前回遊びすぎました。
いろんな意味で必要な話ではあるんですよ。
あの理事が歯向かいそうなカスをただ手元に置いておける人柄かって話ですし。
今日も今日とて挑戦者をボコし、相手の胸板にタバコを押し付けて北斗七星の形に根性焼きを入れたカスは、横を歩くニコルとディアッカに声を掛ける。
「で、利益は?」
「払い戻し精算と決闘に使った小道具の費用を差し引いて……これくらいですね」
ニコルが持っていたタブレットに表示させた賭けの収益表を見て、カスは顔を顰めた。
「んだよ、シケてんな」
「隊長が勝ち過ぎるというか、いえ、負けろと思っては……多少いますが」
「単純な勝敗よりか、どっちが何分以内に勝つか、位に細かくした方がいいんじゃねえの?」
毎回対戦相手のオッズが跳ね上がるので、根は真面目な軍人達はこぞって鉄板な賭け方をしていた。
カスはため息をつき、首を振った。
「もう面倒くせえから、あいつらの挑戦は明日からお前とディアッカで交互に対応しろ」
「そんな馬鹿な」
「ざっけんな! 俺等無関係じゃねえか!」
それはそう。
「お前等のモノは俺のモノ、俺への恨み辛みはお前等のもの、だろ?」
「クソジャイアンやめろや!」
しかしここで、ニコルに起死回生の天啓が訪れる。
「あ、僕講師やる時、受講生に僕には危害を加えない事を書面で誓約してもらってるので、勝負不成立になりますね。ディアッカ、よろしくお願いします」
どうやら1人だけ助かる道を作っていたらしい。
「ニコル!? そんなまさか、ニコル!?」
裏切られたディアッカの悲痛な声が響く。
カスはふむ、と顎をさすり、ニヤリと笑った。
「まあ、ここで活躍したらフレイもデートくらいしてくれるかもなぁ? 顔が良くて強いのが、あいつの好みだから」
Dの者は途端にキリッとした顔になると、世紀末に荒野を徘徊するどこぞの伝承者みたいな構えをとった。
「……っふぅー、南斗ザフト拳の真髄、見せちまうかな」
でも南斗らしい。人間砲弾と同じ方向性を感じる。
ニコルはそんな友を見て、流石に止めないとマズイと思ったのか、心配するように声を掛けた。
「大丈夫ですかディアッカ、IQとか」
「任せな、IQは得意だぜ!」
「駄目みたいですね」
終わってる会話が終わると、カスが尋ねる。
「次の勝負は?」
ニコルは持っていたタブレットを操作すると、画面を読み上げた。
「ええと、『熱々おでん 〜サイコロ振って出た目に書いてある具を一気食いデスマッチ〜』ですね」
「熱々のおでんはコルシカ条約違反だろうが! せめて肉弾戦であれよ!」
南斗ザフト拳も、流石に熱々のおでんには勝てないようだ。
ニコルは画面をスクロールさせて詳細を見ていく。
「あ、参加者は具を決めるサイコロを振る腕以外、椅子に拘束されるんですね。3秒以上もたついたら強制的に顎を開かせる器具を装着するみたいですよディアッカ」
ダチョウ倶楽部を見て思い付いたような拷問内容に、ディアッカは膝から崩れ落ちた。
「アークエンジェル以降、倫理観がずっと行方不明なんだよなぁ!! どこにいっちまったんだよ!!」
ディアッカは生まれて初めて神に祈った。その切実さと言ったら、ポップを庇ってる時のハドラーよりも真摯だったかもしれない。
「無いものは探しても無いんじゃないですかね……具材を運ぶのは僕がやりますね。1人では戦わせませんよディアッカ」
心優しいニコルはディアッカを引っ張り起こして激励した。
「お前もしプラントに帰ったらバニーの写真都市中にバラ撒いてやるからな!」
「はいはい、今更そんなの痛がると思いますか? ええと、向こうの具材ははんぺん、もやし、キャベツ、しらたき……こっちは餅巾着、肉団子、ちくわぶ、玉子みたいです。残りのサイコロの目はパスと水ですか……」
唯一苦しみを分かち合う存在だったキラの不在により、ニコルの心はサザンクロス並みに荒れていた。かつては泣いて謝るようなことでも、もはや心が痛みを感じないのだ。
「具材の殺意が高過ぎねえか」
「良かったじゃないですかディアッカ、肉弾戦と肉団子、似てますよ」
「だからなんだよ!! お前距離の取り方が露骨過ぎんだろ!」
「具の美味しさでは勝ってますよ!」
「フォローのつもりじゃねえだろうな。ケンカ売ってんのか!」
2人の不毛なやり取りを他人事のように眺めていたカスは、あくびをしながらボヤいた。
「うるせえなぁ、んなもんパス連打して向こうにだけ食わせとけば勝手に死んでくれるだろ」
「サイコロで狙った目を出し続けろってか!?」
命の危険が迫るディアッカは、カスにも噛み付いた。
