エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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※注意喚起
冒頭、カスは出ませんがカスに関する大人同士の聞くに堪えない口論があります。予めご了承ください。

カスに関わると口調が荒くなるのは、きっとみんな疲れているからなんでしょうね。

アラスカ編は畳み方間違えると後続に影響出そうなので刻ませて下さい。


第72話 前夜祭①

 

会議室は薄暗く、壁のスクリーンからの照り返しがその場にいる者たちの顔を照らしていた。

この場には、地球連合軍を構成する派閥として、特に大きな勢力を持つ大西洋連邦とユーラシア連邦の佐官以上の将校達が対峙するように座っていた。

 

アークエンジェルを出迎えたふくよかな少将が、会議室にいるその場の全員を代表して前に立っている。

 

その背後のスクリーンにはポップな書体で『チキチキ! 地球連合軍運命のドラフト会議! 貴方の下に1/1スケールのカスが!』という文字が映し出されている。

 

目の前のテーブルにはアザラシの写真がプリントされたティッシュ箱が置かれており、皆の視線がそこへ向けられていた。真剣な瞳だ。

 

少将は咳払いを1つすると、そのマシュマロのように生っ白くクリームパンのようにふくふくとしたお手々をティッシュ箱の中へ入れた。入り口がちょっと破れた。

 

「む、ふっ、よっ……」

 

明らかに、何かを探し当てるように時間をかけてゴソゴソし、ついに抜き放たれたそのシャウエッセンのような丸々とした指には、()()()()()()()()()()()()()()が1枚摘まれていた。

 

その紙を、すぐ横の側近へと渡す。

側近は恭しくそれを受け取ると、厳かにそこに書かれた文字を読み上げた。

 

「では、オランチョ中尉はユーラシア連邦に出向ということで」

 

途端に、空軍の徽章を胸につけた大佐が立ち上がった。

 

「ざけんじゃねえジジイ! 何が公平にくじ引きで決めようだ! その折り目はなんだ!? ティッシュ箱の中身見せてみろ!!」

 

「え?」

 

しかし、その言葉に赤ちゃんのように首を傾げた柔らか少将は、つぶらな瞳で『訳がわからないよ』と言う顔をしながらマッチを擦り、そのままティッシュ箱へと落とした。

 

シュボッ

 

まるで()()()()()()()()()()()()()()()()一瞬で燃え上がるティッシュ箱。

 

「何やってんだお前ぇ!!」

 

大佐の声を掻き消すように、けたたましいベルが鳴り響く。

 

ジリリリリリリリリ!

 

そして放水。

 

シャアアアアアア

 

「おや、雨かな? 地球の天気は移ろいやすくて困るよね」

 

側近がジャストタイミングで差し出した傘の下、苦笑する少将。

多分そういう燃料なのだろう。ティッシュ箱は放水するスプリンクラーの下、未だ煌々と燃え盛っていた。

 

「馬鹿なのかな!? 会議室でスプリンクラー起動させるとか馬鹿なのかな!? 傘まで用意しやがって! 汚ねえぞテメエら!」

 

大佐はびしょ濡れになりながら怒鳴り散らす。

見れば、その場にいる大西洋連邦側の人間は皆傘をさしていた。

ユーラシア連邦側はみんなびしょ濡れである。

 

「雨の中、傘をささずに踊る人間がいても良い……間抜けが見つけやすくなるからね」

 

少将は人の良い笑みを浮かべながら、ぽぃんぽぃん、とお腹を叩いて笑った。こいつもいい性格をしている。

 

ブチ切れた大佐は口角から泡を飛ばしながら怒鳴り散らした。

 

「ウチはカスと関わりのないクリーンさがウリなんだよ! このキャッチコピーで大西洋連邦からのスカウトが何人成功したと思ってんだ! ぶっ殺すぞ負け組宇宙ザル共が!」

 

その言葉に大西洋連邦側からも勢い良く、同じ大佐の階級章をぶら下げた男が立ち上がる。

持参した傘はビニ傘だった。

 

「コキやがれ人攫いが! テメエそれで持ってったメカニックから技術抜いてんだろ! 役立たずのコバエは犬の糞でもしゃぶってろボケが!!」

 

