エンデュミオンのカスの方の英雄   作:パパパパンパース

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こち亀で言うとキラと盟主が2人合わせて中川みたいな感じですね。
まあ、負荷や被害そのものはそれぞれにワン中川分が発生するんですが。

道中でカスによる被害拡大や進行の巻きが入った関係で、史実より少し余裕のある日程になっております。


第75話 燃えよアラスカ①

 

アークエンジェルが何とか修復が完了した、と言える状態となったのは、アラスカに着いて10日後の事だった。

 

これはハルバートンの調整により、ブロック単位での予備部品支給があったことが大きい。塗装まで完了した艦体を見上げて、マリューは安心したように微笑んだ。

 

「これで何とか、次の人達にこの艦を託せるわね……」

 

まさに感無量、我が世の春、翼よ我に空を与えよと言わんばかりの清々しさであった。

マリューの心は既に、暑苦しいアラスカを飛び立ち成層圏を貫いて、ハルバートンのいる月面基地で機械いじりをする日々の中にあった。

人それを妄想という。

 

「逸失したスカイグラスパーも補充されました……ストライクは駄目になったものの、ブリッツ、バスターはここで降ろしますので……一旦戦力は拡充されたと見てよろしいかと……思います」

 

横に立つナタルは淡々と、しかし心ここにあらずという面持ちである。ここ数日、この才女はずっとこんな状態であった。

 

カスさえ側にいればもう少しは変わったのかもしれないが、連日の様に襲い掛かってくるアラスカ基地反オランチョ派連合組合『トゥモロー・ネバー・ダイ(明日はきっと死なない)』の相手で大抵は艦にいなかった。

 

「ねえナタル、悪い事は言わないから、一回ちゃんと中尉と時間を取ったらいいと思うの……」

 

マリューはそんなナタルに心配そうに声を掛けた。

 

「あなた、明日には転属の辞令が出るのでしょ? この戦争中、もしかしたら2度と中尉と会えなくなるかもしれないのよ?」

 

お姉さん、ナタルちゃんがプライドをかなぐり捨ててあのカスに抱き着くシーンが見たいなー、そんな事を考えていそうな顔をしていた。

 

「いえ……別に私から話など……話など……」

 

お姉さん、いじらしいのは好きだけど可哀想なのは駄目なのよ。人の幸せを茶化してお酒が飲みたいの。観たいのはハピエンの生の映画なの。ステーションバーお姉さんになりたいのよ。

 

「一度、無理言ってでも時間を取らせた方がいいのかしら……」

 

「そう言う艦長こそ……大尉はいいのですか? 彼も原隊への復帰命令が出ている筈でしょう……」

 

ナタルのボソリとした指摘に、マリューは思わず口元を抑えた。

 

「嘘……ナタルが、人を恋愛ネタでイジるなんて……成長したわねナタル……もうあなたに教える事は何も無いわ……」

 

頭ピンボケ艦長は、重圧から解き放たれた影響か普段の5割増でアホの子になっていた。

 

「そういう訳では……はあ、すみませんが私はこれであがります。幸いな事に艦復帰の目処は立ちましたし…………私も明日の準備があるので」

 

トボトボとどんより才女は去って行った。

思ったよりもジメつくわね、とピンボケは思った。

 

「何回か出会いと別れを繰り返せばね、運命の出会いなんてものに期待する事は無くなるのよ、ナタル」

 

その背中に届かぬ声を飛ばしつつ、マリューはぐっと伸びをした。

 

「さ、クルーの皆を誘って飲みにでも行きますかね」

 

そうすれば、あの憎めない二枚目半のトボケた彼も、きっと顔を出すことだろうから。

 

――――――――――――――――――――――――

 

「理事、こちらを。ご指示のあった調査結果となります」

 

アラスカから飛び立った個人所有の航空機の中で、秘書が差し出した資料を受け取ったアズラエル。

 

「ご苦労様です。大変でしたか?」

 

「いえ、祖父母の代で大きくなったヤスオカ製薬は、業界内でもそこそこ有名です。そこから辿るのは容易でした」

 

「成る程、あの性格なら辿られて困る物は隠すか消すでしょうし、これは家族の方は空振りですかね……」

 

アズラエルの言葉に、秘書は迷ったような顔になった。

 

「それが……」

 

「うん? なんです?」

 

「あの男の姉なのですが」

 

資料をめくると、セイル・オランチョの家族構成について書かれたページを開く。

 

「お姉さんがいるんですか…………5人も?」

 

姉が5人いてあの性格に?

