私には、歴戦だの優秀だのなんて枕詞は似合わない。
パイロットとしては大成しなかったし、今じゃしがない研究員兼物書きだ。
「それではジュリ様」
そんな私にも、いくつかの戦いの中で培われた勘ってものくらいは備わってる。
「早速、執筆をお願い致しますわ」
その勘が言ってる。
「キラニコNTR オランチョの襲来 After 慰めイチャラブ with ラクキラ略奪愛500ページ大増量版を」
私は、次のイベントで――死ぬ。
トールがアスランと史実ではあり得なかった友情を育む少し前、戦闘から一日が経過し、一路アラスカへと向かうアークエンジェルの格納庫では騒ぎが起こっていた。
「駄目ですって大尉! ちゃんと点検もしないで何度も飛ばすなんざ! 昨日から1回も寝てないでしょ!?」
マードックの焦った声が響く。
「そんな事、言ってらんないだろ! これ以上の戦闘は不味いんだ、敵が近付いていたなら少しでも早く見つけないと……俺ら大人のせいで、また子供が死ぬかもしれないんだ……頼むよ、軍曹!」
言われていたのはムウ・ラ・フラガだ。
険しい目つきに疲労の残った顔色は、機体だけでなくパイロットも限界が近いことを示していた。
「気持ちはわかりやすが……大尉が倒れでもしたらそれこそ――」
「俺なら、例え心臓が止まったって戦ってやるさ! 頼むよ!」
ムウは止まらなかった。
残敵掃討中にセイルからキラ達のMIA報告を聞き、それから丸一日、殆ど休まずに繰り返し周辺警戒に出続けていた。
そう、彼は知らないのである。
実は2人共生存の可能性があるという事を。
何ならセイルが現地に着いた時点では、恐らく2人共確実に生きていたという事を。
あの後、ブリッジに戻ったカスは、未だ帰還せず周辺警戒を続けるムウには2人の生存の可能性が高いことは伏せる方向で会話をした。
①ムウが2人の生存を知る
↓
②バカだから態度に出る
↓
③アラスカで報告を受けた上層部がそれを見る
↓
④アラスカは腐っても本部なので、激戦区上がりも何人かいて、当然過去に部下を全員失ったムウ・ラ・フラガを知る者がいる
↓
⑤バカのバカ挙動からバカが怪しまれて再確認が入る
↓
⑥個別に深掘りされたら多分性格的にナタルが喋る
↓
⑦終わり
という高度な予測により、満場一致でダマとする事に決まった。
その為、ガッツリとトラウマをほじくり返され、自責の念に駆られたムウは自身を罰するかのように無茶な出撃を繰り返していた。
「タカちん、落ち着けよ……あんま頻繁に飛んでっと、逆に発見されちまうぜ?」
そして、裏でマードックに泣きつかれたカスは、それを止めるために格納庫に現れた。
「セイル……お前だって、あいつらが死んだ事に何もねえとは言わさねえぞ! 部下だろ!?」
しかしまあ、優秀な軍人が動機は何であれ熱意に燃えているというのは扱い難いものである。
それが偽りの動機なのだから尚の事だ。
「そうだけどー、起きちまったもんはしゃあないでしょ。あいつらは命を賭けた、それは今こうしてタカちんに無理をさせる為なのかい?」
「っ、テメエ!」
めんどくさいなー、とカスは思った。
いっその事話しちゃうか? とも。
(でもなー、トールはともかくキラはなー……)
すこぶる優秀なコーディネイターでおまけに軍事機密に触れ、プラント評議会メンバーの息子と交友があるパイロットがどっか知らない場所で生きてます。
殺さない理由が無かった。
マリューはまあ別に、甘ちゃんだからキラ達の為って言えば嘘はつけるし、どうせ放っておいても勝手に貧乏くじは引いてしまうだろうからいいとして……
(機体ごとパイロットも損耗しました、で終わらせんのが1番角が立たねえんだが、ここまでの戦果的に怪しまれたら個別聴取だし……そうすっとタカちんもナタルちゃんも嘘がなー)
ナタルとキラの身の安全を加味して考えた結果、やっぱり黙っていることにしたカス。
しかしそれだけではムウが納得しなさそうな雰囲気でもある。
少し悩んだ末、カスは顔をムウに向けた。
「…………キラ達をよぉ」
「おう」
「殺しちまうなんてよぉ」
「おおっ!」
「許せねえよなぁ! メチャムカつくぜぇ〜〜〜!!」
「おおおっ!」
「絶対ぇ許せねえよ、俺がぶっ殺してやるぜぇ!!」
「そうだ! よく言ったぞカス!」
後ろの方でマードックが呆然とした顔をしている。
