エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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状況に合わせた武装転換システムって必要技能と有効射程に差異があり過ぎるからパイロット限られるし、試作品だから許されてるみたいなロマンですよね。


第64話 迷う前に撃て、迷ってる奴から撃て

 

戦闘は緩やかに開始された。

 

オーブ領海を出た直後の無人島で速度を落としたアークエンジェルのレーダーが、ミサイルの飛来を感知。

対空射がそれらを撃ち落とすと、その向こうにはもう20機を超えるディンにグゥルに乗ったジン、3機のGが展開を始めていた。

 

「ウォンバット装填! 艦載機は直ちに発艦し、対空砲台を出せ!」

 

ナタルの指示により、開かれたハッチからバズーカを持ったエールストライクと、2機のスカイグラスパーが飛び出した。

 

その後ハッチから、左右2門ずつ、都合4本の砲塔が突き出てきた。

 

『こちら格納庫! 再三言いましたがね! 1発でも飛び込んできたらこっちはオシマイですよ! ラッキーパンチは勘弁ですぜ!』

 

マードックの怒号の様な通信に、マリューは一層気を引き締める。

 

「ある程度敵の航空戦力を減らせれば閉じて結構です! それまでは何とかお願いします!」

 

『まあ、オランチョ中尉が言うんなら、しゃあないですがね! ご武運を!』

 

「こういう場面での信頼は、心強いわね……普段はアレだけど」

 

プラマイで言えば余裕でマイナスだけど、一瞬プラった時の恩恵が大きいのである。大量獲得系のスロットみたいな男だった。

 

『こちらキラ・ヤマト、敵が有効射程に入ります』

 

「了解した! CIC各位、対空射は絶やすな! アーガイルは4門の対空砲を専任しろ!」

 

「了解です!」

 

サイが突貫で組まれたプログラムを起動して、これまた後付けで繋ぎ込んだサブモニターで砲塔の操作を開始した。

 

「撃ち方用意!」

 

マリューの号令に、遅れず着いていく。

 

「撃ち方用意! よし!」

 

「三式弾各砲、敵陣形に向けて全力射撃! ってぇー!」

 

僅かな照準の後、4門の砲塔からオーブ制式軍で使われる三式弾が飛び出した。

 

『こちらも合わせます!』

 

ストライクに構えさせたバズーカから、同じく弾頭サイズを調整した三式弾が撃ち放たれる。

 

 

――兎に角飛んでる連中を叩き落とせ。

 

 

キラは戦闘前から口酸っぱくそう言われていた

 

 

――飛んでる連中が観測者になって、潜水艦からの攻撃精度を上げられちまうからだ。

 

 

だからこそ初撃を、必ず成功させる。

それがキラの役目だった。

 

 

――一回地面に落としちまえば、エールストライクに機動力で勝てるMSはそうはいねえ筈だ。食っちまえ。

 

 

構えたバズーカを敵軍中央へ向ける。

弾頭の炸裂タイミングを指定座標到達でセット。

 

「当たれぇ!」

 

引き金を引く。

三式弾は焼夷弾子と非焼夷弾子の混合弾頭で、榴散弾に属するものだ。

一定距離を進んだ後、炸裂。数千度まで一気に燃焼する焼夷弾子と、鋼鉄製の非焼夷弾子を一定範囲に撒き散らす。航空戦力でこれを躱し切るのは至難であり、面制圧を旨とする兵器の特性上、フェイズシフト装甲にも一定の効果があると見られている。

 

それが連続でストライクと、アークエンジェルから撃ち放たれる。

 

しかし、ザフトの部隊長であるアスラン・ザラは、その攻撃を予想していた。寧ろ、態々自分達を地面のある場所へ呼び込んだ以上、律儀に空中戦をやるつもりは無いだろうと判断していた。

 

『迎撃しろ! 言うほど速い弾じゃないぞ!』

 

各機が三式弾の迎撃を開始する。

 

そして、

 

『はっ、こういうのは任せろよ!』

 