5人全員が淑女の様な性格をしている可能性がアズラエルの頭から消滅した。

 

「はい、その中の次女ですが、一度セイル・オランチョに恨みを持った男に襲われています」

 

「なんだ、そういう事もあるんですね。いつの話です?」

 

「10年程前です。次女は22歳、襲って来たのは18歳前後の男だそうです」

 

男同士の恨み辛みで家族にまで手を出そうとするのは相当だ。セイルが当時何をしたのか、きっと碌でもないことなんだろうな、とアズラエルは思った。

 

「暴漢はナイフを持ったコーディネイターでした」

 

うへえ、と声が漏れた。殺意が高過ぎる。

 

「どんな恨みの買い方したんですか、彼は……で、そのお姉さんは怪我を?」

 

「はい。全治3日程度のアザと、切り傷が出来たそうです」

 

その言葉に、思わず秘書へ顔を向ける。

 

「……はい? 凶器を持ったコーディネイターに襲われて?」

 

「間違いありません。逆に男は重症を負い入院しています。カルテから察するに、素手で痛めつけられたようです。相手方の当時の写真もありますが……」

 

「いえ結構……え、それは本当にお姉さんだったんですか? プレデターとかではなく?」

 

もしくはミス・キャプテン・アメリカだろう。そう言えば、散々金を出してやったのにあの映画は本当に最悪だったな、と思い返す。何が『アメリカの乳』だ。いろんな意味で馬鹿過ぎる。

 

「はい、ええ。当時の関係者の証言を調べたところ、皆一様に『オランチョに手を出したんか……馬鹿なことを』という内容でした」

 

恐れられ方が因習村の古びた祠レベル。

 

「彼は人中の虎かと思いましたが、虎の群れの一頭でしたか……」

 

流石に姉妹全員が虎とは思えないが、少なくともセイル・オランチョの内面は彼女達の影響を多分に受けているのだろうと。

 

「なお現在、4女であるハゴロモ・オランチョ宅に誘拐も視野に入れた調査部隊を派遣しております」

 

秘書に言われて、再度資料に目を落とす。

 

「4女、ははあ、随分お若い……出産ですね、え、あの、この記録本当ですか? 18歳で13歳の子と子供作ってるんですが」

 

夫の方はまだ幼さの残る少年である。資料の写真は花嫁姿のハゴロモ・オランチョと思しき黒髪の女性と、彼女の腰くらいまでしかない小さな男の子が写っていた。

 

「事実です。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、事件にはなっておりませんが」

 

「そう言う問題じゃ……なんで彼女をターゲットに?」

 

「他の姉妹は、いずれも何かしらの暴行傷害で次女と似たような事件を起こしています。しかし4女は目立った荒事の記録もなく、家業であるヤスオカ製薬の研究職です。他よりは危険が少ないかと」

 

何となく、『地雷は本来見えないから地雷なんだよなぁ』と思ったアズラエルである。嫌な予感がヒシヒシと後頭部を刺すように盛り上がってくる。

 

「デスクワーカーなら荒事は苦手だろう、と。それにしても誘拐ですか? 物騒ですね、そんな指示しましたっけ?」

 

「どのみち引き入れるなら、素性の他に弱味は知っておくべき、と言うのが理事のやり方かと思い、独断でやらせて頂きました。勿論、調査部隊に身元やこちらへの繋がりを示すものは持たせておりません」

 

秘書はシゴデキ風の容貌にキランと眼鏡を光らせて胸を張る。

優秀なのは確かだし、言っていることにも一理あった。

 

「……多分彼には勘付かれそうなんですが、まあ、確かにその内に指示していたかもしれませんね……」

 

アズラエルは不安を誤魔化すように、小巻を取り出して火を着けた。

落ち着いた香りを吸い込むと、少し心が軽くなったように思えた。

 

「理事、機内は禁煙です」

 

「知っていますよ。僕の持ち物なんですから。皆さん何故かご親切に教えてくれるんですよね。それで、調査部隊とやらの結果は?」

 

「……定時連絡がつい先程。中身の確認はこれからですが」

 

秘書は手のひらに乗るサイズの薄い灰色のカードを取り出した。

 

「ふむ……映像ファイルを非正規ネットワーク経由で送り、保存先のデータカードを物理的に持ってきた感じですか……それ政府とかから情報抜くときのやり方じゃありません?」

 