「次は俺が出るぜぇ。タカちんはまず休んで、医務室で元気が出るやつ出してもらいなよ。機体もちゃんと見てもらってさ。そうじゃねえと、戦闘になったらあいつらぶっ殺せねえからよ」
「……すまん、頼んだぜ!」
ムウが去っていく。
「いいんですかい? ブリッツはもうすぐ点検終わりますが、前も言いましたがそんな飛んでられませんぜ?」
マードックが恐る恐る声を掛けてきた。
「あ? 誰が出るかよ面倒くせえ。今は寧ろスカイグラスパーが動かせなくなる方が影響デカいんだよ、ここ海の上だし」
言いながらカスは通信端末を取り出した。
「あ、もしもし医務室? これからタカちんが行くからさ、あのクソ強い鎮静剤ドカッとブチ込んで寝かしつけちゃって貰える? そう、カズイに使ったやつ。うん、艦長の指示。よろしくねー」
通信端末をしまった。
「前々から聞こうと思ってたんですが、罪悪感とか知ってます?」
「あの人に植え付けるアイテムだろ? 人妻とかよく刺さるんだよね」
「っすかぁ……」
「つか、念の為バスターも動かせるようにはしといてくれよ。最悪、俺とニコルで出ることになるから」
「あの坊っちゃんも何だかんだ断らないからなぁ……了解しやした」
マードックを見送ったカスは、タバコを取り出した。
何処からか飛んできたトリィが肩に留まると、首元から下げられたマッチ箱からマッチを取り出し、器用に擦って火をつけた。
結局火はマッチに落ち着くなぁ、とカスは思った。
「次はジッポかなぁ。でもなあ、指がねえからなぁ……ディアッカの切り落とすかぁ?」
カスなので、少し人数が減った艦内に、寂しさを覚えるような感傷は持ち合わせていない。
ただ少し、よく働いた弟分であるキラや、自分から協力したいと言ってきたトールの事が、思えば嫌いではなかったな、と振り返る程度の時間は割いた。
立ち昇る煙の行方は、ようとして知れなかった。
―――――――――――――――――――――――――
「プラントってどんなとこなの?」
その問いに、ディアッカは怪訝な顔をした。
「はあ? 何でそんなの気になんの?」
「いけない?」
フレイは不思議そうに首を傾げる。
オランチョ小隊が誇る色恋柱のフレイ・アルスターは、その性能を存分に発揮してディアッカを籠絡に掛かっていた。
「それはね、あんたと話をする上で、あんたがどんなとこで育ったどんな人か、知りたいから聞いてるのよ……満足かしら?」
「……ケッ、別に街並みやなんかは、オーブと大きい差はねえよ」
既に手錠は外されているディアッカは、耳をほじりながらそう答えた。
「へえ、そうなんだ……ねえ、カラオケとかテナントショップとかあるの? ファッショントレンドは地球と違うのかしら。有名な雑誌とかある?」
グイグイくる。
「待て待て、待て……近くねえか?」
ベッドの縁に腰掛けるディアッカは、横に顔を向ける。
30センチくらいの場所に、フレイの顔があった。
色恋の呼吸、壱の型、男側だけがキスを意識する距離。
「ん?」
弐の型、首傾げわからないけど取り敢えず笑ってみた感。
「つか何で横に座ってんだよ、椅子使えよ」
プイ、と顔を逸らす
「目の前で椅子に座ったら下着見えちゃうじゃない……あ」
参の型、エッチだなぁ男子は、しょうがないなぁもう、の目
「おい!? 謂れのない疑いをかけるんじゃねえ!」
「大体、コーディネイターなんてみんな美人ばっかりじゃない。今更ナチュラルの私の下着が見たいって……」
「見たくねえよ!? てかお前、その見た目で外見クサすのは無しだろ……」
「あら? 何か言ったかしら?」
「はいはい何でもありませーん、パンツも見たくありませーん!」
ディアッカは不貞腐れて横になった。
ニコル達が出ていった後、何故かフレイは再びやって来て勝手に座り話始めたのだ。
「どういうつもりか知らねえけど、プラントの事が知りたいならニコルにでも聞けよ」
ゴロン、とフレイに背を向ける。
「駄目よ」
フレイは鈴を転がしたような声を返す。
「ニコル君、これからブリッジで16時間勤務した後であんたの乗ってたMSのシステムチェックして吹き飛んだ左舷の瓦礫撤去して隊長のご飯運んで洗濯してまたブリッジ勤務だもの」
「……気のせいか? 今休み時間がなかったように聞こえたんだが」
「ニコル君の次の休みは明後日の深夜2時から3時間ね」
「いくらコーディネイターでも死ぬぞおい!」
ガバっと身を起こすディアッカ。
「大丈夫よ。キラ……ストライクのパイロットはもっと過酷な扱いだったし、いざとなれば寝なくて良くなるお薬もあるし」
