爆音のすぐ後で、コロニー内の大気が猛烈な勢いで宇宙空間へ吸い出されていった。
多くの瓦礫や、ほんの数時間前まで生きていた人々が舞い上がっていく。
ひとしきり大きな瓦礫が排出されると、空いた穴から巨大なミサイルを両碗に装備したジンが2機、侵入してくる。
『おいおいおい、ありゃ要塞攻略用の装備だぞ! クルーゼの野郎、本当にコロニーにはお構いなしかよ!』
乗機が修理中の為、ブリッジでCICに従事するムウから通信が入る。
「落ち着けよタカちん」
セイルはノーマルスーツの上からメットを被りつつ言った。
『タカちんは止めろ! 酒保の子に自称ちんちんのあるタカって吹いて回ったの知ってんだぞ!』
「フラガ大尉、今は戦闘中ですよ。ラリってんですか」
『てっめ』
『『二人とも、真面目に』』
マリュー、ナタルの冷たい声。
『……敵は手段を選ばないで来た、気をつけろよセイル、坊主』
「こっちも選ばなきゃいいだろうが。さ、童貞のまま死にたくなけりゃ気張れよキラ」
『クソ……他人のままでいたかった……!』
マリューは、敵機の侵入に合わせての砲撃を行わなかった。
それはコロニーへの被害を考えたこともそうだったが、まだヘリオポリスがコロニーとしての機能を保っていたことも理由の一つだった。
自分の指揮で、それが失われることは避けたいという、急遽責任のある立場になってしまった人間特有の問題からの逃避でもあった。
優しいマリューには、その選択肢が取れなかったという事でもある。
それを理解した上で、普通はそうなると理解を示すナタルやムウ、クルー達。
それならそれで、違うやり方を選択しようとするセイル。
各員の思惑はさておき、戦闘が始まった。
「ブリッツ、セイル・オランチョ、発艦する」
『ストライク、キラ・ヤマト、行きます!』
間を置かず、2機のMSがアークエンジェルから出撃する。
漆黒のブリッツが侵入してきた敵機めがけて飛ぶ。
外壁が吹き飛び、動作に支障が出たヘリオポリス内の人口重力は、著しく弱くなっていた。
地上ではありえない勢いで、ブリッツは中空を駆け上っていく。
一方、ランチャーパックを装備したストライクは、そのままアークエンジェルのブリッジ正面にある甲板へと着陸し、足元に引かれていた電源ケーブルを、新装備である320mm超高インパルス砲アグニへ接続した。
『こちらストライク、配置につきました!』
「オッケーだ。ミサイル持ちを片付けろ。外してもいいから撃ちまくれ」
『でも、それだとコロニーが……』
「それはお前が撃たなくても一緒なんだよ! 違うのは、お前が撃たなきゃ死ぬやつの中にはお前のお友達がいるってだけだ!」
『わかり……ましたよっ!』
赤黒いプラズマ砲が空を飛ぶジンへ向かう。
その一撃はジンの左足を吹き飛ばしながら、コロニー内壁へ届き――突き抜けた。
「……ハァ?」
呆けたようなセイルの声。
今しがたザフトが空けたのと同程度の規模の穴が、コロニーに増設されていた。
『ええぇ……』
キラの唖然とした声が響く。
「……ぅおい! 状況に応じた装備はいいが、状況によっちゃ使っちゃダメな武器作ってんじゃねえぞ!! どうなってんだラミアス!」
空の大穴に、セイルは顔を引き攣らせた。
『せ、設計はモルゲンレーテなんですよ、私たちはそれ通りに組み上げただけで……ごめんなさいキラ君!』
マリューもこの結果は想像を遥かに超える結果のようだった。
『ちょっと洒落にならんでしょこの威力。見ろよ、あちらさんもドン引きして遠巻きにこっち見てるぞ』
CICでブリッジに入っているムウからは乾いた笑いと共に、周囲の状況が回されてくる。
「どうやら連中、キラさんのデカくて固いビッグマグナムにビビこいてるみてえだな」
『その言い方止めて下さい……』
『坊主のマッスルスティックが』
『ムウさんまで!』
『キラ君――』
『艦長!? そんなまさか艦長!?』
キラのメンタルは心無い大人たちによってズタボロだった。
『違うわよ! キラ君今は気にしないでって言おうとして――ねえ、ナタル? どうして驚いた顔でこっちを見てるの? 私が何を言うと思ったの!?』
『コホン――――今は戦闘中ですよ? いつまでふざけているんですか!』
真面目な軍人の声がした。
『ヤマト! 貴様の戦闘時における全ての責任は、民間人である貴様を戦時徴用したオランチョ大尉に帰結する。その穴を空けたのもオランチョ大尉だ。わかったらもう一発、今撃った穴の横を撃ち抜け! その穴をこちらで拡張しながら宇宙へ出る。よろしいですね、艦長』
『……ええ、そうね。キラ君、申し訳ないけど、もう一発お願い。大丈夫、今のあなたは実質オランチョ大尉だから! キラ君! いえ、キランチョ君と言っても過言ではないわ!』
『こ、これは……酷い侮辱ですよ! 訴えたら勝て――』
「うるせぇ!! ぶっ放せ!!!」
『くっそおおおおおおおおおおお!!』
二発目のアグニで広がった穴に向け、アークエンジェルが飛翔する。
『両舷全速! 砲撃で穴を広げて宙域へ離脱する! バジルール少尉!』
『フレア発射! ゴッドフリート1番2番、照準合わせ! 各砲座は敵機警戒!』
『左舷イーゲルシュテルンのコントロールをこっちに回せ! あのミサイルは食らったらヤバイ! お前も働けよセイル!』
「うおおおおっ、アークエンジェルは俺が守る!」
最後の奴は言葉尻に合わせて屁の音がした。
『大人は、これだから大人は……!』
やるせない想いを胸に、キラ・ヤマトは1つ大人になった。
さて、たまったものではないのはザフトである。
明らかにMS1機に持たせたら駄目だろという火力が、左程のラグもなく連射された。
左足を吹き飛ばされたオロールは懸命に機体のバランスを取りながらも、血走った目を飛び去ろうとするアークエンジェルへと向けた。
「この、ナチュラルどもがぁ!!」
D型装備である連装ミサイルを全弾発射した。
その為に、機動が止まってしまった。
まるで人の手で制御されているかのような見事な弾幕が、自分の撃ったミサイルを次々と撃ち落とした。
その光景に、思考まで止まる。
「何だコイツ、ザッコ」
そんなオロールのジンを、高速で迫ったブリッツがすれ違いざまに撃ち抜いていった。
落ちていくジンには振り返りもしない。
崩壊への一途を辿るヘリオポリスの空に、凶鳥が舞い降りた。
ヘリオポリス「ザフトに空けられた穴はすごく痛かった。俺は中立コロニーだから耐えられた。中立じゃなかったら耐えられなかったかもしれない」