エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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基本原作準拠の流れなのにアラスカ着くまで70話もかかるってガチ?


第四章 真・舞い降りたカス
第70話 大天使に喝采を


 

眼下には、雄大な地球連合軍アラスカ本部基地の姿が広がっていた。

 

「長かった……もう何度も駄目かと思ったけど……」

 

マリューは感無量という声で呟いた。

 

「ええ、ついに我々は、任務を達成しました」

 

ナタルもまた、達成感を滲ませた声でそれに応える。

 

「やだ……朝日のせいかしら、涙で目が……」

 

マリューは目頭を抑え、俯いた。

 

「艦長」

 

「やだ……心が歓喜を叫んでいるからかしら、耳が……」

 

空いている手で耳をほじり出した。

 

「艦長」

 

一転、ヘドロに沸き立つ泡のようにどんよりとした声を出す。

 

「夢よ……これは夢なの……私はまだヘリオポリスのベッドの中で目が覚めたら強くてニューゲームなの……」

 

そして襲撃の日は朝から脱出ポッドで過ごすの。

フレイさんと出くわしたらチャート走り直しで。

 

「艦長、残念ながら、あれらは現実の光景です」

 

眼下……地球連合軍アラスカ本部基地……アークエンジェルが誘導されたドッグ入り口前に、様々な廃材や装甲板で作られたと思しき巨大な板に、鮮やかな黒に赤字の塗装が施されていた。

 

周囲には多くの人達がおり、何やら口々に叫んでいる。

歓迎の言葉だろうか。

 

マリューは薄目を開けて、再びそれらの光景を見た。

 

 

 

 

 

 

 

失せろカス

 

こっち来んな悪魔

 

空飛ぶラクーンシティを降ろすな

 

暗黒の世界に帰れ堕天使

 

NO MORE カス

 

欲しがりませんカスの死以外は

 

 

 

 

 

 

装甲板に書き殴られた文字列達が、凱旋したはずのアークエンジェルの眼前に並べられている。

 

「…………………なぁにあれぇ」

 

笑っちゃうくらい一瞬で、ポッキリと心が折れたマリューはナタえもんに泣きついた。

 

「反オランチョ過激派でしょう。第8では最後の一人に至るまで駆逐されたので、久しぶりに見ました。まさか地上に生息していたとは」

 

この才女はカスに関することだけは本当に何でも知ってるな、とマリューは思った。

 

「そんな絶滅危惧種みたいな表現ある? 人よ?」

 

「……? ああ、そう言えば艦長は『3.5.ベルナルド事変』や『仲良し3人組殲滅騒動』もご存知ないんですね」

 

「何一つとして詳細を聞きたくない新情報が来たわね……」

 

取り敢えずカスが自分に楯突く連中をセガールばりにボコボコにしたのだけは理解出来た。

 

「まあ、あの性格と能力ですからね。排除しようとする勢力は定期的に興るんですよ……成功者はいませんが」

 

「でしょうねぇ……え、第8艦隊でもあったの? 聞いたこともないわよ私」

 

「極力外には出しておりません……死人も出ておりますので」

 

その言葉に、ブリッジ全員の瞳が驚愕に彩られる。

 

「それを……許したの? 提督が?」

 

「そもそも軍事機密の漏洩や一部予算の不正流用をネタに、中尉が脅しをかけたのが発端であったり、行き過ぎた正義感の暴走だったりと、それなりに重い処罰の下る連中でしたし、その……」

 

ナタルは言い淀むと照れ隠しのように、帽子のつばを落として目を伏せ、

 

「私の、家絡みでの揉め事に首を突っ込んだ形もあったりで、あの……私も何度か、弁護を……」

 

ぽしょぽしょと述べる。

マリューは立ち上がった。

 

「ナタルちょっと会議室。あ、ノイマン曹長はそのまま着艦作業に入って」

 

「え、ちょ、あの人達は!?」

 

「無視して。轢いてもいいわ、どうせ中尉絡みだし」

 

「なんてこと言うんですか!? ハウ、ちょっとスピーカーで呼びかけしてくれ!」

 

「え、私ですか!? ええと、もう!」

 

外部スピーカーを入れると、ミリアリアは戸惑いながらも前方の集団に呼びかけを始めた。

 

『えー、当艦はこれより着艦シークエンスに入ります。危険ですので速やかに進路上から退避をお願いします』

 

 

――ざっけんな消えろや!