ザフト側には砲戦においては現行MSの中で、トップクラスの性能を誇るバスターがいた。

 

バスターの発射した散弾はアークエンジェルから放たれた三式弾を次々と撃ち落としていく。

 

『舐めるなよストライクゥ!』

 

改装パーツでビルドアップされたデュエル・アサルトシュラウドを駆るイザークもまた、増設された火力によってストライクが撃った弾を炸裂前に叩き落とす。

 

『各機はこのまま前進! 次の戦艦砲撃と同時に散開し取り付け! ディアッカは部隊の援護、イザークはモビルアーマーを頼む!』

 

『オーライ!』

 

ディアッカがバスターを最前列へと進ませる。

 

『今度こそ借りを返すぞ、セイル・オランチョ!』

 

イザークも2機のスカイグラスパーに向かい猛撃を掛けるため高度を上げた。

 

アスランは矢継ぎ早に指示を出しながら、進行方向上にいるストライクを捉える。

 

『俺はキラを……ストライクを、今度こそ!』

 

戦闘が激しさを増そうとしていた。

 

 

 

「散開指示が遅えよ、お坊ちゃん」

 

 

 

イージスのコックピットに、突如として鳴り響くアラーム。

それは優れたレーダー機能を持つイージスが、部隊へ飛来する物体を捉えたものだった。

 

『どこからだ!? しまった、ディアッカ!』

 

『マジかよ!?』

 

進行する部隊の()()()()、3発の三式弾が迫っていた。

だが、そこに敵機の姿は無い。

 

()()()()()()()()()か! 奴だ!!』

 

イザークの悲鳴のような声。

 

『クソ、こっからじゃ……!』

 

ディアッカはバスターを素早く回頭させるも、戦艦の砲撃に対する援護の為、部隊の前に出ていたことが災いし、味方機で射線が遮られていた。

 

 

炸裂

 

 

撒き散らされた焼夷弾子がグゥルの脆弱な装甲を焼き、追い討ちをかけるような非焼夷弾子が部隊全体へ振り注ぐ。

 

「オラ、間抜けな改造人間共のソテー、いっちょ上がりだ」

 

ウイングやスラスターを焼かれ、自力飛行が困難となったディンが次々と落ちてくる。グゥルも殆どが深刻な被害を受け、墜落していった。

半数以上の敵機が、飛行困難な状態となり地面に降り立っていた。

 

そんな光景を、ミラージュコロイドを解除してフェイズシフトを起動させたブリッツのコックピットから、セイルが見ていた。

機体には三式弾を纏めて撃ち出す為の使い捨て3連装ランチャーが担がれている。

 

「キラ! イージスに突っ掛けて戦域から切り離せ! 孤立させろ!」

 

『了解!』

 

「タカちんはまだ飛んでる連中を頼むぜ!」

 

『任せろ、そっちもヘマすんじゃねえぞ!』

 

「んで、トールは高度上げてろ! ヤバかったら逃げろよ!」

 

『り、了解!』

 

この戦闘にはトールが参加していた。

 

理由は一つ。ブリッツのパイロットであるセイルが、スカイグラスパーに乗っていると誤認させる為だ。

少なくとも砂漠では、戦闘時はスカイグラスパーしか使っていない。これ見よがしに2機のスカイグラスパーが飛び立てば、そこにセイルもいるだろうと、相手に判断させることを狙ったものだった。

 

そしてそれは成功する。

 

発艦前からミラージュコロイドを展開し、スラスターを使わず敵陣後方に徒歩で移動。

コロイド粒子の残置物さえセンサーに拾われなければ、Gであっても感知は出来ないことは既に割れている。上空を飛ぶアスラン達はそれが不可能な距離にいた。

 

「バスターをやる! ナタル!」

 

『了解、チャンドラ軍曹、左舷ゴットフリートのコントロールを寄越せ! アーガイルは落着した敵MSを引き続き砲撃して頭を押さえろ! 潜水艦もいるんだ。レーダー感知と対空射は絶やすなよ!』

 

矢継ぎ早の指示を飛ばしながら、自らも席に着くナタル。

 

