エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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人事異動の時間だオラァ!
Sideは裏話的な立ち位置です。

オリキャラが出ますが大丈夫、さして重要なコンボパーツではないので。


Side.1 閃光のカズイ

 

『お前に頼みがある』

 

『お前が考えてる以上に、MSを組み込んだフッケバイン・プロトコルは難度が高いし、そもそも経験者が少ねえ』

 

『わかるか? メソッドはある、だが実戦転用可能な膨大な量の模擬データが足りねえのさ』

 

『だから、お前にこれを預ける』

 

『シミュレーターのデータから、CICの部分だけを抜き出したもんだ』

 

『これを、ひたすらにやり込め。出来る限りのパターンをこなして、その結果を記録させるんだ。データは蓄積後、一定間隔で暗号化されて軍用クラウドのデータベースに送られる』

 

『それが翻って、俺や、お前の仲間達にとって大きな助けになる』

 

『任せたぜ、カズイ』

 

『そういう訳だから、お前もう船降りろ』

 

カズイは一言も発しないまま、退艦が決まった。

 

アークエンジェルは人手不足ではあるが、オランチョ小隊がそのままブリッジクルーに転用されていたお陰で、多少ではあるが交代制が導入されていた。

突然決まったカズイの退艦により、その余裕が消滅した。

 

流されるがままに艦を降りることになったカズイはしかし、何処か晴れやかな気持ちさえ抱いていた。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

カズイ・バスカークは何処にでもいる普通の、強いて言えば臆病でやや利己的な少年であった。

臆病な自分を自覚してなお、それで悪く見られることを恐れて嫌々にでも暗闇に足を踏み入れてしまう、愚かな少年だ。

 

ヘリオポリスではその個性はさして問題にはならなかった。

彼の臆病さは慎重さと同義であったし、平凡であるが故に短所とまではならず、嫌われる事を避けるための優しさも備えていたからだ。

 

では、戦場ではどうか。

 

きっと彼は取り乱した事だろう。

そしてその辛さを、もしかしたら『自分とは違う』という理由で友達であるキラ・ヤマトに転嫁して、後ろめたさを裏に秘めた逃避へと舵を切っていたかもしれない。

 

もしかしたらその様な、彼の人生にとっては何の救いも進展もない、あってもなくてもいいような一幕になっていたのかもしれない。そんなイフの歴史が。

 

しかしここには奴がいた。

 

傍若無人であり、人の嫌なことに良く気付き、率先して人の嫌がることを行い、何よりも自由な男が。

 

セイル・オランチョとの出会いはカズイにとって大きな変化をもたらす切っ掛けとなった。

 

基本的には恐怖の対象でしかなかったが、それでも、何故かカズイは強烈な安堵を抱いていた。

 

『きっとこの人といたら、自分は生き延びられるだろう』という、何の根拠もない安堵だ。

 

戦場でそんな確信がある筈がない。

しかしセイルの言葉が、態度が、何よりも戦果が、それを強烈に裏付け続けた。

 

いつしか、カズイがセイルに抱く気持ちは恐怖だけではなくなっていた。

 

 

それはそれとしてハゲたし、眠れなくなったし、幼児退行したしおしっこは綺麗なオレンジ色から戻らなくなった。

検尿カップにはファ◯タオレンジが如き液体が注がれていたしそれを見た軍医から優しく肩を叩かれた。

最初の頃はエメラルドみたいな色だったと伝えたら『エメラルドスプラッシュだね、おしっこだけに』とか言われた。カズイにしては珍しく、ぶっ殺してやろうかなと思った。

 

 

酷い目に遭ったがそれでも、最後に自分を艦から降ろす時、自分を頼ってくれたことがカズイにとっては燦然と輝く、人生で初めて誇らしく思える様な出来事として、記憶の中でリフレインされていた。夢にまで見たのは流石に死にたくなったが。

 

「カズイ、あなた大丈夫?」

 

「疲れているなら、少し休みなさい」

 

オーブが用意してくれた仮設住宅に帰ってから、両親は優しかった。

しかし、無条件の優しさをただ漫然と受け止めるだけの精神を、既にカズイは持ち合わせていなかった。

 

……離れ離れになった後、戦地から帰ってきた息子がスキンヘッドになっていれば、親としては当然取り乱す。が、カズイも知らないところで先んじてセイルが『説明』を行っており、両親はただ優しく彼を包み込もうとした。

 

 

……具体的には、戦場でたまたま運命の出会いをした敵のコーディネイターと相思相愛の恋に落ちたものの、戦闘で死なせてしまい頭皮の一部しか残らなかった彼女を忘れない為に頭を剃っているのだと、1ピコグラムたりとも真実を含有しない超適当なデマカセを吹き込まれていた。

 

 

