「ほぉん、生体CPUね……
薄暗い室内で、ベッドに横たわりながらタブレットに映し出された情報に目を通し、カスは呟いた。
腰から下はブランケットをかけていたが、全裸であることは疑いようも無い雰囲気だった。
「マジ、ほっとくとロクな事しねえなアイツら」
それはアズラエルから送られてきた、今後カスが差配する事になる予定の部下達の情報だった。
青年になりかけといった歳頃の少年達が、どのような
「あら、仕事の話?」
そんなカスの肩に、女が頭を預けながら尋ねてきた。
ブランケットで覆われていない部分も含めて当然の様に全裸で、圧倒的なまでに事後の空気を漂わせている。
「まあね、ほら、俺って真面目な軍人だからさ」
同じく全裸のカスは、女の髪を指で梳かしながら宣った。
タブレットの画面をスライドさせる。
「ははぁ、違法改造した人体を、薬でアッパーかけてブン回してんのか……
「何だか不穏な話ね、本当にお仕事?」
もぞもぞと、最初の女とは反対側からもう一人、女が出て来る。今の今までブランケットに潜っていたらしい。
「お仕事だよ。この憐れな人間未満のモルモット共を率いて戦争するのさ……君等も来るかい?」
「えー、アタシ今期で結婚して退役予定だからパース」
「私も止めとくわ。後方勤務が気に入ってるから」
2人にフラれたカスは肩をすくめた。
「残念だ。男所帯は摩擦だらけでケバ立つから、潤いが欲しかったのに」
女達はクスクスと笑った。
「セフレに潤い求めんなっつうの」
「残念だけど私、男には安心を求めるタイプなのよ」
「ちぇー」
カスは不貞腐れた声を上げながら、久方ぶりの退廃的な享楽を堪能していた。何せ暇なのだ。
船に着いてからもう3日。ロサンゼルスでアズラエルと落ち合う予定だが、道中は完全に大西洋連邦の支配区域であり、戦闘も起こらない。
暇を持て余したカスは、取り敢えず軍医とオペレーターの女をそれぞれ口説いて軽い火遊びと洒落込んでいた。
「そういえば、あの子はいいの?」
軍医の女が、カスの腹筋を指でつつきながら問う。
「あの子?」
「一緒に来た子よ。ポニーテールの」
「あー、フレイか。アイツは取り敢えず射撃訓練をやらせてるよ。朝から晩まで、筋トレ込みでな。暇そうな戦闘員に預けてあるから、暫くは子守もいらねえのよ」
ちなみに箱入り娘であるフレイは、そもそもまともな軍事教育を受けた事などなく、初日からゲロを吐きながら訓練に勤しんでいる。
預けられた軍曹(買収済み)は、こんな素人に銃持たせて良いのかなレベルで困惑していた。
「酷いパパね」
「世界中のパパが優しすぎるとガキが腐るからな。俺がバランスとってんだよ」
「案外子煩悩になったりしてー」
オペレーターの女がからかうように笑う。
彼女達は大してカスと触れ合っていないから知る由もないが、『子煩悩で優しいカス』等という生物はこの世に存在しなかった。
キラなら想像しただけで吐くし、ハルバートンは聞いた瞬間悪寒と震えが止まらなくなるレベルだ。
どっちかは自ら命を絶つかもしれない。
「おいおい、俺は子供好きだぜ? 可能性に満ちてるからな、換金方法の。期待値の塊だよ」
「子供好きは子供に期待値なんて言葉使わないのよね」
「貴方の奥さんになる人は大変ね。同情するわ、少なくとも悪ガキ1人は確実に面倒見なきゃいけないんだから」
「なんだよ、誘ってんのか? 試してみるかい?」
「生憎だけど、貴方とは遊びよ。そっちもそのつもりでしょうに」
「遊ぶ時は本気になる主義なんだよ、悪ガキだからな」
……クソみたいなピロートークが続くが、今は真っ昼間である。
カスを責務から解き放ったアズラエルの罪は重い。
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「理事、本日のご予定です」
執務室で秘書が差し出してくるタブレットに目を通すアズラエル。彼の朝はそのように始まり、次にコーヒーを一杯飲みながら急ぎの案件から手を付け始めていくのだ。
「はいはい……はい? なんです、この陳情対応っての」
その動きがこの日は違った。
予定の中にある見慣れぬ文字列に、思わず秘書に尋ねてしまう。
「はい……現在ロサンゼルス沖合200キロに停泊中の、第四艦隊駆逐艦プシオンからの陳情になります」
聞かれたから答えましたよと言わんばかりの秘書に、若干苛立ちながら、アズラエルは首を振った。
「……質問が悪かったですね。その程度の些末な話を、何故僕に?」
「セイル・オランチョ案件だからです」
聞かれたから答えましたよと言わんばかりの秘書に、
「…………なるほど……なるほど?」
アズラエルは首を傾げた。
