エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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アスラン気持ち悪いな……なんでだ


第65話 戦場に聖人はいない

 

「はっはぁ! 随分軽いな、ダイエットでもしてんのか!?」

 

三式弾により地面に叩き落とされてすぐ、バスターはブリッツの猛襲を受けていた。

 

というより、推力に任せた強引な接近からの組付に抗う術がなく、2本の砲身をブリッツの両脇に抱えられたまま、ひたすら押し込まれていた。

 

体勢を立て直そうにも、ブリッツの巧みなスラスター操作と砲身ごと押し込んでくる勢いに姿勢制御だけで精一杯だった。

 

『なん、で! こいつは重装型だぞ!?』

 

ディアッカは苦しげに叫ぶ。

 

「人型の崩し方なんざ、生身の格闘技で研究され尽くしてんだよぉ!」

 

巨大な人型機動兵器が立って歩けるのは、オートバランサーが常にアクティブで機能しているからである。

複雑かつ、精密な動きを必要とするMSには、それこそ最新のオートバランサーが搭載されている。

ではオートバランサーは何を元データに作られているか。

同じ形の2足歩行型哺乳類、要するに人の動きだった。

 

セイルは自身の持つ格闘技術を活用して、柔道のように組み付いた相手の重心を崩していた。

 

 

勿論そうした動きはここまでの道中、キラやニコルが『じゃあ見本見せるね』と襟元を掴まれたと思ったら宙を舞い3回転半させられたり、ローションをぶち撒けた床の上で相撲をさせられた経験から反映されたものだ。

 

可哀想に。

 

 

『このっ! 離れろよ! クソ野郎!』

 

ディアッカの苛立った声が接触回線を通して聞こえてくる。

それを聞いたセイルは人の悪そうな笑みを浮かべた。

 

「お口の悪い子がいるな。お仕置きに殺してあげようね」

 

セイルはブリッツの試作型スラスターを最大出力で吹かした。

徐々に組み合った2機が地面から離れていく。

 

『と、飛ぶ気か!?』

 

「シートベルトをお締めくださぁい!」

 

飛んだ。

 

元々バスターはアークエンジェルに向かう一団の先頭にいた。その為、視界内には巨大な空中戦艦が浮いており、2機はそこへ向かい進路を取った。

 

「ナタル! イーゲルシュテルン1つ寄越せ! 射線に入り次第発射!」

 

『了解です』

 

短い返答の後、すぐに艦載火器からの攻撃が始まる。

セイルはそれを、組み付いたバスターを盾にして受けた。

 

コックピットにいるディアッカは、自機の背部が激しい銃撃に晒される音に神経を擦り減らした。

 

『うおおっ! マジかよ!? 離せ!!』

 

「淋しいこと言うじゃねえか。連れションしようぜ!」

 

そのまま、バスターを艦の方へと押し込んで行く。

フェイズシフト装甲はビーム兵器を使うか、大火力の砲でパイロットごと圧殺するか、通常弾頭を当て続けて電力を高速で消費させることで突破出来る。

 

しかしこれまで、ビーム兵器、大火力は当たらず、当て続けることは現実的ではない為に実現には至らなかった。

 

重力の影響から逃れられない中、得意の遠距離火力を潰されたバスターは、今、頼みの綱である装甲までも剥ぎ取られようとしていた。

 

「お前の親はお前が死んだら泣くのかな? 知りたいなぁ、実験してみよう!」

 

ブリッツの背後で繰り広げられる戦場は、控えめに見てもザフトが不利に見えた。

僅かに残った航空戦力はモビルアーマーに次々と撃ち落とされ、地上に降り立った友軍機は戦艦からの砲撃でどんどん数を減らしている。

 

イザークの乗るデュエル等は特に念入りに、周辺の地形ごと吹き飛ばさんばかりの圧をかけられている。

その砲撃の精度も異様な程高く、ここから一発逆転に賭けるには、余りにも時間と戦力が足りなかった。

 

『ぐ……クソ、クソクソクソ! すまん、イザーク、アスラン。ここまでだ……』

 

