのかな?」

 

ニチャアと嗤いながら宣うカスに、コズミック・イラ最高のカスモンマスターは呆れた目を向けた。

 

「こういう時の為に、予備のものをベッドの下に隠しておりますので、それを」

 

カスモンは天を仰いだ。

 

「あーこれだ。なんて夢の無い答えなんだ。誰がこんな世界にした? 全部オーブってやつのせいに違いないよ。もう滅ぼすしかない」

 

「こんな事が何度あったと思ってるんです」

 

昔を振り返るカスは、しみじみと首を振る。

 

「最初の頃はなぁ……ぷるぷる震えて半泣きで俺の用意した下着つけてくれてたのになー」

 

ナタルも当時を思い返すとため息を吐いた。

 

「あの時三日三晩、私の父と祖父に追われ続けてまだ懲りないんですか」

 

「言ってやるなよ、いい歳こいた軍人が2人揃ってドブに落とされて逃げ帰ったんだぜ? 13のガキ相手にさ。今度また煽りに行くからよろしく伝えといてくれ」

 

実弾の装填されたリボルバーや猟銃を手に、狂ったように怒鳴り散らしながら追い掛けてくる軍人2人は、当時既にSEEDを発現していたリトル・カスに敗北を喫した。

ドブ漬けになった2人は一晩家に入れてもらえなかった。

 

バジルール家には当時のセイル・オランチョの顔写真に『WANTED』と赤字で書かれたものがナイフで玄関横の柱に突き立てられていた。

 

「任務の前に連絡した際、あらゆる対人装備を用意してるからいつでも来い、やってやんぞクソガキが、と言っていましたよ」

 

歳食ってから受けた恨みは持続型のことが多い。

 

「あ、そ。じゃ俺はMSで行くわ」

 

「……家は壊さないでくださいよ」

 

衝突すること自体はいいんだ、と誰もが思った。

 

 

さて、3人娘である。

 

「あの人が、ナタル・バジルール……」

 

戦々恐々といった面持ちでその名をつぶやくのはアサギだ。

 

「えーとね、アサギ、あのね」

 

マユラが言いにくそうに言葉を選ぶ。

 

「そんな『ライバル……!』みたいな目しても無理だよあれは。ビアンカ目の前にいるのにデボラ選ぶくらい無理筋だよ。唐突過ぎて引くよ」

 

バカデコメガネ青保留のジュリは正直者だった。

 

「せめてフローラ位言いなさいよ!」

 

牙を剥く自称フローラ(笑)のチワ子。

 

「えーとね、アサギ、あのね」

 

「イオナズン覚えないし、お嬢様でもお上品でもおしとやかでもないよ。男に都合良いとこだけ一緒だね」

 

返す刀で斬り刻む。はやぶさの剣でも装備してるの?

 

「せ、性格はビアンカが一番近い……気がする!」

 

ビアンカ(笑)、なおも吠える。

 

「えーとね、アサギ、あのね」

 

こいつはさっきからずっと言葉を選んでるな。

 

「振られた当てつけみたいに山奥で親の介護と独女やってる癖に、訪ねる度に淋しさアピールしてくる湿度は似てるかもね」

 

女らしく成長した健気で優しい幼馴染が一転して『これワンナイトいけるんじゃね?』という地雷になったのはトラウマだった。

 

唐突に現れ、男に都合が良く、ジメジメ。

ドラクエⅤにおける三大ヒロインの嫌な所だけを併せ持った女、アサギの爆誕であった。

ラノベなら数タイトルに1人は居そうな質感が逆にやだな、とジュリは思った。

 

「おい」

 

土下座から立ち上がりながら、カガリが割り込んで来る。

 

「言っとくけど、バジルール中尉はあいつの幼馴染かつ戦友で、なんなら良いトコのお嬢様だぞ」

 

「そ、そんなっ……!」

 

「属性エグ、Tier1の人権カードかと思っちゃった」

 

「リカルド・マルチネスVSゲロ道って感じ。勝ち目? そこに無ければ無いですね」

 

「あと、あの2人は中尉がある日突然あいつの目の前に現れてからの付き合いで、中尉はあいつの性格をある程度許容してて距離感バグってて平気でハグとかするし、出会ってから今まで一緒にいた期間の方が長いし偶に無自覚淋しいアピールもするらしいぞ」

 

情報源は全て下世話・柱のマリュー・ラミアスである。

 

「なんそれ、ズルじゃん……!」

 

アサギは呻いた。ズルじゃん、ズルだよ。

 

「正ヒロインの超絶劣化個性は厳しいよアサギ」

 

マユラは爪をいじりながら言った。飽きてきたらしい。

 

「毒が裏返った刃牙VSバランスの良い山本かぁ……流石にノーベットかなぁ」

 

バランスの良い山本のスピンオフ、待ってます。

 

「そんな……そんな……」

 

「これはノーサイドかな」

 

「でも頑張るなら応援するよ。相撲取り編結構好きだったし」

 

蹴速は特に良い。生きてる意味ある? あの雑魚。チベタン・マスティフより存在感ないじゃん。自分のこと強いと思ってる男がボコボコに負ける姿は惨めで好き。

ジュリの趣味は少し歪んでいた。

 