売り言葉に買い言葉の永久機関完成である。

 

「そもそも懐のゴミ虫をいつまでものさばらせとくから揉めるんだろうが……あれっ!? そう言えば!!! お宅はあのカスにコマンドーまで出して暗殺に失敗したんでしたっけ!!!??? やだ、生き恥!?」

 

ユーラシア連邦の空軍大佐は驚いたように目を丸くして罵り、

 

「触れちまったなぁクソハエ野郎が! 大西洋連邦最大のタブーによぉ!! テメエの家族の死は決まったぜぇ!! 偶然墜落した廃棄衛星がテメエんちに降り注ぐのはもう止まんねえからなぁ!!」

 

大西洋連邦の宇宙軍大佐は殺意高めの脅しに走る。

 

「狙ってピンポイントに衛星が落とせるの!? そんな技術と腕があるのにどうして宇宙じゃズタボロなの? 不っ思議ー!!」

 

「アルテミス落とされておいてよくそれが言えたもんだな! ツラの皮どうなってんだ!? 嫁に教えてやれよ! その恥も通さねえ厚化粧のやり方をよ!!」

 

「半分はオメェらのせいだろうがボケがぁ!」

 

「陥落まで1時間でしたっけ!? ケツまくる速度だけは人類最速でしたね! 資源を浪費してウンコ作る仕事は楽しーい!?」

 

「宇宙で粗大ゴミ作って捨てる仕事には負けるぜ! 勝ち目ゼロの艦隊戦いつも楽しそうですよね! ボランティアの方ですかぁ!?」

 

「君たち」

 

白豚少将パンマンが手を叩いた。

ふくよかな顎がふるふると揺れている。

 

「やめなさいよ、そういう不毛な言い争いは……せめて自分の率いる部隊を勝たせてからにしなきゃ」

 

世界樹攻防戦で自艦隊が戦術的に勝利しているブタデウス・モーツァルトは、こういう場では発言権が強かった。

 

軍隊と言うものは不思議で、最新技術が惜しげもなく投入され、如何に効率よく人を殺すかに注力する一方で、個人の武勇や戦歴に対する敬意は旧時代から廃れることは無かった。

 

これは一重に、多種多様な人種、文化、国から軍に参加した者達に、1つの基準を示さんが為でもあった。

組織を回すためには、尊ばれる何かが皆の目標としてなければならない。それは自動化、機械化が進む軍隊でも例外ではなく、では何を、となればもう個々の戦果に他ならない訳だ。

 

特に地球連合は開戦以来、ザフトのMS相手に苦戦を強いられ続けている。世界樹攻防戦は戦場となった世界樹の崩壊により痛み分けとなっているが、損害状況をつぶさに追っていけば、目を覆わんばかりの惨状であった。

 

この『若い頃はムキムキでモテモテ』だったと言われたらギリ賭けが成立しなさそうな少将は、そんな中で指揮する部隊損耗率12%、内戦艦沈没無し、MS撃墜数6を記録した。

戦果、その1点においてこの場にいる誰よりも輝いたものを持っていたのである。

 

……カスの成果に相乗りした、と口さがなく言う者はいない。

少なくとも佐官以上の将校達は、自分が同じ立場になったら全く同じことをしただろうと確信できるからだ。

 

「ユーラシア連邦もね、言いたいことは分かるけどね。第8艦隊の再編成が終わるまでだから。何、新しい風が入ってくると思ってね」

 

「……インフルエンザウイルスのトルネードでも来た方がまだマシですな」

 

空軍大佐は悔しそうに吐き捨てると席に座った。

いつの間にかスプリンクラーは止まっていたが、全身はビッチャビチャである。とは言え気にするのは格好悪いので、根性で耐えた。

 

 

 

「あのー、ちょっといいですか?」

 

 

 

まとまりかけた議論……というか言い争いが締まろうとした所へ、気楽そうな男の声が響いた。

 

皆が目をやると、仕立ての良いスーツに身を包んだ金髪の男が椅子の背もたれに身を預けながら、片手を軽く挙げてひらひらと振っていた。

 

「おや、何でしょうかな。アズラエル理事」

 

