今更だけど地の文で主人公をカスって書いて、読んでくれてる人が違和感なく受け止めてくれてるの本当に凄いな……
戦線は完全に膠着していた。
それほどに、フェイズシフト装甲とビーム兵器を搭載したMSである、ブリッツとバスターの存在は大きかった。
流石に大気圏外からの増援も品切れとなったらしく、今は主に潜水艦から出撃したであろう戦力を食い止める最中であった。
そして、膠着だけでは徐々に悪化していくのが戦場の常である。
「艦長、ウォンバットの残弾が危険域です。これ以上は弾幕が維持出来ません!」
チャンドラからの報告に、眉を顰めるマリュー。
「後方に降下したジンの一部が反転! 本艦を狙っているものと思われます!」
サイの報告もそれに輪をかけて状況の悪化を告げていた。
「わかったわ……ミリアリアさん、本部から何か追加の指示は?」
『いえ……組織的な戦闘が困難になった場合、状況に応じて撤退か、近くの戦闘集団に合流するように電文が来ています』
「簡単に言ってくれるわね……いいわ、徐々に後退しつつ、周辺で孤立した戦力を集めて備えます。ディアッカ君に後方の敵へのけん制をお願いして」
「了解です」
指示を受けて、ミリアリアが艦上のバスターに通信を繋ぐ。
「ディアッカ、聞こえる? 後ろから敵が来てるの……フレイがいる部屋の方よ」
『了解、任せな! グゥレイトォ!』
踊り狂うピエロ。たちまちの内に後方から近付く敵機を撃ち落としていく。
「この手は使えますね」
血も涙も無いミリアリアの言葉に、ブリッジ男性陣は地獄の様な雰囲気になっていた。
「恋する男の子もいいわよねぇ、心が躍るわぁ……ノイマン曹長、バスターが空けた穴に向かって後退を」
マリューは心の栄養を補給しながらノイマンに指示を出した。
艦が動き始めた、その時だった。
『駄目だアークエンジェル! 下がるな!!』
それはこのアラスカまで艦を支えて来た、エースパイロットの声だった。
「フ、フラガ大尉!?」
驚くマリューの声。
それは、ナタルと時を同じくして艦を降り、宇宙にいる原隊に復帰となった筈のムウ・ラ・フラガだったからだ。
「どうして……?」
ムウの乗るスピアヘッドはアークエンジェルのブリッジ前を横切る。
『そんな事はどうでもいい! それより、もっと基地と距離を取らないとマズい! 巻き込まれる!』
不吉な言葉を放つムウに、近付いてきたブリッツが反応する。
『フラガ大尉? どういうことです? 僕とディアッカは、基地からは離れろと言われていましたが、この距離でも駄目なんですか?』
今いる場所はアラスカ基地の正面海域、その外縁部分だ。
仮に基地が自爆をしたとしても、海を伝ってまで爆炎が届くとは思えなかった。
『っ、ニコルか! 丁度いい、お前もそっちのバスターも正面の敵だけに集中して、進路を確保するんだ!』
しかしムウの、ベテランエースパイロットのこの焦り様はなんだ。
『サイクロプスだ! ヤバい数が地下に設置されてる! エンデュミオンクレーターの時と同じだ、死ぬぞ!!』
答えはすぐにわかった。
「はっ、はぁ!?」
チャンドラの呻くような悲鳴が溢れる。
「冗談じゃないぞ、おい!」
ノイマンも動揺を隠せない。たが反射的に、艦の後退を止めた。
「ほ、本当なんですか、フラガ大尉?」
マリューのすがるような問い掛けに、ムウは苛立ちを隠せない声で応じる。
『マジだ! セイルも証人だが、あいつは中尉んとこに行っちまったよ! このままここに居ても死ぬだけだ、逃げろ!』
「オランチョ中尉も……そんな……私達は、味方なのに……自爆に巻き込むっていうの……?」
見えない力で、頭の中を揺らされた様な気持ち悪さがマリューを襲った。考えがまとまらず、それ以上にショックが大きい。
自分が命を預けたと思った軍は、自分の命を文字通り捨て駒として扱った。自分達に知らせることもなく。
『あいつの話じゃ、上の一部が企んだ事らしい。この襲撃も、予測されてたとか……』
「そんな……そんな事って……」
項垂れ、涙が零れそうになる。
『今はそこで止まるな! 動くんだよ! お前は艦長だろ、マリュー!』
聞こえてきた男の声に、寸前で踏み留まる。
顔を上げると、不安そうにこちらを見てくるミリアリアと目が合った。
そうだ、こんな事が何だというのか。
上官を上官とも扱わず、傍若無人に振る舞うあのカスに与えられたストレスやプレッシャーはこんなものではなかった。
水を飲んでも染みた胃に比べれば、こんな痛み、何のことがあろうか。
いつか一度、あのカスに目に物見せず、終われる命があるものか。
いっその事、利用してやればいいとばかりに、マリューはカスであればこの場でどう言うかを想像してみた。