「麻雀の必須技能だろうが。習得できる類の技術なんだよ。激熱の練り物を食いたくなけりゃ覚えろ」
しかしカスは意に返さない。むしろ解決策まで授ける菩薩の如き温情を目の前の哀れな
無論前向きで不屈な頑張れって感じではない、速やかに死ねって感じのデクだ。
「イカサマ用のサイコロかもしれませんよ?」
ニコルが懸念事項を口にする。
サイコロは派閥側で用意するらしく、当然の警戒と言えた。
「そんときゃこいつが死んだ後で現場押さえて、証拠見つけてから皆殺しにすればいいんだよ」
「成る程ですね」
「成る程ですね!?」
心配は解消されたようだった。
「あ、でもサイコロ振るのが機械化やシステム化されてたら……?」
「いや、勝負に運の要素が絡む時は基本的に当事者が自分の手でやることになってる。ルーレット、じゃんけん、自摸、サイコロもな」
「変なトコで潔いのは何なんですかね。そう言うのが敗因なんですけど」
「誰がやるかよ!」
ここで当事者のディアッカが音を上げた。万が一餅巾着が口の中で破ければ、命にも関わると想像したためだ。
「熱々おでんに日和ってる奴、いるー!?」
カスがオラついたカリスマの様に声を張り上げる。
「いるわあああああ!!!」
ディアッカはそれ以上の大声で主張した。
カチャ
その額にコンバットマスターが押し付けられる。
「いねーよなぁ!!!」
雑な圧に、ディアッカは体を震わせた。
「道徳……道徳の授業を……!」
「道徳の教師に不倫させる時の背徳感は格別だからオススメだぜ」
「オラ、グダグダ言ってねえで具現化系の発に目覚める勢いでサイコロを弄り倒すんだよ――――」
夢に見るまでサイコロと戯れることになる寸前で、突如3人がいた通路にアラート音が鳴り響いた。
ビー! ビー! ビー!
続いて、各通路に設置されている放送用のスピーカーから緊迫した声が聞こえてくる。
――当基地上空に高速で侵入してくる未確認の機体反応あり! 複数!
――機体反応、ザフトMSと断定!
――総員、第一種戦闘配置!
それを聞いたカスは、舌打ちを一つして銃をしまう。
「――っち、思ったより早えな」
「おいおいおい、これ、マジで言ってんのか!?」
「そんな……まさか、そんな!」
ニコル達も動揺を隠せず天井を仰ぐ。
そこへカスが追い打ちをかけるように言葉を投げた。
「おいお前等、態々敵の本拠地に降下作戦やってる連中が、呑気に捕虜なんか捕らねえってことくらいは想像つくよな?」
「それは……そうでしょうね」
「まあ、ここまでやる以上、基地をブッ壊すことが最優先目標になるだろうからな」
「つまり、連中にとってお前等は人型のよく燃える薪位の存在だ……そこで」
カスは通路の先を指さす。
「ここを真っすぐ行って、区画を抜けたら第5ドックへの表示がある筈だ。そいつを辿った先に、ブリッツとバスターがある」
その言葉に、2人の顔が驚きに染まる。
「は?」
「それって……」
「いいか、上の連中はこの襲撃を予見してた。その上でここには無くなってもいいゴミを掻き集めた。てことはここにあるのはゴミだけだ。貧相で哀れなストリートチルドレンのお前等が、ゴミを拾っていてもそれは仕方の無いことだ」
「誰がストリートチルドレンだ」
「ツッコんでる場合じゃ無いですよディアッカ」
カスの言葉の真意が測れず、ディアッカは疑うように聞き返した。
「つか本当にどういうつもりだよ、これ、普通に利敵行為になるんじゃねえのか?」
その言葉には答えず、カスは2人の肩に手を回して引き寄せた。
丁度耳元に囁くような声が届いた。
「今から魔法の言葉を教えてやる」
ニチャリと、カスが笑った。
ニコルは猛烈に嫌な予感が頭を過ぎった。
「ザフトに裏切り者がいるぜ」
そしてそれは正しい予感だ。
何せ聞いた途端、2人共動けなくなってしまったからだ。
「何せ、ブルーコスモス盟主に、この一世一代の奇襲を、計画段階でチンコロ入れてたんだからな」
ブルーコスモスの盟主というのが誰かは知らないが、前にニコルとディアッカで基地の違和感について話していた内容と繋がり、嫌でも理解させられた。
どうやら、本当の事のようだ、と。
「誰だろうなぁ、この、明らかにタカ派の……規模を考えりゃ中核の連中が企てたであろう襲撃を、計画の段階で知る事が出来て、周りにバレずブルーコスモスに渡りをつけられる奴は」
楽しそうに話すカス。
一方でニコル達の顔色は真っ青になっていた。
「俺の予想は前線の有名どころ、クルーゼかユウキ……評議会ならハト派のシーゲル・クラインかアイリーン・カナーバ……だがまあ、まさか評議会の人間がブルーコスモスに渡りはつけねえか……なあお前等、そんな