「さあ、タイマンの時間だ」

 

ランチャーを投げ捨てると、ブリッツの改良ブースターを吹かして、セイルは機体を飛翔させた。

 

バスターまでの距離を詰めながら、行き掛けの駄賃にサーベルで道中のジンを斬り裂いて行く。

 

『クッソ、来やがった! イザーク、そっちは!?』

 

『駄目だ、進めん! 戦艦の砲撃が邪魔だ!』

 

ディアッカが僚機のイザークへ声を掛けるも、爆音に遮られた音声は援護が不可能であることを告げていた。

 

『やるしかねえってのか!』

 

用途の異なる火砲を両脇に抱えながら、バスターは向かい来るブリッツへ迎撃態勢を取った。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

『キラ! もうやめよう! 俺達が争う理由がどこにある! これまでの事は不幸なすれ違いだったんだ、お前を傷付けたくない!』

 

「アスラン……」

 

『お前を討ちたくはないんだ! 信じてくれ、キラ!』

 

回線越しに聞こえてくるアスランの切実な言葉を受けて、キラの脳裏にセイルから言われたことが呼び起こされる。

 

 

――この期に及んで懐柔策に出るとは思えねえが、もしそうならソイツは間抜けだ。戦場にまで迷いを持ち込んでやがる。

 

――とは言え、お前ら童貞は他責で奇跡を信じたがるから、自分が気持ちいい方に転がりやすい。ついつい話を聞いてやりたくもなるだろう。

 

――想像してみろ。もし言われた内容が、DV加害者の言いそうなことだったら……それは()()()()()()()()って意味になる。

 

――迷うな、迷う前に撃て。

 

――迷ってる奴から撃つんだ。

 

 

「……っ!」

 

キラはバズーカを構えると弾頭の炸裂を最短設定にして連射した。

 

『キ、キラ!?』

 

立て続けに振り注ぐ散弾に距離を取るアスラン。

その隙にバズーカを投げ捨てると、キラはシールドにマウントしていたビームライフルを取り、突貫した。

 

「殺したくないなら、戦わなければ良いじゃないか! 殺してもしょうがないと思うから、今もここにいるんだろ!」

 

キラの叫びに、アスランの手が止まる。

 

「僕は、僕の友達が殺されるのを、()()()()()()()で済ませることは出来ない! 守ってみせる!!」

 

シールドを構えて、イージスへ突っ込む。

イージスもシールドでそれを受け止めたが、一瞬とは言え足を止めてしまったイージスは推力差でエールストライクに押し込まれることになった。

 

『キラ、それでも俺は、母さんを奪ったナチュラルを……!』

 

「僕は君と戦いたくも、殺したくもない! ずっとそう言ってるのに、追いかけて来るのは君じゃないか!」

 

突き飛ばしたイージスへ、ライフルを向ける。

 

「僕は、僕の大切な人達に死んで欲しく無いんだ…………君だって、君だってそんな人達の1人なのに!」

 

アスランの脳裏で、キラとの記憶が鮮やかに蘇る。

それは今まで以上にアスランのテンションを高めた。そして今現在、キラからの言葉……自分達は()()()()であると。その言葉を聞いたアスランの中で、何けが弾けるような感覚が奔った。

 

『帰ろう、キラ! 俺達は、ずっと一緒さ!』

 

――行きましょう、アスラン!

 

『背中は任せたぞ、ニコル!』

 

イマジナリフレンドに語りかけつつも、かつて無く澄み切った思考になったアスランは、あろう事が急所を外して撃たれたビームライフルをサーベルで斬り払った。

 

「なっ!? ビームを!?」

 

『キラ! お前もまた、俺の大切な人をいつか殺すかもしれない! その覚悟があるのか!?』

 

イージスの斬撃をシールドで止める。

直ぐ様反撃に入ろうとしたキラを、アスランの言葉が刺した。

 

「ぼ、僕は……誰も……誰も!!」

 

迷った。

 

『勿論俺の、一番は大切な存在はお前さ、キラァアアアアアア!!!』

 