「それは……この艦が特別忙しくて、クルー全員がそんな働き方してるってことか?」
恐る恐る、そんな問い掛けが口から出て来る。
これは確認だ。
絶対にしておかなければならない確認なのだ。
「オランチョ小隊のキャッチコピーなのよ。『死ぬ気でやれよ、死ぬまで死なねえから』って」
「クソが! 人類史でも稀だぜそのレベルのブラックはよ!」
「チームカラーはペンタブラック、稼働率300%なのが特徴よ」
「それは特徴じゃなくて死因なんだよ……やべえよ、やべえとこ入っちまったよ……」
頭を抱えるディアッカを、フレイは面白そうに眺めていた。
「慣れたらどうにかなるわよ。あ、言っとくけど隊長が無茶振りするのは基本的にコーディネイターの子だけよ。前にカズイってナチュラルの子がいたんだけど、その子は定期的に奇声を上げてスキンヘッドにされて最後は赤ちゃんみたいになっちゃったから」
「心の殺人って本当にあるんだな……じゃねえよ!」
「あんたは大丈夫よ、キラ達より器用そうだもの」
ポンポン、とディアッカの太ももを叩くフレイ。
四の型、コツは目を合わせておくこと。
「う、うるせえ、いつまでにここにいんだよお前」
「私は……何にも出来ないから」
フレイは物憂げな目を足元へ向ける。
「私達を守ってくれる人を、少しでも励ませたらなって」
「守るって、俺にか? 頼む相手が違うんじゃねえの?」
困惑気味のディアッカに、フレイはそっと手を伸ばした。
細く白い指先が、そっとディアッカの手の甲に触れる。
伍の型、不安そうな顔でフェザータッチ。
「間違ってなかったら、いいなって」
もはやディアッカは情緒がぐわんぐわんであった。
同世代かつ、まあ言ってみればフレイ・アルスターは美少女なのである。それも歳不相応に大人びた魅力の。
それが気安さとほのエロさのステップを巧みに駆使してスルスルとディアッカのパーソナルスペースに踏み込んで来る。
踏み込んできてから、この不安そうな顔である。
童貞になす術などないのだ。
「ディアッカは、プラントに戻れたらまた戦争に参加するの?」
「そうなんじゃねえの? そんな奴を隊に組み込むなんかどうかしてるぜ」
「そう……死ぬのは怖くない?」
フレイの指先に、僅かに力が増す。
手の甲に落ちる指から自分のものではない熱が、ディアッカの背筋を震わせた。
「怖い……もんかよ、ザフトだぜ俺は」
「私は、怖いわ」
フレイの瞳が、ジワリと光沢を増す。
「私が死ぬのも、私が知ってる人が死ぬのも、怖い」
「なんで戦場に出て来たんだよ、オーブにでも逃げてろよ」
何か悪いことをしている様な気分になってきたディアッカは、誤魔化すように顔を逸らして床を見た。
そこに、間髪入れずフレイが額を肩に乗せてきた。
「ごめんなさい、困るわよね……でも……助けて欲しいの」
ディアッカは身体が石になったように錯覚した。
ピカピカのDボゥイであるディアッカにとって、異性の体温や重さというのは、抗い難い誘惑に満ちていた。
「もしも、あなたがプラントに帰ることになっても」
フレイの声は、もはや囁くような、吐息のような響きに変わっていた。
淕の型、今にも泣きそうの声だぞ、震えろ。
「私はきっと、あなたの無事を祈るから」
肩と手の甲の感触に全集中しながら、ディアッカは精一杯の強がりを練り上げた。しかし――
「今の俺は、名目上はこの艦の捕虜なんだよ」
強がりとは即ち、常に下の立場の者が纏う鎧なのである。
「得体のしれねえ隊に入れられちまったのは業腹だけどよ」
そして古来より、童貞が女に対して纏う強がりほど脆い鎧は存在しないと、歴史は証明している。
「そこでやらされる範囲でよけりゃ、頼ればいいんじゃねえの?」
この仕上がりである。お前ももうやめちまえザフト。
「……ありがとう、ディアッカ……みんなを助けてあげてね」
「そこはお前を、じゃねえのかよ」
茶化す様なディアッカに、額を離して顔を上げたフレイは、
「あら、それいいわね」
15センチの距離で、笑った。
「私が祈って、あなたが助けて」
安心した、と言わんばかりの穏やかな笑みを。
「とんだ永久機関だわ」
ディアッカは心の何処かが圧壊する音を聞いた。
………
……
…
それからムウは3日は眠り続け、その間敵襲はなく、ディアッカはフェーズ2に至り、どうやらアラスカへの到着はもう間違いないようだった。
第三章、完!