セイルは、カズイの様な後ろ向きな感性が育つのは、一般的に家庭環境の影響が強い傾向にあると考えていた。であれば両親も相応に鈍間で間抜けだろうと思っていたが、本当に騙せてしまったのには引いていた。

 

証拠としてズラをかぶされたカズイと女装したニコルのツーショット写真を見せられて、両親はそれを信じたのだ。写真の中の息子は蛍光グリーンのモヒカンヘアをしていたが信じた。目は死んでいた。

 

それくらい横に映るイメクラで使われるセーラー服タイプの衣装を着て化粧をされたニコルは可愛かった。目は死んでいた。

 

 

なお、写真は当初、一般人であるミリアリアを使おうとしたが、同郷の人間は知られている可能性があったことと、『なんかニコルの方が見てくれが純情っぽい(笑)』というクソみたいな判断の元で撮影された。

 

ミリアリアはもうバチクソにキレ散らかして、トールは一晩で2キロ痩せた。

 

 

証拠捏造の為だけに危うく頭皮を剥がれそうになったニコルはちょっと泣いていたし、なんならミニスカ姿で泣いてるニコルを見てカズイはちょっとドキドキしていた。

 

……童貞の心は新雪の野と同じだ。

踏み込んできたものの足跡を明確に残すし、春が来ない限りいずれは凍りつき、誰も入れなくなる。

足跡だけを残して。

 

 

 

「……よし」

 

自室に戻った性癖歪みハゲアライグマことファンタが出る棒(ファンタ・スティック・)カズイは、セイルから受け取った黒い箱……シミュレーターデータの入った端末をモニターへ繋ぎ込んだ。

 

何度か訓練でやった画面を操作し、ランダムシチュエーションの項目を選択する。

 

画面内に高速で敵陣を突っ切る味方機が映り、自身は戦艦のCICとして状況に応じた武装、信管の設定、砲撃範囲、速度等を選択して実行していく。

 

「ああ、難しいな……」

 

しかしあっという間に自機が撃墜され終了してしまった。

最後は敵機とカズイの放った砲撃に挟み込まれて、立ち往生したところを落とされてしまったのだ。

 

「隊長なら今の砲撃位、簡単に避けちゃうんだろうな……」

 

そう漏らしつつ、リザルトを流していくと、ある一文が目に止まった。

 

――味方機損耗:1

――――型番:GAT-X105+AQM/E-X01 エールストライク

――――パイロット:キラ・ヤマト

 

「え……」

 

キラ・ヤマトは友達だ。そう断言出来るだけの自信がカズイには無かったが、強いて言うなら友達だし、自分達を守ってくれた恩人でもある。

 

巻き込まれ、否応なしに戦うことを強いられて、いつの間にか遠い所に行ってしまった……と勝手に思い込んでいた彼が、今、シミュレーター上で死んだ。

味方が死ぬなんて、カズイには想像も出来ないことだった。

少なくともセイルの元にいた時には、そんな心配する余裕も無かったし、必要もなかった。

 

でもそれが、セイルから離れ、1人になり、このザマだ。

 

「死ぬ、死んだ? そうか、死ぬんだよな、キラだって、俺だって、皆だって……そうか」

 

ジワリ、とした不安が滲むように心臓を覆うような感触を、カズイは味わっていた。

熱を持った心臓を、冷たい泥が纏わりつくような不快さが、いつまでも残り続けている。

 

「隊長、凄い人だったんだ……」

 

ようやく戦場から解放されたカズイは、初めてそこで恐怖を感じた。

カズイがシミュレーターで撃った弾は、味方機を援護しようとしたものだ。それが味方を、キラを殺した。

 

助ける為に撃った弾ですら味方を殺すのだ。

 

敵が殺す為に撃った弾は、それならば、何を為すと言うのだろうか。

 

怖い、ああ怖い。でも……

 

脳裏をよぎる、自信に満ちあふれた暴力的な笑顔。

 

何も出来ず、期待にも応えられず、あの人に失望される方が余程に怖いとカズイは思った。

 

「いいさ、やってやる……僕が蓄積したデータが、いつかキラや隊長を助けられるかもしれないんだ……」

 

カズイは決意を新たに、再びシミュレーターに向き合った。

 

芋虫はいつか蛹になる。蝶か蛾か、羽根があるのかさえ定かではないが、変化が起こることは確かだ。

そうした変化が今、カズイに起ころうとしていた。

 

      ―――――――――――To Be Continued.