データを運ぶ際にネットワークから切り離すのは、相手の情報網が手強い時の常套手段だ。何せ、運び屋さえ厳選すればまず足がつかない。その分割高ではあるが。

 

「可能な限り秘密裏に進めるべきかと考えました。軽く調べただけですが、セイル・オランチョはどう控えめに見ても()()の人間です」

 

「それはそうですがね……では、見てみましょうか。まだ調査始めて2日目とかですよね? 流石に何かわかる段階ではないでしょうが……」

 

アズラエルの言葉に頷くと、秘書は手元の端末にカードを差し込み、モニターをアズラエルの前のテーブルへ置いた。

ややあって、映像が映し出される。

 

 

 

 

――C.E.5月3日……記録者ジョージ・バルハロ……セーフハウスのアメニティが最悪過ぎる。今日び石鹸1つで身体を洗えってか。こんな依頼受けるんじゃ無かった……クソ……

 

ジョージと名乗った、目出し帽に特殊部隊のような格好をした男が報告を始める。しかし第一声が雇い主への愚痴とは、余程の馬鹿か相応の腕があるのだろう。

そして秘書は、そうした人選で間違えを犯すような人間ではなかった。

 

――本日対象の出勤を確認後、チームメンバーのデニム、ジーン、カルロと共に裏口より侵入。対象の仕事部屋を調査。

 

ジョージの報告が始まる。

どうやら既に目標の家への潜入に成功したらしい。

成る程、巧みにして迅速、優秀だ。

 

――対象はヤスオカ製薬でアンチエイジング、老化抑止に関する研究を行っており、まだ世に出ていない薬品のリストを入手。

 

――だが数が多い……20種類はある……この用途の薬で『効果が高過ぎるため廃棄』ってどういうことなんだ……ともかく、調査結果は全てデータ転送が終わり、本日はこれで終了とする。ルート29でカバー6へ撤収。

 

そして相応に知能も高い。必要な情報の取捨選択に、そこに対する見解の正確さ。悪くない人選に思えた。

 

ブツ――

 

映像が一瞬途切れ、またジョージが映る。

 

――回収したデータの確認中……気になる記録があった。廃棄された薬品類の()()()()結果について……廃棄された後の日付のものだ。つい最近のものもある。これは大きな弱味となるかもしれない。

 

ブツ――

 

どうやら要所をわかりやすく編集してあるようだ。

秘書はまだ見ていないと言ったので、AIにやらせたかジョージ本人が気を使ってやったのだろう。

 

しかし、再び映ったジョージの顔は、目出し帽の上からでもわかる程の恐怖に歪み、震えていた。

 

――嘘だ……イカれてる。あの女、自分の旦那を実験台に……クソ、吐きそうだ……デニムとジーンが連れションに行ったきり戻らない。一服つけてるか、酒でも飲みに行ったのかもしれない。クソったれ共め、俺も誘えってんだ。

 

オランチョ家、もしかしなくても全員真っ黒じゃありません? アズラエルは訝しんだ。

 

――……流石に長過ぎるな。見て来い、カルロ。

 

――カルロも戻って来なくなった。

 

それはそう。

 

ブツ――

 

――……それにしても薄暗いな、ここは。地下なんだから明かり位入れてくれよ……こんな非常灯1つじゃ足元も…………なんだ?

 

ブツ――

 

――あ、あ、あ、あ、足音がする、あいつらのブーツの音じゃない、違う、あれはデニムじゃない、あのデブにあんな、()()()()()()()()()特技なんかない!

 

呼吸が荒い。

 

ブツ――

 

――に、逃げ、いや、拠点を移動する。すぐにルート45で…………ジーン……? どうして、()()()()()()()()()()()()()? 歩きにくいだろそれじゃ……

 

ブツ――

 

――足音が離れて行く……今の内に脱出を……カルロは、どこに行ったんだ……

 

ブツ――

 

――たった今、扉の前でカルロを見つけた。呼んでも返事がないわけだ。そうだよなカルロ、()()()()()()()()()()、そら返事なんか出来ねえよな……

 

ブツ――

 

――あああああああああ!! 何なんだ! 俺達を切り捨てるつもりか!? だとしてもお前、お前等、こんな死に方はねえだろうがよぉ!!