思った以上にすんなりと、思考は回った。
「………………後方に降下した敵機がわざわざ本艦に向けて引き返してくるのは、本艦の動きが目立ち過ぎているからです。これは、本部が望む
サイクロプスの殺傷範囲に敵を誘引する。
発動の瞬間まで。
敵を引き付け続ける。
そう言えば、かつて、そう昔でもない日。
同じ事をたった一人でやり切った男が、いたのだったか。
マリューやムウの脳裏に、不敵で下劣な同僚の顔が過ぎる。
自然とその口元に笑みがほころぶ。
「オランチョ中尉と同じ事を、この艦でやれって、それは無理よね」
『違いねえ』
「賛成です」
「同じく」
「自分もです」
クルー達も賛同し、めでたくネクストアクションが決まった。
「逃げるわよ。ハッチ開けて! フラガ大尉、いつまでも飛んでないで、早くスカイグラスパーに乗り換えてください。マグノフ少尉に通信、残存兵力を纏めて本艦に続け、と」
『アイアイ!』
開いたハッチにスピアヘッドが飛び込んで行く。
「ノイマン曹長、機関全速、取り敢えず前へ!」
「了解! 機関全速、取り敢えず前へ!」
「各砲座は進行方向への露払いに。バスターとブリッツには艦後方と下方を警戒させて!」
「了解」
「了解」
にわかに活気付くブリッジ。
この僅か数分後、フリーダムで舞い降りたキラは、『よっしゃ手が増えた!』『ジャストタイミン、キラ!』『やっちゃってキラ君!』等と囃し立てられ大いに困惑した。
あれ、僕が生きてたことを誰も驚かないの?
とちょっとだけショックを受けたナイーブなキラであった。
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「あ」
コックピットで何やら調べていたカスが、そんな不穏な声を上げた。
「ど、どうしたんですか、隊長?」
後ろの複座からフレイが尋ねる。
「これ合流時間に間に合わねえと、向こう移動しちゃってたら燃料保たねえんじゃね?」
「え、合流時間って、いつなんですか?」
不安になったフレイが聞けば、カスは何故か得意気に答えた。
「30分前かな」
「そんな!?」
「っぱ、地下での撮影は余計だったか……」
「あの、もし海に落ちたら……?」
「現在地点は……あー……最後の思い出に抱いてやるよ、頑張ればいけるかも……いや、無理かなぁ」
「それは嬉しくないかも、いろんな意味で……!」
「取り敢えず高度上げて、風に乗れるようお祈りだなこりゃ……ええと、合流地点がここだから……あいつらの行き先は多分ロスかな……じゃここ突っ切って……」
計算が始まるとフレイは黙り込んだ。
フレイ・アルスターは恵まれた少女である。
容姿、頭脳、要領の良さ、交友関係、特に瑕疵なく備えている。
また、男運もあった。
普通、親同士で決めただけの許婚が、サイ・アーガイルの様な一途で優秀な男である可能性は無いに等しいからだ。
ヘリオポリスの件さえ無ければ、何事もなくアカデミーを卒業し、結婚まで悩む事は無かっただろう。
問題は、一途さ以外の全てにおいて、サイよりも優れている男に出会ってしまったことだ。
目の前のシートに座る男は、流星のように現れて、思わず手を伸ばしたフレイを振り払うことも、抱え込むこともなくやりたい様に任せてくれている。
それが自分に対する興味の無さの裏返しである事も、フレイは理解していた。
ここから何がどうなっても、あのなろう系主人公の様に全てにおいて『やってる』側でありながら、無自覚に生きているナタル・バジルールという女に、自分は勝てないだろうことも。
何あれ。幼馴染で相棒で共犯者で理解者で尻や腹を揉んでも怒らない? 馬鹿野郎。関係性をコンプしてから恋人になる縛りプレイでもしてんのか。
舐めてるとしか言い様がない。
フレイは恵まれた少女ではあるが、流石にかのナタル・バジルール程ではない。
詰まる処、セイル・オランチョの横に並ぶに必要な資質とは彼女であり、それはフレイ・アルスターが一生かけても持ち得ないものであるのだ。
「んー、向こうの予測進路に割り込めればワンチャンか……っし、行くぞオラ」
「お任せします、隊長」
とは言え、この男の横は居心地が良い。
きっと自分は期待されていないから、キラ達のように使っては貰えないけれど。
あと少し、もう少しだけ。
フレイ・アルスターは恋する少女でいたいのである。
ピエロ「うおおおっ! アークエンジェルは俺が守る!!」
みりりっちょ「こいつよく踊るわ(笑)ダンシングフラワーみてえ」
ニコル「トールさん、どこ行ってんですか、トールさん……」
いやぁ、アークエンジェルのピンチに舞い降りたフリーダムは圧巻のカッコ良さでしたね。
※BGM:盆回り