 

――回れ右して海に突っ込め!

 

――忌まわしいカスキャリアー共が!

 

――プラントの次はお前等を滅ぼすぞ!

 

――俺の女返せカス!

 

――最近ようやく笑ってくれるようになった息子がお前みたいになりたいっつってんだぞ! 絶対に殺してやるからなカス!

 

 

規律を重んじる地球連合軍人の口から出ているとは思えない言葉が飛んでくる。控えめに言って秩序や優しさの失われた地獄だった。

 

『えー、危ないですよー』

 

ぎゃーぎゃー

 

『えー』

 

ぎゃーぎゃー

 

『あー……』

 

ミリアリアの目が据わってきた。

 

『今進路上にいる人達、大人しく言っているうちにどいてもらえないなら、こちらとしても考えがありまーす。具体的には交通整理の為にMSに乗せたオランチョ中尉を降ろしまーす』

 

シン、と群衆が静まり返った。

 

『車のバンパーは人を刎ねる為にあると公言してる人でーす。痛む心は持ち合わせていませーん。こちらとしても艦載機に()()が着くと掃除が面倒なのでどいてもらえると助かりまーす。それではカウントしますねー、スリー、ツー』

 

人々はシャー、とハケていった。

どういう恐れられ方をしているんだろうか、あの上司は。

 

「ふう……良かった、どいてくれましたねノイマンさん!」

 

「あ、うん、はい……あっす」

 

ノイマンはそっと目をそらした。

 

「え……私頑張りましたよね、チャンドラさん?」

 

「ぃっす……しゃっす」

 

チャンドラはそっと目をそらした。

 

「え? 私なんかミスりましたか? 艦長?」

 

「…………戦争って残酷よね、ナタル」

 

成長したクルーを複雑な表情で見つめるマリュー。

連れ出そうと掴んだナタルの手首は離さなかった。

 

「これはもう、最初から素質があったとしか……」

 

世界最高のカス・ソムリエからもお墨付きが出た。

掴まれた手首を振りほどこうと振ったが逃れることは出来なかった。ボクシングの世界にウェイト差が何故あるのか、よく考えるんだバキ・ハンマ。

 

「トールさん……無事なら早く帰ってきてください」

 

隅っこでニコルが、ストッパー完全不在の恐怖に震えていた。

 

―――――――――――――――――――――――

 

「遠路はるばるご苦労だったね、ラミアス少佐」

 

50の半ばも過ぎているだろう、落ち着いた雰囲気の地球連合軍少将が、艦を降りたマリュー達を出迎えた。

先程までのドッグ前での騒が嘘のような厳粛さだった。

 

「はっ!」

 

敬礼するマリュー達もそうした疲れを見せることなく、きちんと整列してそれを受け入れた。

 

「うん。昨日こちらの警戒網内に入ってから送って貰ったレポートの内容は、目を通してある。月にいるハルバートンからもくれぐれもよろしくと言われていてね」

 

返礼しつつ、少将は穏やかな口調で続けた。

 

「ハルバートン提督が……」

 

親愛する上官の名前に、マリューの顔も綻ぶ。

カスは床に唾を吐き捨てた。

 

「査問会はあるが、何、君達のレポートに紐付いたいくつかの問答に答えてくれればいいからね」

 

少将はふくよかな顎を撫でながら、人の良い笑みを浮かべた。

 

「少佐達の正式な退艦は、ひと月程待ってくれ。慣例的な手続きなので時間がかかるし、何分バタバタしていてね。引き継ぎの体制ももう少しかかるんだ。とはいえ、砂漠と海の解放者をこのままにしておくのは忍びない。諸君らは半舷休暇を取りつつ、修理と補給を手配するから、後ほど担当者への対応を頼む」