これ多分あんまり信じて貰えないと思うんですが、後書きが1,000文字超えてる時って大抵は最初300文字位だったんですよね。
なんか、気が付いたら、オートで、知らん内に文字が増えてるんですよ。スタンド攻撃に違いないと思いますね。
■人物紹介
・ジュリ・ウー・ニェン
オーブにおける『始まりの3人』とされるMSパイロットの1人。
中遠距離からの砲撃支援を担当しており、他の2人より派手さはないが堅実な仕事振りは評価が高い。
地味目なルックスで『明るくてしっかりした女性が好きだな。え? 外見なんか関係ないよ』とか素で言うようなモテない方の童貞達からはやたらとモテるが何のメリットも無かった。
戦後、モルゲンレーテで研究職に就く傍ら、手慰みに書き始めた創作小説の出来が思いの外良く、数百人のフォロワーを獲得。
偶々オーブでコンサートを開いていたニコル・アマルフィが、偉大なる伝説のパシリにして英雄キラ・ヤマトと楽しげに食事をしていた所をスクープされた際、執筆配信中だった彼女がそのニュースを観て『そういや2人は付き合ってたのよね』と漏らしたことから燃え上がり、新たなる生モノジャンルが爆誕した。
フォロワーの期待に応えるべく、2人の戦場での出会いから愛欲の果てをでっちあげたハードBL小説を執筆。リアルな戦場描写やタブーに溺れる2人の共依存関係を丁寧に書ききり、見事に万バズ。
イベントにも出品し、一躍界隈における時の人となる。
ペンネームは青保留。
しかし2度目のイベント時、突如として当該ジャンルでは絶対の禁忌とされている生モノ純愛BLのNTR、からの異性間恋愛(女性優位逆転無し)に発展する小説『カス→ニコNTRで傷付いたキラ・ヤマトは愛でられたい』を発表。
通称『アンパンマン号からジェネシス事件』の勃発である。
※平和な世界観を崩壊させつつ世界そのものを終焉へ導くことの意
※『こんなのBLじゃないわ! アンパンマン観てたらジェネシスが出て来たようなもんよ!』という掲示板の書込みより命名
阿鼻叫喚の地獄が発生した所に、銃と高枝切り鋏で武装したセイル・オランチョが襲来。即座に逃走、消息不明となる。
その後、逃走中に路地裏で偶然出会したサイ・アーガイルの家に転がり込み、仕事も辞め、一切外出もせず、半年に渡る爛れた隠遁同棲生活の末、なんやかんやあってデキ婚した。
結婚後、世界平和監視機構初代総帥の仲裁によりカスとの和解が成立した。しかし、会談の場を武装して強襲したカスに対し、武力行使を伴う仲裁となった為、会場にされたモルゲンレーテが半壊する被害に見舞われることとなり、初代総帥が経緯を知った伴侶からガチ目に怒られたという未確認情報がある。
一方、ニコル・アマルフィは両親から理解を示す目で『キラとカスのどっちが本命だったの?』と聞かれ一月程失語症に陥っていた。
余談ではあるがこれをきっかけにニコルは婚活に精を出し始め、ちょっと表に出せない様なエグ目の顛末を辿り、アスラン達から『さん付け』で呼ばれるようになるがそれは別のお話。