「ヒュッ」

 

迷ったので斬られた。

ライフルを切断され、2撃目でシールドを半分に斬り裂かれた。

 

『だからこそここでお前を止める! もうこれ以上、悲劇を繰り返さない為に! お前を戦いの苦痛から救って見せる!』

 

「勝手な事を……言うなぁああああああああ!!」

 

0.5秒のカスメモリー再生。

種が弾ける。

 

「はああっ!」

 

凡そ精密機器の塊であるMSでは取り得ない戦法、頭突きによって、イージスの上体を反らす。

アイカメラが外れた瞬間を狙い、キラはイージスの右のつま先を斬り飛ばした。

 

更にスラスターを吹かして横転覚悟でスピンムーブ。

エールストライカーの翼をぶつけてイージスの体制を完全に崩して見せる。

 

「ここだ!」

 

スピンムーブで後方にすり抜けながら、サーベルを股関節めがけて振るう。

 

『させるか!』

 

アスランは倒れ行く機体を敢えてそのままに、左足を振り上げた。

つま先から発生させたサーベルが、エールストライカーの翼に突き刺さる。

 

「この!」

 

キラはイーゲルシュテルンを乱射して完全にイージスを地面に倒すと、その頭部めがけてサーベルを突き下ろした。

 

『まだだ!』

 

その突きを、シールドで反らしながらスラスターを全力噴射して、イージスは地面を擦りながらその場を逃れた。

 

僅かな攻防の間に、両機にダメージが蓄積していく。

 

『どうしたキラ、何故コックピットを狙わない』

 

体制を立て直したアスランからの問い掛けに、キラは苦しげに顔を歪ませる。

 

「君を殺したくない」

 

『俺もそうさ。今すぐ抱き締めてやりたいよ』

 

「そういうことではなくて」

 

なんだかな。

言動が際どいんだよな。

 

『お前を止める。この戦争に勝利する。また2人で笑って過ごす、その為に』

 

「こんなに人の話聞かない人だったかな……」

 

キラは怖気に似た悪寒を感じながらも、かつての友人との戦いを止めるつもりはなかった。

 

何故なら……

 

 

――戦争は厄介だ。

 

――親友である事、恋人、親、兄弟姉妹、あるいは憎む相手。

 

――そんな奴らと共闘することも、敵対することも等しく起こり得るのが戦争だからだ。

 

――いいか、これは気遣ってる訳じゃねえ。

 

――お前はそういうのを、()()()()()

 

――知り合いを戦争で殺したら、お前はきっと気に病むし、何年経っても忘れる事は無いだろう。

 

――でもな。

 

――戦わなければいけない理由を握り締めていたのなら、きっとこの先何回だって、その時のことを思い返しても。

 

――お前は友を討っただろう。

 

――絞れ、キラ。優先順位を絞って、まずは突き進め。

 

――悔やむなら後からでも出来る。まずはぶっ殺せ。

 

――お前が悩めば友達が死ぬ、それだけは忘れんなよ。

 

 

キラには理由がある。

死なせたくない人達がいる。

 

そしてそれらは今この時に限っては、僅かにアスランよりも優先順位が高かった。

 

「アスラン、君は友達だ」

 

『キラ!』

 

「割り切れない、納得出来る筈がない」

 

『俺だって……!』

 

「でもここで僕が負けてしまったら、皆が……友達が死ぬんだ!」

 

2機のGは再度ぶつかり合った。

決着の時が、近付いていた。





アスラン、油断すると8割方のセリフが『キラ』から始まる。

今更ですが、オランチョは僕の一番好きな酒の名前です。
琥珀色に近いオレンジフレーバーのチンザノで、ロックグラスに氷とこいつを注ぐと、薄暗いバーではウイスキーの様に見えます。

でも口元にグラスを近付ければオレンジの香りがウイスキーではないと言っています。
そして甘い、シロップの様な喉越し。
嘘みたいなお酒です。

残念ながら絶版になってしまいましたが、再販を永遠に待ってます。
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