 

ようやく艦を降りられる、と聞いて、マリューは本当に久しぶりに、胃が軽くなったような気がした。

思えば技術士官の自分等が、よくも戦闘艦の艦長など務めていたものだ。

 

「……ご配慮、誠に感謝致します。それでは、凡そひと月後には?」

 

「うん、君には月に上がってもらう事になるだろうね。バジルール大尉はどうかな……転属の話が来ているから後で確認して欲しい。フラガ大尉も原隊に復帰か、もしかしたら今回の経験を活かして異動となるかもしれない。他の者も、順次退艦だ……まあ、ここアラスカは地球連合の懐だが、今はどこもお寒い状況でね。もしもリクルートの相談があったら、前向きに考えてみてくれたまえ」

 

「かしこまりました」

 

「うん、ハルバートンからはね、その辺は自由に考えてくれて良いと言伝を貰っている。それと……そこの縄で縛られて足枷をされているオランチョ中尉に話をしてもいいかな?」

 

「…………勿論です、少将閣下。あの、近付かないようにご注意を……汚いものが飛んできますので」

 

うんこ投げてくるゴリラとかに対する注意喚起。

 

「まあ、ハルバートンからは色々聞いてるし、僕個人としても彼の事は知っているからね」

 

その言葉に、クルー達は一様に驚きを隠せない表情になる。

嘘だろ、あのカス、他所の少将クラスに人格知られるレベルで好き勝手やってたの? バカじゃないのなんで死んでないの、と。

 

少将は歩み寄り、カスの目の前に立った。

 

「やあ、久し振りだね中尉……世界樹以来だ」

 

「ご無沙汰」

 

そのタメ口をやめろカス、とマリュー達は思った。

 

「あの時君に助けられた命が、ついにはこんな所にまで来てしまった……人間、何があるか分からないものだね」

 

「の割にはその後の話は聞かねえけど、ここで何やってんの? 老人ホームはここにはねえぜ、おじいちゃん」

 

敬老という文化に触れてこなかったのだろうか。

そうでなくても軍隊で目上かつ上官など、神の如き存在なのだが。

 

「はっはっは、将官ともなるとね、()()()()()何かしらの役割を果たすようなこともあるのさ……まあ、近い内にここに残る将官は僕だけになるのだろうけどね」

 

「……残る?」

 

カスの反芻に、少将は人の良い笑みを深くした。

 

「ハルバートンから伝言だ。()()()()()()()()()()()()だそうだよ」

 

言うだけ言って、少将は去って行った。

マリュー達が安堵の息を吐く中、カスだけが先程の言葉の意味を考え続けていた。

 

「残る? 本部基地に? 残る……残される……いるだけでいい役割……」

 

「中尉、戻りますよ?」

 

マリューからの呼び掛けに、思考を中断される。

 

「んー、あー、そうだな。つか、そろそろタカちん起こさないと。艦長の指示で眠らせたんだから、艦長が起こしてよね」

 

「流れる様に罪を生まないで貰えますか……絶対怒りそうなので嫌です」

 

「膝枕してから起こせば絶対怒らないから大丈夫だよ」

 

「中尉がやればいいのでは? あと、やっぱり私、アーマー乗りはね……」

 

「それ職業差別だろ。もしかしたら、ここに来るまでに艦長がいなくてもタカちんは死ななかっただろうが、タカちんがいなきゃ艦長は死んでたぜ?」

 

その言葉に、マリューは苦笑した。

 

「……最後の会話を思い出して後悔するのは、もう御免なんですよ」

 

「なら、そういう風に言ってやれって。きっと毎回別れ際にトリニダード・トバゴみてえな騒ぎで思い出も更新し続けてくれるだろうぜ、あいつバカだから」

 

毎回カリブ海のカーニバルみたいな騒ぎになるのは、ちょっと困るなとマリューは思った。

 

「ちょっと可愛いですねそれは…………まあでも、口車に乗って大尉は私が起こしに行きますよ。もし怒ってたら、そちらに振りますので」

 