そう少将に呼ばれた男、ムルタ・アズラエルは、戦争の臭いがしない笑顔と物言いで言葉を放った。

 

「その、オランチョ氏なんですが、こちらで引き抜く事は可能ですか?」

 

その言葉に、場が騒然となる。

 

「引き抜く、とは……理事の私設部隊か何かにですか?」

 

少将からの問いに、首を振る。

 

「まさか、腐っても誇り高き連合軍人さんが、そう簡単に職を辞してくれるとは思っていませんよ。いやね、かねてより出資していた軍事技術に関連した成果が、実を結びそうでして」

 

どこか嗜虐的な笑みを深く浮かべながら、

 

「彼は、その完成に必要なピースになるんじゃないかって、考えているんですよ……その為に試験用部隊を大西洋連邦の第4洋上艦隊に新設する予定ですので、配属先はそこになりますね」

 

「…………とのことですが、ユーラシアさんはどうですかね?」

 

少将が振ると、空軍大佐は先程とはうって変わって真剣な顔で宣った。

 

「はい、望外のご提案に心より感謝しております。お望みとあらば理事のケツの穴を舐めさせて頂く所存です」

 

「マジでやめて貰えますか……じゃ、決まりで?」

 

アズラエルは怖気を滲ませたドン引き顔になった。

それはそう。

 

「上からの辞令にあの男が従わなかった事はないので、転属自体は大丈夫でしょうね。ただ……」

 

「僕が、彼を扱えるか、ということを心配されてらっしゃる?」

 

挑発するような声色のアズラエルに、少将は頷く。

 

「いえいえ、理事ならば我々よりも多くの人間を見てきておられるのでしょうからね。きっと大丈夫でしょう……君、理事に例のものをお渡しして」

 

「はっ」

 

少将が側近に指示を出すと、側近は足元に置いてあった重厚なジュラルミンケースを持ち上げた。

それをアズラエルの前に運び、机の上に置いた。

 

「なんです?」

 

アズラエルもまた、傍らの秘書に指で開けるように指示をする。

 

中には、厚さ20センチ程の本といくつかの瓶に入った錠剤、そして単発式のデリンジャーが一丁収められていた。

 

「……これは?」

 

アズラエルが重そうに本を持ち上げ、ページをめくる。

 

「奴の取説です」

 

「とりせつ」

 

ページを適当に開くと、『土下座した人間をいたぶる習性があるのでやめましょう』と書かれていた。悪魔の説明書かよ。

 

「この薬は?」

 

小瓶を指す。

 

「胃薬と睡眠薬と精神的な()()()を抑えてくれる薬です。ハルバートンから実績のある薬をリストアップして用意しました」

 

「じっせき」

 

結構、というか、入院患者にのみ処方されるような強いやつだった。

 

「……銃は? この流れだと、護身用ですか?」

 

品の良いデザインのデリンジャーを手に取る。

 

「自決用ですね。名門コルト社のNO.3デリンジャーです。心が耐えられなくなったら使って下さい」

 

「じけつよう」

 

「まあ、全部御守りみたいなものですよ……何せほら、別に何一つ問題を解決するものではないので」

 

少将は笑って言った。

笑ってりゃ許されるもんでもない内容だった。

 

「…………まあ、いいでしょう。僕なら上手く使ってみせますよ」

 

取説とデリンジャーを元の場所に戻すとケースを閉じた。

 

「はい、そう言ってひと月後に病院に行かなかった者はおりません。理事には大いに期待しております」

 

「疑問なんですが、何でそんなのを生かしておくんです?」

 

肥溜めに囲まれた地雷を踏んだ気分になったアズラエルは、湧いてきた素朴な疑問をぶつけてみる。

 

「最初はね、よくいる素行の著しく悪いエース級パイロットだったんですよ」

 

少将は話し始めた。

 

「第8艦隊に転属する前ですが、大層な恨みも買って、不穏分子として処分しようと部隊を差し向けられたんですがね」

 

ぷにゃん、と、肩をすくめる。

 

「2個小隊が全滅しまして。これはいかんなと」

 

「内ゲバはあったんですね」

 