危険域に到達したエネルギーゲージを見て、ディアッカは苦悶の表情でそう呟くと、バスターの両腕を上げさせた。

 

『……投降する』

 

「アーハン?」

 

命は羽根より軽いと思ってそうな声が返ってきた。

 

『だから! 抵抗しないから……助けてくれ!』

 

恥も外聞もなく、ディアッカは叫んだ。

いざ命の危機に瀕した時、士官学校で教わった全てがディアッカを救う役には立たなかったからだ。

 

「……ナタル、射撃中止。艦長、左ハッチの砲塔を引っ込めてくれ。ゲストをエスコートする」

 

セイルはブリッジへ指示を出しながら、高度と進路を変えていく。

 

『え、良いんですか?』

 

マリューからの問いに、肩をすくめる。

 

「盗品の1つ位は回収しとかねえと、カッコつかないだろ。パイロットはどうとでもなるしな」

 

『……了解です。マードック軍曹――』

 

マリューが格納庫へ指示を出し始めたのを確認しながら、ブリッツの右腕を、ビームライフルの射線に常にバスターを入れながら動かす。

 

「コックピットを開けろ。操縦桿には触るなよ? 抵抗した、と俺が判断した瞬間に殺す」

 

指先で、コックピット部分の装甲を叩いた。

 

『……頼むぜ、おい』

 

気密ロックが解除され、コックピットが開いていく。

 

「俺が愛する敵の全てが、お前のような腰抜けである事を願うよ」

 

『……ケッ』

 

2機はそのまま、砲塔が引っ込んだハッチへと飛び込んで行った。

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

「……あれは、ディアッカ!? やられたのか!?」

 

「駄目だ……駄目だディアッカ!」

 

「俺を1人にするつもりか!?」

 

「アスランの相手を俺1人に!」

 

「許さんぞディアッカァ!!」

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

「出ろ」

 

床に仰向けにさせられたバスターから照準を外さないまま、セイルが命じた。

ディアッカが両手を挙げて降参の意を示しながら、ゆっくりとコックピットから出て来る。

 

直ぐ様保安部の要員が銃を突きつけつつ、後ろ手に拘束した。

 

「常に2人以上付けとけよ」

 

「了解です!」

 

連れて行かれるディアッカ。

その顔は悔しさと、僅かな安堵が覗いていた。

 

「ガキがよぉ……マードック、ブリッツの充電頼む。燃費クソ過ぎだこいつ」

 

セイルはボヤきながら、コーラを嗜む。

当然炭酸入りだ。見事なげっぷを吐き散らす。

 

『了解。おい! ケーブル持ってこい!』

 

ドックが慌ただしくなった所に、ナタルから連絡が入る。

 

『中尉! デュエルが強引に突破を! そちらのハッチに向かっています! 閉めますよ!?』

 

「ああ? 落とせねえの? ハッチ閉めても寄られたら終わりだろうが」

 

セイルは直ぐにブリッツを動かそうとして、ふと先程引っ込めた砲塔が目に入った。

スムーズに出し入れ出来るよう、カタパルトに乗せられているそれが。

 

「おいマードック、あの砲塔、カタパルトで射出出来るか? 最大加速、回収も考えなくていい」

 

『いいんですかい? そんなもん、MSにゃ当たらんと思いますがね』

 

やろうとしていることに見当がついたのだろう。マードックは疑問を口にした。

 

「外うろつかれるより、入れちまった方がいい。デュエルがハッチから入ってきたら、ハッチを閉じて後ろを塞ぐ。そのまま砲塔を射出。射出と同時に左ハッチ内の緊急隔壁を全部落とす……どうよ?」

 

『そりゃあ……まあ、左のローエングリンは完全に使えなくなるし、ハッチもおしゃかでしょうが、出来ますね』

 

かなり気は進まない、と言った様子でマードックが答える。

 

「オッケー、それで行こう。中で暴れられるよりマシだ」

 

『艦長にはなんて?』

 

「こっちで説明するよ」

 