全然意味がわからないので、先を促す。
「収容して3日で、既に艦内の半数から理事へのクレームに近い陳情が発生しております」
「残りの半分は?」
「買収、脅迫等され、
苦味走った表情になるアズラエル。
殆ど病原菌かカビの所業であった。
「もう派閥化したんですか……で、陳情の内容は? ざっくりどんなのが来てます?」
「『奴を野放しにするなアホ』『拾って来たなら最後まで責任持てタコ』『放し飼いにするなら首輪つけろボケ』、主にこの辺りです」
あれれぇ、この秘書実は自分のこと嫌いかなぁ? とアズラエルは思った。何にせよ陳情上げてきた連中の社会的な抹殺は心に固く誓う。
「ドッグランにチベタン・マスティフ放ったみたいな言われようですね」
「寧ろ、人の味しか知らないライオンかグリズリーを住宅街で放し飼いにしてるように言われております」
「…………え、僕一応、盟主なんですけど。プシオンってブルーコスモス派閥の艦ですよね?」
「恐らく、オランチョ氏の心情を考慮して思想の弱い者を中心に配属した為、反発も強くなっているのではないかと」
アズラエルは一番下の引き出しから、例の白豚少将から貰ったケースを取り出すと、デスクに置いた。蓋を空け、いくつかある小瓶の1つを手に取って、そこから錠剤を3錠、手のひらに乗せて一息に飲み込んだ。
「理事、お水を」
秘書の差し出してくるコップを受け取り、飲み干す。
「……ふう、どうも。こんな事なら、ナタル・バジルールも艦に置いとけば良かったですかね」
少なくともハルバートンならそうした。本人達がどう思っているかはさておき、ナタル・バジルールがカスの外付け安全装置であることは周知の事実だ。
だから第8艦隊では2人の仲が良好であるように願っていたし、それはさておき万が一彼女がカスと結婚して寿退役などしたらという恐怖に震えていた。
「しかし、彼女は一時的に月の第8艦隊へ帰還命令が出ています。合流は宇宙になるでしょう」
「……取り敢えず、彼はこっちに向かわせてください。丁度、ユーラシアとアジアがアラスカの件でうるさいと現場に泣きつかれてましたからね。彼に押し付けてしまいましょう」
椅子の背もたれに身体を預けるアズラエルを見て、秘書は仄かな不安を感じていた。
だから、そうやって目を離すから問題を起こすんではないのかと。
「世界が大きく変わろうってんです。僕達が変えるんです。いつまでも子供の様に遊び回られてちゃ困ります」
秘書は、デスクに置かれたケースに入っている『セイル・オランチョの取説』に全て目を通している。
そこにはこう書かれていた。
――部下にする場合、必ず目の届く所に置いておきましょう。火元や刃物に勝手に近付き、それらで周囲に酷いことをします。
悪ガキどころか悪魔憑きの赤ん坊に対する注意だった。
「あ、そうだ。噛ませる案件的に、流石に尉官じゃ格好つきませんね……適当に階級を上げるよう、通達をお願いしますよ」
――彼が昇進試験に落ちたのは、
※昇進させなければ死人が出ない訳ではありません。
※、じゃねえんだよなぁ、と秘書は思った。
「承知致しました」
しかし宮仕えの悲しさか、ただ粛々と上司の指示に従う憐れな社畜に、頭を下げる以外の選択肢は残されていなかった。
後年、アラスカ基地の崩壊がこの戦乱のターニングポイントとなったとする論が主流となる。
それは英雄キラ・ヤマト、そしてフリーダムの存在、不沈艦アークエンジェルの地球連合離脱、セイル・オランチョに軍団指揮権を持つ少将の地位が与えられたことが切っ掛けであるもされている。
アズラエルの罪は重い。
第4章完。
次は久し振りにアライグマの話を挟んでからオーブ解放作戦、宇宙までですね。
三バカは最もカスと絡めたかった連中なのでとても楽しみです。
■用語解説
ヤスオカ製薬
作中におけるカスの生家。元々は祖父の実家だったが、結婚()後、3年で嫁に乗っ取られる。
栄養剤の類や、市販薬として痛み止め等を作っていたが、販路拡大の為に非合法の知見を持つ裏社会のグループを吸収し、裏セクションとして運営を始めた。
中毒症状を起こさずに疲れが感じなくなるエナドリは、裏社会で一大ムーブメントを引き起こした。そこで得た資金を元に、地球の金持ちを相手にした、人間を後天的に強く作り変える『スーパーナチュラル計画』を立案。
夥しい人体実験の果てに、ブーステッドマンの基礎となる技術を確立させる。
カスの母、2番目の姉が人体改造を、4番目の姉が薬物面を担当した。
案の定アズラエルにバカ受けして今に至る。
三バカはその最新の成果。
原作にはオランチョいないですからね。まあまあ、オリジナル要素ですね。