「優秀だが問題のあるパイロットを処分したがっていると聞いたハルバートンが、じゃあ自分のとこで預かると……即日問題を起こしたので、腕前を見る意味もあってプラントが当時建造中だった違法改造コロニーの偵察任務に捩じ込まれる形で出向させられたんですよ」

 

「違法改造コロニー……それって」

 

アズラエルは察しがついたように目を見開く。

 

「ユニウスセブンです。蓋を開けてみれば偵察どころか核攻撃だったんですが、奴は警戒中だったMS3機を足止めし、攻撃隊の成功を支援した……この辺でまあ、ただ処分するのは勿体ないという意見が出始めましてね」

 

「成程……」

 

「直後に世界樹攻防戦です。私のところで奴が挙げた戦果はね、本当に、本当にね………………希望だったんです」

 

ニュートロンジャマーによりそれまで宇宙におけるスタンドードであった超長距離の砲戦が不可能となり、圧倒的に不利な接近戦をMS相手に強要される中で、一筋の流星が起こした奇跡。

 

少将はその時の光景をまだ覚えているし、死の間際にも繰り返すだろうと確信している。

 

「それでも、年若い連中からは危険視されてね。懲りずに今度は特戦群のコマンドーまで動員したんですが」

 

「駄目だった、と? 生身でも優秀な方のようだ」

 

「いえ、どちらかというと、その時にはもう手遅れだったんですよね。最初の最初でそうしていれば、あるいは奴とて死んでいたでしょうが」

 

「と、言うと?」

 

「今はもう駄目ですね。第8艦隊にいる限りは……彼等が、『虚ろなる混沌』がいますので」

 

「うつろなるこんとん」

 

アズラエルの目が胡乱なモノを見たように細められる。

 

「あれは嫌な事件だったな」「全員半殺しにされてな」「狭い脱出艇に押し込まれて」「回収後全員田舎に帰って農家になったんだろ……」

 

そこかしこでヒソヒソとカスみたいな情報が取り交わされる。

 

「奴のやり方に共感した者達が徒党を組みまして。これが良い腕をしてるんですね。それから組織的な暗殺は断念しています。まあ、ハルバートンへと八つ当たり地味た抗議は増えたようですが」

 

「あれ、これまさか僕、やっちゃいました?」

 

アズラエルは何となく背筋が寒くなるのを感じた。

ビジネスで海千山千の連中と激しい競争を繰り広げるアズラエルの勘が、『やめとけ』と言っているようだ。

 

「まあまあまあ、もしかしたら理事は歳も近いですし、奴ともいい友達になれるかもしれませんね」

 

少将の言葉を聞いた宇宙軍大佐が、カスが友達になるという言葉を聞いて吐いた。

 

「それでは、これでドラフト会議を終了しよう。皆、今回コズミック・イラ史上に残る献身を発揮してくれたアズラエル理事に拍手と感謝を」

 

少将がそう締めくくると、スタンディングオベーションが起こった。

 

「ありがとう!」「貴方がコズミック・イラの神か」「理事の会社の株買います!」「神アズラエル!」「かーみ!」「かーみ!」「かーみ!」

 

「やめてください、ガチに迷惑なんで」

 

後の世で『劇薬カクテルズ』と、売れないコンビ芸人のような呼び名を付けられる2人の関係は、ここに端を発していた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

今日のキラ・ヤマト

 

「ん……ここは」

 

「ベッドに……誰かの部屋? アークエンジェルじゃないのか?」

 

――ボーイネクストドア

 

「ヒュッ」

 

「あら、目が覚めましたの?」

 

「ラ、ラクス!? どうして……」

 

――シカタナイネ

 

「クソ、切れない! なんだコレ!?」

 

「お茶でもいかがですか?」

 

「待って、スルーは逆に辛い! これは僕のじゃないんだ!」

 

「人には色んな趣味がありますものね」

 

「絶対隊長のせいじゃないか! クソおおおおお!」

 

「お元気で何よりですわ」

 

『ハロ、ハロ、アバレンナヨ、アバレンナヨ!』

 

「何ここ地獄!?」





キラ覚醒。ここから入れる保険は無い模様。

今更ですがオリ主入れると必然的にモブも増えますね。
最初からキラ達の友達だったら話は違うんでしょうが。
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