セイルはコーラを飲み干すと、タバコに火をつけた。

 

「艦長、こちら格納庫。デュエルはこっちで処理する。左ハッチ内での戦闘許可と、隔壁閉鎖含む主要権限を全部マードックに寄越せ」

 

『ハッチ内で戦闘するんですか!?』

 

マリューの驚愕した声が返ってくる。

 

「そこまで派手にやりゃしねえよ。ただ勢い付けてぶつかって、叩き出すだけだ。悪いけど、左ハッチは壊れるし、ローエングリンにも影響出るだろうから、エネルギー供給は切っといてくれ」

 

『……それでも、ドックまで入って来られるよりはマシ、か。わかりました、やって下さい』

 

「やっていいってさ」

 

やりとりを聞いていたマードックは引き攣った笑みを浮かべる。

 

『あの、ぶつけるのって装弾された砲塔なんで、確実に左舷カタパルトは全損するんですが……』

 

「いいってさ」

 

『ゴリ押すんすね? 後で怒られても知りませんからね!?』

 

「何故俺が怒られるの……? 主要権限は君にあるんだよコジコジ?」

 

『絶対言うと思いましたよ』

 

「さあやるぞ! カタパルト・タートルが何故エラッタの末に無期懲役にされたのか、理由を教えてやるぜ若造が!」

 

『攻撃力16,000投げればワンキル出来るじゃんとかやり始めたデュエリストのせいじゃないすかね』

 

「それはそう。イカれてるよあいつらは」

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

イザークはスラスターを全開にして飛んでいた。

正確には、それは『滞空時間の長い跳躍』に過ぎなかったわけだが、目的である敵艦ハッチへと到達するには十分な飛距離だった。

 

「みすみすと虜囚になるなど、馬鹿が!」

 

同期への悪態をつきながらも、イザークは止まらない。

なんだかんだと長い付き合いだし、信頼もしている。何よりこれで撤退したら、これからは常にアスランとサシである。

それは流石に法に触れる可能性があった。

勿論、イザークがプッツンした末にだが。

 

「邪魔を、するなぁ!!」

 

アサルトシュラウドの増加装甲で強引に砲撃を突破する。

度重なる砲撃の前に、既に装甲負荷は限界に近い。追加火力は尽く使用不能になっていた。

 

「うおおお!」

 

それでも、様々な執念のミックスされた気合いで、デュエルを左舷カタパルトへ飛び込ませることに成功する。

 

入ってすぐ、ハッチが閉じていくが既に遅い。

 

「ふん、壊して出ればどうということもない」

 

デュエルの追加装甲を剥離し、シールドとライフルを構えさせる。

 

「殺してやるぞ、ナチュラル共め!」

 

歩を進めたその時、カタパルトが起動した。

壁にグリーンのランプが灯り、足元が俄に帯電し始める。

 

「何だ?」

 

しかしハッチは閉じている。この状態で……

 

 

――ぅわあああああああああああああ!!! 助けて、助けてぇ!

 

 

突如として、悲鳴が飛び込んでくる。

それはイザークのよく知る声だ。

 

「この声は、ニコル!? なんだ、何が起こっている!?」

 

もしキラに聞けば、答えは直ぐに返ってきただろう。

『ああこれ、タッシルで情報得るために売られそうになった時の声ですね』と。なお買い手がつく寸前でマリュー達に止められた。買い手は主婦数名だった。

 

しかしそんな事を知らないイザークは動揺して、思わず声が降ってくる上を見上げてしまった。カタパルト内のスピーカーがある。

 

そこに、加速した砲塔が突っ込んできた。

 

「うがぁっ!」

 

カタパルトによる射出だ。別に弾丸のような速度が出る訳でも、ぶつかった瞬間に爆発する様なものでも無い。

だが、装弾済みの砲塔はそれなりの質量があり、MS1機を押し出す事位は出来た。

 

デュエルは抵抗する間もなく、閉じたハッチに押し付けられた。

 

『いいぞ、サイ。撃て』

 