 

非常灯の光が揺らめく。

 

一瞬の明滅の後、ジョージの背後に巨大な女が立っていた。

 

 

 

ブツ――

 

 

 

――ハァーイ、ジョージィイイイイ

 

 

【挿絵表示】

 

 

――っあ……

 

 

 

ブツ――

 

 

 

恐怖で震え涙を流すジョージの顔を、後ろから巨大な女が掴み上げたところで、映像は終わった。

 

アズラエルと秘書はたっぷり1分は何も言わなかった。

 

「…………諜報員が使う拠点に間接照明と、シャンプーを揃えてやってください。ケチだと思われるのもシャクです」

 

「そこですか?」

 

「他に何言えって言うんです? メイトリクスの家にチンピラ送り込むような真似したことを叱れとでも?」

 

これは古びた祠ですよ。

壊すどころか、触っただけでアウトなやつ。

 

「……まあ、その、はい」

 

「彼等、一応プロですよね?」

 

「はい、隊長のジョージについては、地球育ちのコーディネイターです」

 

そうした経歴の者も、アズラエルはよく使う。

別段ナチュラルにこだわりがある訳ではないのだ。ただ、自分の立場をわきまえない愚図共が嫌いなだけで。

……いや、コーディネイター自体は嫌いだが、割り切り方は心得ている、と言った方が正しいのかもしれない。

 

「……やっぱりプレデターじゃないですか。よくあの後で、データなんか送れましたね」

 

「映像自体は、2分おきに自動で転送されます。それをAIが編集して保存したものがこれです」

 

「成る程………………見なかったことにしましょうか」

 

「まだジョージ達をやったのがハゴロモ・オランチョと決まった訳では……」

 

悪足掻きをする秘書に対して、アズラエルは手元の資料をパシパシと叩く。

 

そこにはハゴロモ・オランチョ、身長198センチとの記載があった。

これでデスクワーカーは無理があるでしょ。

 

「特殊部隊やってるコーディネイターより上背と厚みがある女性が何人いるって言うんです。ともかく、この線はもう追わないように。隠蔽は徹底してください」

 

「承知致しました」

 

秘書を下がらせると、アズラエルは小巻をひと吸いして煙をゆっくりと吐く。

航空機のエンジン音が僅かに響く機内に、アズラエルの声が小さく漏れた。

 

 

「…………こわぁ」

 

 

何アレ、パワー系ホラーじゃないですか……今日1人で寝れないかも……こわぁ。

 

ブルーコスモス盟主にして名だたる企業のトップであるムルタ・アズラエルとて、人の子なのである。





おかしいな……この話でアラスカ襲撃が始まる予定だったんどけどな……ムルちぃの話始めると無限に内容が生えてくるんですよね……

ちなみにハゴロモさんは書き終わった後シチュエーションをAI君に食わせたら一撃でした。何なんだよ怖えよ……

■人物紹介
リアム・オランチョ
ハゴロモ・オランチョの夫。

幼い頃から一緒に育ち、大人になったら結婚する約束をしていた女の子と同じ学校に通うべく、家庭教師を雇った際、ハゴロモがやって来たのが運の尽き。

出会って1分後には捕食され、3週間後にパパ確となる。
その後の人生の予定全てがキャンセルされほぼ監禁状態となった。

同じ頃、幼馴染の女の子の方は母親がどこぞのカス(12歳)と不貞関係となり、逆上した父親が暴力を振るい逮捕、母親も精神を病んで入院。一家離散の憂き目に遭っていた。

ハゴロモは重度のショタコンであった為、リアムを幼いままでいさせる為に冷凍睡眠装置に入れた。

その後、定期的に目覚めさせられては捕食され、その度に子供が増えたが、一度もパパと呼ばれた事がなく子供の顔も見たことが無い。

その間、リアムの母親がどこぞカスと以下略。
消息の辿れる血縁者が消滅する。

ハゴロモは家業の薬品研究会社に入り、卓越した知能で老化を遅らせる、若返り効果のある薬の開発に注力。

最終的に成長を止めるレベルの成果を出すも、副作用として脳内物質の分泌バランスが著しく崩れ命に関わる為、廃棄となる。

が、オランチョなので普通にリアムに投薬され、目出度く常にオドオドしている挙動不審な永遠のショタが完成した。
半年ごとに冷凍睡眠装置を使う事で薬の量も減り、副作用もコントロール可能なレベルとなる。

残念ながら(?)内臓の一部は老化が進むものの、そこは機械化を視野に入れれば問題ないらしく、脳細胞の寿命である200年を超えるまでは生き続ける可能性がある。

なおハゴロモも同じ処置をしている為、2人はずっと一緒。
最近、幼馴染の女の子の顔も思い出せなくなりつつある。
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