アルテミスでヒヨり
低軌道でコケにされ
地球に降りたら大砲ぶつけられて重傷を負い
頼れる仲間はみんな捕虜
アスランも帰国
アラスカ戦時はベッドで寝てました
なんなんこいつ、もう取り柄が関ボイスの声帯とママだけやん
『事情はわかった……まずは、過酷な戦場を無事生き残った事を喜ぼう。ウズミ・ナラ・アスハの名において、そなたらを受け入れよう。領海線に艦を配置しておくので、誘導に従ってくれ』
オーブとの通信にて、ウズミとマリューとの会議が終わった。武装の完全解除と臨検を受け入れることを条件に、アークエンジェルは入国を許可されたのだ。
「なんとか、なりそうね……ミリアリアさん、各艦載機へ着艦指示をお願いします。フリーダムは必要なら情報を吸い出せないようにロックをかけるよう、キラ君に伝えて……私は、彼らを出迎えに格納庫に降りるから、何かあれば呼んでちょうだい」
「了解です」
ミリアリアが通達すると、正面甲板上のバスターと近くにいたフリーダムからハッチへ飛び込んでいく。
次いでグゥルに乗ったブリッツとムウのスカイグラスパーだ。
第一航空師団の生き残りは、マグノフ含め戦域から抜けた直後に収容済みである。
彼等は戦場に戻ることを希望したものの、今の敵密度の中戻ろうとすれば、基地を視界に収める前に撃墜される事は明らかだった為、涙を飲んで艦内待機となっていた。
そして、キラにムウ、ニコルにディアッカと、去って行った筈の者達によって何とか今の状況まで来ることが出来た。
マリューとしては、只々彼等に感謝を伝えたい一心で、ブリッジを後にした。
―――――――――――――――――――――――――――
「嘘だろおおおおぉっ!!?」
マリューが格納庫に辿り着くと、そこにはマードックの前で膝から崩れ落ち、両の拳で床を叩く、冷酷で狡猾もとい、滑稽で落ちぶれたピエロがいた。流石に日本舞踊を嗜んでいるだけあって、綺麗な絶望姿勢だった。
「あー……」
マリューは気の毒そうにそれを見つめた後、そっと視線をフリーダムへと移した。
「あいつ、居ねえのかよぉ!!!!!」
視界の外から聞こえてくる慟哭をBGMに、タラップを降りてくるキラへと歩み寄った。
「キラ君、よく無事に帰ってきてくれたわね……ありがとう、本当に助かったわ」
マリューは背後で展開される騒動から全力で気を逸らしつつ、キラに笑顔を向ける。
「俺、ザフトに銃口向けちゃったんだけどぉ!?」
「ありがとうございます……ご心配をおかけしました」
キラはキラで、まあまあ、こういう事もあるよね。アークエンジェルだもん、ここ。と言わんばかりの様子で既に状況に順応していた。
「キラさん!」
そこへ、ブリッツから降りてきたニコルが走り寄る。
「ニコル君!…………ん……っと……」
キラもそれに応えるように振り返り、笑顔を見せて、止まった。
「本当に良かったです。隊長から生きてるとは聞かされてましたけど、お会いできて本当に嬉しいです!」
目の前までやって来たニコルを見る。
「んー……」
キラは一度眉間を揉むように指を運び、目を閉じて頭を振った。
何か、幻覚を見た時のような仕草だった。
再びニコルを見る。
やや薄汚れたバニーガール姿の友人が、そこには立っていた。
「ッスー…………うん、僕もまた会えて嬉しいよ、ニコル君……」
歴戦のキラ、これにも順応。
多分隊長のせいだし、本人が気にしてないってことはそれが常態化する位やってたって事だから、手遅れだよねこれ。
嫌すぎる飲み込みの早さだった。
「誰か……誰か俺を殺してくれよぉ!!」
マードックが慰めるように崩れ落ちたディアッカの肩を叩いている。ピエロの青臭いワンマンショーはミリアリアの機転によって全艦に流れていたので、整備班の面々は深く同情していた。
「ニコル君も、よく来てくれたわね。色々あったこの艦に……感謝するわ」
マリューはそういった光景すら、どこ吹く風で受け流す。
大丈夫、戦場だからここ。
異常事態への耐性が高くなった事だけは、カスに感謝しないでもないマリューだった。
「今更ザフトに戻る気が無かったってだけですよ……彼と違って」
憐れみの目をピエロに向けるニコル。
「一応聞くけど、脈はあるというか、こう、双方向的な?」
「はは、まさか」
左右の人差し指同士をくっつけるジェスチャーを行うマリューに、ニコルは温度も湿度も感情も微動だにしない笑みを浮かべた。
「でしょうねぇ……えっと、私は大尉のところに行くので、お任せしちゃっていい?」
流石にそっち方面のメンタルケアまで、艦長に言われても困るのである。だいぶ人災気味に発生した悲劇ではあるが、こんなもん真の人災メイカーであるカスの被害を常に受けて来た3人からすれば、ほとんどそよ風のようなものだった。
え、そんな騒ぐ事?