「任せてくれ。同じ薬はあと4セットあるんだ」

 

「もう少し、言葉の力を信じて欲しいのだけど……」

 

「信じてるよ。『この鎮痛剤は大変強力です、連続使用はしないで下さい』って説明書きの言葉は」

 

「信じてるなら使わないでくださいよ!?」

 

「あいつは、不可能を可能にする男なんだぜ?」

 

「その解釈は不正利用が過ぎません?」

 

マリュー、カスが連れ立って艦の方へ歩き出す。

ジャラジャラと足枷の鎖が音を立てたが、それを気にする者は誰もいなかった。だって治安維持には必要だし。

 

2人の後にナタルも続く。

 

「転属……?」

 

何処か虚ろな目で、そんなセリフを呟きながら。





ついにアラスカですよ!
長かったー!

こっから先は比較的オリチャーになるので、予め!


■人物紹介
・少将
第3艦隊所属。
世界樹攻防戦で指揮を執っていた将校の1人。
穏やかで事務仕事向きの能力から、脳筋が多い宇宙軍では扱いが低かった。

世界樹攻防戦では型落ちの戦艦の寄せ集めと、爪弾き者をまとめた部隊の指揮を割り当てられ、何なら死ぬ迄の時間予想を賭けのネタにされていた。

配下にカスが配属されたのが運の尽き。

気が付けば世界樹攻防戦後、目覚ましい戦果を記録した歴戦の古豪、牙を隠していた老虎、戦場のモーツァルト、大混戦の中で唯一輝き続けた北極星等、かなり好き勝手な渾名を着けられた。
何気に艦隊戦においてモビルアーマー運用でMSに優位をとった最初の1人、という扱いになっている。

賭けをしていた司令部の人間はほぼ壊滅プラス、この英雄の生き死にを賭けの対象として娯楽にしていた事を追求され失脚。
あれよあれよと言う間に艦隊トップになってしまった。

その重圧にメンタルをやってしまい、素直に上に相談した所そんな事が外に言えるかと、表向きはアラスカに栄転となった。
ここでは閑職だが、実績だけはド太い為にまあまあの権力はある。


■用語解説
・3.5.ベルナルド事変
第8艦隊作戦室所属のタータス・ベルナルド(35歳)によって引き起こされたクーデター未遂事件。

タータスは特定の軍需企業への口利きをする事で賄賂を得ており、その対象となる物品は多岐に渡っていた。
メビウスの武装に関しても含まれており、世界樹攻防戦後、セイルの提出したメビウス整備計画を握り潰したのが運の尽きとなる。

当初、セイルはエースパイロットとなった自分がいれば説得力が増すからと取引に噛ませることを要求。
タータスが受け入れた直後にマネーロンダリング用のペーパーカンパニーを設立し、金の流れを管理する側に立つ。

企業から受け取った金を洗浄してタータスへ流す、と見せかけて実際には裏社会の人脈を経由して武器・薬物の密輸、人身売買、詐欺恐喝等あらゆる犯罪の原資として使われ、結果生まれた利益を得る、謂わば資金汚染を行っていた。

タータスが気が付いた時には既に、裏社会のフィクサーとしてタータスの名前がマークされている様な状態だった。

裏切りを悟ったタータスは子飼いのチンピラを集めると.ハルバートン提督が外出したタイミングでセイルへの復讐を決意。セイルが艦内で1人でいるタイミングで強襲をかける。


そして当然のように返り討ちに遭い、抵抗激しく()()()()()()()される事になった。


検死にて、タータスは両手足を撃ち抜かれ跪いたところを斜め上から至近距離で額を撃たれており、セイルの『抵抗激しく』という言葉は信憑性を疑われたが、現場が()()()()()()()()()()()()()()()ことからクーデターの示唆が認められ、めでたく無罪放免となった。

当時ハルバートンは『ワシの外出を作戦室側で把握してない訳ないだろ、ふざけんじゃねえぞあのカスマジ』と言葉を残した。

なお資金汚染経路はこの後も度々セイルの謀略の1つとして活躍することとなる。
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