「……ふんっ!」

 

オーブの黄色いチワワ、アサギは意を決して歩き出した。

 

「あ」

 

「あ」

 

唖然とする2人を他所に、カガリはその背中を冷めた目で見送る。

 

「……ふぅ」

 

さあて、また土下座(ゲザ)りますかね……そんな目だ。

 

 

 

 

「ねえ」

 

アサギに話し掛けられたカスはそちらへ向いた。

 

「おん?」

 

アサギは手を差し出して、精一杯虚勢を張る。

ゴチャゴチャした感情はさておき、言葉を絞り出した。

 

「なんかちょうだい」

 

「はあ?」

 

訳がわからないといった様子のカスに、なおも続ける。

 

「御守りにするから」

 

それを見ているナタルは、ちょっとだけ羨ましそうにアサギを見た。何が羨ましいのだろうか。『あら』とエリカは口元を抑えた。何か琴線に触れるものがあったらしい。

 

「……んー」

 

カスはポケットを漁ると、

 

「わっ」

 

掌に収まるくらいの金属棒を投げ渡した。

アサギには見覚えのあるものだ。

 

「由緒正しき伝説のバタフライナイフだ。やる」

 

「……ありがと」

 

一回自分を殺しかけたものを、アサギは笑顔で受け取った。

 

「おう、精々気張れや」

 

「またね! 絶対また、ね!!」

 

それだけ言って、アサギは走り去っていった。

約束があり、御守りも貰ったから、後は待つだけだから。

おいおい少女漫画か? という光景に、キラは理不尽なものを感じていた。

何でこの人モテるんだろう、人間的には終わってるのになぁ。

 

 

「申し訳御座いませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

そこへ、両膝、両手、デコの5点で体を支える土下座体勢のカガリが滑り込んできた。

 

「良いやつなんです普段は! ちょっと面倒くさいとこが出ちゃってるだけなんです! 私が責任を持って教育しておきますので何卒命だけは、何卒ぉ!!!」

 

向き先はナタルだった。

 

「……この前から、私は一体なんだと思われているのですか」

 

釈然としない何かにより、ナタルはぷうと頬を膨らませた。

勿論無自覚だった。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「アスラン……イザークの容体がようやく落ち着いたよ……今は眠ってる」

 

オーブから戻ったアスラン達は、未だ錯乱の気と憔悴が見えるイザークを医務室へ運んだ。

アスランは偵察の結果を各隊へ通達しに戻ったが、ディアッカは医師の診断を聞いた上で、それを隊長であるアスランへと持ってきたのだ。

 

「そうか……明日は?」

 

「朝に診断受けて、それ次第だってさ」

 

いつもの軽い口調も、今日は些か疲れが見える。

 

「わかった……明日は朝から警戒態勢でオーブからアラスカまでの進路を張ることになる。下手にルートを変えられる前、オーブ領海を抜けた直後に仕掛けるぞ」

 

いつも通り、変わらぬアスランの様子にため息を吐きつつも、ディアッカは同意した。

 

「ああ、わかってる。イザークだって、少し眠れば大丈夫さ……」

 

「そう願うよ。キラ……今度こそ」

 

「なあ、一応確認なんだけどさ」

 

決意を燃やす隊長に、ディアッカは慎重な質問を行った。

 

「キラ・ヤマト、本当に今もお前を友達と思ってくれてるのか? 戦場以外で直接顔を合わせても、こっちにゃ来なかったんだろ?」

 

「あの鳥型ロボット、トリィは、俺が別れ際にキラへ渡したものだ。邂逅編の25話だな」

 

そういやそんな話聞いたな、とディアッカは眉を顰めた。

忌まわしい記憶を探れば確かに、なんか壮大なファンファーレと荘厳な建物を背景に、空を飛び交う祝福の天使達に見守られて騎士の叙勲式が如きイベントが語られていたのを思い出す。

 

「……()()をか?」

 

おっさんの手足生えてたけど。おっさんだぞ。

 

「勿論、あんな巨大なもんじゃないさ。アレはきっと、キラなりにトリィを改良して、少しでも俺からの贈り物を大切にしようとしてくれた行為の表れなんだろうさ」

 

殺人が許されるレベルの名誉毀損を親友に対して吐きながら、アスランはしみじみと笑った。

 

「あー、そういう処理が行われる感じか……ジャッジいるかな」

 

無理かな。コンマイ語のがまだ解読の余地があるわ。

 

「兎も角、今度こそ脚付きを落とし、苦悩と非難に苛まれるキラをこの手で救い出す。協力してくれ、ディアッカ」

 

「あー、まー、そうだな」

 

キラとやらがこっちに転んでくれば、役割はもう決まっている。

アスラン係だ。

 

「ニコルも頼むぞ」

 

――頑張りましょう、アスラン!

 

「……これ、イザーク戻るまで俺が対応すんのか……」

 

畑とか耕して暮らしたい。

ディアッカはちょっとセンチな気持ちになっていた。





毎度思うんですけど、オーブに寄った時、一旦マスドライバーで宇宙に上がってから再突入した方が遥かに早く着いたんじゃないかな、アラスカに。

ああ、でも第8艦隊蹴散らされてるから制宙権ないのか。
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