そんな指示が、スピーカーからイザークの耳に届く。

何を、と思う間もなく、追突の衝撃で歪んだ砲塔が爆発した。

 

「うわあああああああ!!」

 

爆発によりハッチは破られ、イザークは空中に放り出されることとなった。

 

あの声、聞き覚えがある。

凄まじい衝撃と、それによって砕けたモニターの破片で傷を負ったイザークは、思い出していた。

 

奴だ。セイル・オランチョだ。

 

「おのれえええええ!!」

 

怨嗟の声は誰にも届かず、損傷の激しいデュエルは最後に残っていた味方のディンによって回収されていく。

 

「このままでは、このままでは済まさんぞ、セイル・オランチョ!」

 

こうしてまた1人、コズミック・イラにカスへの復讐者が生まれた。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

『左舷カタパルトとローエングリンが全損してるんですが!!? 中尉! 何やったんですか!?』

 

悲鳴のような確認がマリューより入る。

 

「や、僕はわかんないっすね。コジコジに聞いて貰えます?」

 

『そんな訳ないですよね!?』

 

言い逃れは難しそうだ。

 

「何だよぉ、壊れるかもって言ったじゃん」

 

『壊れるどころか消滅したんですよ2つとも! え? 何ナタル!?……ゴットフリートも駄目になったみたいです! 左舷前方の火力が死にましたが!?』

 

ひっどい損害が出ていた。

ちょっとやり過ぎたかもしれない、と珍しくセイルも反省した。

 

「アレだよ。左カタパルトとローエングリンとゴットフリートでシンクロ召喚した砲塔を、カタパルト・タートルで射出したんだよ」

 

なのでまあ、それはそれは酷い言い訳が口から漏れることとなったのだが……

 

『何を訳のわか……わかるわ……そうね、それは壊れるわね。せめて一言言ってくださいよ……』

 

マリュー、わかっちゃった。

 

「デュエリストは皆キチガイだから説得が早いんだよな」

 

さすが膝だよ、妖怪膝女(裏社会での異名)。

 

『アンタいつか刺されますよ?』

 

「俺を刺そうとする者には、全てこの銃弾で応えるのみ」

 

『カスのケンシロウじゃないすか』

 

マードックの言に、ハハンと笑う。

 

「今だって十分世紀末みてえなもんじゃん……あ、充電もういいかな。6割あれば上等だ」

 

『へいへい。右から出るなら砲塔下げますが』

 

「いいよ、せっかくデカい穴が空いたんだ、隔壁上げて貰える?」

 

ブリッツを起動し、ハッチだった方へと向かう。

 

『良いですが、出たら直ぐ閉めますよ』

 

「ああ、どうやら戦闘もこっち有利で大詰めだ。勝つぞマードック」

 

『ええ、ご武運を。しがない軍人のアタシですが、人生で一度位は凱旋ってヤツをしてみてえや』

 

「いいね、女選び放題だ」

 

『隔壁、上げますぜ!』

 

「オーライ……案外チョロかったな。クルーゼの奴は来てねえのか。ストライクで簡単に釣れたり、デュエルが追いかけて来たり、一貫性のねえ奴らだ。素人かよ」

 

 

 

チョロい、そう言い示す程、戦闘は順調に推移していた。

初手の奇襲が成功した後も、戦力の切り離しと各個撃破。航空戦力の殲滅と想定通りに進んでいる。

 

最新鋭艦とそれによって運用されることを前提にしたMS達、更には歴戦と言って差し控えのないエースが2人。

仮に何かのパーツが欠けていれば、こんな状況にはなり得なかっただろう。

 

セイル・オランチョとて人間であり神ではない。思考し施行する必要のある人間だ。カスではあるが。

だからやはり、完璧ではないということは忘れてはならないのだ。

 

その為、最新の戦況を見ることが出来ていたのは、今回オマケとして頭数には入っていなかった、トール・ケーニヒ唯1人だった。





アスランはメンタルを追い詰められて精神疾患を抱えているんですよ。
それを差し引いてもまあ気持ち悪いな……なんでだ。

さあ、原作に収束していきますねー
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