「おい、おいおいおい……嘘だろ!?」
ディアッカは震える。
いた。そんなのがまさに、自分の上官なのだから。
カスでもアスランでもない、正規の方の隊長だ。
「お前等が無事にザフトに帰った時、きっと答えはわかるだろうさ……ほら、MIAなんざ
「でも、それでこの基地を!? 本拠地ですよね!?」
ニコルの不安を消し飛ばすような怒鳴り声に、カスは小馬鹿にしたように言い返した。
「この基地はもう、ただのゴミ箱みてえなもんだ。ゴミ箱にゴミが溜まったら、お前等はどうする? 埋めるか、燃やすか、好きな方を選べよ」
「クソ、マジで何考えてんだナチュラル共は!」
「どうしますディアッカ……これ、下手に戻ったら尋問からの黒幕との1on1待った無しですよ」
ニコルの問い掛けに、ディアッカは顔を顰めながら言い切る。
「……取り敢えず、機体のとこ行ってから考える!」
頷くニコル。
「そうしましょう、ちなみに僕は、死ぬのもザフトに戻るのも御免ですからね」
「おま、今言うなよ」
「ディアッカも冷静に考えて下さいよ……ザフトに戻って、何とか助かってもですよ」
人さし指を、カスへと向ける。
「またこの人と戦うんですよ?」
想像したのだろう。酸っぱいものでも食べたかのように、ディアッカは口をすぼませた。
「……ちょっと検討を加速させるわ」
「では、行きましょうか……隊長は?」
問われたカスは肩をすくめる。
「もう少しピクニックしてから適当にフケるさ……じゃあな」
それは別れと言うには、余りに短い言葉だった。
「ケッ、二度と会いたくねえぜ!」
「お元気で……お世話になり……んー……お元気で」
例え別離の時でも、口が避けても言いたくないことはあるんだな、とニコルは思った。
「ああ、お前等を助けてやった借りは、ちゃんと親御さんに返してもらうから安心しろよ」
「家族だけは! 家族だけはぁ!!」
「あばよ! 出来れば死んでくれ!」
ディアッカが、ライン超えしたカスに詰め寄るニコルを引きずりながら去って行く。
「…………馬鹿だなぁ。あんな顔に出したら、クルーゼならやりそうって言ってんのと変わんねえだろうに」
2人の去った方を見ながら、カスは煙草を取り出し火を着けた。
そのまま、アラートがけたたましく鳴る通路を歩き始める。
「ふーん、ふふーん、ふんふーん」
遠くから、戦争の音が聞こえてきた。
――――――――――――――――――――――――
(結局、あの男は別れ際にさえ顔も見せなかったな……)
ナタルは輸送機の中、窓の外を眺めながら
マリューやムウから握手と感謝を伝えられ、何なら送別会でひたすら飲んだ翌日である。
身体を覆う倦怠感は酒のせい、と出来たならどれ程楽だったか。
「中尉、ご報告が……」
同乗していたサブパイロットが、歩み寄ってくる。
「……どうした?」
何とか気を取り直し、仕事モードの顔で向き直るナタル。
「アラスカ基地との疎通が1時間程前から途絶えています。後続の機体から得た情報では、どうやら襲撃を受けている模様です」
「なんだと!?」
もたらされた情報は、とてつもなく大事なものだった。
「幸いこの機は既に戦闘範囲からは外れておりますが、基地に残っている味方は……」
言いにくそうなサブパイロットの言葉を、遮る様にナタルは叫んだ。
「馬鹿な……地球連合軍の本拠地が、みすみす空挺降下を許したと言うのか!?」
「アラスカの防空網は堅牢強固です。きっとすぐに……」
安心させる様に言葉を重ねるサブパイロットに対して、ナタルは自身の頭の中を整理する為、言葉を紡いだ。
「生半可な戦力では、そもそもアラスカの警戒網を越えることすら出来まい……なら、
「ち、中尉?」
「降下してすぐ通信障害が起こったのなら、高濃度のニュートロンジャマーを散布した筈だ。敵主力は戦艦の帯同を前提としないMS群か……おい、この機の行き先はロサンゼルスだな?」
「は、はい」
「至急、アラスカへの支援……いや、脱出してきた友軍の救援を要請しろ。最悪の場合、アラスカが落ちる」
「そんな馬鹿な……り、了解しました!」
駆け出したサブパイロットを追うように、ナタルも操縦室へと向かう。が、その足が止まる。
「……貴方が私に会いに来なかったのは、これが理由ですか……? 私が、基地に残らないように?」
きっとまだ、今もアラスカ基地に残っているだろう幼馴染の顔を思い浮かべ、すぐに打ち消す。
口元をキュッと引き締め、軍帽を直す。
さあ、軍人の時間だ。
カス、どうせ次の配属先で会えるから別に今会う必要ないよね、位に考えていた。