 

 

■人物紹介

・カズイ・バスカーク(3rd)

戦史において、ヘリオポリス市民から不沈艦アークエンジェルクルー、MSパイロットと輝かしい変遷を辿りながら、故郷であるオーブに降り立った直後、突如として歴史の闇に姿を消す。

 

一節にはその戦闘経験、能力を得ようと画策したオーブ首脳陣による指示で、軟禁されていた可能性が高いと言われている。

 

事実、その後のオーブ防衛戦において、氏のMSへの搭乗記録こそ確認されなかったものの、氏の暮らす仮設住宅から最も近い防衛陣地では支援火力による戦果が図抜けており、秘密裏に氏が参戦していた事は結果が証明している、と戦史研究家は語る。

 

後年、泥酔した『オーブの黄色い狂犬』ことカガリ・ユラ・アスハが吸盤ダーツを彼の頭に投げている所が週刊誌にすっぱ抜かれ、オーブ首脳の歪んだ性癖と英雄との関係性について取り沙汰されることになった。

 

また、悪名高い戦術『フッケバイン・プロトコル』の構築メンバーにその名を連ねており、氏の名前で実装された砲撃パターンは実に数十種類に及ぶ。

 

その為、『もう1人のセイル・オランチョ』、『オーブの輝ける都市伝説、大豆ヘッド(Mr.ビーン)』、『()ズイ・バ()カーク、即ちカス』等の異名を本人が全く関与しない所で着けられており、それを嗅ぎ付けたゴシップ記者が突撃取材を試みている。

 

取材中、奇声を上げた氏が銃を抜いた為、真相は闇の中である。

 

多くの戦史研究家達の間では、セイル・オランチョを支えた裏方の1人というのが通説であり、キラ・ヤマト、ニコル・アマルフィ、(検閲削除)、(検閲削除)、(検閲削除)、(検閲削除)、ナタル・バジルール、デュエイン・ハルバートンに並ぶカスサイダーと見做されている。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

カズイが戦場を離れ幾日かが過ぎた。

日々は穏やかで、でもニュースでは毎日の様に戦地の情報が流されている。

 

アークエンジェルはあの後どうなったのか。

もう軍人ではないカズイに、それを知る術はない。

 

一度カガリかキサカに聞こうとモルゲンレーテに近付いたが、丁度出会した2人が5度見くらいして来た挙句神に祈り始めたので、恐らく自分がアークエンジェルを降ろされたことを知らないのだろうなと思い、面倒になる前にその場を去った。

 

それから2人の姿は見ていない。恐らく、幻覚を見たとでも思ったのだろう。

 

ヘリオポリスの学校に復学する事も決まっていたが、それも次年度から。当面カズイには、シミュレーターの他にはフラフラと街をぶらつく位しかやる事がなかった。

 

そんな日々を過ごしていたカズイはある日、運命の出会いをする。

 

「私はルカ・オルシア、あなたは?」

 

たまたま落とし物を拾った縁で知り合った、歳下の子だ。

普通スキンヘッドのアライグマに話し掛ける人間などいない為、まあ変わり者の部類なのだろう。

 

ちょっと可愛い、大人しめなルカとの出会いは、カズイにとって日常と幸せを象徴するものになっていった。

 

 

これはカズイ・バスカークが、いつかカスに再会するまでの物語である。

 

      ―――――――――――To Be Continued.





■人物紹介
ルカ・オルシア
コーディネイター。

ラブラブな両親の居る家の居心地が悪く、特待生の留学制度を使いオーブに来た。本来ならヘリオポリスにいたかもしれない13歳。首輪は着けるより着けられたいタイプ。

癖のある黒髪で自信のなさそうな目の割には社交的な性格をしている。150センチ台の身長に細い手足、ナンパしてくる相手には困らない程度に優れた容姿をしている。チャームポイントは大き目の八重歯。将来は小説家になりたい。
少し緩めのユニセックスな衣装を好む。

ツルツルしたモノが好きで、カズイはよく頭をキュピられている。偶に磨いて良いか聞くも、今のところ色良い返事は得られていない。

両親を反面教師にしており、出来れば普通の恋愛がしたいと思いつつも無理だろうなと言う諦めがある。
カズイのことは優しい割には妙に肝が据わっており、優柔不断なのに未練がましい目をしている所が、1人で生きていけない欠陥生物みたいで可愛いと思っている。

両親はともに女で、iPS細胞を使い産まれた。
コーディネート技術で性別、体格などを操作されている。
なお、本人の恋愛対象は男である。










一族における2人目の男子だが、1人目と違い特に突出した才能や能力の類には恵まれなかった為、下手に露見するのは危険だと判断され、母体側の姓を名乗り一族の系譜からは切離されている。

両親の名前はフレッチェ・オランチョとパロン・オルシア。

カズイは何も知らない。
普通にルカのことは女の子だと思っているが、真実を知った場合、雪原に残されたニコルの足跡に躓き転ぶ可能性が高い。




カズイはね、幸せにならなきゃいけないの。
第三者が見たら生き地獄やんけという状況で、本人だけが幸せだと思うような幸せに。

ちょっとこいつはここでアークエンジェルから切り離します。アラスカで離脱するようなメンタルじゃなくなっちゃったんですよ。迷惑な話ですよね。
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