まだ尊厳という盾が無くなっただけじゃない。人権も命も残ってるのに、大袈裟よね。うふふのふ、てなもんだ。
「仕方ありませんね……キラさん、ついでにディアッカを紹介しますよ。本当に良い人なんです。隊長のおもちゃとして大きな音を出す才能はピカイチですよ」
この場でディアッカがニコルを銃殺しても、3:7で勝てそうなセリフだった。
「ありがとう、ニコル君」
2人で連れ立ってディアッカの元へと向かう。
「元気出せって坊主……お前は漢だよ、カッコよかったぜ」
メンタルケアラー、コジロー・マードックの優しい言葉はしかし、ディアッカを絶望の淵から救い上げるには足りなかった。
そろそろ機体の整備に戻らんとなー、と思いつつも、こういう頑張って漢見せてる若い奴が好きなマードックは、どうにも気になった。
そこへニコル達がやって来る。
「ピエ……ディアッカ、元気出して下さい」
友人を気遣う優しい少年の優しい言葉は、何故か殺傷能力があった。
「てめえ今ピエロっつったか、アァンッ!?」
ニョキッと起き上がりニコルに詰め寄る、多分ゾナハ病に罹っても天寿を全う出来そうなタイプのピエロ、ディアッカ。
「ピ、ィアッカ君、改めてよろしくお願いします。キラ・ヤマトです」
コーディネイターとしてもトップクラスの瞬発力で一瞬の言い間違いを即座にリカバリーするキラ。何事もなかったかのように握手の手を差し出す。
「誰がピアッカだゴラァ!!」
その手をパァンと叩きながら、怒りが天元突破したディアッカは、ずびし、とキラを指差した。
「俺ぁ確かに捕虜になったし、さっきも
「いいんですか? ディアッカ……」
ニコルは心配そうに声を掛ける。
「マードックさん達まで知ってたってことは全艦放送されてた訳じゃないですか。ついでに録音とられてたら終わりですよ?」
サァっと顔が青くなるディアッカ。
「ていうか、さっきの戦闘で思いっきりザフトの機体を撃ち落としてるじゃないですか。あの映像と音声がある中でザフトに戻ったら、プラントじゃ一生日陰者ですよ」
ニコルは心配そうな顔をしている。してたから何だって話だけど、取り合えず心配そうではあった。
「僕嫌ですよ? 映像編集してBGMつけて動画サイトにアップするの。ミリアリアさんに言われたら断れませんけど」
心配そうではあるが、それはさておき戦闘映像を編集して格好良くザフトのMSを撃墜しているバスターに、声を嵌め込んで良い感じのショート動画にするつもりはあるらしい。
疾すぎる時が瞬いちゃうかもしれないBGMのついでに、右下に顔写真とフルネームを映しておこうかな、と思うニコルであった。
「ニコル……お前、お前ぇ……!」
「一蓮托生ですよディアッカ。ここまで来たらもう、なるようにしかならないんですから。無駄な抵抗はオランチョ小隊じゃご法度ですよ」
せっかく増えたお友達を逃がすつもりのないニコルは、大変無機質な微笑みを浮かべた。
思えば、祖国を明確に裏切ったニコル本人も、大きな不穏やストレスに苛まれていたのだろう。ドブに落ちる時は一緒ですよディアッカ、とその瞳は言っていた。
「……とにかく、フレイとももう会えないって訳じゃないんだから、まずは落ち着いて、これからの事を考えよう?」
キラの取り成しで、ようやく落ち着きを見せ始めるディアッカ。
「あの女……マジでやってくれたぜ……つか、お前戻って来たんだからまた小隊のまとめ役やってくれよ! マジで酷いんだよあの女! 人間じゃねえよ悪魔だよ!」
「あの女……?」
「ミリアリアさんですね。今、オランチョ小隊の副隊長をやってます」
「ミリィが? あんな優しい子なのに?」
可哀想に。きっと隊長から押し付けられたに違いない。
というか、何やってるんだろうあの人は。戦い終わって、部屋でもう寝てるのかな。
「イカれてんのか? サノスが人類半分残したのを優しさだっつってるようなもんだぞ」
少なくともディアッカは彼女から優しさなるものを感じたことは無い。怒らせたらヤバいんだろうな、ということだけは捕虜初日に骨の髄まで刻まれていたが。
「ミリアリアさんは優しいですよディアッカ。逆らう者に容赦が無いだけで……」
拳王かミリアリアかならギリ拳王をイメージするようなフォローに、ディアッカは再びヒートアップしていく。
「逆らう者に容赦が無い奴の優しさは気まぐれっつうんだよ。あのクソったれ暴虐――」
そこへ、マードックが通信機片手に再びやって来る。
しかし、怒りで注意散漫になったディアッカは気付かない。
「おーい坊主、オペレーターの嬢ちゃんから連絡が――」
「フルフラットノーフューチャーボディのクソ女がよぉ!――世界一優しいと思う、ユリアとタメ張れるわ。え、慈母星の宿命背負ってんの的な?」
マードックが持つ、繋がったままの通信機から、命を刈り取る形をした声がまろび出てきた。
『おい』
「はい」
『来い』
「嫌だ」
『来い』
「嫌――」
『来い』
「……ッス」
――ブツッ、ツー、ツー、ツー
ディアッカはスッとニコルとキラの手を握った。
その姿は、夜中に一人でトイレに行けない子供がお母さんの手を握る仕草によく似ていた。
「離してくださいよディアッカ。僕はこれからキラさんと子供の頃好きだったアンパンマンのキャラについて話し合うんです」
ブンブンと手を振るニコルだったが、がっちり握られた手は離さなかった。
「一蓮托生なんだろ? 一緒にいてくれよ頼むよ。なんか頭上がんねえんだよあの女……」
初日に格付けが済んでいる為か、既に心の折れているディアッカは、日に2度目となる一時のテンションに身を任せたツケを払う事になりそうだった。
「えっと、ミリィのとこに行くんだよね? 僕も付き合うから……せめて手は離して……」
キラは戸惑いつつも、久し振りの友人に会うこと自体は拒否するつもりはない。
「無理、手を引いてもらわなきゃ歩けない」
自走機能を失った思春期の少年ピエロは、ギュッと2人の手を握り直すと、去勢された直後の猫のように絶望した表情で項垂れた。
「えっと……これは、どうしたら……」
「しょうがないですね。行きましょうキラさん。流石に3人いれば、ミリアリアさんも無体な真似はしませんよ」
「まずミリィが無体な真似をするっていうのが想像できないんだけど……」
「人は変わるんですよ、キラさん」
それについてはこの場の誰よりも説得力があるバニーの言葉は重かった。
ディアッカはブリッジまでドナドナされて行った。
その日、ディアッカはトロフィー:土下座の実績を解除することになった。
ちなみに、その頃マリューはムウに対して今後の予定を話した後、
「どうして、大尉は戻って来てくれたんですか?」
そんな質問をしていた。
その場にいた割と多くの人間が、その答えを目撃することになった。
ミリアリアはちょっと情緒不安定ですが、何気にトールの生存は確定してないですからね。無理もないですね。カスにアラスカで確認させるの忘れてました……
そりゃちょっと荒れても仕方ないですよね。
アラスカ編は次で終わります。